事業承継を成功に導くためにとるべき行動 | Part2

【執筆者】
税理士 / 中小企業診断士 藤本 江里子
税理士法人新宿総合会計事務所

・保有資格等
税理士、中小企業診断士
FBAAファミリービジネスアドバイザー認定資格保持者

・略歴等
奈良県出身。大学卒業後、メガバンクに就職したあと、税理士に転身。中小企業のあらゆる悩みに応えられるようにと中小企業診断士、FBAAファミリービジネスアドバイザー認定資格を取り現在に至る。
2018年~多摩大学大学院MBA客員教授

・得意分野
事業承継・相続・M&A支援や組織再編成、補助金申請サポートなど。
複雑な話をわかりやすく説明することを心掛けてサポートを行う。


本シリーズは二部制で、上記の動画は「Part.2」です。

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中小企業診断士、税理士のダブルライセンス講師が語る「事業承継を成功に導くためにとるべき行動」ということで、今回はパート2となります。

パート1では、ステップ1からステップ6の順に事業承継を進めていけば成功しますというお話をさせていただきました。

パート2では、そのステップ1からステップ6までの詳細をお伝えしていきます。

目次

事業承継の目的・ゴールの設定

ステップ1は、事業承継の目的とゴールを設定していただきます。パート1では、目的とゴールをお伝えしましたが、やはり事業承継において目的とゴールを定めることが非常に重要になってきます。

まず、目的は「何のために事業承継をするのか」、ゴールは「どのような状態になれば事業承継が成功したといえるのか」ということです。

「裏技みたいなものはないですか」と聞かれますが、残念ながらありません。

会社の数だけ事業承継には正解があります。自社にとって事業承継の正解を導き出すときに役立つのは、目的やゴールを明確にすることです。

これにより、何か不測の事態が起きたときでも目的やゴールに近い判断ができますので、その都度悩むことが少なくなります。

目的をいきなり聞かれても何をどのように決めたらよいかわからない方もいらっしゃいますので、今回4つの事例を挙げました。事例はこれまでサポートしたファミリーが決めた目的、あるいは有名企業が定める目的を少しアレンジしたものになります。

1つ目は、関係者全員が物心両面の豊かな生活を送れるようにするためです。物理的だけではなく、精神的にも豊かになりたいことを目的に定めました。

2つ目は、末永く地域に貢献するためです。地域に貢献されている企業、経営者の方はとても多いと思いますので、末永く地域に貢献するためには1代限りで終わってはいけない。

やはり後の時代に引き継いでいくことで、長く地域に根づいて経営していきたいという目的になります。

3つ目は、事業承継を行うのは従業員のためです。会社の活力や強さの源泉は従業員にありますので、従業員とその家族を自分たちは守っていくために事業承継を行うというものです。

最後はスチュワードシップみたいな考え方になりますが、会社や財産はあくまで預かり物であり、次世代に会社をつないでいくことは、私たちの使命だという考え方です。

この中に目的に近いものはありましたか。

違うと思われたのであれば、どこが、どのように違うのかという観点から1度考えていただければと思います。

ただ、目的やゴールが最初の段階で決まる会社も少ないと思われます。よって、ステップを進めていく度に見直し、「私はこのためにやりたいのではないか」を考えていただければと思います

現状の把握・分析

次にステップ2です。これはどんなことでも必要ですが、現状の把握と分析を行うことです。

特に現状分析する際にポイントになりますが、事業承継の全体像の把握はとても大変です。

一般企業の場合、所有と経営、この2つの視点で考えるのがよいと思います。そして、同族企業の場合、3つの視点で考えていきますが、一般企業での所有と経営に加え、創業家一族、ファミリーという視点をプラスして分析します。

ファミリービジネス経営論でのスリーサークルモデルというフレームワークです。所有を株主、経営を経営陣、そこに創業家一族をファミリーにという、この3つの立場の人たちが事業承継には関わりますので、これらの視点ごとに切り分け、現状を把握することで漏れなく、複合的に論点を整理、検討することができます。

円が重なるところに紛争の種があると言われています。例えば株主VS経営陣、創業家一族VS株主、経営陣VS創業家一族というところで紛争が起きやすいので、それぞれにキーパーソンがいて、どういう力関係があるのかを3つの視点から切り分けて分析してください。

それ以外に、それぞれ3つに切り分けた場合の論点を例として挙げております。

まず、所有の観点からは株主構成や、それぞれの持ち株状況を把握したり、あるいは自社株式の株価がいくらかを確認したり、個人の財産、オーナーの株主、経営者オーナー社長が個人としてどういう財産を持っているのか、亡くなった場合は、誰が相続人になるのかも把握しておく必要があります。

