世界的に「カイゼンブーム」が起こっている?

【執筆者】
中小企業診断士 池谷 卓
技術士

約30年以上にわたり、素材メーカーに勤務し、国内外の生産設備・ライン
設計・保全や生産拠点運営、新事業開拓、経営企画、DX推進等を経験。2023年に中小企業診断士として登録。

日本“式”経営の逆襲

著者 岩尾 俊兵  日本経済新聞出版

恐らく、皆さんの中で「カイゼン」と言う言葉を知らない方はいないと思います。皆さんは、ビジネスの世界だけでなく日常生活の中でも、毎日、当たり前の様に「カイゼン」に接しているはずです。

例えば、料理、洗濯、掃除又は買い物など基本的な日常生活の中でも、次は少しでも良い結果になるように「カイゼン」とは思わずとも考え、行動しています。まさに、現代を生きる私たちにとって「カイゼンなくして生活なし」と言う感じですね。

私たちの祖先は、ご存じに通り“ホモサピエンス”ですが、彼らが生きていた時代に知的レベルはほぼ同じと言われている“ネアンデルタール人”も存在していました。しかし、前者は現代まで生き延びて私たちの祖先になり、後者は絶滅して現代の世界においてその子孫を見つけることはできません。

両者の差が生じた理由に関しては諸説あるようですが、前者は後者に比べて発声をする身体的優位性を持っていたので、言葉を使ってのコミュニケーションをすることができた。

それにより今日の狩の失敗を反省して、明日の狩りをもっとよくする工夫をすることができ、さらに、その知恵を子供に伝えることもできた。つまり「カイゼン」をすることができたので、気候変動などの大きな外的変化にも対応しながら現代まで生存することができたと言うのです。

種の存続までを決めてしまう「カイゼン」とは恐れ入りましたと言うことで、今回ご紹介するのはその「カイゼン(改善活動)」になります。

ちなみに私は「カイゼン」の専門家でもなければ、実務として「カイゼン」活動に深く携わったこともありません。そのため、ご紹介の中に稚拙な表現などが含まれていると思いますが、その際はご勘弁ください。

目次

世界に向かう「カイゼン」

「カイゼン」のことをご紹介するのですから堅苦しいとは思いますが、まず著者の「カイゼン」の定義をのぞいてみたいと思います。

「カイゼン」とは、“製品やサービスの品質・コスト・納期、製品のフレキシビリティ、作業の安全性・従業員満足などを向上させることを目的とする、従業員全員参加型の組織変革活動”である。難しい表現ですね、気にしておくべきところは、文章の最後の部分の“従業員全員参加型”と“組織変革活動”と言うところだと思います。

前者からは、活動の主役は経営者ではなく従業員であること、後者からは、活動の終わりはない継続されるべき活動であると言うことが理解できます。この点からも、先のホモサピエンスが生き残った理由は「カイゼン」といってよいのだと思われます。

集団で行う狩り、そして継続的に狩りを良くしようとする活動、今日食べる必要な量を新鮮な状態で適切な時間に、その時に合わせて、仲間が安全にそして満足度高く、さらに顧客である家族やメンバーも満足する食料ハント、まさに「カイゼン」そのものです。

1980年代、まさに「Japan as No.1」の時代には、日本企業の競争優位性の一つの源泉として、「カイゼン」が特に海外から注目を浴び、すでに「カイゼン」のために生み出されていた、5S活動、QC7つ道具なども含めて海外に紹介されました。

ご存じの通り、「KAIZEN」はオックスフォード現代英英辞典にも収録されており、世界の特に製造業の世界においては皆が知る言葉になっています。

ここまでお付き合いいただいた方は、「「カイゼン」って私たちの祖先から脈々とやっていた事なのに、なぜ「カイゼン」として改めて脚光を浴びて、世界中の会社や組織が学びたいと取り組むの?」って疑問を持つと思います。

製造業における生産技術は、18世紀半ばから19世紀に英国で起こった産業革命を機に、自動化が進む中、その後の機械化もあり世界中の生産現場の形は標準化されると同時に、従業員や経営者の考え方や行動もある程度標準化されることになってきました。

そのことが、日本初の「カイゼン」が世界に広まることができた理由です。つまり、世界中どこでも同じような設備、同じような従業員、経営者が関係している現場だからこそ、日本特有の現場の影響を含むにせよ、世界中の関係者がそれを理解し取り組むことができたのです。

私も、海外において派遣員として工場建設や運営に関与した際には、現地のエンジニアやマネージメント関係者との会話の中でなんの疑問もなく「カイゼン」と言う言葉を使っていましたし、「カイゼン」を共通基盤として新しい考え方の導入や活動を開始することができた記憶があります。

このような私の経験も含め、日本企業の競争優位性の源泉となった「カイゼン」が世界へ広まっていったことは、特に製造業に関係している皆さんにとってはうれしく、有益なことではないかと考えます。

次に、そう広まっていった「カイゼン」が、現在世界でどのようになっているのかを、その後の日本における「カイゼン」と比較しながら見ていきたいと思います。

 

世界的で起こっている「カイゼンブーム」

今、2023年の「カイゼン」は、メイド イン アメリカの概念になりつつあるそうです。先ほど「カイゼン」って日本発祥で、その後世界に広まったって言ったにもかかわらずです。

アマゾン、テスラと言えばアメリカを代表する、イノベーションを生み出している企業であると言うことに異を唱える方は、皆さんの中にはいないと思います。彼らは、最新のAIやIT技術などを駆使してイノベーションを起して、ビジネスを世界中で行い利益を得ていますが、その源泉は「カイゼン」と言ったらどう思われますか?

