人事評価制度構築のポイント 〜人事評価制度の作り方(概論)〜 | Part2

登壇者
中小企業診断士 石橋 崇 石橋崇地方銀行勤務 / 後継者塾事務局長 プライマリー・プライベートバンカー CFPⓇのプロフィール写真

石橋 崇
中小企業診断士

石橋崇地方銀行勤務 / 後継者塾事務局長
プライマリー・プライベートバンカー / CFPⓇ

2002年に某地方銀行に入行。営業店勤務を経て、本部営業企画・支援部署に異動。銀行の事業承継・M&A部門の立上を担い、同部門が外部機関から複数の表彰を受ける礎を作った。銀行の後継者塾の事務局長も兼務し、多くの後継者の悩みに応えてきた。
2019年に中小企業診断士登録。以降、社内にコンサルティング部門を立上げ、自らコンサルティング部門の責任者として多くのお客様の経営支援を実行してきた。月刊誌「金融財政事情」上で人事コンサルティングサービスに関する記事執筆歴あり。


本シリーズは二部制で、上記の動画は「Part.2」です。

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今回は、人事評価制度構築のポイントについて、人事評価制度の構築と概略について解説します。

Part.1でもお伝えしましたが、人事評価制度は“目的”ではありません人事評価制度はあくまで“手段”です。手段を通じて得られる成果は社内コミュニケーションの活性化です。

目次

社内コミュニケーションの活性化は経営課題解決の一助となる!

中小企業での困りごとでは「社内のコミュニケーションが良くない」がよく見られます。

それでは社内のコミュニケーションが良くなると、会社はどうなるかみてみましょう。

★経営者の考えが見える

➡経営者の考えが伝わる

➡社員が頑張り方が分かるようになる

➡社員の頑張りが処遇に反映される

➡頑張る社員が増える

➡業績アップ

それぞれをつなぐ矢印「➡」は社内コミュニケーションが必須になります。

それぞれの項目を社内コミュニケーションをとって繋げることが非常に大事で、繋げるための道具が人事評価制度です。

人事評価制度で解決する経営課題とは

人事評価制度で解決する経営課題は大きく分けて5つあります。

①組織力の強化

多くの中小企業は社長のみが経営に立っており、管理者は一社員としてふるまっていることが多いです。

人事評価制度で、管理者自身が評価に関与することで、「評価する立場」として社長の気持ちがわかるようになります。

管理者が単なる一社員から、中間管理職としての職務を全うできるようになります。中間管理職ができることによって組織力が非常に強くなります。

②社員の育成

人事評価制度で、会社が求める人物像が明確となり、会社からもそのような人材を目指すための明確なメッセージを出すことができます。

単に社長が朝礼で「こんな人材になってください」と言っても社員には伝わりません。

どういった人物を求めているのか、どういった立振る舞いをしていかなければいけないかということを評価の中で細かく伝えることで、社員も成長することが可能になります。

③モチベーションアップ

社員は「私は頑張っているのに評価されない」と感じているケースが多いです。このように評価の結果に不満を持つ社員は、人事評価制度でコミュニケーションをとることで会社からの評価や今後頑張らないといけないことを伝えることが出来ます。

頑張った社員へはしっかりと処遇することが出来ます。これで社員のモチベーションアップが達成できます。

④退職抑制

人事評価制度は比較的高頻度で従業員と面接をする機会が生まれます。そこで不満を早期にくみ取ることが可能となります。

また、好業績の社員を高く処遇することができるようになるので、好業績の社員の退職が抑制されます。

⑤採用の改善

社員紹介のことをリファラル採用と呼びます。リファラル採用は非常に中小企業においては有効と言われており、これは社員満足度の改善が非常に重要です。

社員がそもそも会社のことが好きでないと、自分の知り合いを会社に紹介しようとは思わないはずです。

人事評価制度は社員の満足度を高める効果があるので、リファラル採用を成功へ導く事が可能です。また、求職者は人事評価制度が整った職場を求める傾向があります。

求人票で人事評価制度がある会社かどうかを確認して応募してくるため、人事評価制度はしっかり作る必要があります。

人事評価制度検討のポイント

続いて人事評価制度検討の5つのポイントを紹介します。

この5つを盛り込むことで、良い人事評価制度が出来ます。

①評価制度の抵抗者になりやすい評価者(部長など)を検討に巻き込む

実のところ、部長や課長といった評価制度の中で、評価者となる方が抵抗者になるケースは多くあります。

これは、人事評価制度の必要性が腹落ちできてない、または新しく社員評価を行うということは業務が増えることになるため、すでに忙しいからやりたくないといった理由で起こります。

