経理は会社の心臓!
西村 公志
中葉企業診断士
アップスマート株式会社 代表取締役
中央大学法学部を卒業し、メーカー・卸売業の提案営業をサポートするコンサルティング会社に勤務し、POSデータ分析ソフトや提案営業の研修などのソリューション営業を行う。
その後、マーケティングリサーチ会社を経て、2013年に中小企業の経営コンサルティング、経理業務の業務効率化、経理アウトソーシングサービスを提供するアップスマート株式会社を設立。現在は、一般社団法人IT顧問化協会副理事なども務める。
自己紹介:アップスマート株式会社 代表 西村 公志
まず初めに、私の自己紹介をさせていただきます。私は、2013年5月から現在までの約10年間、アップスマート株式会社という経営コンサルティングの会社を経営しております。特に、IT活用支援やバックオフィスの効率化支援などの仕事を多くやらせていただいております。また、執筆活動として、「ファミリービジネス白書」というファミリービジネスに関する本を2015年・2018年・2022年と3回、企画・編集を行い、出版いたしました。他には「バックオフィス最適化マップ」という書籍が、2020年に出版されているのですが、その一部を執筆させていただいております。さらに、「一般社団法人 IT顧問化協会」という、仲間が100名程いる組織で副理事をしており、「中小企業の内部の立場に立ったIT顧問」という立ち位置で活動をしております。その他、IT活用のバックオフィス支援をする過程で、「担当者の方がなかなか根付かない」とか、「ITになかなか乗り換えられない」などの悩みを持つ中小企業の課題を解決する為に、アウトソーシングを丸ごと引き受けるサービスをする会社を作ったり、海外の経営者と共同でシステム開発会社を作ったりと、さまざまな活動をさせていただいております。
会社を守るための経理
では早速、本題の中身に入っていきたいと思います。「経理は会社の心臓」の第1章として、「会社を守るための経理」というお話をしていきたいと思います。
経理は何のために存在するかというと、経理は会社を守るためにあります。経営で一番大切なことは、会社を続けていくことだと、皆さんも考えていると思います。当たり前の話ですが、お金(キャッシュ)が無ければ、会社は倒産してしまいます。倒産する会社の特徴のひとつに、社長が経理から上がってくる数字に疎く、なかなか数字を正確に把握できていないということがあります。一方で、経営管理の数字に強い会社は潰れにくくなります。
数字に疎いとはどうゆうことなのでしょうか?例を見てみたいと思います。A会社は製造業で、BS(バランスシート)上は多くの利益が出ており、従業員にボーナスを支給することにしました。しかし実際のキャッシュは、増えるどころか減るいっぽうです。なぜこのようなことが起こるのでしょうか?この原因は原価償却にあります。製造業をやられていると、機械などに投資をして現金が少なくなっているにも関わらず、BS上は減価償却によって利益がしっかりと残っているように見えてしまいます。社長がこのことを理解していなければ、倒産をする事態になりかねません。「会社を守る経理」としては、担当者がしっかりと経営者に伝えていくこと大事になります。
会社を潰さないためのポイント
では、会社を潰さない為に、会社により多くのお金を残すにはどうしたら良いのでしょうか。結論から言うと、入金・出金などの現金の流れを、しっかり意識して見ていくことが大切になります。具体的に「入出金の5つのフェーズ」に沿って見ていきます(図1)。
お金の流れには、「集める」・「増える」・「減らす」・「変わる」・「戻る」といった、5段階のフェーズがあります。図1の円グラフ見ていただくと分かりますが、「仕入債務」と「借入金」でお金が集まっていきます。この集めたお金で収益(売上)を上げて、純資産が増えていきます。そして「費用・売上債権・設備投資・棚卸資産」、こういったものでお金がまた減っていき、残った部分が現預金として溜まって(戻って)いきます。
ここで、会社にお金を残すためのポイントですが、経営者の方には、次の「減らすべき3つの支出項目」について、特にチェックしてほしいと思っています。
〈社長が減らすべき3つの支出〉
- 売上債権
- 棚卸資産
- 設備投資
3つ目の「設備投資」は、会社によっては投資し続けないといけない事情もあるため、やみくもに減らせば良い訳ではないのですが、「売上債権」と「棚卸資産」は、是非意識して回収して(減らして)欲しいと思います。実際に中小企業の支援をしていると、売上債権が何年も残ったままになっているBSをよく見かけます。社長に理由を聞くと、「もう取り立てられないことが分かっているけど、ついつい見た目の利益が減るから残してしまう」と言いわれます。このような状態を放置すると、会社の実態と実際の現預金(キャッシュ)の状況にズレが生じ、正しい経営判断ができなくなってしまいます。会社を潰さないためには、上記の「3つの減らすべき支出」をチェックすると共に、正しい会社の状態を常に把握できるように努力をして、お金をできるだけ多く会社に残す仕組みを作ることが大事になります。
経理の最重要業務とは?
