値上げの波に乗り遅れるな!

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清水 健介
弁護士 / 中小企業診断士

2002年 早稲田大学法学部卒業/裁判所事務官任官
2004年 水戸地方裁判所裁判所書記官任官
2010年 奧野総合法律事務所入所
2011年 昭和シェル石油(株)(現出光興産(株))法務統括部出向
2013年 公益財団法人金融情報システムセンター調査部出向
2020年 中小企業診断士登録・(株)再興経営研究所設立
2021年 東京都中小企業再生支援協議会統括責任者補佐

目次

はじめに

「値上げの波に乗り遅れるな!単価アップ交渉で知っておくべき下請法」についてお話します。

今回は、ご覧いただいている皆様に下請法について簡単に知っていただき、値上げ交渉に使うのか、もしくは値下げが可能なのかなど、前提知識をつけていただく内容となっています。

下請法とは

そもそも下請法の立て付けは、親事業者が下請事業者に対して、その地位に根差した優越的な地位の濫用を取り締まるために、独占禁止法(以下、独禁法)の定める優越的地位の濫用を補完する法律として制定されました。

性質としては、下請取引を公正化していく競争法という概念と、下請事業者の利益を保護するいじめ防止の性質を持った法律となります。従って、公正取引委員会と中小企業庁が協力して、書面調査等を行って摘発等をしていく立て付けになっています。

ここでは、下請法の特徴を独禁法との比較で解説します。

まず、下請法は適用が迅速であるということです。この法律が適用されるか否かは簡単に決まり、基準を1円でも上回っていれば「下請事業者ではありません」と形式的に決まります。

一方、独禁法は優越的な関係にあるかどうかという評価が入る概念的なものであり、下請法は金額で決まるため、簡単に適用されるか否かが分かります。

もう1つが直接的救済です。独禁法の場合、独禁法に違反した人たちに対して「違反行為を止めなさい」とは言いますが、被害を受けた方は別途、民事裁判等を提起して金を回収しなければなりません。

一方、下請法の場合は、受領を拒否したという事態が認められる場合には、「では、それを引き取りなさい」という話になりますし、減額して下請代金を払ってきたような場合には、「その減額した分を直接払いなさい」という命令を出すため、より救済が直接的だということになります。

制裁については、下請法に違反した場合には指導や勧告がなされるなど、バリエーションに富んだ行政指導が行われます。過去の事例に照らしますと、繰り返し違反をした親事業者や、一定の金額を超えた不利益を下請事業者に課した親事業者に対しては勧告が発され、違反者の名前が公表されることでプレッシャーとなっています。

下請法の適用範囲

下請法には適用要件が決まっており、下請事業者の資本金と親事業者の資本金の基準、またその2社の契約の委託内容によって適用されるかどうかが決まります。資本金基準と委託内容基準があり、その両方を満たした場合に適用対象となります。

委託内容基準

一般的な製造業を想定すると、製造委託に該当するか否かが委託内容基準の概ねの内容となります。製造委託として委託内容が下請法の適用対象になるかどうかですが、これは「消費者に対して業として販売する商品を下請けに出しているかどうか」が基準になってきます。

また、「規格・品質・性能・形状・デザイン・ブランドなどの指定を受けているか」など、単純な売買ではなく誰かに販売する商品をその人に委託している場合には、下請法の委託内容基準に合致することになります。

従って、無償配布品を誰かに委託しているような場合は下請法の適用対象にはなりませんし、付属品であっても取扱説明書や容器やラベルであっても、人に売るものを下請けに出していれば当然含まれることになります。

あと、規格品・カタログ品・標準品は対象外となります。これは製造の委託ではなく、ただ単に出来合いのものを販売する話であるため、委託内容基準には該当しません。

資本金基準

もう1つの資本金基準は比較的明確です。

資本金3億円超の事業者が、資本金3億円以下の事業者に発注する場合。もう1つのカテゴリーとして、資本金1000万円超3億円以下の事業者が、資本金1000万円以下の事業者に発注する場合には、親事業者と下請事業者のカテゴリーに入ります。