次にビジネスの観点では、経営状況、経営課題の把握を行い、承継する経営資源は何があるのか、検討してください。承継する経営資源について、事業承継ガイドラインが中小企業庁から公表されています。

会社が事業承継をするとき、次の世代に引き継ぐべき経営資源には大きく分けて3つあります。

まず、1つ目が経営の承継、2つ目が資産の承継、3つ目が知的資産の承継というものです。

先ほど3つの視点というお話をしましたが、経営の承継と知的資産の承継は主にビジネス面(経営)、資産の承継はオーナーシップ(所有)になります。

この中で最も時間がかかるのは、知的資産の承継です。目に見えないものなので、一番時間がかかります

例えば、金融機関と借入の話をする際、お話の仕方、何を持参すれば借り入れ、融資してもらえるのか、承継者と一緒に担当者に会いに行きます。「この人が後継者なのでよろしく」といっても早急の融資は難しいので、毎回同行して、「このような資料を作成し、提出すればよい」、「そのような話し方をすればよい」といった話を伝えていく必要がありますので、時間がかかると思ってください。

「事業承継はおよそ5年から10年の期間がかかりました」といったアンケート調査などがあります

したがって、時間をかけて取り組む必要があると思います。先ほどの3つの視点の最後で、ファミリーからは家系図を作成し、人間関係を書き入れておくだけでも、どこにリスクが潜んでいるのか、把握することに役立ちます。

また、経営者の引退後、どのような役割を担っていくのか、あるいはどういった生きがいを持っているかも確認しておくことが非常に重要になります。

事業承継・売却可能性の検討

ステップ3は現状の分析が終了した後、事業承継するか否か、M&Aをするか否かを検討します。

「継ぎたい」、「買収したい」と思う魅力的な会社や、事業を存続することが事業承継の選択の幅を広げますので、現状で不採算の事業があればその整理など、経営改善の後に事業承継に取り組むことも考えられます。

事業承継の課題は、やはり課題は事業の将来性、あるいは近年の業績といったところになりますので、経営改善することもあらかじめ検討しておくことが大事です。

事業承継で誰かに会社を引き継ぐ、知っている人に事業を承継する、ということも考えられますし、M&Aも視野に入れておく場合もあるかと思います。必ずしもどれかに絞る必要はなく、プランA、プランB、プランCのような計画を立ておくこともあり得ると思います。

また、事業承継、M&Aの両者を視野に入れる場合、悩ましいのが株価の問題です。身内の方に承継する場合は、株価が高いと税金や買い取りに資金負担が生じますので、株価は安い方が望ましいとされます。

一方、M&Aの場合、当然ですが、株価が高い方が望ましくなります。これまでの創業者の貢献を金銭的価値で評価したことになります。また、その後の生活もあるので、高く売れた方がよいでしょう。

経営権と自社株式の承継先の検討

事業承継の可能性ありと判断した場合、ステップ4で経営権と自社株式を誰に承継するかという点を検討します

ここで初めて「誰に渡すのか」が出てきます。

オーナーシップの観点では、自社株式だけではなく、個人所有の事業用資産も考える必要があります。

例えば、会社の土地を社長が所有しているケースがあります。個人で所有する会社の土地を引き継がないと経営できませんので、ふさわしい人材かどうか、誰にするのか、を検討する必要があります。あるいは、様々な人に株式を贈与し、株式が分散しているケースで少数株主がいる場合、株式の買い取りのタイミングをどこで行うのかも検討します。

ビジネスの観点では、経営をできる人材、経営権を承継できる人材が親族内、親族外で存在しているか、もう一度検討します。「この人、もしかしたらやってもらえるかもしれない」と思ったとして、その人に経営能力があるのか、適性があるのか、あったとしても本人の意思がそもそもあるのかどうか、という点を確認していきます。 

最後に、ファミリーの観点からは、創業家一族が所有権、株式を保有するのか、あるいは創業家一族の中からビジネスに関わる人を輩出するのか、検討していきます。そして、「この人に承継する場合は、これぐらいの税負担がかかりそうだ」、「こんなに税負担が大きければ、みんなで分散して保持しようか」という話が出てきますので、その中でコストを試算していきます。

検討する際に気をつけたいのが、世代交代のところで、企業として若返りを図る必要が出てくることです。

中小企業白書には、経営者年齢が若いほど、新分野への展開や、設備投資に積極的というデータもあります。やはり若い方で将来性がありそうな方を見つけることを検討する必要があります。