このような抵抗を防ぐポイントは、評価者を人事評価制度の検討に巻き込むことです。

検討に巻き込むことで、自分たちが作った人事評価制度という認識になり、評価者から社員へも説明しやすくなり、評価者自身も自分のものとしてしっかり取り組むことが出来ます。

②社員に自己評価をさせる

人事評価制度が既にあっても、社員に自己評価をさせている会社はそれほど多くありません。あくまで評価者である上司が評価をし、それをそのまま人事考課で使うケースがほとんどです。

私が推奨する人事評価制度は必ず社員に自己評価をさせるものになります。

③結果を社員にフィードバックし、自己評価とのギャップを説明する

社員は「自分の仕事ぶりは良く、会社の役に立っている」と考えています。一方で経営者は「もうちょっと頑張ってもらわないと」と考えているケースが多いです。

これを人事評価制度や社員の自己評価がないまま長い期間が経過すると、社員は「頑張っているのに会社は評価してくれない」と考え、経営者は「社員がいつまで経っても会社の役に立つような動きができていない」と考え、お互いのギャップがどんどん広がってしまいます。

これを防ぐため社員に自己評価をさせ、社員に結果をフィードバックして、社長や管理者の考えを社員にしっかり伝えることが重要です。

フィードバックをすることで、社員の自己評価と会社の評価のギャップが明らかになります。ギャップをしっかり説明して、どうしたらそのギャップを埋めることができるかを話すことで、社員の成長と会社の成長に繋がるのです。

④十分な試行期間を設けて、拙速にスタートをしない

人事評価制度は、制度があるだけで動くものです。しかし、制度を作ればすぐに正しく動かすことが出来るわけではありません。

正しく動かすには、十分な試行期間を設けることが必要です。少なくとも半年、長ければ1年、まずは練習という形で動かしてみて、実際に運用できるかを検証した上で実行することが非常に重要です。

⑤本番稼働後も状況により修正を行う

私が会社から発注をいただく際も、既に会社に人事評価制度が存在することがあります。

その人事評価制度が10年前、20年前のものを使っていたりするケースが多く、今とは社会情勢や社員の考え方も違うため、当時の評価モデルを使ったところで、社員はなかなか腹落ちしなかったり、会社の業績には寄与しないようになっていたりするケースがあります。

それ以外にも、よく考えて人事評価制度を作ったものの、実際に運用してみたら別の経営課題が見えてきたり、あるいはせっかく作った人事評価制度でもやりにくい部分が出てきたりするケースもあります。柔軟な修正を行うことで、よりブラッシュアップされた人事評価制度になります

人事評価制度の取り組みステップ5段階

人事評価制度は準備⇒検討⇒集約⇒試行⇒本番の5段階のステップで行います。

ステップ1の「準備」は、経営者自身が自分の考えを整理することです。これは、経営理念という言葉で表現されるケースもあります。社員に動いてもらう前に自分の考えを整理して、社員にものを伝える準備をしてください。 

ステップ2の「検討」では、実際にどのような社員を高く評価するのかということを、経営者と経営幹部、実際に評価者となる方を巻き込んで打ち合わせをして下さい。こうすることで、新しい人事評価制度が評価者にとって、自分ごととなります。

続いて、ステップ3では検討したものを「集約」して、評価シートを作ります。

そしてステップ4の「試行」です。先ほど申し上げたように、半年から1年というテスト運用を行います。試行期間をしっかり設けないと、始める前におかしくなってしまったり、初めの数ヶ月で人事評価制度が動かなくなったします。十分な期間を設けていただきたいです。

テスト運用に問題がなかった場合、ステップ5の「本番」稼働となります。本番稼働後も適宜修正が継続的に必要です。

準備:経営理念を考えるフレームワークはこれだ! 

最初のステップ1の「準備」では、経営者の考えを整理しますが、これは経営理念や社訓、社是、あるいは創業者の言葉のような形で既に会社にあることが多いです。

ただし、こういったものが単なる標語となっていて、機能していない場合も少なくありません。したがって、経営者が自分の言葉で改めて経営理念を検討する必要があります。 

検討にはミッションビジョンバリューの3つに分けて経営理念を考えるフレームワークの活用をおすすめしています。

◎ミッション(使命):会社が目指すもの、存在意義、使命。

◎ビジョン(将来像):企業の理想像、中長期的な目標。具体的な数値で表現することが出来る。

◎バリュー(行動規範):ミッションやビジョンを達成するためにどのような行動をとればいいか、行動指針

これはミッションのM、ビジョンのV、バリューのVを合わせて「MVV」と呼ばれています。この3つを組み合わせて経営理念を考えます。そしてその考えを整理して、この後のステップで社員に伝えていきます。