経理の担当者の皆さんは、日々の経理業務や決算業務など、さまざまな仕事をされていると思いますが、それらの業務はいったい誰の為に行っているのか?ということについて考えていきたいと思います。
実際に経営者の方に上記の質問をすると、「税務署や銀行の為にやっている」と答える方が多くいらっしゃいます。「銀行さんに提出する為に」とか、「税務署に出すために税理士さんが作っているよ」など。まるで自分事ではないように話をされていて、財務諸表を自社の経営に役立てているという認識が薄いことが多いです。本来は、経理業務や会社の決済などは、自社の為に行っていると認識を持つことが大切です。そして是非、財務諸表を経営に役立てて欲しいと思います。
では、経理の最も重要な機能は何になるでしょうか?それはズバリ「財務管理」になります。経理の機能は大きく2つに分けられます。1つは「経理事務」。これは、しっかりとお金を循環させる為の仕事です。請求書発行や入金管理、経費の支払いなどの、当たり前にしなければいけない業務です。
2つ目が「財務管理」です。財務管理は、お金の流れを把握した上で、経営目標の達成の為に、指針決定につながる情報を経営者へ伝達する仕事です。そして、事前に判断して素早く行動に移すこと。このような財務管理の仕事が、経理としては最重要になります。
ただ、最重要と言っているのですが、再生の現場や経営顧問をする立場から言うと、財務管理ができる前段階として、しっかりとした経理事務の仕事が回っていることが前提になるように思います。日々の当たり前の経理事務に不安があるようでしたら、まずはそこを着実に行っていくことが大切になります。
経理事務の3ステップ
先述した経理事務ですが、これは大きく3つの作業に分けることができます。ここでは、経理事務の3ステップというお話をいたします(図2)。
1つ目のステップは「集める」です。レシートや領収書、請求書などの帳票を、モレ無くしっかりと集めることがポイントになります。2つ目のステップでは、この集めたものを「記録」します。エクセルに入力したり、会計ソフトに入力したりします。また、月次で袋に入れたり、紙にしっかりと丁寧に貼っている会社もあります。このように「記録」する方法はそれぞれですが、方法に関わらずしっかりと記録できるということが大事になります。3つ目のステップは「チェックする」です。ここでは、記録した数字に間違いがないかを確認していきます。これらのステップが、経理事務をひとつひとつ着実にこなすために大事なステップになります。そして、この3つのステップの中で、一番重要なのは、「集める」ステップです。必要書類が集まっていないと、その他の作業がどうしても正しく進まなくなってしまいます。よって、この「集める」部分を漏れなく行い、正しい経理業務を回すことで財務業務につなげていくことが大事になります。
クラウド会計について
これまでのお話からも分かるように、経理業務には正確性が求められる上に、大量のデータを扱う為、アナログで作業をすると、とても大変なことが多いです。しかし、クラウド会計を導入することによって、経理業務を大幅に効率化することができます。ここでは、このクラウド会計について見ていきます。
クラウド会計は、インターネット経由で利用できるSaaS型のサービスと呼ばれたりします。マネーフォワードやFreeなどの上場企業が代表的な存在です。特徴としては、次の6つがあります。
- OSや端末を選ばない
- 複数のユーザーが使え、時間と場所を選ばない
- ネットバンキングデータの自動連携ができる
- 法改正対応(税率、社会保険料率などの変更)に無償でバージョンアップ対応できる
- 拡張機能が使える
- インストール型ソフトに比べて、低コストで導入・利用ができる
順番に説明していきます。①の「OSや端末を選ばない」とは、「会計ソフトを買ったら、このサーバーもセットで変えないとダメですよ」などと言われたりすることはなく、現在使用している端末を利用して、クラウド会計を導入することができます。
②の「時間と場所を選ばない」とは、クラウドにほぼ全てのデータが集まっているので、いつ・どこでも、パソコン1台あれば(スマホでも)、必要な情報にアクセスできて対応することができます。昨今の社会的な情勢(テレワークの増加など)によって、クラウド会計ソフトを選んでいる会社が増えてきている印象があります。
③は、ネットバンキングを利用している会社であれば、データを自動で連携してくれますので、今までのような「通帳を見て金額を打ち込んでいく」というような作業を大幅に効率化することができます。
④・⑤は、バージョンアップが無償だったり、機能拡張をしてくれたりとなど、便利な機能を随時・最新の状態で使用することができます。
