補助金申請にも使える新規事業立案 〜経営革新承認の分かれ目とは?〜

登壇者
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原口 卓也
中小企業診断士

・商工会議所
個社支援(制度資金あっせん、補助金申請他)/面的支援(イベント企画運営)

・税理士法人
財務に基づく経営計画PDCA支援コンサルティング/ 法人個人の決算書、申告書作

・中小卸小売業 経理財務部
月次・年次決算とりまとめ/プロジェクト活動(インボイス制度対応など)

中小企業診断士の原口卓也です。

 経営革新計画をテーマに、三回にわたって動画と記事をお届けするシリーズ、第二回目の今回は経営革新計画における現状分析について書きます。

 本題に入る前に、今回のペルソナ、そのペルソナに動画や記事を通じて到達していただきたいゴール、そして、ゴールに到達するための手段である本記事の構成(目次)は以下の通りです。

<ペルソナ>

  1. 魅力的な新事業のアイデアはあるものの、なぜやりたいのか、また、果たして遂行・実現できるのか、それらの根拠が不十分な経営者
  2. 今後の経営状況を変えなくてはならないと危機感を抱きながらも、どのようなアクションを起こしたら良いか分からない経営者

<ゴール>

  1. ケーススタディから現状分析の重要性を理解する
  2. 新事業の根拠やヒントとなる現状分析のやり方が分かる
目次

現状分析とは

 ズバリ、現状分析を一言で言うと、経営者が描く会社のありたい姿との差異を正しく測る、また、その差異を埋めるために起こすべき施策を検討することです。その差異、ギャップが問題であり、問題の解決に向けて具体的に取り組むべき施策が課題です。

 カーナビは行き先を入力すれば、経路を複数提案してくれます。しかしながら、経営においては、ありたい姿を確実に、効率的に実現するために、経営者自身が、現在地はどこか、最適な経路はどれかを把握する必要があります。その手段が、現状分析です。

 では、現状分析はどのように行うのでしょうか。それは、会社の経営資源(ヒト・モノ・カネ◦情報)と経営環境(顧客・競合・自社)のこれまでとこれからを、フレームワークに当てはめて洗い出すことで行います。フレームワークの定義、その種類については、第3章以降で詳細に触れてまいります。

なぜ現状分析が重要なのか

 現状分析を行う理由は、経営革新計画における新事業の評価指標である新規性と実現可能性の根拠とするためです。まず、新規性では、顧客からのヒアリングや統計資料などから裏付けられ、新事業でやりたいこと・できることが、顧客や市場から求められている、売上につながることを示します。次に、実現可能性では、既存事業から培った強みの活用や外部連携による補完などから、新事業の実施に必要な経営資源が揃っていることを根拠付けます。

フレームワークを用いる理由

 フレームワークとは物事を考える上での枠組みです。それらの枠に当てはめて、検討・議論することで、効果的また効率的に意見出しや意思決定ができるようになります。フレームワークが役立つ根拠は、経営をモレなくダブリなくに(MECE)、様々な視点で捉えることで(多角的)、新事業の根拠とする(論理的)ことができるためです。

 次章より外部環境と内部環境ごとに、どのような業種や規模の企業でも、汎用的に活用できるフレームワークを説明します。

現状分析_顧客・競合・自社

PEST

 事業を取り巻くマクロな外部環境について、政治(Politics)・経済(Economics)・社会(Society)・技術(Technology)の時点で、その変化を分析します。さらに、それらの変化を既存事業に対する影響度、その変化の不確実性の4象限に整理して、不確実性が高く、影響度の大きい変化に対する戦略を検討します。

3C

 事業に不可欠な利害関係者である顧客(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)の3つの視点で、事業を成功させるための戦い方を分析します。自社の視点に偏らないように留意しながら、①顧客を満足させられる価値を提供できるか、②競合に対して競争優位性をもてるか、の順で分析します。

5F

 競合他社・新規参入・代替品の脅威、得意先・仕入先の交渉力の5つの観点で、業界の競争環境からその市場が儲かるかどうかを分析します。業界内で自社が競争優位な地位を築くことができるか、ポジショニングマップと組み合わせて、参入や撤退の経営判断に活用することに活用します。

【代表的な分析要素】
競合他社の脅威:競合数、シェア、戦略など
新規参入の脅威:法規制、技術的難易度(特許等)、規模の経済性など
代替品の脅威:技術開発、顧客ニーズの変化など
得意先の交渉力:商品の一般化、切替コスト、ブランド選好など
仕入先の交渉力:希少性、寡占度、需給バランスなど

現状分析_ヒト・モノ・カネ・情報

3M  

 ヒト(Men)・モノ(Materials)・カネ(Money)といった経営資源を、過不足なく調達し、効果的に活用できているかを分析します。3Mに加えて、データとナレッジ(知識)で構成される情報が4つ目の資源として、経営における相対的な重要度が高まっていることから、時代とともに、何を経営資源として捉えるかが変化していることに留意しましょう。

4P 

 商品(Product)・価格(Price)・流通(Place)・販促(Promotion)の4つの切り口から、優れた商品を、それを求める顧客の手に届ける、売れる仕組みを考えます。4Pを買い手の視点(4C:価値、コスト、利便性、コミュニケーション)で補完すると、よりMECEで多面的な現状分析を行うことができます。