私も以前、民間企業に出向して法務部にいましたが、その会社は資本金が3億円を超えていたため、まず取引を開始する時には相手企業の商業登記簿謄本を取り、この相手企業の資本金が3億円以下なのかどうかを確認していました。それによって下請法が適用されるかどうかが決まるためです。

下請法の適用がありそうなもので言うと、例えば、有償の研修用テキスト等の印刷や、商品の梱包材料の下請け、こういったものは有償で販売していくものになり、またその付属品ということで下請法の適用になります。

逆に、下請法が適用されないと思われるものは、無料配布する景品やポスター、教本といったものについては、そもそも販売目的の物品の製造委託ではないため、下請法に該当しないことになります。

親事業者の義務

次に、下請法が適用される場合を前提として、その場合に発注側の親事業者がどういった義務を負うのかを解説します。

簡単にまとめると、以下の4点です。

1点目は、発注書面を交付しなければいけないということです。口頭の発注や、何も書いていない書面での発注は認められません。これに違反すると、50万円以下の罰金になります。

2点目は、支払い期日を定める義務です。何でもかんでも支払い期日を定めれば良いという訳ではなく、品物を受領した日から起算して、60日以内の支払い日を定めて通知しなければなりません。

3点目は、書類の作成・2年間の保存義務です。下請事業者との取引については、2年間きちんと書類を作成した上で保存することが決まっています。私が勤務していた会社も公正取引委員会の方が来て、過去の保存された記録を全部見て付箋を付けていました。そういったチェックが可能なように保存をするのがこの趣旨になります。

4点目は、延滞利息の支払義務です。下請法に照らし合わせて少なくしか払っていない場合には、その不足分については年率14.6%を付して支払わなければなりません。これも、実際にはかなり細かく取引を見てくことになり、支払いの不足分が溜まっていくと比較的大きな金額になります。

親事業者の義務に関するQ&Aですが、このような質問がよく寄せられます。

【質問その1】
親事業者からは検収日基準で商品代金を支払ってもらっています。例えば、3月中に納品した物品を月末一括で検収して、その検収が終わってから60日後に代金を支払うことが契約書に書かれおり合意しています。ただ、この検収に時間がかかることがあり、困っています。この通りに取引すると、下請法違反なんでしょうか?

【回答その1】
例えば、3月1日に納品をしました。しかし、検収は3月20日でした。その場合、月末一括で検収をして検収後60日以内に代金を支払うことになると、3月1日に納品したのに実際に代金が支払われるのは5月末となります。

回答としては、下請法ではその契約内容は関係ありません。法律で「受領は60日以内の日を支払い日として定めてお金を払いなさい」となっているため、質問の通りに取引をしてしまうと、3月1日に納品しているため、5月末の支払いでは期限が過ぎていることになります。また、仮に5月末で支払いをするのであれば、期日が過ぎた日数分は14.6%の利息を付けて支払わなければいけません。公正取引委員会や中小企業庁の立ち入り検査が入った場合、支払いの指導を受けることになります。

もう1つの質問です。

【質問その2】
商品の発注を受けましたが、注文書の代わりにEメールで「100ロットすぐ送って欲しい」とだけ送られてきました。経理上とても困るのですが、法律上問題ないんでしょうか?

【回答その2】
これは先ほど申し上げた通り、親事業者・発注側は3条書面という文章を交付しなければいけません。今回の例ですと、メールでただ単に「〇〇という商品を100ロットすぐに送って欲しい」と言っているだけであり、これは違反になります。

ただ、メールに完全な発注書をPDF等で添付して送ってあれば良さそうですが、これも「Eメールで発注できます」ということが契約書に書かれて合意がされていないといけません。

完璧にやりたければ、発注書面はEメールで送るというのが契約書にきちんと書かれていて、更にEメールで実際にPDFの正式な発注書を送ることが必要となります。

親事業者の禁止事項

先ほどは親事業者の義務を説明しましたが、親事業者の禁止事項も別途まとめられています。

当たり前ですが、そもそも公正取引委員会が管轄する独占禁止法の優越的地位の濫用でも、これらのことは禁止されていました。しかし、実際には社会で横行しているため、わざわざ下請法という法律を作って禁止事項を1つ1つ定めてるということになります。

