中小企業におけるDX人材育成 | Part3 中小企業がDXを推進すべき理由
山浦 直晃
中小企業診断士
SCSK(株) にて、ERPの提案営業・導入コンサルタントに従事 100社以上の企業にシステムを導入。
システム導入・IT化戦略立案支援、事業計画策定支援、企業総合診断5社に従事2022年~ 中小企業基盤整備機構、地方銀行にて、コンサルティング業務に従事。主にIT/DX領域を担当。システムやデジタル技術は、あくまでも経営課題を解決するための「手段」であり、現在の業務プロセスを分析し、問題点を明確にして最適な改善策を提案することをモットーにする。
本シリーズは三部制で、上記の動画は「Part.3」です。
▼ シリーズ動画一覧
DX人材育成の現状
1)IPAのDXリテラシー標準
IPA情報処理推進機構では「DXリテラシー標準」という指針を出しています。これは、DXに関してビジネスパーソンが身につけるべき能力やスキルを定義したもので、DXを自分事として捉え、変革に向けて行動できるようにすることを目的としています。
DXに関するリテラシーとして身につけるべき知識と学習の指針を、「DXの背景」、「DXで活用されるデータ·技術」、「データ·技術の利活用」という3つの切り口で分類しています。また、社会変化の中で、新たな価値を生み出すために必要な知識、姿勢、行動を、「マインド·スタンス」として定義しています。
2)中小企業におけるDX人材育成の現状
中小機構が2022年3月に行ったアンケート調査によると、DXに取り組むにあたって「DX人材·IT人材不足」を課題に挙げる中小企業が最も多く、全体の55%を占めています。中小企業でDX人材の育成が進まない理由は以下のとおりです。
①即戦力のDX人材は待遇面のハードルが高い
即戦力となるDX人材は平均年収が高いことから、中小企業で雇うことが難しい状況にあります。
②DXに人的資源を投じることが難しい
人的資源が限られている中小企業においては、本業以外のDXに人材資源を投じることが難しい状況でもあります。
③DX人材との接点が少ない
中小企業では、ハロワークを主体に求人活動を行っているケースが多いことから、DX人材との接点が少ないのが現状です。
④DX人材を育成するノウハウが少ない
中小企業では、採用したDX人材をさらに育成していく環境がないという状況にあります。
中小企業におけるDX人材採用·育成の方向性
大企業とは異なり、中小企業においてはDX人材が力を発揮できる環境が整っていないこともよく見受けられます。その場合は、以下に記す2つの方向性でDX人材を採用し、育成していくことをおすすめします。
①比較的IT感度が高い若い人材を採用
技術力にはこだわらず、比較的IT感度が高くて苦手意識が少ない若手人材を採用することにより、人件費や入社後の受入れ体制のハードルを下げることが可能となります。
②DX人材に必要な課題設定力の習得
DXは、顧客ニーズや自社の問題点を解決するための手段です。DX人材には、現状分析により解決策を見つけ出す課題設定力を習得させることが重要です。
課題設定力の習得方法
DX人材に必要な課題設定力を習得するために、現状業務機能の洗い出しや問題点の抽出といった訓練を行うことをおすすめします。この訓練を行ううえで有効なツールを紹介します。
①業務機能一覧
業務機能一覧には19個の箱がありますが、システムを導入するときに論点となる内容となっており、漏れなくダブりなく整理することができます。それぞれの箱に、どのようなシステムが導入されているのか、どのような使われ方をしているのかを書き込むことで、さまざまな問題点が浮かび上がってきます。
業務機能一覧上のシステム欄には、各業務で導入しているシステム名を記入します。また、IN欄には、関連するシステムからどのような情報を受け取るのかを記入し、OUT欄には、後方のシステムにどのような情報を渡すのかを記入します。
例えば、右下の「ファイル共有」という業務では、社員が作成した見積書などを保存するファイルサーバーをシステム欄に記入しています。最近サーバーの調子悪く、直近でバックアップに失敗したことから、サーバーが壊れたら業務が回らなくなるといった、気づいたことをコメントで記入します。このように業務機能一覧を使うことで、リアルな現状分析が可能となります。
検討事項一覧
検討事項一覧は、業務機能一覧で現状分析を行った後に作る資料になります。現状分析により気づいた問題点を、検討事項一覧で可視化していく流れです。
検討事項一覧の縦軸には、分類、問題点、課題、解決策、期待効果というカテゴリを記載していますが、業務上の問題解決においては、この順番に考えていくと整理しやすいです。問題点をもとに課題設定し、その課題に対する解決策を検討して、期待効果まで整理することができます。
検討事項一覧の横軸には、財務、顧客、業務プロセス、人·組織、IT·資産というカテゴリを記載していますが、この観点で検討することで、自社業務の問題点をモレなくダブりなく整理することができます。
例えば、業務機能一覧で記入した「ファイル共有」の問題点を、検討事項一覧の「IT·資産」の列に記入します。課題については、今後安定したファイル共有業務が行えるように、メンテナンス性の良いファイルサーバーに入れ替えることとしています。また、クラウドストレージであれば、サーバーの故障やバックアップの失敗といったトラブルを回避することができることから、解決策については、クラウドストレージの導入と記入しています。
その結果、期待効果としてサーバーのメンテナンス負荷を軽減することが可能となります。
DX人材育成のポイント
現状とあるべき姿との差がギャップであり、それが問題点になります。現状、IT化がほとんど行われていない会社において、あるべき姿を「機械化·デジタル化」とした場合、業務機能一覧と検討事項一覧を使うことで、デジタイゼーションとしての問題点を洗い出し、課題解決に結びつけることができます。
ある程度IT化が進んでいる会社であれば、あるべき姿を「より高度なDXにチャレンジする」とした場合、業務機能一覧と検討事項一覧を使うことで、デジタルトランスフォーメーションとしての問題点を洗い出し、課題解決に結びつけることができます。
中小企業がDXを推進する際、自社の課題設定は自社で行うことが重要です。技術面については外部のIT事業者を活用してもよいですが、自社の課題設定をIT事業者に丸投げしてはいけません。
採用した若手人材に対して、自社の課題設定が行えるように育成することが、中小企業のDX人材育成のポイントになると思います。
業務機能一覧と検討事項一覧を使いこなすことで、課題設定力の高いDX人材を育成しましょう。
今回「DX人材採用·育成の方向性」というテーマで、DX人材育成の現状や方向性、人材育成に役立つツールについて解説しました。
第1回目「DXとは」、第2回目「中小企業がDXを推進すべき理由」と合わせて読んでいただくことで、中小企業のDX人材育成に役立てていただければ幸いです。
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