キントーンによる改善の見える化 製造業の組織戦略 | 前編
植田 進
中小企業診断士
株式会社ものづくりビジネスパートナズ 代表取締役社長
富士電機株式会社で自動化生産設備の営業技術部長として、レーザー加工機や画像処理装置による省人化や半自動機導入を提案及び技術取り纏め業務に従事。アマダウェルドテックでは精密溶接機事業に携わり、欧州・北米・南米現地法人社長や戦略企画部長を務める。現在はものづくりビジネスパートナーズで製造業生産性向上コンサルティングを行い、40社以上の中小製造業を支援。得意分野は製造業の事業診断からDXまでほとんど全てを網羅。
本シリーズは二部制で、上記の動画は「前編」です。
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はじめに
今回は、製造業の組織戦略についてお話しします。
皆様の会社の工場では、色々な改善テーマがあると思いますが、改善のテーマを進めるにあたって、「なかなか従業員の士気が上がらない…」、「意識が低い…」、あるいは「士気が上がっていたとしても、改善が継続的に進んでいかない…」といった問題はないでしょうか。
そういった問題がある場合は、改善そのもののやり方や仕組みを変えていくという手段もあります。また、それ以外に、そもそも改善をやっている人たちは、実際には従業員、人であり組織であるという観点から、この辺りを点検してみるといったことが組織戦略では重要になること解説します。
製造業の組織戦略は難易度が少し高い
製造業の組織戦略は、難易度が少し高いです。
というのは、製造業の従業員の多くは工場で働いています。そして、その工場には外からの市場ニーズや顧客要望がダイレクトに伝わりにくいといった点があります。例えば、飲食店などの店舗であれば、市場ニーズや顧客要望が社員にダイレクトに伝わりやすいです。
従って、工場の方はそんな中で自ら解決して改善していく力、「現場力」が必要となるのが製造業の特徴です。
例えば、現場力が低い製造現場では、以下のような問題が発生しています。
- 会社の方針がうまく浸透しない
- 兼任が多く、できる人に仕事が集まってしまう
- 工場長や製造部長が、管理ではなくて実際の現場作業を行っている
- 「それは自分や自部門の仕事ではない…」という考えから始まってしまう
- 「ここにいても先が見えない」といって会社を辞めてしまう
- 技術やノウハウがベテランに属人化している
- 4Mの変化に弱い
- 新しいルールをみんなで決めても誰も守らない
- 「よくわからない問題が色々ありそうだ…」ということで終わってしまう
- 同じ不具合やクレームが繰り返し出現する
- 改善活動を行ってもなかなか続かない
- PDCAがうまく回らない
- 日常作業が優先され毎日がなんとなく流れていく
このような現象が、現場力が低い製造現場ではしばしば見受けられます。
現場力を高めるには組織の土台が必要
「現場力を高めるにはどうしたらいいか?」という問題ですが、答えは『組織の土台を強化する』ということです。まず、製造業には経営システムというものがあります。この経営システムというものを理解して、点検する必要があります。
経営システムは、このような三角図で表すことができます。
真ん中の部分「活動の舞台(モノ)」とありますが、例えば、営業活動、設計・開発活動、生産管理活動、生産活動、このようないわゆる活動の舞台の上で行われる従業員の活動の結果が、QCDを通じて売上の増大、そして原価の低減を通じて利益の増大を生むわけです。
しかしながら、これらの活動の舞台は、その下の組織の土台に支えられてるということです。この組織の土台は3階構造になっています。この組織の土台が弱いと、結果的に現場力が低くなってしまい、また、その結果も見えないという悪循環につがることになります。
それでは、この組織の土台をもう少し詳しく説明します。
現場力を支える経営システムの土台
前述の通り、組織の土台は3階建て構造になっています。
1階部分は、経営方針の共有です。皆様ご存知の通り、経営理念・ビジョンあるいは事業戦略、こういったものから構成されます。
2階部分は、役割分担と処遇の明確化といった、経営方針をどのように実現していくか、組織設計や人事制度、あるいはスキル管理、こういったものから構成されます。
3階部分は、計画と進捗の見える化です。
これらについて、一つ一つ説明します。
土台の1階:経営方針の共有
まず土台の1階「経営方針の共有」です。
これは、社長の想いをどのようにして実現するかを、まず社員と共有しなければならないということです。
社長の思いは一般に「経営理念」と言われています。しかし、これは永続的な話であるため、やはり期限を切り、例えば、「5年後にどうしたいのか?」といった将来のありたい姿を作ります。これをビジョンと言います。
ところが、現状はそのビジョンに対して程遠く、そのギャップこそが問題や課題になるわけです。上図のケースの場合、「売上を4億円増やすためにはどうしたらいいか?」という経営戦略、課題と解決策、そして行動計画を作る、これが経営方針の共有という形になります。
社長の想い、将来のありたい姿、現状、経営戦略、それぞれの中身の辻妻が合ってるかどうかポイントとなります。
土台の2階:役割分担と処遇の明確化
次に土台の2階部分です。
1番下の1階部分、経営理念・ビジョン・経営戦略、これらがしっかりと構築されたという前提で、その上に2階部分である「役割分担と処遇の明確化」を構築していきます。これは、組織設計において必要部門の決定と適材人員の配置を行います。
人事制度では、技能や適正の把握と、成果に対する処遇の決定を行います。
スキル管理では、技能や適正の把握と、育成・開発を行います。
こうした3つの仕組みが必要となってきます。
組織設計(5原則)
まず1番目の「組織設計」を詳しく説明します。
組織設計には、5原則があります。
1番目は「専門家の原則」です。