従って、親事業者・発注側はこれらの行為をしてはいけないということを認識しなければなりませんし、受注側の社長もこれをやられたら反論することができるということを理解しておく必要があります。

1点目は、受領拒否の禁止です。注文した物品の受領を拒むことは禁止されています。

2点目は、支払い遅延の禁止です。商品受領60日以内で、定められた支払い期日までに支払わなければなりません。

3つ目は、代金減額の禁止です。あらかじめ定めた下請代金が決まっているのに、支払う段階になって「ちょっと負けてくれないか?」と言うことは禁止されています。

4つ目は、返品の禁止です。受け取った物を、売れないから返品するという行為も禁止されています。

5つ目は、買いたたきの禁止です。市場価格に比べて、著しく低い下請代金を定めることも禁止されています。

6つ目は、購入・利用強制の禁止です。これは、親事業者が指定する物、もしくはサービスを強制的に購入利用させることを禁止しています。従って、下請取引をしている親事業者が「ウチの商品買ってよ」や「このパーティー出てくれよ」と迫る行為は禁止されています。

7つ目は、報復措置の禁止です。これは、下請事業者が公正取引委員会や中小企業庁に、いわゆる垂れ込みをしたことに対して、不利益的な扱いをしてはいけないという内容です。

8つ目は、有償支給減材料等の対価の早期決済の禁止です。これは、先に有償で支給した材料を使って製造させる場合に、その材料の代金を先に支払わせる行為を禁止しています。出来上がった製品の代金を払った後に、支給した材料の売買代金を相殺したり、支払わせたりすることが必要となります。

9つ目は、割引困難な手形交付の禁止です。これは、一般の金融機関で割引を受けられないような手形を使って、売買代金の代わりに交付してはいけないことを定めています。当たり前のことですが、ここまで規定しないとやってしまう業者がいるということです。

10個目は、不当な経済上の利益の提供要請の禁止です。先ほどのサービスの購入要請に似ていますが、下請事業者から金銭・労務の提供等させることを禁止しています。以前問題になったのは、電気店で全く関係ないメーカーの棚卸しをさせたり、「ウチのお店で扱ってあげるから、代わりにウチのお店に入って商品説明をしてくれ」と無理な依頼をしたりすることが問題になりました。

11個目は、不当なやり直し等の禁止です。まったく費用を負担せずに注文内容を変更して、商品を受領した後にやり直しをさせることを禁止しています。

過去の違反事例

過去の違反事例は様々ありますが、今回は直近の違反事例で令和3年度の4件をご紹介します。これは公正取引委員会のウェブサイトから抜粋してきたものです。

1つ目は、7094万円を不当に減額したので返還せよという勧告事例です。

2つ目は、早期支払い割引料として1991万円を不当に減額したので返還せよという勧告事例です。

3つ目は、歩引きとして総額2015万円を差っ引いており、これも減額と同等とみなされ返還の勧告がなされた事例です。

4つ目は、若干複雑ではありますが、結局、戻し入れ金として総額5660万円を減額してるということで、これも返還の勧告がなされた事例です。

ここでまた、よくある質問を解説します。

【質問その1】
当社は大手取引先に商品の販売するため、販促費を求められています。こういったことは商習慣上よくあることだと思いますが、法的に見て問題のある行為ではないでしょうか。

【回答その1】
これ対して下請法は、これを悪しき商習慣であると考えています。減額の禁止は勧告が最も多い事例です。結局のところ、何か項目を立てて差っ引いたり、追加で払わせたりする行為は、商品代金から一定の金額を割り引いて減額していることとなるため、これは下請法に真っ向から反対する行為であり、是正措置を求めるべきです。

しかし、真っ向から「止めてください」とは言い難いため、その問題は後ほど解説します。

【質問その2】
振込手数料が毎回800円引かれてます。これは、どうなんでしょうか?

【回答その2】
800円は小さいですが、それも積み重なると結構な負担になります。

回答としては、振込手数料を下請事業者・納入側に負担させることは可能です。ただし、それは契約書によって「振込手数料を下請事業者が負担する」ということが約定されてることが前提になります。

これは私の経験でもありますが、800円はの振込手数料は一般的に高いと思います。実際には300円や500円であるのに、800円を振込手数料として差っ引くというのは、過大に差っ引き過ぎているため、契約書で振込手数料を負担すると約定されている場合でも、800円という金額が実際の振込手数料より多ければ、その多かった分は返還する必要があります。

【質問その3】
納期前に納品をお願いしたしたら、きっぱりと断られました。下請法の理論理屈を用いてなんとか納品できないでしょうか?

