人事評価制度構築のポイント ~人事評価がなぜ必要か~ | Part1

登壇者
中小企業診断士 石橋 崇 石橋崇地方銀行勤務 / 後継者塾事務局長 プライマリー・プライベートバンカー CFPⓇのプロフィール写真

石橋 崇
中小企業診断士

石橋崇地方銀行勤務 / 後継者塾事務局長
プライマリー・プライベートバンカー / CFPⓇ

2002年に某地方銀行に入行。営業店勤務を経て、本部営業企画・支援部署に異動。銀行の事業承継・M&A部門の立上を担い、同部門が外部機関から複数の表彰を受ける礎を作った。銀行の後継者塾の事務局長も兼務し、多くの後継者の悩みに応えてきた。
2019年に中小企業診断士登録。以降、社内にコンサルティング部門を立上げ、自らコンサルティング部門の責任者として多くのお客様の経営支援を実行してきた。月刊誌「金融財政事情」上で人事コンサルティングサービスに関する記事執筆歴あり。


本シリーズは二部制で、上記の動画は「Part.1」です。

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目次

働く人の価値観は時代によって異なる 

今回は多く寄せられる相談に対して、人事評価制度を構築して解決した事例ご紹介します。 

さて、最近このような相談が増えています。 

「社員の育成が上手くいかない」 

「社員の退職率が高い」 

「社員が病気がち」 

「社員のモチベーションが上がらない…」 

上記の相談が来る理由として、コロナ禍で働く人の価値観が変わってきたことが挙げられます。 

働く人の価値観を年代で分けて考えると、高度経済成長期(1945年~1970年)は人々が豊かになるために働いていました。その後、安定化した時代(1970年~1995年)は組織のために働く・仲間のために働くという意識がありました。

その後停滞期(1995年~2020年)の自分の可能性を高めるために働くという価値観から、コロナ禍に入り「多様性の時代」になってきています 。多様性とは、人によって価値観が異なるということです。 

高度経済成長期には「いつかはクラウン」というキャッチコピーが流行しました。お金を稼いでいつかクラウンを購入することを目指していた時代の台詞です。新入社員がクラウンを買うと上司に怒られることもあったようです。

その後、時代と共に考え方は変わり「いつかはクラウン」ではなく「いきなりクラウン」という時代を経て、現在は 「車はそもそも買わない」という 昔では全く考えられない価値観になっています。

このように働く人々の価値観が異なっていくこと同様、会社の経営も時代によって異なってきています

多様性が求められる今、会社の経営は今まで以上に難しくなってきているといえます 。 

なぜ人事評価制度が必要なのか 

私は人事評価制度について説明する際、「阿吽の呼吸」という言葉について話題にします。この「阿吽の呼吸」という言葉の「阿」は始まりを意味し「吽」は終わりを意味するそうで、転じて息が合った行動をしている様を言います。  

現代は人々の価値観がそれぞれ違います。そのせいか最近、中小企業の方とも「阿吽の呼吸という言葉が伝わらなくなってきた」という話題になります。

「阿吽の呼吸」についてGoogle検索すると、一番上に出てくるのが「中国の工場では阿吽の呼吸が通じない」というページです。

言葉に出さないと中国の工場では理解をしてもらえない…という内容のようですが、現在は日本の中ですら「阿吽の呼吸」が通じない時代になっています。  

そこで今求められていることは「経営者の考えをどうやって社員に伝えていくか」です。つまり一人一人への丁寧なコミュニケーションが必要になっているのです。この丁寧なコミュニケーションのためには人事評価制度が必要なのです。  

人事評価制度は目的ではない!手段である!  

人事評価制度は目的ではありません。人事評価制度を入れたいとご相談される会社様の多くが、「人事評価制度を入れること」を目的化してしまっています。  

あくまで、人事評価制度は手段です。この手段を通じて得られる成果が社内コミュニケーションの活性化です。 これが、様々な経営課題の解決の一助となります。私は多くの場合、会社様の業績が上がるようご提案をしています。  

ある経営者から「人事評価制度を取り入れることは会社のためになるのだろうか?」と聞かれたことがあります。

社員のため=会社のためにはならないことを懸念しての質問でしたが、社員は満足度が低いと会社のために働いてくれないですし、お客様のために頑張ろうという気持ちもなくなってしまいます。それでは業績が上げられません。 

人事評価制度の良いところは、頑張り方を社員にきちんと伝えることが出来る点です。 

経営者の考えが見える⇒経営者の考えが伝わる⇒社員が頑張り方を理解する⇒社員の頑張りが処遇に反映する⇒頑張る社員が増える… 

といったサイクルを作ることによって、最終的には業績を上げることを目指します。 

人事評価の重要性 

「私は例え社員が1名でも人事評価制度を作ると思います 」 

これは人事評価の重要性がわかる、とある会社の社長の言葉です。社員が1名では人事評価制度を作る意味がないというのが教科書的な回答になりますが、 多様性の時代となり、私もこの社長と同様に考えるようになりました。 