【代表的な分析要素】
商品:機能、性能、品質、デザイン、パッケージなど
価格:定価、卸売価格、小売価格、値引き、契約条件など
流通:販売地域、販売ルート、流通網、在庫リードタイムなど
販促:広告宣伝、口コミ、陳列、接客、サンプルなど

VRIO

 経済価値(Value)・希少性(Rarity)・模倣困難性(Inimitability)、組織(Organization)の4つの切り口で洗い出した経営資源と活用能力(ケイパビリティ)から、競争優位性とその持続性を分析します。さらに、バリューチェーンなど、経営資源に関するフレームワークと組み合わせて、経営資源について漏れなく分析し、総合的に評価します。

ケーススタディ_新事業と現状分析

 経営革新計画の新事業における現状分析の重要性をより強くご認識いただきたいので、私が実際にご縁をいただいた企業をモデルとしたケーススタディを通して、フレームワークを活用した現状分析の具体例を紹介します。

 ケース①は運送業を営みながら、プライベートで通う夜の飲食店向けの衣装レンタル事業をやりたい経営者です。ケース②は既存事業は順調だがこのままで大丈夫かと不安な飲食業の経営者です。

 ケース①では、軽貨物の運送業が夜の飲食店で働く女性向けの衣装をレンタルする事業を興すため、既存事業とは無関連な多角化であり、自社にとって新しいサービスの提供に該当します。一方で、無関連な多角化であるが故に、新事業を実施するためのノウハウなどの経営資源が不足しており、さらに当該業界は参入障壁が低く競合が多いため儲かりにくい経営環境です。したがって、ケース①の新事業について、新規性は評価できるが、実現可能性は評価できません。

 ケース②は、ジビエ料理を提供するフレンチレストランが鹿や猪の革を活用した製品を製造販売する事業です。原材料で既存事業と関連する多角化であり、提供する製品は自社にとって新しいものです。そして、デザイナーの参画など、新事業の実施体制を整えており、農作物の鳥獣対策という社会的課題の解決に共感する消費者の購入が見込めます。そのため、ケース②の新事業は、新規性、実現可能性共に評価できます。

 ケース②の新事業がケース①に比べて評価されるのは、新事業における新規性と実現可能性が現状分析によって担保されているためです。

 ケース②では、新事業の根拠とするべく、5Fを活用して、その外部環境を分析しました。

 さらに、3M+情報の切り口で当該企業の内部環境を分析しました。

 これらの分析結果を、さらに新事業を検討するためのフレームワークに落とし込んでいきます。

 ケース②の企業には、新事業を遂行・実現するだけの経営資源が過不足なく揃っていて、それらを活用して製造した新製品は、競争優位なポジションで消費者のニーズを売上につなげられることが期待できました。クロスSWOT分析において、強み(S)を機会(O)にぶつける積極化戦略に基づく新事業は実現可能性が高いと評価されています。

 ケース②の既存事業は、食に対して貪欲な近隣住民へ新鮮なジビエで創るフレンチレストランです。当該企業が、消費に対する付加価値を求める消費者へ材料の製造過程で発生する鹿などの比較を活用した鞄などを製造販売する小売店というような、新しい製品を新しい顧客へ提供する、アンゾフの成長マトリクスにおける多角化戦略は、新規性に富んでいると評価されています。

 いかがでしょうか。ケース②の新事業が評価される理由をご理解いただけたでしょうか。なぜその企業がこのような新事業を遂行したいのか、はたまたそれが実現できるのか。企業と新事業を現状分析がつなげてくれます

まとめ

 最後に、本記事のまとめをさせていただきます。

 まず本動画のゴールは、①ケーススタディから現状分析の重要性を理解する、②新事業の根拠やヒントとなる現状分析のやり方が分かる、でした。

 続いて、そのゴールの構成要素をおさらいします。最初に、現状分析の概要は、経営者が描く会社のありたい姿との差異を正しく測る、また、その差異を埋めるために起こすべき施策を検討することでした。

 そして、現状分析の重要性は、経営革新計画の新事業における新規性と実現可能性の要件を満たしているかを検証するためでした。

 最後に、現状分析の方法は、多面的にこれまでを振り返り、これからを見通すために、会社を取り巻く経営環境を内部と外部に切り分けて、フレームワークを駆使するでした。

本記事はこちらの資料を参考に執筆しております。

 現状分析の重要性をご理解いただき、新規性と実現可能性の高い新事業を実施することで、より持続可能な成長を図ってまいりましょう。

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執筆者

中小企業診断士 原口 卓也

商工会議所
 ・個社支援(制度資金あっせん、補助金申請他)
 ・面的支援(イベント企画運営)

税理士法人
 ・財務に基づく経営計画PDCA支援コンサルティング
 ・法人・個人の決算書・申告書作成

中小・卸小売業 経理財務部
 ・月次・年次決算とりまとめ
 ・プロジェクト活動(インボイス制度対応など)

資格
 ・中小企業診断士 2021年5月登録
 ・国家資格キャリアコンサルタント 2019年9月登録 

その他
 ・埼玉県生まれ長野県出身、妻と息子と千葉県在住
 ・好きなものはバレーボール、NBA、新日本プロレス

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