【回答その3】
納期前に受領するというのは、発注側としても負担になるため下請法違反ではありません。よって、下請法に基づいて納品を受け取ってもらうことはできません。

ただし、一旦受け取ってしまった以上は、親事業者・発注側には60日の支払い制限の義務が生じてしまいます。逆に、親事業者・発注側としては、「これはあくまで仮受領ですよ」と伝えて受領しない場合、60日のカウントが始まってしまうということになるため、納入側・受領側、両方にとって注意しなければいけないポイントになります。

下請法の運用基準の改正

下請法の運用基準はどんどん改正が進んでしまい、だんだんと厳しくなってきています。

最近では、「労務費やエネルギーコスト等の上昇分の反映の必要性について、まったく協議することなく従来通りに取引単価を据え置くことは買いたたきである」という発表がされています。従って、実際には買いたたきに相当するような取引が多いのではないかと思います。

《参考情報:下請法 知っておきたい豆情報 その11

違反行為に対する措置

違反行為ついては、実際に公正取引委員会が発注側の違反行為に対して下請事業者の受けた不利益を原状回復するように、勧告や指導をしていくことになります。

勧告の場合は、違反した業者名と違反事実が公正取引委員会のウェブサイトに発表されてしまうため、大手企業の場合は非常にダメージが大くなります。

また、違反がひどい場合は下請法の措置だけにとまらず、独禁法に基づく命令や課徴金納付命令という罰金のようなものが科されることもあります。

中小企業庁も、違反の事実を発見した場合には、公正取引委員会に同様の措置を出すように要請することになっています。

違反行為に対する措置は、報復の禁止が定められています。例えば、「ここの下請事業者が申告したんじゃないか?」という事業者に対して、親事業者が下請け取引を中止した場合、その行為が更に下請法に違反することとなるため、親事業者は一定の制裁を受けるということになります。

後は、下請け駆け込み寺というのが全国48箇所に設置されており、東京ですと新橋にあります。こういった施設で中小企業の取引上の悩みを、相談員や弁護士が受け付ける施設があります。

また、大手企業のCSR推進の流れですが、大手企業は下請法違反をして名前が出てしまうことを非常に気にしています。

下請法や独禁法の取り締まり業務は、執行する公正取引委員会や中小企業庁とっては正義の見方的な活動ができる、かっこいい仕事ひとつとなっています。従って、ここをピンポイントかつ積極的に動いています。

また、申告窓口はネットでも開設されており、匿名でも申告可能な制度になっています。更に、守秘義務があるため、基本的に親事業者に申告者の情報が漏れることはありません。1つの事業者に下請法違反をやってるような事業者は、複数の下請事業者に違反行為をやっているため、バレないということもポイントになってきます。

あと、自主申告制度という制度があり、親事業者が自ら「下請法違反をしました」と公正取引委員会に申告した場合、勧告をされない減免制度があります。これも下請法違反を是正していく1つの後押しになっています。

まとめ

以上が下請法の内容ということになります。

簡単ではありますが、これを理解しておくことで親事業者も違反をしなくなりますし、下請事業者の方もバレずに申告ができるということがありますので、積極的に活用して是正を図っていただければと思います。

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執筆者

清水健介
弁護士・中小企業診断士

1979年長野県上田市生まれ
2002年早稲田大学法学部卒業/裁判所事務官任官
2004年水戸地方裁判所裁判所書記官任官
2008年早稲田大学法科大学院卒業/司法試験合格
2009年司法研修所修了・弁護士登録
2010年奧野総合法律事務所入所
2011年昭和シェル石油(株)(現出光興産(株))法務統括部出向
2013年公益財団法人金融情報システムセンター調査部出向
2020年中小企業診断士登録・(株)再興経営研究所設立
2021年東京都中小企業再生支援協議会統括責任者補佐

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