税理士視点で考える。生命保険どうすればいいの? | 前編 保障・運用・相続対策
曽根 隆寛
税理士
税理士法人アクシア 代表社員 曽根 隆寛
TKC全国会 所属 / 東京都商工会連合会 エキスパートバンク 登録専門家
東京都補助事業 地域金融機関による事業承継促進事業 登録専門家
中業企業基盤機構 実務支援アドバイザー
多摩信用金庫 登録専門家 / 西武信用金庫 登録専門家
本シリーズは二部制で、上記の動画は「前編」です。
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担当は税理士法人アクシア 税理士 曽根 隆寛(そね たかひろ)
東京都武蔵小金井駅に事務所を構え、約20年以上多摩エリアで活動中。
資産活用のポイントは「資産を守る」ことと「資産を増やす」ことです。活用する資産にはどんなものがあるのかというと、主に次の4つです。現預金、生命保険、株式、不動産になります。
今回はこの中の生命保険を中心に解説していきます。
資産としての保険については、3つの観点があります。
生命保険の“保障”という本来持っている観点、保持している資産を守る観点、また余剰資産を生命保険で運用し、増やすという観点があります。
生命保険について考える際、この3つを混ぜて考えないようにしてください。
生命保険は貯蓄とは違う
まずは現在の日本人の生命保険加入率を皆さんご存知でしょうか。
男性と女性で若干差はあるものの、赤ちゃんから高齢者までのすべての人を平均して、約8割が何らかの生命保険に加入しています。
「貯蓄は三角、保険は四角」という言葉をご存じでしょうか。
これは貯蓄と保険が違うことを説明するために三角形と四角形の図に表して比較することが多いため、よく使われる言葉です。貯蓄は貯めれば貯める程、その分資金が増えていきますが、貯めた分しか増えません。高額を準備するのにそれなりの時間を必要とします。
それに対して生命保険は、契約している期間は決まった額の保障があります。ですので、加入して間もない時期に保険事故が起きた際、すぐに大きな金額の資金を準備することができます。同じ「資金」でも貯蓄と保険は違います。用途によって使い分けが必要です。
次に、一般的に日本人の方が生涯の中で一番高い買い物をするものは何か知っていますか。一般的に「マイホームの購入」が一番高い買い物だと言われています。その次が生命保険です。残念ながら目に見えるモノとしては保険証券ぐらいになるため、不動産ほど分かりやすくはないですが、総支払額で言うと生命保険は家に次いで二番目です。生命保険というのは高額商品なのです。
自分の保険について振り返って考えたことはありますか?
そんな生涯で二番目に高い買い物である生命保険について、皆さんは内容をしっかりわかって加入していますか。
まずどこの生命保険会社で入りましたか。生命保険会社と一口に言っても国内の生命保険会社や外資の保険会社があります。加入手段も担当者と面前で手続きをした方もいれば、ネットで加入した方もいるでしょう。そして、中には複数の生命保険会社の保険を持っている方もいますね。
それでは、万が一のことがあった時の緊急の連絡先をご存じですか。一般的には保険会社や代理店のフリーダイヤルなどです。友人の紹介で加入されていて友人の携帯の番号が緊急連絡先の方もいるかと思います。
多くの場合、人が亡くなる場所は家でなく病院です。そういった緊急の時にはご家族も病院にいます。生命保険証券が家の金庫の中で大事に保管されていると、万が一の時に連絡先がわからない状態になってしまいます。
改めて、この機会に連絡先を確認いただくことをおすすめします。
続いて現在入っている保険について、一体何歳まで保障される保険でしょうか。いくらの現金が受け取れる保障内容でしょうか。毎月の保険料はいくらでしょうか。
これが明確に答えられる方が少ないと言われているのが生命保険なのです。
マイホームの次に莫大な金額を払うのに実際にはどんな保険かわからないという方が多いのです。
どんな時に資金は必要か
皆さんの資金が必要になるタイミングを想像してみましょう。どんな時でしょうか。一般的には、下記9つが挙げられます。
·万一の際の毎月の生活資金
·お子様の将来の教育資金
·住宅の購入資金
·結婚資金
·親の生活資金
·死後の整理資金
·相続対策資金
·緊急予備資金
·長期療養資金
·老後の生活資金
この中の「長期療養資金」は最近脚光を浴びているものです。医療の進歩·高度化により、昔であれば亡くなってしまうような重い病気に罹ったしても、現代では長期療養を経て回復することが可能となりました。
働き盛りの会社員が重い病気に罹ってしまい、働けなくなり、給料がもらえなくなると、生活に支障が出ます。そこで、扶養している家族の生活費や自分の治療の費用など「長期療養資金」が必要になります。病院にずっと入院できれば入院保険が出る場合もありますが、もしも退院後に自宅療養となれば入院保険も出ません。長期療養資金を目的とした生命保険に加入する必要性も高まってきています。
日本人の平均寿命はだんだんと伸びてきています。会社員の方が定年を迎えて会社を勇退してから、亡くなるまでの「老後」と言われている期間がどんどん長くなります。その間の生活資金も今後重要となります。こういった資金を生命保険で賄うことも可能です。
生命保険について考える時、資産活用のためという観点からだけで生命保険を考えればいいのか、あるいは万一亡くなった時や重い病気に罹った時に必要な資金があればいいという考え方なのか、一度原点に立ち返ってリセットし、フラットなスタンスで考えていただきたいです。
先ほどの通り、自分がどんな保険に入っているかを振り返り、どんな資金が必要かも考えたうえで、足りない部分をどう準備するかを検討するとよいでしょう。
これだけは理解しておきたい!生命保険の基礎知識
よく使われる、生命保険の業務用語について解説します。
·契約者:保険会社と契約を結び、契約上の一切の権利と義務を持つ人
