会社に眠っているデータの徹底活用で経営問題を発見せよ! | 前編

登壇者
株式会社しごとのしくみ 代表取締役 中小企業診断士 小早川 渡のプロフィール写真

小早川 渡
中小企業診断士

株式会社しごとのしくみ 代表取締役
中小企業診断士 / MBA / ITコーディネータ / 上級システムアドミニストレータ

会計ソフトメーカーにて個人事業主から東証プライム上場企業まで、基幹業務システムの稼働を支援。多店舗展開の中小企業へ転職し、創業経営者のそばで中小企業経営を学ぶ。2014年1月に起業。「会計とITをもっとあたりにまえに」をビジョンに掲げ、お客様視点のわかりやすいコンサルティングサービスを提供。


本シリーズは二部制で、上記の動画は「前編」です。

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目次

はじめに

本日は「会社に眠っているデータの徹底活用で経営問題を発見しよう(前編)」というテーマでお話します。

本日のセミナーの内容ですが、皆さまのお悩みとしてよく耳にするのが「売上が足りない」「もっと売上を増やしたい」「利益を増やしたい」「赤字を改善したい」「資金繰りが厳しい」といった課題です。これらの課題について深掘りしてみると、その原因は意外にも、すでにあるデータから見つけることができる場合が多いのです。

現在、多くの中小企業では何らかのシステムを使用しており、その中で日常的にデータが蓄積されています。このデータをどう活用すれば問題解決の糸口を見つけられるのか、今日はその方法を探っていきたいと考えています。

さらに、その解決策を計画に落とし込み、実行中の計画が順調かどうかをデータで迅速に把握しながら進めることができれば、「あと一歩で計画が達成できる」という状況に持っていくことが可能です。このように、データ活用を通じて迅速で柔軟な経営体質へと改善していただくことを目指して、本日のセミナーを進めてまいります。

問題とは

企業活動を行う中で、日々様々な問題が発生します。例えば、顧客対応や従業員の問題、業務プロセスの改善など、大小問わず多くの課題が浮上することでしょう。これらの良くない出来事に対しては迅速な対応が求められますが、単純に場当たり的な対応を続けていると、同じ問題が再発し続ける可能性が高いのではないでしょうか。

なぜ問題が再発し、根本的な解決に至らないのか。それは、企業が目指す「あるべき姿」が明確に定まっていないことが原因であることが多いのです。あるべき姿が曖昧であれば、問題を正確に捉えることができず、結果として対策が場当たり的になったり、根本的な解決に結びつかなかったりします。これでは、企業が本来到達すべきところにたどり着けず、経営が改善されにくいという状況が続いてしまうのです。

まずは、企業としての「あるべき姿」を明確にすることが重要です。これには経営理念やビジョン、最近の言葉で言えばミッション、ビジョン、バリューなどが含まれます。これらをしっかりと定めることで、現在の状況とのギャップを問題として捉えることができます。このギャップを解消することが、企業があるべき姿に到達するための道筋となります。従来の場当たり的な問題対応ではなく、あるべき姿に到達するための方向性を持った解決策を講じることが、真に求められていることです。

本日のセミナーでは、まずこの「あるべき姿」を数値として捉え、それに基づいて目標を設定する方法についてお話しします。そして、その目標と現状とのギャップをシステム内の実績数値を用いて分析し、このギャップをどう埋めるか、あるべき数値に向けて予算の立て方をどのように工夫すべきかについて考えていきたいと思います。このプロセスを通じて、企業の課題解決に向けた具体的なアプローチを見つけていただければと思います。

企業経営はお金が最大のルール

企業活動における課題を考える上で、まずはその基本となる「最大のルール」を確認することが重要です。企業が何のために活動しているのかを考えると、経営理念が明確でない企業では、「売上を上げて利益を確保し、収益を得る」という考え方に偏りがちです。しかし、どんなに素晴らしい企業であっても、資金が枯渇してしまえば、事業を継続することはできません。したがって、企業活動においてお金を守ることが最優先のルールとなるのです。

そこで、今回は企業のお金に焦点を当てて考えていきたいと思います。例えば、1年の初めに手元に一定の資金があったとしても、事業活動を進める中で借入金の返済や設備投資のために自然と資金は減少していきます。前年と同じ程度の売上や利益を上げたとしても、実際のところ、資金が減っていると感じることは少なくありません。売上は前年と同程度なのに、通帳を見てみると手元資金が減っている、といった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