この中の「バリュー」がまさに、「社員がどのように行動すれば評価されるか」の大元になります。これは非常に重要なので、よく考えていただきたいです。

「ミッション」と「ビジョン」の違いが分かりにくいので説明します。ミッションは「達成が難しいもの」です。多少理想や希望が入っていてもいいです。反対にビジョンは「ある程度決められた期限で達成してしなければいけないもの」になります。

数値で達成度合いが検証できるものがミッションとして定められます。これは会社によって中期ビジョンや長期ビジョンと期間の長さによって作り分けているケースもあります。中期であれば2、3年、長期であればこの10年間と区切るケースが多いです。

このように経営者自身が自分の言葉で経営理念を整理し、次のステップ「検討」で活かしていきます。

検討:人事評価制度の検討は必ず評価者を巻き込んで行うべし

ステップ2の「検討」では検討会を開きます。検討会は社内の評価制度において評価者にあたる社員をメンバーに含めるとよいです。

検討にあたっては企業が何を目指しているのかが分からなければ意味がないため、先ほどの経営理念(ミッション、ビジョン、バリュー)を検討会の参加メンバーに共有しておくことが有効です。

経営者一人で考えて人事評価制度を進めようとすると、評価者にとっては負担に感じるものです。社長から言われてやるのではなく、評価者自身を巻き込んでいくことで人事評価制度を「自分事」として取り組むようにすることが重要です。

人事評価制度の運用にあたって、評価者となる部長や課長を巻き込むのは理由があります。経営者が知らない観点での評価の切り口を持っていることが理由の1つです。

現場目線で必要な人材をわかっているので、部長・課長の意見を聞いて決めていくことが望ましいです。また現場に近い意見を盛り込むとよいことも理由になります。

上述の通り、導入にあたって一番の抵抗勢力となるのはこの評価者です。この評価者を関与させることによって「やらされ感」をなくし自分事として評価制度をしっかり動かしていくという目的もあります。

人事評価制度は企業に多くのプラス効果をもたらしますが、効果が出るまで、短期的には評価者の「評価」という余計な仕事となります。

評価者の一部はどうしても反対勢力となります。ここで自分事として関与させて会社のためになることを理解してもらい、なるべく抵抗を防ぐことがステップ2の重要事項です。

集約①:評価シートはExcelで十分である

続いて検討した内容を「集約」し評価シートに落とし込みます。

シートはExcelで十分です。最初から人事評価のシステムを作るのは危険と考えます。

なぜなら、システムを作ってしまうとそれだけでお金がかかり、そのシステムの動きに評価制度自体が制約を受けることになるからです。Excelである程度評価シートを作成してから、システムに合わせていくといいです。

実際、私が勤務している地方銀行も従業員が約2000人いる中、人事評価制度はExcelでしています。人事部に聞いたところExcelで問題なくできるそうです。少なくとも従業員が2000人超えていなければExcelで利用ができますので、ぜひチャレンジしてみてください

 評価の段階は〇×や10段階など様々な決め方がありますは多くは3段階~5段階の評価です。4段階と3段階・5段階には違いがあります。3段階や5段階は中央値がありますが4段階だと中央値がありません。

評価者は良し悪しのどちらが決める必要が出てきます。評価者に判断させたいときは4段階、中央値があってもいい場合は3段階や5段階と使い分けてください

 また、必要に応じて職種によって評価シートを分けます。例えば製造業ですと、営業担当と製造担当は評価されるポイントが違います。そういった場合は評価シートを分ける必要があります。

管理者と一般社員の評価シートも必要に応じて分けます。管理者と一般社員は仕事の内容が異なり、一般社員は言われたことを行えばいいですが、管理者は一般社員をマネジメントしていく仕事があります。

管理者はこの人事評価制度でのキーパーソンです。評価者としてしっかり人事評価制度を運用することが非常に大事なので、人事評価項目に「評価制度を理解してしっかりと運用する」ことを入れこむケースもあります。

集約②:ポイントを押さえて評価シートを作成するべし

その他評価シートを作成する上でのポイントです。

◎自己評価を設ける

先述の通り、社員自身の評価と会社の評価のギャップを明らかにすることが重要です

◎管理者に評価をさせる

多くの中小企業は社長だけが評価してそれで終わりというケースがあります。途中で評価者に評価をさせることが経営に近い立ち位置での判断力の醸成に繋がります。

◎目標を設ける

社員または上司との話し合いにより社員の目標を設けることを推奨します。職種によっては目標を設けるのが難しいと相談をいただくケースもあります。

言われた仕事をこなすだけで目標は立てにくい場合は、「自身の成長」を目標にしてもらうという方法があります。

また、それぞれの目標の難易度は、目標の立て方でバラつきが出てきます。

例えば、経験値のある営業が売上1億円など難易度の高い目標を作ることができる一方、新入職員は「社会人としてちゃんと仕事に取り組む」といったふんわりとしたごく当たり前の目標を作るケースもあります。このそれぞれの目標が、同じ評価でいいのかという問題になります。

