不動産所得者のための法人化について | 後編
金森 泰弘
税理士
LEXT税理士事務所 代表
富山県出身 静岡大学卒業後、9年間相続専門の税理士法人の勤務を経て、2021年10月八重洲にて独立開業。不動産オーナーの相続相談件数は累計約5,000件、相続・不動産を専門とし、オーダーメイドの提案力には定評がある。 youtubeやSNSなどの情報発信についても力を入れている。不動産オーナーの相続相談に累計約5,000件。不動産オーナーの遺言・民事信託・法人化・生前贈与等の生前対策に注力
「不動産所得者のための法人化について」後編では、前編でお伝えした知識を使って、実際のシミュレーションを作ったらどうなるのか、具体的にお伝えします。
法人化のメリットとデメリット
個人の確定申告書や固定資産税の課税明細などを基に、各物件からどれだけの収入が得られ、どれだけの経費があるのかを個別に分析します。
その結果をもとに、どの物件を法人に移すべきか、あるいは法人で管理すべきか、またはサブリースすべきかを決定します。
これらの選択肢から、最終的にその方にとって最も有益な選択を行います。
法人を設立することが有利な場合、その簡単なボーダーラインがあります。
それは、個人の課税所得が900万円を超えると、法人を設立した方が良いです。これは、課税所得が増えると、所得税が33%、住民税が10%となり、個人の税負担が43%となるためです。
一方、法人の税率は23%であるため、法人を設立すると税率がほぼ半分になり、メリットが出ます。
しかし、法人を設立した場合のデメリットもあります。
それは、会社の設立費用、会社に建物を移す場合の登記費用や不動産所得税などのコストが発生することです。
また、毎年の法人の決算申告は個人の確定申告とは異なり、専門的な知識が必要であり、多くの場合、税理士に依頼する必要があります。
これらのコストを考慮すると、個人の課税所得が900万円程度であれば、法人化のメリットが出やすいと言えます。
法人化によるケーススタディ
次に、具体的なケーススタディを見てみましょう。
1. 現状の個人の税負担・課税所得が3,000万円の場合、所得税と住民税で12,397,200円となり、約半分が税金として支払われます。
2. 法人化後の個人・法人の税負担 課税所得金額の半分を法人に移した場合、個人の所得は1,500万円、法人の所得は1,500万円となります。
法人化後の個人の税負担は、所得1,500万円に対して、所得税と住民税が4,985,600円です。法人化後の法人の所得が1,500万円で、法人税が4,261,300円です。
元々、税金を12,397,200円支払っていたものが、法人化後は個人と法人で合わせて約900万円に減ります。
これにより、節税効果として3,150,300円が得られます。
この節税効果は毎年続くことが重要です。
このようなケースのお客様がいた場合、即座に法人化を検討するべきです。 そのためには、お客様の確定申告を毎年チェックすることが重要です。
法人化の効果
法人化の効果を具体的に見てみましょう。
法人設立前の税金は、個人負担額が12,397,200円です。
法人を設立した初年度では、個人の税金が4,985,600円、法人の税金が4,261,300円で、合計が9,246,900円となります。
これにより、節税効果として3,150,300円が得られます。
5年後には、節税効果は15,751,500円になります。10年後では31,503,000円、15年後では47,254,500円の節税効果となります。
法人に収入を移すことで、将来の相続税の資金として活用することができます。
納税資金のプール効果は、一年当たり10,738,700円となります。
今回のケースでは、会社から役員報酬を支払わずに、会社に蓄積しているという前提になっています。
実際には、役員報酬として支給することにより、さらに節税効果が大きくなります。
今回のケースでは、毎年約1,000万円が会社に貯まり、15年後には約1億6,000万円が法人に貯まるということになります。
法人化を検討する段階で、今回のケースのように大きなメリットが出る場合は、間違いなく法人化をするべきです。
法人化するかどうかを判断する際には、法人から役員報酬を支払うシミュレーションや社会保険料の支払い方法、法人として社宅化するなどの検討、または経費を法人につけることを検討することで総合的な判断をする必要があります。
例えば、車両の購入や携帯電話の購入・利用料の支払いなどが考えられます。
最後に、ランニングコストについて説明します。
会社の設立費用はざっくりとして約30万円、土地や不動産の所得税は固定資産税の3%で45万円、登録免許税は固定資産税の2%で30万円となり、合計で105万円程度の経費がかかります。
しかし、実際には法人に1,500万円で建物を売っているため、法人としては1,500万円を個人に支払う義務があります。ただし、設立したばかりの法人には1,500万円の資金がないと思われます。
そのため、一旦、個人が法人に貸した、もしくは未収を立てた形にして、売買の代金を徐々に法人が個人に返していく方式をとることが現実的です。
もちろん、銀行を利用してこの1,500万円を融資により返すことも可能ですが、なるべく余計なコストはかけない方が良いでしょう。
まとめ
法人化を検討する際の主な目的は、所得税と相続税のメリットを最大限に活用することです。これらのメリットがどれだけ得られるかは、法人化を決定する上で最も重要な要素となります。
一方で、全ての方が法人化すべきというわけではありません。
お客様はセミナーや本など、様々な情報源から知識を得ています。そのため、お客様が法人化について質問した際には、即座に適切な回答を提供することが重要です。また、法人化が有利と考えられる方に対しては、早い段階でその提案を行うことが望ましいです。
しかし、法人化が有利と考えられる方に提案を行う際には、そのメリットとデメリットを十分に理解し、適切なアドバイスを提供することが必要です。これにより、お客様が最適な決定を下すことができます。
本シリーズは二部制で、上記の動画は「後編」です。
▼ シリーズ動画一覧
講師に無料相談をする
ビジネス処方箋に登壇している講師に無料相談を行うことができます。
お問い合わせいただきましたら、ご相談内容に適した士業・経営者の講師をご紹介いたします。