このような状況に対して無意識で経営を続けていると、気づかぬうちに資金が減少し続け、最終的には事業の継続が難しくなる恐れがあります。そのため、資金の減少を防ぐための意識が必要です。まずは、1年の終わりに手元にどれだけの資金が残っているのかを確認し、その資金がなぜ年初よりも減ってしまったのかをしっかりと把握することが重要です。

さらに、この減少した資金を補い、増やしていくためには、1年間で得られるであろう資金をしっかりと増やす取り組みが求められます。

会社が資金を増やす方法はいくつか存在しますが、その中でも特にメジャーで簡単な方法としては「借入」が挙げられます。銀行や信用金庫などの金融機関、あるいは知人からの借入を行うことで、資金を増やすことが可能です。

他にも、自己資金を追加で投入する方法や、知人や投資家に資本参加をお願いする方法もあります。これにより、自己資本を増強することができますが、難易度が高く、リスクも伴うため、できれば避けたいと考える経営者も多いでしょう。

また、会社が保有する資産を現金化する方法もあります。例えば、不要な在庫や使っていない土地・建物などを売却し、資産を現金に戻すことができます。これらの方法は、規模が限られる場合もありますが、短期的な資金繰りの改善には有効です。

しかし、企業の本来の目的は、事業活動を通じて利益を上げることです。法律でも、会社は利益を創出し、それを株主に還元することを目的とする法人として定義されています。したがって、最も望ましい資金増加の方法は、事業で利益を上げることです。これは、売上の拡大やコストの削減、利益率の向上などを通じて実現されます。

具体的に、事業で稼ぐというのは「損益計算書」に反映される部分です。損益計算書では、企業の収益と費用が示されており、最終的な利益がどれだけ出たかが明らかになります。また、お金の動きを把握するためには「貸借対照表(バランスシート)」も重要です。貸借対照表では、資産、負債、純資産のバランスが示され、企業の財務状況が一目で分かります。

特に「貸借対照表」の右下に位置する「利益剰余金」は、実際に事業で稼いだ利益が蓄積されていく部分であり、この利益剰余金は「損益計算書」の利益と直結しています。損益計算書で得られた利益を増やせば、その分貸借対照表の利益剰余金も増加し、結果的に企業の資産が増えることになります。これは、企業が健全に成長するための基本的なルールです。

しかし、企業が何も対策を取らないとお金は減少していく傾向があります。

予算計画とモニタリング

まず、1年間で減少すると予想される資金を把握することが重要です。具体的には、借入金の返済スケジュールや設備の更新計画を確認し、さらに税金の負担も考慮する必要があります。このようにして算出された「必要利益」、つまり最低限確保しなければならない利益を基にして、企業は売上目標を立てることができます。

ここで役立つのが「損益分岐点」の考え方です。損益分岐点とは、売上高がどれだけあれば利益がゼロになるかを示すポイントです。このポイントを把握することで、最低限どれだけの売上を上げる必要があるかが明確になります。これに基づいて、会社全体の損益計算書の予算を立て、さらに各部門にその売上目標を割り当てて実行することで、企業はお金が減らない体制を整えることができます。

もちろん、目標以上に稼ぐことができれば、さらなる利益増加につながり、企業の成長を加速させることができますが、まずはこの「最低限必要な売上」をしっかりと把握し、経営戦略に反映させることが重要です。

実は、この状況では会計システムを利用してさまざまな計算や実績との比較が可能です。これにより、各部門が達成すべき売上高が明確になりました。この目標売上高をさらに具体的にするために、部門別、得意先別、担当者別、商品別など、会社が管理しやすい形で割り当てることが可能です。また、これらの情報は、販売管理システム内で予算として登録することもできます。

この会計システムと販売管理システムを活用することで、達成すべき目標数値に対して現在どの程度達成しているかを常にモニタリングすることができます。これにより、予算や会社の目標を管理し、将来的に資金が減少しない状況を維持することが可能になると考えられます。

損益分岐点売上高計算式

通常、損益分岐点の売上高を計算する際には分母と分子の式がありますが、この分子に必要な利益を加えることで、今年達成すべき売上高が算出されます。次に、設定した予算をしっかりと会計ソフトに入力し、その予算に対して現在の状況をタイムリーに把握することが重要です。