これを避けるため、目標に対してウェイトを与えます

上記の例で、営業の方の1億円は評価のほとんどの部分を売上の目標が占めるため評価の中でその営業の目標は50%とする。]

一方新入職員が社会人として当たり前のことを学び取り組むことは難しい目標ではないので評価の中のシェアは10%にするなど、ウェイトの調整を設けることで対応していきます。

◎評価項目は10まで

評価項目が多すぎるといろいろ問題が起きます。極端な例で評価項目が100個あるケースを考えます。そもそも100個作るのがまず大変です。

100個あると評価を受ける側の社員も内容が覚えられません。せいぜい10個が限界です。また100個目標があると100点満点では1個1点にしかなりません。一方、100点満点で項目が10個だと当然1個10点になります。

100個の評価項目だと1個1点にしかならないのでやってもやらなくてもたいして変わらないという意識になりかねません。評価項目は10個以内として、しっかりその一つ一つを取り組ませるということが効果的です。 

◎ウェイトを設ける

目標の運用をするためにウェイトを設けます。人によって仕事の内容・取り組んでほしい内容が違うので、評価項目を同じように設ける際、重み付けができるようにします。

これが評価シートの作り方のポイントになります。

試行:テスト運用は本番同様に

続いて「試行」です。テスト運用を半年から1年程度行う必要があります。試行期間が終わっても本番運用には至らないと判断する場合は、試行を繰り返した方がいいです。

試行についてのポイントは3つです。

1つは「本番と同様の頻度、方法でのコミュニケーションをとること」です。

多くの場合人事評価制度は評価者と社員が面接をすることが非常に重要になってきます。

面接の頻度は会社によって異なりますが、これを決められた頻度で行うということ、そして1対1で行うなど、面接の方法を決めて、その通り練習しておくことで本番でもしっかり運用できるようになります。

続いて「本番と同じ評価シートを使うこと」です。

試行の段階では常に評価シートが出来上がっているので、この評価シートを使って評価シートを使う練習をします。実際に社員に自己評価をしてもらった後、評価者も評価を行い、そしてその結果をフィードバックしていきます。

最後に「処遇には反映させないこと」

あくまで試行なので給与には反映させません。処遇に反映させていいかどうかはこの試行の結果、うまくいけば本番の環境で反映させる流れとなります。

本番:常にブラッシュアップの意識をもつこと

続いて「本番」の運用です。人事評価制度を構築しただけでは50%の完成度、という意識を持つことが大事です。

これで完璧と思わず、適宜直していかないといけないと、常に改善意識を持つことが重要です。本番運用で改善が必要な場合は修正をどんどん続けていきます。

人事評価制度を作る時間よりも、本番の時間の方が圧倒的に長いです。常に検討し続けるということが大事です。

人事評価制度を見直し続けなければいけないことには次のような理由が挙げられます。

・運用前には気づかない改善ポイントがあった

・社内の業務が変わり、評価制度を見直す必要がある

・評価対象者の年次構成が変わり、それに合わせた改善が必要

・社会の文化・価値観が変わり評価制度もそれに見合わせた修正が必要

 金科玉条の如く、未来永劫使える人事評価制度は存在しないのです。

こういったところを踏まえてぜひ評価制度を改善し続けることを進めてより良い人事評価制度にしてもらえればと思います。

以上、人事評価制度の構築と概略について説明しました。

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この記事を書いた人

中小企業診断士 石橋 崇
石橋崇地方銀行勤務 / 後継者塾事務局長
プライマリー・プライベートバンカー
CFPⓇ

2002年に某地方銀行に入行。営業店勤務(3か店)を経て、2010年から本部営業企画・支援部署に異動。銀行の事業承継・M&A部門の立上を担い、同部門が外部機関から複数の表彰を受ける礎を作った。銀行の後継者塾の事務局長も兼務し、多くの後継者の悩みに応えてきた。
2019年に中小企業診断士登録。以降、社内にコンサルティング部門を立上げ、自らコンサルティング部門の責任者として多くのお客様の経営支援を実行してきた。月刊誌「金融財政事情」上で人事コンサルティングサービスに関する記事執筆歴あり。

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