ものづくり補助金採択結果から分かったこと! ~2023年7月締切15次ものづくり補助金採択の分析をしてみました~
池谷 卓
中小企業診断士
約30年以上にわたり、素材メーカーに勤務し、国内外の生産設備・ライン
設計・保全や生産拠点運営、新事業開拓、経営企画、DX推進等を経験。2023年に中小企業診断士として登録。
こんにちは、中小企業診断士の池谷 卓です。
今回は、15次ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(以下ものづくり補助金)の採択結果を、採択結果から知ることのできる「採択率」と「事業計画名」を基に分析をした概要について、ご説明させていただきます。
尚、ビジネス処方箋では、ものづくり補助金の「申請のプロセス」と「申請に向けた準備」に関しましては、他のコラム(中小企業診断士 花村大祐氏)で詳細ご紹介しておりますので、ご興味のある方はそちらをご覧ください。
ものづくり補助金の概要
ものづくり補助金についてご存じない方もいらっしゃると思いますので、まずものづくり補助金について簡単にご紹介させていただきます。
ものづくり補助金は革新的な新製品・サービスの開発や生産プロセスの改善などを行い、生産性を向上させるための設備投資等を行う、中小企業経営者を支援するための補助金です。
この補助金は令和2年から始まり、令和5年11月初めに締め切りとなる16次まで継続に公募されています。
今回ご紹介する15次ものづくり補助金の事業の目的は、公募資料より、「中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更(働き方改革や被用者 保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入等)等に対応するため、中小企業・小規模事業者等が取り 組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行い、生産性を向上させるための設備 投資等を支援します。」となっています。
具体的な補助金額は、通常枠(革新的な製品・サービス開発又は生産プロセス・サービス提供方法の改善に 必要な設備・システム投資等を支援)の場合、最大1,250万円となっています。
採択率からの分析
15次ものづくり補助金の採択結果によれば、最終申請数は5,694件、一方採択数は2,861件となっており、採択率は50.2%です。
この採択数は過去の採択数と比較して高いのか?低いのか?、1次から14次までの平均採択率は52.8%なので、2%強の違いですが低い結果であったことが判ります。
次に、今回の採択率や今後の採択率について、過去の採択数の推移と景気動向の関係から、少し分析してみたいと思います。
令和2年に始まったものづくり補助金の採択率と、採択月の景気動向指数の前6カ月平均との差異を比較した結果は下図のような関係になります。ちなみに、ここでは景気動向指数として、CI(コンポジット・インデックス)を採用してみました。
景気動向に関しては、マイナスや下降傾向を示しているところは景気が悪化しているところ、プラスや上昇傾向であるところは景気が上昇しているところと考えていただければと思います。
この点を理解いただき下図を見ていただくと、景気が上向きの時には採択率が少し抑え気味で、景気が下降時には採択率が少し高い傾向があるかもしれないことが見えてきます。
二つのグラフの相関係数を計算すると、-0.43程度なので相関(逆相関)があるとは言い切れないのですが、弱い相関はあると言える状態です。
採択率は景気動向だけで言い切ることは決してできませんが、皆さんが申請する際に少し気にしておいても良いかもしれません。
事業計画名からの分析
語源が仏教用語にある「名は体を表す」とはよく言ったもので、補助金申請の事業計画名は、申請者である経営者の事業に対する意思や思いを表現しています。
そこで、ここではその事業計画名を少し分析をしてみたいと思います。
出現頻度の高い単語
まず最初に、どのような言葉が使われていたのかを下図で確認したいと思います。
ちなみに、下図は全採択事業の事業計画名を単語レベルまで分解して、出現頻度回数順に上位30位までをピックアップした結果です。
