経理業務効率化の事例紹介
西村 公志
中葉企業診断士
アップスマート株式会社 代表取締役
中央大学法学部を卒業し、メーカー・卸売業の提案営業をサポートするコンサルティング会社に勤務し、POSデータ分析ソフトや提案営業の研修などのソリューション営業を行う。
その後、マーケティングリサーチ会社を経て、2013年に中小企業の経営コンサルティング、経理業務の業務効率化、経理アウトソーシングサービスを提供するアップスマート株式会社を設立。現在は、一般社団法人IT顧問化協会副理事なども務める。
中小企業の経理業務効率化: クラウド会計システムの導入事例とその効果
経理業務効率化の事例紹介ということで、中小企業診断士の西村がお話いたします。
今回ご紹介する事例は、クラウド会計とその周辺システムを導入することによって、バックオフィス業務を効率化した企業のお話です。いきなりですが、皆さんは、日々の経理業務で次のような作業を行っていないでしょうか?
<会計業務において>
- 会計業務を行う際に、通帳やクレジットカード明細を見ながら、伝票入力している。
- 従業員の立替え経費精算書を、エクセルで作って紙で印刷する。もしくは、紙の伝票を使っている。
- 給与計算の結果を伝票入力している。
- 請求書を見ながら、売上を伝票入力している。
<人事業務において>
- エクセルの勤務表を毎月提出してもらい、給付計算ソフトに月次の勤務時間実績を手入力している。
- 立替経費の金額を計算ソフトに手入力している。
- 社会保険料率等の変更があった際に、変更が漏れており、誤支給がたびたび発生し、修正作業に追われている。
<請求業務において>
- 月末の締め作業にあわせて、請求書を発行する(紙で郵送したり、メールでPDFを送ったりなど)。
これらのように、手作業による似たような業務を、複数回・さまざまな部署で行っている会社が、意外に多くあります。しかし、これらの業務は、自動化し業務効率化することができるのです。
経理の自動化の全体像
では早速、経理の自動化の全体像を見ていきたいと思います。図1を見てください。これは、ある企業が実際にいろいろ紙や伝票を集めたりして経理業務を行っていたものを、経理の自動化ということで、大幅に業務をクラウド会計に合わせていったときの、システム間の全体図になります。
では、実際にどんなことをしたのかというと、まず軸となるクラウド会計ソフトがあります。これに、税理士さんを紐づけ、Amanoや楽天の明細データや、銀行やクレジットカードの明細データなどもクラウド会計に取り込みました。続いて、この会社は、コンサル事業とカフェ事業をやっている会社だったので、カフェ事業のPOSデータを、クラウド会計ソフトに自動連携させて、毎日、売上データを取り込めるようにしました。また、もともと「マネーフォワードのクラウド請求書」というシステムを使っていたので、コンサル事業の売上も自動連携させてデータを取れるようにして、会計ソフトに全部のデータを集めていきました。
そして次にやったことは、「給与システムの連携」です。給与の計算は、もともとエクセルでやっていたのですが、これを勤怠管理ソフトのキングオブタイム(クラウドの勤怠管理ツールではナンバーワンのシェアを持っていると言われています)を導入して、勤怠の時間を自動で集計することにしました。これにより、給与計算ソフトにそのデータを連携させれば、もう自動で給与計算はできてしまいます。勤怠の締め作業は、変わらず必要になるのと、勤怠管理ソフトの設定は、慣れていないと苦労するので、この辺りは、もし皆さんが自分でやる時には、注意して進めて欲しいと思います。
また、マイナンバーも紙で集めるのは大変なので、連携したツールを使って、そのまま保管できる体制を作りました。最後に、クラウドの経費精算ということで、給与も立替経費精算で自動的に反映させて、さらに会計ソフトの方にも経費仕訳を連携させて、データを1回作れば2重3重に、入力作業をしなくてよくなる環境を作り、会計ソフトに投資していきました。
このようにして作り上げた、経理業務の自動化の導入効果は、伝票の入力作業を80%程度も削減することができ、大きな成果を上げることができました。これは、なんだか嘘のように見えるのですが、私の支援している企業の実際の事例になります。
クラウド会計の導入効果
ここからはシステム1つ1つの導入効果について、深堀りしていきたいと思います。
まず、クラウド会計の導入効果ですが、銀行や法人クレジットカードの明細などのデータを連携させることで、手で打つ入力作業が無くなり、さらに仕訳も、過去にやった仕訳と同じ場合は、そのまま同じ仕訳の候補を出してくれて登録できる機能がある為、大幅に入力工数を減らすことができます。特に、現状クレジットカード明細を使っている企業は、毎月10日や20日に、まとめて資料(明細)が来て、過去の商品と紐づけて、合っているかどうか突合していると思うのですが、クラウド会計になると、10日に区切る前に、続々とデータが入ってくるので、早め早めに判断・作業をすることができます。