·被保険者:生死·災害·疾病に関する保険の対象となる人
·保険金受取人:契約者から保険金の受取を指定された人
·保険料:保険事故発生までの間、契約者が保険会社に支払う掛け金
·保険金:保険事故が発生した際、保険金受取人が保険会社から受け取るお金
特に混同しがちなのが「保険料」と「保険金」です。「保険料は毎月いくらですか」「保険金は何千万の保険に入っているんですか」といった言い方をよくします。
保険金、保険料というのは言葉が似ていますが全く意味が違います。改めて確認しておきましょう。
次に、生命保険の基本型についてです。生命保険はすごく複雑と考えがちですが、基本型として定期保険、終身保険、養老保険の3つに類型化することができます。
定期保険は、読んで字のごとく定期の保険ですので、一定期間だけを保障します。例えば30歳の男性が「30年間の定期保険に入りました」「30年満期の定期保険に入りました」という言い方をすることがありますが、これは30歳から60歳までのみ保障されている保険ということです。逆に言い換えると、61歳になると保障はゼロになります。
終身保険は、年齢に関係なく亡くなるまで保障してくれる、一生涯の保険とです。
養老保険は、死亡した際の定期保険に加えて、満期に生存していた場合に決まった金額を受け取ることができる保険です。
この3つの類型について、保険料を同じにして比較してみましょう。例えば30歳の男性が60歳まで30年間払い込むとします。毎月の保険料は3万円です。そうすると30年間の総支払金額は1,080万円になりますね。この1,080万円の保険料で、先ほどの定期保険·終身保険·養老保険、それぞれいくらの保険金の保険になるでしょうか。
まず定期保険に入るとすると、30歳から60歳までの30年間の保障で、約1億4000万円程の保険に入ることができると予想されます。ただし61歳になったら保障はゼロになります。
次に終身保険です。終身保険は何歳になっても保障があります。
ただし1,200万円程度の保険になると予想されます。
30年の定期保険であれば、1億4000万円の保障があるのに、終身保険だと1,200万円と十分の一以下になります。
養老保険はいわゆる積み立てのようなものなので、大体支払った1,080万円に利回りがついた程度になります。60歳の満期時には満額が戻ってきますが、61歳からの保障はゼロになります。
毎月同じお金を払っても、その保障の目的や保障の期間によって、保険金額は大きく変わります。3類型のどれがいいという正解はありませんし、どれか1つに絞らなければいけないわけでもありません。上手く組み合わせることが大事です。
必要保障額を試算してみましょう
生命保険の本来の役割である保障について考えていきます。
現実的に今、皆さんいくらぐらいの保険に入ってますでしょうか。その金額はどのようにして決めましたか。何か必要である保障額を満たしていますでしょうか。
上記のサンプルで、必要保障額を試算します。私(夫)は現在40歳。35歳の妻と10歳の子どもがいるとします。40歳の私がもし今日亡くなったとしたら、家族のためにいくら残してあげたらいいか考えます。
例えば「10歳の子どもが22歳で大学を卒業するまで、月40万ぐらいは生活費を確保してあげたい」と考えます。期間としては12年間です。そのあと12年経った時の妻の年齢は47歳です。女性の平均寿命は現在86歳と言われていますので、今回のサンプルでは「子どもが独り立ちした後、妻が85歳になるまでは妻のために月30万円は残したい」と考えると、期間は38年間になります。
それではこれが合計するといくらになるか計算しましょう。
■子どもが大学卒業まで:40万円×12ヶ月×12年間=5,760万円
■その後妻が85歳になるまで:30万円×12ヶ月×38年間=1億3,680万円
合計で1億9,440円となります。約2億円必要になる計算です。
あくまでも試算ではありますが、この金額は皆さんが今加入している保険と比較して多いでしょうか、少ないでしょうか。今回試算した必要保障額の約2億円は、全て生命保険で賄わなければいけないわけではありません。遺族年金がある場合もあれば、別途現預金や有価証券をお持ちの場合もあります。今回はこうやって試算をすると2億円という大きい金額が算出されることを参考までご理解ください。
生命保険について早めに確認しましょう!ポイントは4つ。
前半の最期として、生命保険について確認したいただきたいポイントをお伝えします。。
まずは生命保険の契約内容です。定期保険で一定期間しか保障しないのか、終身保険なのか、いくら加入しているのかなどについてです。
次に保険金の請求方法についてです。請求先や万一の緊急連絡先について先ほどご存じかどうか伺いました。保険業界を管轄する法律には、保険業法があり、「請求に基づいて支払う」と定められています。つまり、加入者である契約者が生命保険会社に「保険事故が起きたので保険金を支払ってください」と請求をすれば、保険会社は保険金を支払うということです。例えば私自身が2億円の保険に入っていたとします。しかし自分以外誰も知らない…となると、誰も保険金の請求ができなくなります。自分が被保険者の死亡保障ですと保険金を請求する時には当然死んでいるので、保険金の請求ができないということが起きないよう、請求先について確認をしておく必要があります。
そして、保険証券をどこで管理するのかです。家の金庫や貸金庫で管理するとしても、その旨を保険金受取人に伝えてください。最近では保険証券が発行されない場合もあります。加入している保険について、保険金受取人と情報を共有することが重要です。
そして最後に、自分にとって一体いくらの保障が必要なのかです。それぞれのライフスタイルによって、必要な額は変わってきます。
上記4つのポイントは必ず押さえておいてください。
▼ 後編は下記からお読みください。
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