最後に⑥ですが、インストールソフトの場合は、イニシャルコストが高額になりがちなのに対して、クラウド会計は、月々の利用料を随時支払うことで使用できる為、トータルでコストを抑えることができます。
以上のように、クラウド会計の導入により、経理業務を効率化することが可能です。従来は、「集める」・「記録する」・「チェックする」といった業務のうち、特に集める部分を紙ベースで行い(手間が掛かる)、記録・チェックする部分を税理士さんに丸投げといった方法をとる会社が多かったと思いますが、クラウド会計を導入することで、経費データを集める部分から、デジタル化でき、記録・仕分けも自動で行い、チェックするところまでを一貫して自分たちで行うことができるようになります。そうすることで、データをよりスムーズに経営分析に役立てることができ、税理士さんには、決算と申告だけお願いするという形に変化していくと考えています。
経理業務を効率化できる理由
では、なぜクラウド会計を導入すると、経理業務を自動化できるのでしょうか?図4を見ていただきたいと思います。
マネーフォワード(MF)を例に見ていきます。図4を見ると、クラウド会計ソフトが基軸になって、さまざまな作業が紐づいて動いているのが見て取れます。これは、マネーフォワードやFreeだけの特徴ではなく、ERPと呼ばれるソフトなども、会計をベースにして、その会計にどのように他の業務を繋ぎ込むか、こういったことを考えてシステム構成が考えられています。クラウド会計の場合、ポイントは営業が使っている請求書、これもクラウドに連携することになります。従来のようにエクセルで作っていると、経理はいつもそれを見ながら、手入力をしなければならないのですが、システムで作っていると自動で、売掛がいつ発生したのか?または、入金予定なども取り込むことができます。こうすることで、月末の慌ただしい作業のひとつを簡略化することができるのです。
また、給与計算も大変な作業だと思いますが、これもクラウド給与の方で部門別に分けたりできますし、どのように集計するか?というルールを決めてしまえば、役員報酬と従業員の給与を分けたり、合算したりすることも自動で行うことができます。その他、給与に紐づいてマイナンバーを自動で連携できたり、経費精算データを直接取り込めるなどのことができるようなります。特に、経費精算と請求書などは、会社によっては大変な苦労をされているのではないかと思います。今ある方法(仕組み)を少し変えるだけで、営業の方も楽になり、経理側もより安心できるような体制を作ることができるのです。
まとめ
改めて、クラウド会計の導入によってどんな効果があるのかをまとめます。マネーフォワードの例で見てみると、従来100%手入力だった作業を、30%まで削減できたという報告があります。ネットバンキングからの自動のデータ取得や、クレジットカードのデータ連携による自動取得。または、エクセルで作ったデータをCSVインポートするなど。こういったことをすることで、手作業を大きく減らすことができています。私の知っている会社でも、40~50人の会社では、一人で経理周りを回せるようになってきており、相当な効率化が進んでいるなと感じています。
クラウド会計を会社共通で導入するメリットは、バックオフィス業務の効率化・標準化が図られることです。業務が効率化・標準化されると、会社の問題や課題が見えやすくなり、どこを改善しなければいけないのか?どこをチェックしなければいけないのか?などの、改善策が見てきたりします。また、経理担当者の人数が少ない会社では、業務が属人化してしまい、内部統制が効き難くなり、不正が起こるリスクが高くなりがちですが、これも未然に防ぐことができます。さらに、キャッシュフローや売上などのデータをリアルタイムで把握できるようになる為、経営のスピードが上がります。
投資コストという観点でも、サービスに課金するので、パッケージソフトを導入する時のような、大きなイニシャルコストが発生しない為、投資のしやすい状況を作ることができます。
以上、本日は「経理業務の重要性」と、その効率化の手段としての「クラウド会計」についてお話をいたしました。是非、会社の心臓である経理を、しっかりと動かす為の手段として、クラウド会計ソフトの導入をご検討いただけたらと思います。社長がいつでも会社のお金の流れを見られるような状況を作ることで、潰れない強い会社を作っていけるのと思っています。
次回は、実際にクラウド会計を導入した事例について、お話します。
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