また、記帳に行かなくても、ネットバンキングでデータが見られるようになる為、社長自ら、残高をリアルタイムで把握することができます。他には、残高試算表やキャッシュフロー表などの集計レポートもすぐに確認できるので、まだ決算が閉まっていない、経理が締めている途中の状況でも、今の時点でわかっている範囲の数字を確認することができます。さらに、エアレジと連携すれば、店舗の売り上げが日次把握できるところもポイントです。やはり飲食店は大変なので、ついつい売り上げは月次1回のみの入力などにしていることも多く、日々の売上が一体どれ位なのか、社長自身が分からないケースもありますが、クラウド会計を導入することで、すぐ把握できる、そんな状況を作ることができました。
クラウド給与の導入効果
次に、クラウド給与の導入効果を見ていくと、「給与明細のWeb化によるペーパーレス化」ということができます。これは、どうゆうことかと言うと、給与の明細は、すごく大事な情報ですので、経理の担当者が印刷するのも気を使い、わざわざ残業をしてやっている企業も多くあります。皆さんも給与封筒をもらっていると、わざわざ明細の入った封筒に入っていたり、または、紙を中折りにして金額を見えないように封筒に包んで入っていたり、場合によっては糊付けをして封入している会社もまだまだあります。Web明細に変えると、メールのIDとパスワード(自分しか知らない情報)でアクセスできるようになります。明細を紛失することもないし、従業員はいつでも給与明細を見られるような、利便性の高い環境を作ることができるのです。
また、年末調整も、今までは紙で配られたものを書いていたりしていたのですが、こういった情報を、紙に書くのではなく、初めからWebで集めることができます。皆さんはご存じ無いかもしれませんが、経理は、紙で集めたものを、一生懸命、再び会計ソフトに打ち込んでいたりします。クラウドの導入は、このような見えないところの2重作業(ムダ)を防ぐことができるのです。
他には、社会保険料の料率アップや、随時変更や定時変更などがあったりしますが、ここもしっかりと給与に合わせて変更することができるので、ケアレスミスの防止になります。今までだと、計算して社労士さんに任せていて、なかなか自分たちでやり辛かったところが、自前で出来るようになるので、間違いを防いで(間違えると、すごい大きな手間が発生します)、余計な手間の防止に役立ちます。さらに、社会保険・税金関係の定型フォーマット、こういったものもフォーマットから出して転記する工数を削減できます。近年では、社会保険の電子証明書を取っていると、そのまま電子申請できる機能もついていたりします。
あとは、勤怠管理のパッケージとデータ連携して、勤怠実績を手で集計するのではなく、勤怠管理ソフトで集計したものを利用して、自動で給与へ反映できる為、大きなコスト削減ができます。給与計算・社会保険料計算・雇用保険料の計算・所得税計算・年末調整、こういった業務を給与決算ではよくやるのですが、これらは全て自動化できて、さらに会計ソフトへの連携もできます。
さらに、振込データも作れるところがポイントです。昔ながらの給与計算ソフトを使っていると、振込データを作れないがために、一生懸命、人の名前を見ながら入力をしていて、金額間違いはないか、2重3重に確認するケースがまだまだあるのですが、全国銀行データと言うものを作れば、振込データも給与振込データとして一括で取り込んで支給できるのでミスと手間が無くなります。
クラウド経費の導入効果
続いて、クラウド経費の導入効果をお伝えしていきます。従業員の立替経費清算、これは紙だとよく、ハンコの枠を作って、「部長見ました。経理見ました。」と、記録を残して回していったと思うのですが、そういった記録を、適宜、システムの中(申請フローワークフロー)で処理することができます。したがって、よく「部長がいないから承認がなかなかもらえない」。もしくは、部長が電話で、「これ見ておいたから(経理に)やっておいてと電話する」。などという作業が無くなります。申請フローができていると、外出先からスマートフォンで、自分で作業ができる為、代理依頼をすることもなく、適切な手続きを踏むのでイレギュラーにもならずに、効率的に業務を行うことができます。
また、給与システムと連携すると、「給与計算に間に合わないから、立替経費精算を消しておいて」などとやっていた企業があれば、ここの効率化も可能になります。さらに、住所変更や通勤経路変更など、こういったことも、経費計算ソフトの中で申請フローを作ることが可能になります。
クラウドマイナンバーの導入効果
次にクラウドマイナンバーの導入効果についてお話いたします。中小企業の中には、まだまだマイナンバーを適切に扱えていないことが多いと思います。本来は、保持してはいけないマイナンバーですが、メールでマイナンバーを書いて送られてきたりすることも、実際にはまだまだあります。こういったリスクを防ぐために、クラウドマイナンバーでは、集める時も、本人から直接ソフトに入れてもらうので、安全な状態でデータを管理することができます。そして、必要な時だけそのデータを、クラウド給与を通じて表示させることができるので、安全に使用することができます。