会計ソフトには、予算を入力してそれに対して実績を比較する機能が備わっています。ぜひこれらの機能を活用していただきたいと思います。同様に、販売管理ソフトでも目標予算を入力し、その実績を比較する機能が大半のソフトに備わっていますので、こちらもぜひご活用ください。

この機能については、私も多くの企業を見てきましたが、備わっているにもかかわらず使っていないケースが非常に多いのです。しかし、目標に対して今どれだけ達成しているかを常に確認しないと、「あと少しで予算達成だったのに」という状況が毎月続いてしまい、結果的に予算達成ができなかったということもよくあります。例えば、「あと5万円、10万円頑張れば予算達成できる」というような最後の踏ん張りが、月末の2〜3日前にでもわかれば、その後の行動に大きな影響を与えることも可能です。

このように、目標に対して部門や個人がどのような状況にあるのか、また会社全体の進捗状況を常に把握できるようにしておくことが、予算達成のための一つのヒントになるのではないかと考えます。

売上対策

立てた予算を達成する必要があることは皆さんご存じの通りですが、実際にどのようにして売上を作り出すことができるのか、もう少し具体的に見ていきたいと思います。どの会社でも、売上を上げるために社長や営業部長、担当者の皆さんが一生懸命取り組んでいることはよくわかります。しかし、努力だけではなかなかうまくいかない部分もあります。そこで、数値を活用して改善のポイントを見つけていきたいと考えています。

例えば、売上順位表を得意先別、担当者別、商品別に並べることで、上位の得意先や担当者が見えてくると思います。この情報をただ眺めるだけでは「今月はここが良かったな」と終わってしまいがちですが、その先をさらに掘り下げて分析してみることが重要です。

良かったところについて、まずは「何が良かったのか」を「なぜなぜ」を繰り返して深掘りし、徹底的に分析してみてください。そうすることで、「ああ、そういうことだったのか」という気づきが生まれることがあります。その気づきを他の担当者や部門ともシェアし、みんなで協力して売上を上げていくことができるのではないかと思います。

このような分析と共有を繰り返すことで、個々の成果を全体の成果に結びつけ、より大きな目標達成につなげることができるでしょう。

このことは実はかなり当たり前のことですが、実際には多くの企業がこの当たり前のことを実践できていないのが現実です。私がさまざまな企業を支援している中で、そのように感じています。では、どのようにその要因を探るべきかというと、先ほどのように得意先や商品、担当者などの部門ごとに分析を行うことが有効です。分析を行うことで、必ず良い結果が見つかる可能性があると考えています。

また、区分けという分類も有効です。例えば、得意先の区分であればエリア別、商品の区分であれば商品群別に分析することによって、良い点が見えてくることがあります。良い点が見つかった場合、それをもとに売上が増加した要因を特定することが重要です。画面を見つめているだけでは、その要因を明らかにすることは難しいため、実際の担当者に対してヒアリングを行うことが効果的です。

例えば、売上が良かった担当者に対して、「先月、Aさんは予算の150%を達成しました」といった形で表彰することで、その成功の秘訣を話してもらうことも一つの方法です。担当者が自分の成功法則を他の人に共有したくないと思っている場合でも、表彰されることでその意欲を引き出しやすくなります。このような心理的要素を活用するのも一つの手です。

さらに、社内の雰囲気ややり方も重要です。社員同士を過度に競わせると、成功要因が社内で共有されにくくなることがあります。成功要因や情報をシェアできるような社風を作ることも大切です。個人ではなくチームとして競わせることで、成功要因を会社全体で共有することができるでしょう。このような環境作りや業績の競わせ方も、マネージャーや経営者の役割の一部と言えるでしょう。

そして、その結果を未達成の部門に展開する際には、単に「こういうところがあったので真似してみてください」と終わらせるのでは不十分です。その方法だけでは、実際に試してみた結果、「うまくいかなかった」という事例が生じる可能性があります。これがさらに、なぜうまくいかなかったのかを問い詰めることで、できなかった人が落ち込んでしまう悪循環を引き起こしかねません。

そのため、事前にロールプレイを行い、具体的にどのようなアプローチをとるべきかを一緒に考えることが重要です。例えば、顧客先に訪問する際には、どのような話をし、どのような課題に対してどのように対応するかを事前に検討することが効果的です。特に業績達成が難しい担当者には、このような具体的な準備を一緒に行い、サポートすることが推奨されます。