ただ、「若い人だと経営に失敗するのではないか」、「ちょっと頼りないけど」と言う方がおりますが、このようなデータもあります。

事業承継した会社の方が業績はよくなる、さらに社長が高齢であればあるほど、減収する企業が増加する傾向です。この点から、会社の若返りを経営者も含めて図った方が、最終的には利益率も上昇することが言えますので、思い切って後継者を指名していただきたいと思います。

後継者に必要な資質としてどういうものが必要なのか、統計データをご紹介します。

1つ目がリーダーシップ、もう一つが経営を担っていく覚悟だと言われています。

まずリーダーシップがどういうものか見ていきます。4Lフレームワークというフレームワークがあります。日本の企業の9割以上がファミリービジネスと言われているので、ファミリービジネスのリーダーがたどるべき学習と人生のサイクルを示したフレームワークと言われていますが、一般企業の場合でも該当すると思います。

まず、L1でビジネスを学び、L2で自社のビジネスを学び、L3で自社のビジネスを率いることを学び、L4で手放すことを学ぶ、という4つのサイクルでリーダーシップをとる必要があると言われています。

L2の「自社のビジネスを学ぶ」が最も重要とされており、そしてL4が最も難しいとされています。「手放すことを学ぶ」ことが事業承継に当たり、経営者の方が譲る側の方である場合は、このL4を意識する必要があります。

経営学者のピーター・ドラッカーが事業承継について、次のように言っております。「事業承継は偉大な経営者と言われるための最後の仕事である」。やはり手放すことについて、主導権を取るのが非常に難しい部分になっていますが、これは後継者も現経営者も会社的には事業を手放すことになることを頭に入れた上で、リーダーシップをとっていく必要があると思います。

次に、経営を担う覚悟は、どういったときに芽生えてくるか。私の税理士としての経験上、自社株式の株価下落をきっかけに、事業承継が進展したケースをご紹介します。

ある企業の現経営者が創業以来、初めて2期連続赤字になりました。少し落ち込みますよね。

皆様もコロナ禍で大変な思いをされましたし、2期、3期と連続赤字になることもあったかもしれません。顧問税理士が「今だと株価が安くなっているので、株式承継にはとてもいいタイミングですよ」と言い、「そうですか、では息子に聞いてみようかな」と経営者が息子に話をしたそうです。

数日後、経営者から「これまで言ってなかったが、実は会社をお前に継いでほしいと思っている」と伝えたところ、後継者から「もちろんそのつもりでいました。でもわからなかったので、社長からそう言ってもらえてうれしいです」と回答がありました。

その後トントン拍子でお互いの意思確認ができ、顧問税理士にも報告。「息子さんが後継者になりますので、自社株式を承継するための計画を立てましょう」と話が進みました。

これ以外にも、経営者や後継者の方が事業承継の覚悟を決めるきっかけになった代表例をいくつか紹介いたします。

1つ目はコロナ禍ではかなり多かった次のようなケースです。

経営環境の変化によって業績が悪化し、このままのビジネスモデルでは企業として生き残れないと考え、新規事業の展開を図りました。企業を変革する役割は若い方が適しているという判断で、事業承継する覚悟をお互いで決定したという事例です。

2つ目は、現経営者が入院、体調を崩した時に「万が一のことがあったらどうしよう」と考え、事業承継を進めたケースです。これも実務上、よく見受けられます。社長が不在になった際、後継者も「自分ができるようになっておかないとダメだ」と覚悟を決めるようになるのです。

3つ目は経営者仲間と節税の話で盛り上がることがあり、「持株会社の設立を金融機関から提案された。従業員持株会が節税になるらしいと聞いたが何かできないか」と顧問税理士に聞いているうちに、「そろそろ後継者に株を移しますか」という話になったとのことです。これはきっかけの一例になるのですが、何かきっかけがなくても、あえて時間を作り、事業承継について現経営者と後継者とが話し合う場を作っていただきたいと思います。

事業承継計画の策定

ステップ5で事業承継計画の策定を行います。ステップ4で「誰に」が決まりましたので、「いつ」、「どのように」承継していくのか、計画を立案します。

ここでもポイントは3つの視点に切り分けて、漏れの無いように計画を立ててください。

オーナーシップの視点では自社株式、事業用資産の承継方針を検討します。

承継方針とは、例えば「100%社長が株式を持つ」と決めることです。あるいは、ファミリーの人数が多くなり、会社の業績もよく、みんな会社に入りたいということもあり得ます。ファミリーの人数が多くてもビジネスがうまくいかないケースが実務上よくあります。今後、「ファミリーの中でビジネスに入れるのは同世代の中から3人だけ」という方針を決めるなど、検討しておきます。