クラウド請求書による請求業務の効率化
次は、クラウド請求書の話になります。請求書の発送を、皆さんがもしまだ郵送でやっていれば、「封入して送る」という作業が発生していると思います。または、郵送ではなくメールで送っている場合でも、エクセルをわざわざPDFにして、メールに添付して送る作業は発生している可能性が高いと思います。しかし、このような作業もどんどんと効率化(自動化)が図られてきています。
現在は、請求書の作成・印刷・封入・投函。さらに仕分けの計上をやっていると思うのですが、クラウド請求書を導入すると、請求書発行から売上計上まで、全て自動化することができます。(図2)。
具体的に説明すると、実は、請求書システムで作ったものを郵送代行するサービスがあり、代わりにアウトソーシングで受けてくれてやってくれます。図2は、「マネーフォワード」の場合なのですが、「フリー」も同様に、ボタン1つで、アウトソーシング先の会社経由になるのですが、メールを発行してくれます。昔は、自分の会社のドメインじゃないところから出ることに戸惑っていた企業も多かったのですが、近年では、当たり前になってきているように感じます。したがって、自社でメールを送るのが大変になってきた際には、このようなアウトソーシングに切り替えてしまえば、業務の効率化を図ることができます。
次に、クラウド請求書の主な機能をご紹介します。名前に請求書と付いているのですが、見積書から作ることができます。見積書を作っておくと、複製・変換がシステムの中で行うことができ、わざわざエクセルを変えてとか、コピーをしてとか、そういった無駄な作業は無くなります。さらに、納品書も、請求書も、領収書まで作ることができ、また設定さえすれば、毎月自動で(定期の金額あれば)それらを作ってくれ、メール送信や郵送も代行してくれます。さらに、売上レポート機能や、取引先や品目の管理機能などもついており、売上分析のようなことも可能になっています。
まとめると、クラウド請求書の導入効果は3つあります。1つ目は、フォーマットの提携化と請求業務の標準化ができることです。例えば、よく営業の担当者からエクセルが回ってきて、「これで請求書を作っておいて」と依頼がありますが、フォーマットの書式や数式がどうなっているか分からず、途中で、計算が合っているのか心配になって手計算をするなど、不効率なことがよく起こりますが、このような作業も必要が無くなってきます。2つ目は、仕分けにも自動連携するので、とても効率的です。そして3つ目は、見積書・請求書のメール送付と、請求書の郵送代行を利用することで、作業が効率的(自動化)にできるようになります。
図3は請求書作成の画面イメージです。図のように左側が、請求書や見積書一覧になっていて、開くと具体的な中身が見えます。今は全て下書きになっているのですが、これをお客様にメールで送ると、メール送付済みになって、お客様が向こうで開いてダウンロードすると、ダウンロード済みと出てきたりします。つまり、お客様がメールを見てないかどうかがこちらで把握できるのです。そして、もちろん入金管理と紐付いているので、入金が終われば、クラウド会計ソフトで「入金取込みボタン」を押すと、入金消込が起きて、こちらで入金できたかどうかもチェックもすることができます。
また、月次売上レポート(図4)で売上状況をまとめてくれて、1年単位のまとめや、集計をかけることもできるので、会社がどんな状況なのかすぐに把握することができます。
以上が、経理業務の自動化についての事例紹介でした。今回の事例の企業は、コンサルティング事業とカフェ事業の2つをやっており、全然違う現場でやっていることなのですが、会計ソフトに連携させることによって、バックオフィス業務を大幅に効率化させることができました。この企業だけではなくて、クラウド会計ソフトを中心に、他の周辺システムをしっかりと導入できている企業は、上手く効率化していっているように思います。私の経験上ですが、税理士さん主体でクラウド会計の導入をやると、意外と会計ソフトの導入だけで留まることが多い印象があります。クラウド会計ソフトを入れても、他は変わっていないので、経理としては入力する場所が変わっただけで、効率化できていないということが、しばしば起こります。
この事例を見ていただいた方は是非、『自社では、どこまで会計ソフトの周りに、他のシステムが連携しているのか?』といった視点で、再度、自社のツールやシステムを見直していただければ、バックオフィスの効率化に繋がってくると思っています。
もしお困り事があれば、是非、私に相談いただければ、お力になれることもあるかと思いますので、よろしくお願いいたします。本日は、以上になります。どうもありがとうございました。
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