私が勤める地方銀行で30種類以上あるコンサルティングメニューのうち、最も引き合いがあるのは人事評価制度の構築です。 もちろん社員が多い会社から依頼いただくことが多いですが、過去には社員3名のために人事評価制度を依頼いただくケースもありました。  

通常、経営者は社員3名であれば、人事評価制度がなくても働きぶりを見ることができると考えがちです。

今回の社長がそれでも依頼してきたのは、人事評価制度が「社員の働きぶりが見えるか見えないか」ではなく、「社員とのコミュニケーションが取れるか取れないか」という観点からあるものだからです。  

 社員3人とのコミュニケーションをとることを簡単に感じる方もいると思いますが、「実際に社員それぞれに聞いてみないとわからない…」という方も多くいらっしゃると思います。 

今回、様々な事例を挙げますので、皆さんが改めて人事評価制度は必要か否かを考えるきっかけになればと思います。  

【事例①】人事評価制度を作って大変だったこと  

まずは人事評価制度を作って大変だった事例を紹介します。大変だった理由は下記4点です。 

①仕組みが複雑すぎて運用できない  

②管理職の反発 

③コミュニケーションに時間が割けない 

④改めて社員と面接すると不平不満ばかりで話が前に進まない  

実際のところ、こういったデメリットはあります。 しかし、これは人事評価制度導入の通過点として必要なものです。また評価制度の作り方によっては、これらのデメリットを回避することもできます。  

人事評価制度は作り込むといくらでも細かく作れますが、現実的に運用できるシンプルなものにすることが非常に重要です。 

残念ながら評価する業務そのものは、管理者の仕事として増えることになります。管理者は既に忙しいためなかなか協力してくれないケースが多いです。

この場合、短期的には忙しくなるものの、長期的に見て社員が成長すれば管理者の仕事は楽になることを説明し、協力をしてもらうことが重要です。同時に業務の改善も並行して進める必要もあります。 

社員との面接は、不平不満が出て時間がかかるケースも多くあります。 人事評価制度はコミュニケーションのためにありますが、今まで コミュニケーションが全くとれておらず、経営者と話したことがない社員がいることもあります。

そこで初めての面接を行うと、社員の不平不満が話題の中心となり、いつまでも終わらない状況が出てきます。 これはガス抜きだと思って割り切ることも大切で、慣れてくると次第に短くなっていきます。  

【事例②】人事評価制度を作ってよかったこと  

ここからは人事評価制度を作って良かったことについてご紹介します。 卸売業の管理職がプレイヤーからマネージャーに変わった事例です 。 

 優秀な営業マンは、営業所長や営業部長といった肩書きを与え、良い処遇で働いてもらうことがよくあります 。

ただし、このような方はあくまで「優秀な営業マン」なので、プレイヤーとして自分の売上を上げるという動きに終始してしまい、マネージャーとして社員の面倒を見る動きをしないという事象が起こります。  

中間管理職がマネジメントに取り組めていないケースが多くの中小企業でみられます。 マネジメントに取り組むきっかけの一つとして、この評価制度が使えます。中間管理職の方には「評価する側」として、人事評価制度に関与してもらうのです。

そうすることで、中間管理職の方もプレイヤーである社員の立場ではなく、経営者の立場で社員を見ることができるようになります。

人事評価という取り組みを通じて、中間管理職の仕事に徐々に取り組むことができ、管理職の育成につなげることができます。  

【事例③】人事評価制度を作ってよかったこと  

続いて、小売業の社員の離職抑制につながった事例です。  

離職が相次ぐ原因の一つは、コミュニケーション不足にあります。 人事評価制度を通じて、丁寧なコミュニケーションをすることで 離職率の改善ができたというケースです。  

先述の通り、人事評価制度はあくまで手段であって、目的は丁寧にコミュニケーションすることです。 人事評価制度という枠組みで上司と部下が面談を繰り返すことによって意味のある面談を行うことができます。  

この事例の会社は、毎月、社長と社員が一対一で面接をしていました。 

面接で話していたのは「明日こんな仕事があります」「 明日くるお客様にはこういった対応をします」といった内容でした。

つまり、月に1回の社長との貴重な面談の場で業務連絡をしていたことになります。業務連絡は 現場で行えばいいのです。このように目的なく面談をしても、人事評価制度の効果は高まりません。 

人事評価制度は、コミュニケーションを通じて自社の進む方向を共有し、どのような仕事ぶりが評価されるのかということを議論することで社員自身の立ち位置を理解させることができます。 自分の成長や、会社が目指すところを知ることにより、離職抑制につなげることが可能です。  

【事例④】人事評価制度を作ってよかったこと 

建設業で、社員の育成につながった事例です。 

人事評価制度を通じて、丁寧に成長のための指針や、会社がこんな人材になってほしい旨を伝えたことで若手社員の育成に効果があったケースです。  

社員に対し、どのようになってほしいのかということを評価という枠組みを使うことで 効果的に伝達できます。また、日常の仕事ぶりについても、自己評価と会社の評価のギャップを見出すことが可能です。  

