企業文化は戦略より重要?終わりなき組織カルチャーデザインとは?

執筆者
中小企業診断士 技術士 池谷 卓のプロフィール写真

池谷 卓
中小企業診断士

約30年以上にわたり、素材メーカーに勤務し、国内外の生産設備・ライン
設計・保全や生産拠点運営、新事業開拓、経営企画、DX推進等を経験。2023年に中小企業診断士として登録。

チームスポーツの世界には、抜きんでたプレイヤーがいないにも関わらず常に上位に食い込んでくるチーム」がいるかと思えば、逆に全員がスター選手なのに何年も優勝から遠ざかっているチームがいたりします。

同じようなことはビジネスの世界にもあります、競合がたくさんいる市場に後発ながら、他の後発競合とは違って急激に業態を伸ばしているベンチャー企業や、優秀な社員がいる割には新規事業がうまくいかない大企業などです。

「企業文化をデザインする」著者 冨田 憲二(株式会社日本実業出版社)では、両者の違いを生み出している原因を組織文化としています。

そして、組織文化をデザインすることは組織にとって非常に重要であることやその作業には終わりがないことが説明されています。今回、私が本書を読んで感じたことや思ったことなどについて、私の経験も含めてお話させていただきたいと思います。

目次

企業風土と企業文化

まず、今回のお話の中心である組織文化について、またその部分である企業風土を含め一般的な概念を整理しておきたいと思います。

多くの方は、新しい会社で勤務始めてしばらくたつと、「この組織ってこの場合にはこのような行動をするのかとか、別の場合においてはこのような態度をとるのか」と感じたり、思ったりした経験をお持ちだと思います。多くの方が感じる「この感じ」や「この思い」が、その企業の「企業の風土」になります。

  この感じ、この思いは明文化されていないにも関わらず、変えようとしても簡単には変更できるものではありません。そのため、例えば「儲かるのであれば何をしてもよい」と言う企業風土を持つ組織の場合、組織行動として、何の躊躇もなくお客様や公共の財産に傷をつけてしまうような、普通では考えられないことを長年行ない社会的に憂慮すべきことを起こしてしまいます。

 通常この感じ、この思い(企業風土)は、組織が長い間にわたって経験をして学習することで、信念、理念、シンボル、セレモニー(朝礼とか創立記念日など)、固有の言葉、伝承、価値観となり、ついにはメンバーの基本的な仮説や仮定と言われる企業文化となります。そして、それは組織の特徴づけることになり、判断や行動の枠組みとなり、メンバーの規範的な役割を果すようになります。

 企業文化が強い組織では、より強く組織メンバーを規制するためにその組織文化に従わないメンバーを規制し従わせることになります。そして、それでも従わない場合は、メンバーとして認めないなどの制裁を加えることが起こると言われています。 

なぜ企業文化は大切なのか

 筆者は、なぜ「企業文化」は重要なのかという問いに対して、会社組織の原点とはホモ·サピエンスだけが持ち得た「虚構を信じる能力」、例えば「10年後には大型自動運転ドローンが普及して、輸送問題の解決が図れる」など、現在からみれば夢のようなことを、多くの人間が理解·信じて具体的な行動をとる能力にあると述べています。

 そして、この能力を発揮するためには、何を信じるべきか、どのように判断すべきかそして行動するかの源泉である「企業文化」が非常に大切であると説明しています。

 また、著者は、組織文化の重要性をドラッカーの「企業文化は戦略を凌駕する」を引用して、「優れた企業文化こそ戦略をなる」と説明しています。これは別の言い方をすれば「どんな優れた戦略を立てようが企業文化が悪かったらどうにもならない」ってことを意味していると思います。

 私自身も、企業文化を整合性が高い課題が発生しした場合には素早く解決できるが、その反対の場合には、予定よりも長い時間を必要とした経験があります。企業文化は組織のパフォーマンスに大きな影響を及ぼすこと、その点から非常に重要であることを実感として理解できます。

 私たちは、多くの企業がすでに「企業文化」の重要性を認識し、「バリュー(短期的な判断·行動)」、「ミッション(そのための使命)」そして「ビジョン(長期的に実現したい世界)」などのステートメントとして明文化していることを知っています。 

しかし、筆者は、ステートメントとは「企業文化の上澄み」としてのスタンスであり、それだけでは企業文化を語るには不十分であり、グレーゾーンとして組織の中にこの感じ、思いとして存在しているスタイル(企業風土)との複合体として扱うことにより理解できるとしています。そこで、複合体である両者の間に少しでもギャップがあることは、「企業文化」を弱める結果になるとしています。