この図のように、三角の部分で担当業務を専門化して、効率を上げる必要があります。そして兼任があると、専任化というところが弱まってくるため、これは最小限にしていく必要があります。
2番目は「命令一元化の原則」です。
簡単に言えば、上司と部下は1対1の関係になっているべきです。この矢印の通り、上司と部下は1対1の関係が明確になっている必要があります。
3番目は「権限移譲の原則」です。
経営者や管理者は、リピート業務については部下に移譲して任せ、そして、例外的な業務に専念しなければなりません。そうしないと組織の効率が悪くなってしまいます。
4番目は「統制範囲の原則」です。
1人の上司が何人の部下を持つべきかという話です。あまり多すぎると管理が行き届かなくなり、経営効率が下がります。私の推奨は、1人の上司に対して部下が7人までと申し上げています。ただし、リピート業務の場合は、もっと多くの部下を管理することができると思います。
5番目は「権限・責任一致の原則」です。
これはよく言われてますが、権限を与えたならば責任との大きさは等しくなければならないということです。具体的には、例えば、人事評価権は直属の管理者に持たせるといったことがあります。そして前述の通り、2番の命令一元化の原則で上司と部下が1対1の関係になってるからこそ、5番の人事評価権は直属の管理者に持たせることができるわけです。
「私の上司は誰かよくわからない…」と言った状態になると、とこれらが成り立たなくなります。
上図は、皆様の会社にはほとんどの機能があると思います。ただ、中には曖昧になっている機能もありますので、是非ご確認ください。もちろん、一つ一つが「部」や「課」という名前がついてる必要はないため、責任者が明確になっていれば良いということです。
人事制度(3制度の連携)
2階部分の組織設計がしっかりできた状態で、人事制度を構築します。
人事制度は、この図の通り評価制度・等級制度・賃金制度の3つによって構成されます。
まず、1つ目は「評価制度」です。
これは経営戦略の実現に対して、組織における個人の役割上の貢献度を評価することになります。そして、左側の等級制度は、その個人の役割と評価に応じた等級が与えられるという制度です。そして右側は、その等級に対応した賃金が与えられます。この3つの仕組みが上手く融合して人事制度は機能します。
この結果、真ん中にある通り、納得性・公平性・客観性が強まり、結果的に従業員が将来の職務と賃金の展望を持てるようになり、会社を簡単に辞めなくなる効果があります。
スキル管理(スキルマップ)
次に、スキル管理についてお話しします。
恐らく、このスキルマップはご存知だと思いますが、横軸に従業員の名前、そして縦軸に技術などを記入します。この表の場合、溶接スキルマップということで、縦軸のMAGやMIGというのは溶接の種類のことを表しています。
例えば、石橋係長が全部の溶接種類について指導できるほどの能力がある場合は、全部二重丸(◎)となり、「師匠」というような称号を与えて従業員のモチベーションを上げる表彰式をしたり、バッチを付けたりすることがあります。
佐藤主任は全部丸(〇)が付いています。これは1人でできるという意味です。上司の指導がなくても1人でできる状態を表しています。全部丸(〇)が付くと「名人」という称号を与えるなどということもあります。
それ以下の3名は、三角(△)やバツ(✕)が付いています。三角(△)はサポートが必要、バツ(✕)は作業が出来ないという意味であり、この3人については今後、三角(△)の部分、あるいはバツ(✕)の部分に教育が必要になることが一覧表で明確になります。
スキル管理(スキル管理への手順)
このスキルマップをいきなり作ることは難しいため、スキル管理への手順というものが必要となります。
まず、「一つ一つのスキルとは何か?」ということで、作業の棚卸しと分解を行います。
そして、その作業を標準化します。「最も良い作業の仕方はどういうものか?」というのが標準化です。
そして、手順書を作ります。ここまでで、作業一つ一つの教科書ができるわけです。
その教科書を持って教育訓練に望む必要があり、それによって標準技能工を育成することで、人によってバラつかない作業ができます。
そして、その教育内容を複数習得した人は「多能工」ということになるのです。
その結果、スキルマップを作って、丸(〇)バツ(✕)三角(△)の評価を行っていき、その結果で不足技能と教育訓練内容を明確にし、教育訓練にフィードバックすることで、スキル管理が完成するわけです。
土台の3階:改善計画と進捗の見える化
最後に、最も重要な土台の3階部分「改善計画と進捗の見える化」を説明します。
土台の3階部分は見える化されたマネジメントプロセスと書いてありますが、非常に複雑な図になっています。例えば、価格戦略、原価管理、設備改善、品質管理、生産改善など、改善のテーマはものすごくたくさんあります。
これらの改善のテーマに対して、「誰が、何を、いつ、どこまで、どうやってやるのか?」という5W1Hを明確にしなければなりません。これが第一に必要です。
そして、明確になった5W1Hと計画、実績の進捗、こういったものが見える化されてないといけません。この見える化によってPDCAが回るようになり、改善が自立的に継続して進むようになります。
まとめ
製造業の工場には、問題を自ら解決改善する現場力が必要となります。
そして、「現場力は経営システムの組織の土台が支えている」ということを理解する必要があります。
また、組織の土台は3階建て構造で結実します。
1階部分は経営方針の共有であり、経営理念・ビジョン・経営戦略の策定を行うことです。2階部分は役割分担と処遇の明確化であり、組織設計・人事制度・スキル管理から構成されます。そして、3階部分は改善計画と進捗の見える化であり、組織に照らし5W1Hを決めて進捗を見える化する必要があります。
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