「私は会社のためにすごく貢献している」と自分で言う社員が、 実際は「もうちょっと頑張らないといけない」という評価であることはよくあるケースです。

このように自己評価と会社の評価にギャップがある状態をずっと続けていくと 会社と社員の双方にとって良いことはありません。

 このギャップを評価という枠組みを使って早期に埋めることで若手社員が正しく成長するきっかけづくりが可能です。  

【事例⑤】人事評価制度を作ってよかったこと 

次は、製造業の採用面接が楽になった事例です。 

他社で工場長経験がある有望な人材が求人に応募してきたものの、給料が折り合わなかったことに対して、人事評価制度について伝えることで 納得してもらうことができました。 

一部の外資系の企業などでは入社時の給料からなかなか昇給しないことがあります。そういった経験をしてきた方は、採用の際に条件闘争を強くしてくることがあります。このような場合、自社は違うということをしっかり伝えて、昇給制度の存在を説明することが非常に大事です。

それを伝えるために人事評価制度があり、評価を上げるためには スキルアップが必要です。

スキルアップの仕組みが社内に存在すること、高く評価されれば年次に関わらず抜擢する仕組みがあるということを説明して、給料について納得の上で入社が決定したという事例になります。  

【事例⑥】人事評価制度を作ってよかったこと 

サービス業の社員が目標を持って働くようになったという事例です。  

適切な評価制度がないと社員の頑張りに応じた処遇というのは実現することができません。 

評価制度を通じて目標を持って働く社風を作り、頑張りが社員の処遇に反映される形にすることによって、社員が頑張れば認められる、頑張らない社員は給料が上がらないことがはっきり認識できたため、仕事に対する取り組み意欲に変化が生まれたケースです。 

【事例⑦】人事評価制度を作ってよかったこと 

建設業の社員紹介(リファラル)による採用ができるようになった事例です。  

社員紹介(リファラル)の採用は、効果が大きいといわれています。 そもそもリファラル採用は 社員が自分の知り合いを自社に紹介する事です。つまり社員が 自社を好きであることが前提となります。

これは従業員満足度を上げる必要があるため、 ただ制度を設けただけでは効果が出ないといわれています。そこで人事評価制度での改善を行います。  

この成功事例は人事評価制度を作ったことで従業員満足度が改善した点と、 実はもう一つ人事評価制度が非常に役に立ったポイントがあります。

人事評価制度を作ることで「どのような社員が会社で必要なのか」「どのような社員が会社に評価されるのか」といった仕事ぶりが社内に浸透したことで、社員紹介の件数が増加しただけでなく、会社に役立つ人材が紹介されるようになりました。  

【事例⑧ 】人事評価制度を作ってよかったこと 

最後に、製造業の社長の評価の仕事が楽になった事例です。 

何の基準もなしに社員を評価するのは非常に大変です。 評価をどうするのか、社員は評価に不満を感じていないか、 賃金制度とどう連動させるか…など検討する事が多くあります。 

通常、賃金制度がない会社では社員の給与を社長が感覚的に決めているケースが多いです。適当に決める方が楽だと思う方もいるかもしれません。ですが、例えばA・B・Cと3人の社員がいたとして、この3人の給料についてどのように差をつけ、上げていけばいいでしょうか。

 その年の評価で3人の賃金を決めることができても10年後を見据えた給与を決めるのは難しいと思います。  

人事評価制度を作るにあたり、賃金テーブルもしっかり決めることによって 給与の上げ方も仕組み化することが出来ます。 

これは経営者が楽になるだけでなく、 社員が10年後の自分の給与を想像しやすくなるといったメリットがあります。社員は「この会社で10年働くと給与はこうなるだろうからもっと頑張ろう」と頑張って働くようになります。  

また、社長自身も昇給をどうするかといった細かな調整に頭を悩ませる必要がなくなります。  

今回は、人事評価制度についての事例を複数ご紹介しました。  

人事評価の作り方はいろいろあります。今回の内容を踏まえつつ、人事評価制度を作ることに是非チャレンジしていただきたいと思います。 


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この記事を書いた人

中小企業診断士 石橋 崇
石橋崇地方銀行勤務 / 後継者塾事務局長
プライマリー・プライベートバンカー
CFPⓇ

2002年に某地方銀行に入行。営業店勤務(3か店)を経て、2010年から本部営業企画・支援部署に異動。銀行の事業承継・M&A部門の立上を担い、同部門が外部機関から複数の表彰を受ける礎を作った。銀行の後継者塾の事務局長も兼務し、多くの後継者の悩みに応えてきた。
2019年に中小企業診断士登録。以降、社内にコンサルティング部門を立上げ、自らコンサルティング部門の責任者として多くのお客様の経営支援を実行してきた。月刊誌「金融財政事情」上で人事コンサルティングサービスに関する記事執筆歴あり。

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