多くの方は、「確かに「カイゼン」が全く重要視されていないことはないけど、そのような活動は現場の管理職以下で細々とやっているのでしょう」と考えると思います。

少し前の話になりますが、2010年、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは同社の株主総会に中で、「KAIZEN」について株主に対してプレゼンテーションを行ったそうです。

その内容は、アマゾンが取り組んできた努力は「カイゼン」と言う言葉で表現できること、今後はそれを地球規模で使い環境問題に焦点を当てた「カイゼン」を進めると言うものだったようです。

そして、アマゾンの米国本社には、KAIZENプログラムが存在していて、QC7つ道具などの手法利用の教育がなされて、従業員は継続的にプロセスを合理化してムダをなくして、顧客満足度と従業員満足度を向上させることを求められているそうです。

製品を梱包する工場において、いろいろな商品の梱包作業(梱包工場の約20%のコストを占める)の生産性を向上させるために、エンジニア、作業員や幹部社員までを含むカイゼンチームを編成して、常にカイゼンの目標レベルを上げながら解決して継続的にカイゼンを実施しているようです。

さらに、テスラのイーロンマスクに至っては、時には工場で寝泊まりまでして生産現場を観察して、自ら「カイゼン」指摘まで行うことがあるようです。そして、それは指摘にとどまらず、自らプログラムを変更して設備速度を速める事までするようです。

私の経験からも、世界的なアメリカIT企業は毎日のように素早いカイゼン行う、それをビジネス相手にも求めてきますし、それができなければ厳しいビジネスの世界で生き残ることはできないと考えていると、思います。

そんな中で、「日本人はこの前ゴールデンウイークって言って1週間も休んで「カイゼン」しなかったのに、また休むのか?、だからビジネスに負けるのだ!」とお叱りを受けたことを鮮明に記憶しています。

このような「カイゼン」への取り組みは中国などでも同様で、先日、ある中国の会社のデジタルトランスフォーメーションに関するプレゼンテーションの資料に「カイゼン」に関する記述を発見しました。

それは、彼らのデジタルトランスフォーメーションは、あくまでも「カイゼン」による「組織変革活動」の一つであってというメッセージ、そして足を地に着けたデジタルトランスフォーメーションへの挑戦の表れであると思いました。

そして、国内では「カイゼン」に対する興味が薄れる中、アメリカなど国外のコンセプト、「**思考」、「デジタル***」や「**イノベーション」などを取り入れることに躍起となっています。私の周りの方々でもそのような傾向が多く見受けられます。そしてたまに、その源流は国内にあったなんてことも多々あります。

2010年以降「カイゼン」の学術研究は世界中で急増していますが、その中心は日本ではなくてアメリカになっているようです。今後も、彼らの「カイゼン」研究が進むとすれば、10年もすればアメリカ発の新たな「KAIZEN」のコンセプトが日本に逆輸入されて、「NEW_KAIZEN」と言ってブームになっていることでしょう。

まとめ

今回は人類が生き延びた源泉ともいえる、偉大な「カイゼン」についてご紹介をさせていただきました。

現在世界中を席捲している「カイゼン」は日本が発祥の地であるが、日本の地位は低下している状況にあり、今後成果、研究ともにアメリカが中心になっていくと考えられているようです。

私などは、「カイゼン」は日本のお家芸などと勝手なことを思っていたので、悔しい気もしますが、日本人の西洋コンプレックスから言えば仕方ない事なのかもしれません。先にも言った通り、10年以内にアメリカからくるであろう「NEW_KAIZEN」のブームに期待したところです。

最後に、今回ご紹介した書籍は、私が著者の研究室にお邪魔した際にいただいたものです。そこでそのお礼を兼ねて、著者新著を紹介させてください。岩尾先生の最新著書「日本企業はなぜ強みをすてるのか」(光文社新書)が発売になっております。ご興味のある方は手に取っていただければと思います。

今回の書籍

日本“式”経営の逆襲

著者 岩尾 俊兵  日本経済新聞出版

この記事を書いた人

中小企業診断士
技術士

約30年以上にわたり、素材メーカーに勤務し、国内外の生産設備・ライン
設計・保全や生産拠点運営、新事業開拓、経営企画、DX推進等を経験。2023年に、中小企業診断士として登録。

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