 確かに、ステートメントで「社会的価値の向上のために····」とか「コンプライアンスを重視して社会市民として….」言っているのに、上司がそれに反することを行ったり、部下に対して反する指示をしたりしたる場合、組織文化は弱まり組織内の信頼関係は揺らぎはじめることは容易に想像できますね。

終わりなき組織文化デザイン

 「組織文化デザイン」を考える前に「デザイン」について明らかにしておきたいと思います。

 「デザイン」とは、ある問題を論理的で機能的に解決することであり、あくまでも客観的にものであると考えられます。私もエンジニアをして設計(デザイン)に携わった経験がありますが、デザインとは課題を解決するためにいろいろな条件を考慮したうえで、客観的で機能的なソリューションの提供とその実現にあると考えていました。

 さて、皆さんの会社や組織は、VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)という言葉で表現されるほど、予測できない激しい変化に対応をしながら成長してくために、適正な戦略や戦術を展開していく必要があります。

 筆者は、このような組織の変化に歩調を合わせて、企業文化も常にアップデートされていく必要があるとしています。

 そして、優れた企業文化(卓越した会社)持っている会社は、組織の変化(例えば組織が変化して大きくなるなど)に合わせて企業文化をアップデートする際には、企業文化のグレーゾーン(企業風土)が拡大をしていくことを許さない基礎体力を持っているとしています。
 
 つまり、優れた企業文化の会社は外部から見れば少しエキセントリックであるが、メンバーにとっては極めて居心地が良い企業文化があると言えます。筆者はアマゾンを例にして、同社は「ワークライフバランス」の評価は極めて悪いが、「同社の従業員満足度は極めて高い」との事例でこの点を説明しています。

 私も優良なベンチャー企業の経営者の方から同じようなことを聴く機会があるので、そのような会社が存在することを経験から理解できます。

優れた企業文化を持っている会社は企業文化のグレーゾーンが拡大を許さないために、先にも述べたようにメンバーを規制して従わせる動きをして従わない場合には、メンバーとして認めないなど制裁を加えることが行われているものと考えられます。

 しかし、米国に比べて人的流動性が低い日本の企業が端的に行うことは、非常に困難であると考えます。

 しかも、その困難さは、国内の労働人口が減ること、AI等デジタル化、ネットワーク化のさらなる加速、デジタルネイティブが主役になっていくなど、今まで以上に増していくと容易に想像することができます。

 ここまで考え改めてデザインについて振り返ってみると、「デザイン」とは、ある問題を論理的で機能的に解決することであるのですから、著者が主張する企業文化をデザインする重要性は、欧米の会社よりもむしろ人的流動性の低い日本の会社において重要であり、経営課題として真剣に取り組む必要があると考えられます。

まとめ

本書を読む前に、あるプロスポーツ選手(すでに引退なさっています)から現役時代に指導を受けた尊敬する監督の哲学、アスリートとしてのマインドセットの強さやチームワークを柱とした、スポーツを体験する研修を提供しているとお聞きする機会がありました。

お話を聞いた時には、「なぜスポーツをしなくてはならないのか?」、「参加者は何を得ることができるのか?」、「結局は戦略が重要じゃないのか?」と疑問が残りました。また、その監督の話をWebなどで読んでも、その疑問は解消できない状況でした。

しかし、本書を通してドラッカーの「企業文化は戦略を凌駕する」との引用を見たときに、組織文化は戦略の上位に位置づけられる、つまり「アスリートのマインド」や「チームワーク」をも凌駕すると考えてもよいと思ったとたんに、元プロスポーツ選手がスポーツを体験させてまで参加者に伝えたいことを理解でき、疑問がスーッと消えていきました。

また、監督の「最後は自分で考えろ」との言葉も、「デザインされた強い組織文化を持ったチームだ、メンバーの自らの判断や行動は必ずチームの目的に貢献できる」との強い自信の表れであったとのだろうとの考えに至る様になりました。

以上まとめになっていないとお叱りを受けそうですが、本文の冒頭の答えとして理解していただければ幸いです。

講師に無料相談をする

ビジネス処方箋に登壇している講師に無料相談を行うことができます。
お問い合わせいただきましたら、ご相談内容に適した士業・経営者の講師をご紹介いたします。

このフォームに入力するには、ブラウザーで JavaScript を有効にしてください。
講師の多忙により、ご希望いただいた講師が対応できない場合がございます。予めご了承ください。

この記事を書いた人

中小企業診断士
技術士

約30年以上にわたり、素材メーカーに勤務し、国内外の生産設備・ライン
設計・保全や生産拠点運営、新事業開拓、経営企画、DX推進等を経験。2023年に、中小企業診断士として登録。

目次