そして、方針が決まれば、自社株式や事業用資産の承継方法をどの手法を使って承継していくか決定します。暦年贈与や事業承継税制、相続時精算課税を使うのか、ここで初めて出てきます

次にビジネスの視点です。経営者の多くが「社長の背中を見て育った」と言っておりますが、今は時代が変わったということもあり、変化の激しい経営環境の中、後継者、幹部候補生を育成していくことを意識的に取り組んでいきます。自社内ではどこの部署を経験させるのか、それ以外にも外部の研修に通わせるのか、を何年計画というように立案します。

経営の引き継ぎ期間が自社の場合どれくらいかかるのか、どういう方法で引き継いでいくのか、ご自身がいつ引退するのか、という日付のことも検討しておきます。事業承継を行うにあたり、事業戦略の見直しや、交替を機にガバナンス体制も見直しも検討してください。

最後に、ファミリーの視点では家族会議を実施、経営にファミリーとして貢献ができるのか、話し合いを月1回程度実施しながら、事業承継計画を一緒に立てることを進めてください。

あるいは、相続対策で万が一のことがあった場合に「こういうふうにやっておこう」と検討してください。

それに伴い、相続税や贈与税の税負担の把握ができますので、税負担の軽減といった話も初めて計画を策定する段階で出てきます。

事業承継計画の実行・見直し

最後にステップ6です。完成した事業承継計画の実行、見直しを行います。「親族内承継と親族外承継でやることはこれだけあります」と書きました。

親族内承継や役員等への承継は比較的似ており、まず関係者の理解を得ることがとても大切で、事業承継計画や経営体制の整備を関係者に伝えることが重要になります。

立てた計画どおり、後継者を社内外での教育に取り組ませたり、実際に遺言書を作成したり、生前贈与を実行したり、ということも必要になります。

あるいは、経営者保証のガイドラインにも載っていますが、金融機関の借入に対し個人保証をしている場合、経営上負担が大きいことがあり、金融機関と見直しの交渉もこの中で行う必要が出てきます。

社外への承継でM&Aに関して気をつけたいのが、どのタイミングで従業員に伝えるか、です。

情報が従業員に早めに漏れてしまい、「うちは身売りされるの」「わからない人に買われるなら早めに転職先を探さないと」と残ってほしい従業員に去られてしまうことも実務上発生してきますので、M&Aを公表するタイミングは気を使ってください。

事業承継計画の実行はやることが多いと思われるかもしれません。場合に応じて経営者が自社だけでやろうとせず、支援機関や専門家と一緒に進めてほしいです。

事業承継計画は1回立てたら終わりではなく、年に一回は見直してください遺言書の見直しを行わず、トラブルに発展したケースがあります。

5年前は長男が後継者後継者の予定だったので、自社株式を100%相続させる旨の遺言書を作成していました。その後、事情が変わり、長女の娘婿が後継者候補となりました。

しかし、先代経営者が遺言書を見直さないまま、亡くなりました。その後、遺言書が発見され、そこには長男に自社株式を100%相続させると書かれておりました

長女と娘婿が自社株式を取得したいと長男に伝えると、長男は「株は自分が取得する」と言い、娘婿が100%株を持てない状態になり、経営に影響を及ぼすトラブルに発展したと事例があります。

計画を立てるだけでも素晴らしいと思います。立てて安心してしまい、その後何もしなくてもよいかというと、そうではありません。遺言書も状況が変われば、それに合わせて書き直さないとトラブルが起きますので、「事業承継に終わりなし」と思い、年に1度は見直しをお願いします。

まとめ

重要なのはステップ1からステップ6まで順を追って少しずつ事業承継に取り組むことです。

そして円滑なコミュニケーションが大事と申し上げましたが、誰かファミリーの中で、あるいは関係者の中で取り残されてしまう方が出ないように、1つ1つ時間をかけて説得をしながら事業承継を進めてください


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この記事を書いた人

税理士 / 中小企業診断士 藤本 江里子
税理士法人新宿総合会計事務所

・保有資格等
税理士、中小企業診断士
FBAAファミリービジネスアドバイザー認定資格保持者

・略歴等
奈良県出身。大学卒業後、メガバンクに就職したあと、税理士に転身。中小企業のあらゆる悩みに応えられるようにと中小企業診断士、FBAAファミリービジネスアドバイザー認定資格を取り現在に至る。
2018年~多摩大学大学院MBA客員教授

・得意分野
事業承継・相続・M&A支援や組織再編成、補助金申請サポートなど。
複雑な話をわかりやすく説明することを心掛けてサポートを行う。

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