万が一、試みがうまくいかなかった場合でも、担当者だけでなく、支援した側にも責任があることを認識し、再度解決策を一緒に考えることが大切です。これにより、人間関係が良好になり、業績達成が難しい担当者も早期に成功体験を得る可能性が高まります。結果として、担当者が自然に成長し、業績向上のスピードを得ることができるでしょう。したがって、フィードバックを通じて詰めるのではなく、フィードフォワードとして一緒に考えることを強くお勧めいたします。

売上明細表

売上明細表について、これもほとんどの販売管理システムに含まれていると思われますが、多くの場合、この明細表を眺めるだけで終わってしまうことが多いのではないでしょうか。今回は、この売上明細表をどのように活用していけばよいのかについて考えてみたいと思います。

まず、一つの視点として重要なのは、注目すべき部分に焦点を当てることです。具体的には、特定の得意先、商品、担当者などにフォーカスを当てて管理することが有効です。

例えば、以下のような点に注目することが考えられます。

  • 得意先が業績不振に陥った場合や、特定の商品が売れ行きが悪い場合、会社全体の計画にどのような影響が出るかを評価する。
  • 得意先のキャパシティが大きいにもかかわらず、自社の取引が少ない場合、そこに成長の可能性があると考えられる。
  • 他社製品は多く取り扱っているが、自社製品が弱い場合、商品の強化策を検討する。
  • ポテンシャルがありながらも成果が上がっていない担当者について、どのような支援ができるかを考える。

具体的な例としては、新規得意先やターゲットとした得意先、配属されたばかりの担当者や結果が出ていないがポテンシャルがある担当者、新商品や戦略的に育てていきたい商品などに注目することが挙げられます。これらの要素に対して、問題を発見し、適切な対策を講じることで、売上の改善や業務の効率化を図ることができるでしょう。

別の視点から考えてみると、売上明細表を用いた分析において、得意先や商品のグルーピングを活用することが有効です。例えば、先ほどご案内した区分や商品群に基づいて、データを絞り込むことで、本来同時に売れるはずの商品のうち片方しか売れていない場合など、原因を探ることができます。

具体的には、次のような点に注目することが考えられます。

  • ある担当者が頻繁に値引きを行っているために、売上や利益が低くなっている可能性がある。
  • 特定の商品群しか売れていない得意先や担当者がいる場合、その原因が商品知識の不足や提案不足にあるかもしれない。

このように、グルーピングによって見えてくる「見えない部分」を把握することで、問題の本質に迫り、適切な対策を講じることが可能になります。また、「なぜなぜ」を繰り返しながら分析を進めることで、問題解決に向けた具体的なアプローチが見えてくるでしょう。

受注集計表

次に、受注にフォーカスしてみましょう。多くの販売管理システムには、受注を入力する機能が備わっていますが、実際には売上伝票の入力や納品書の発行など、後段階の処理しか行っていない企業が多いのが現状です。しかし、受注データの入力も重要な活用方法の一つです。

特に、受注から売上までのタイムラグがある取引先については、受注データの管理が重要です。受注データには納期の情報も含まれており、これを正確に入力することで、予算達成の予測精度を向上させることができます。

このように、普段使用している販売管理システムの使い方を見直したり、データを詳細に分析したりすることで、さまざまな問題点を浮き彫りにし、それに対する対策を立てることで、予算達成の可能性が高まります。

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執筆者

【講師】
株式会社しごとのしくみ 代表取締役 小早川 渡
中小企業診断士
MBA / ITコーディネータ / 上級システムアドミニストレータ

立教大学経済学部卒業
名古屋商科大学大学院マネジメント研究科修士課程修了

1975年生まれ
会計ソフトメーカーに12年勤務し、小規模の個人事業主から東証プライム上場企業まで、規模、業種を問わず数百社の基幹業務システムの稼働を支援する。

その後、ITに留まらず中小企業の経営全般に対する支援を経験するために地元の多店舗展開の中小企業へ転職。創業経営者のそばで中小企業経営を体感し、理想の中小企業像が固まる。
2014年1月に起業。中小企業向け業務ITコンサルティング、経営コンサルティングの事業を展開。
「会計とITをもっとあたりにまえに」をビジョンに掲げ、お客様視点のわかりやすいコンサルティングサービスを提供。

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