結果を見てみると、赤枠で囲んだ単語のように、ものづくり補助金事業の目的に記載のある「生産」、「向上」、「開発」や設備等投資などに係わる「導入」などの単語以外にも、各申請枠の概要に記載にある単語が多く使われていることが判ります。
また、それ以外の単語に関しても、生産や生産性向上に関する単語が多く使われています。
このことから、当たり前ですが、ものづくり補助金の事業目的を理解したうえでしっかり事業計画されたものがちゃんと採択されていることを理解することができます。
ちなみに、この分析で気になったのは、巷で流行の言葉であるDXが29位(142回)と低迷していること、また下図には記載がありませんが、それに近い言葉としてのデジタル36位(101回)、デジタル技術に至っては78位(50回)となっていることや、グリーン枠やグローバル枠で使われるであろう、環境は59位(74回)、海外は91位(42回)と低迷していることです。
この点は、中小企業の皆さんにとっては、DXやデジタルはまだしもグリーン枠、グローバル枠に関しては少し遠い存在であることを示唆しています。しかし、そこにはまだ将来性があると言えるとも考えられますので、新たな市場としての可能性を検討しておくべきだと思います。
一緒に使われやすい単語
次に、一緒に使われやすい単語について、次図を見ながらご説明したいと思います。
分析結果を一言でご説明すると、当たり前ですが驚くようなことは新しい発見はありませんでした。
それでも、一緒に使われる単語はいくつかのグループに分かれている様でして、それらが文章を形成していると考えれば、採択された事業もいくつかのグループに分類することができたと考えられます。
大きなグループとしては、
a. 生産-設備-導入-向上-事業-拡大-品質など、「設備を導入して生産性を向上すること
で事業を拡大する事業」
b. DX-システム-開発-業務-管理-効率など、「IT系に係わるシステムを開発して業務効
率化を図る事業」など、またサブのグループとしては、
c. 技術-高度-加工-精度-部品-装置など、「高度な技術を用いた加工や部品精度を
向上を図る事業」
d. 製造-工程-プロセス-改善など、「製造工程やプロセス改善を行う事業」
e. サービス-提供など、そのままですが「サービス提供を行う事業」
などになります。
a.が一番大きなグループになりますが、これはものづくり補助金の本流事業と言っても過言ではありません。
使われやすい単語の県民性
最後に、少し興味半分なところもありますが、使われる単語の種類と地域性、県民性についての分析結果について、結果だけご説明させていただきます。
非常に特徴的であったのは東京都です。
東京都は「サービス」、「DX」、「システム」、「開発」、「事業」などの単語が多く使われている様で、ITやデジタル技術を利活用して、事業を拡大することや改善する事業が多くみられます。
また、神奈川県も東京都に近い特徴を示しています。
他の都道府県においてもいくつか特色を見ることができます。
例えば、「技術」、「高度」、「加工」、「精度」、「部品」、「装置」は、石川県、滋賀県、宮城県、富山県などの特徴になっています。
また、「生産」、「強化」、「計画」、「品質」は、兵庫県、岩手県、和歌山県、大阪府、埼玉県などの特徴を表す言葉になっています。
そして、「設備」、「導入」、「向上」、「最新」、「拡大」は、山梨県、茨城県、京都府、大分県、北海道の特徴です。
さらに、東京都と同じように特徴があるのが福岡県でして、何が特徴かというと、特徴がない事が特徴との分析結果、つまりなんでもあるって感じでしょうか。
まとめ
今回は、ものづくり補助金の採択結果から知ることのできる、「採択率」と「事業計画名」を基に行った分析の概要をご説明いたしました。
皆様からは申請時の情報との対比分析でないので得るものが少ないと、お叱りを受けるかもしれません。
しかし、入手可能な採択結果情報、補助金の公募書類、景気動向、国と地域行政の政策や社会的変化などを分析することで、補助金申請の準備を確実なものことはできると考えています。
ビジネス処方箋では、このような分析だけでなく中小企業の皆様の事業を取り巻く環境変化など幅広い分析を行い、多くの中小企業の皆様の補助金申請のお手伝いにとどまらず、事業戦略立案やその実行への適切なアドバイスなどを提供しています。
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