会社に眠っているデータの徹底活用で経営問題を発見せよ! | 後編
小早川 渡
中小企業診断士
株式会社しごとのしくみ 代表取締役
中小企業診断士 / MBA / ITコーディネータ / 上級システムアドミニストレータ
会計ソフトメーカーにて個人事業主から東証プライム上場企業まで、基幹業務システムの稼働を支援。多店舗展開の中小企業へ転職し、創業経営者のそばで中小企業経営を学ぶ。2014年1月に起業。「会計とITをもっとあたりにまえに」をビジョンに掲げ、お客様視点のわかりやすいコンサルティングサービスを提供。
本シリーズは二部制で、上記の動画は「後編」です。
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はじめに
今回は、「会社に眠っているデータの徹底活用で経営問題を発見せよ!」についてお話しします。
前半では、現在使用している販売管理システムのデータを分析し、その活用方法を少し変えることで、会社の課題が見えてくる点と、目標達成に向けた道筋が見えてくることについて説明しました。後半では、前半で見えてきたヒントを基に、データを分析して戦略を立て、目標達成の確率を上げるための方法について考えていきます。
分析して戦略を立てる
まずは、売上高について考察していきたいと思います。
売上高について
売上高は、さまざまな要素に分解され、数式のように構成されています。代表的な計算式として「客数 × 客単価」がありますが、今回はこの式を用いて説明していきます。
最初に客数を増やす方法について考えます。客数を増やすためには、既存顧客の数を増やすことが重要です。既存顧客の構成は、新規顧客の増加と流出顧客の減少によって変化します。特に、顧客を放置すると必ず減少します。B to Cのビジネスでは、競合他社に顧客が流れることはもちろん、自社のファンであっても引っ越しや自然減少などにより顧客数が減少することがあります。そのため、企業は新規顧客を継続的に獲得し続ける活動が不可欠であり、これが客数を維持・増加させるための使命です。
また、既存顧客に何度も購入してもらうための施策も重要です。これらの要素を組み合わせることで、客数の増加を実現できます。
続いて、売上高のもう一つの要素である「客単価」について考えていきたいと思います。客単価を上げるための方法として、まず考えられるのは商品の単価自体を上げることです。具体的には、単純な値上げや商品量を増やして単価を引き上げる、セット商品を作成するなどの手法があります。
また、1回あたりの購入数量を増やすことも有効です。例えば、普段は5品しか購入しない顧客に対して、どうすれば6品、7品と購入してもらえるかを考えることが重要です。これらの要素を改善することで、客単価を上げることができ、結果として売上高の向上が期待できます。
既存顧客について
次に、既存顧客について考えていきたいと思います。
当月の集計を取った際、どの得意先にどれだけ売れたかが見えてくると思いますが、そのデータから実際に売上を達成するために必要な得意先数が足りているかを確認することが重要です。一見あたりの単価が一定である場合、当然ながら顧客数が多くなければ売上目標を達成することは難しくなります。
なぜ今の顧客数しかいないのか、その原因を探ることも重要です。例えば、営業担当者が得意先を回り切れていないのではないか、特定のスタッフの体調が悪いのではないか、といった可能性を考えてみてください。これらの点を分析することで、問題点が明らかになるでしょう。
具体例として、特定の案件で忙しすぎて得意先を回り切れていない場合、その影響で売上の実績が出ている得意先数が少ないことがあります。この場合、一時的にヘルプの人員を配置する、得意先訪問をせずに情報発信や問い合わせ対応をメールなどの顧客接点で補完するなど、早急な対策が必要です。原因が放置されると、既存の顧客数が少ない状態が続いてしまう可能性があるため、まずは既存顧客の数が足りているのかをしっかりと確認することが求められます。
新規顧客について
続いて、新規顧客について考えていきたいと思います。
皆さんの会社では、新規顧客が今月どれだけ増えたのか、把握できていますでしょうか。私の顧問先や支援先の中には、同じような仕事を続けているうちに、新規顧客への注目が薄れてしまっているケースが多いと感じています。
先ほども申し上げたように、新規顧客を継続的に獲得していないと、既存顧客は必ず減少します。そのため、年間の新規顧客獲得目標を設定し、その進捗を定期的に追跡していくことが非常に重要です。具体的には、毎月の新規顧客数がどうだったのかを把握するために、販売管理システムの活用方法を少し見直してみてください。
理想的には、現在使用している販売管理システムで「今月の新規顧客数」が簡単に分かると良いのですが、もしそれが難しい場合は、得意先を登録する際に工夫を加えることをお勧めします。一つの方法として、現在使用していない項目に「取引開始年月日」を入力することで、後から今月どれだけ新規顧客が増えたのか集計できるようにするのも有効です。
また、得意先コードを付ける際に、頭の4桁を年と月に設定するというルールを設けるのも一つの方法です。例えば、今月であれば「2309」として、その後の5桁を順番に「12345」と付けていくといった具合です。これにより、得意先コードを見るだけでその月に増えた得意先の数や取引開始時期が一目で分かるようになります。
こうした工夫により、新規顧客の動向をより意識し、管理していくことが可能となります。
流出顧客について
続いて、流出顧客について考えていきたいと思います。
販売管理システムの中には、一定期間取引のない顧客をリスクとしてリストアップできる機能を持つものもあります。このような機能がない場合でも、売上データをすべてExcelに出力し、それを顧客データと突き合わせることで、取引のない得意先を洗い出すことが可能です。
そのリストを定期的に営業担当に確認させ、「最近取引がない得意先はどうなっているのか?」「もう一度アプローチしてみるべきではないか?」といった確認を行うことが重要です。また、業種に関連する新しいニーズがあれば、それに合わせた提案を行うことも有効です。こうした細かいコミュニケーションをマネージャーと担当者の間で徹底することで、流出顧客の発生を防ぐことができるでしょう。
購入頻度について
次に、購入頻度についてです。
購入頻度を一発で確認できるソフトウェアは、小売業向けのシステムには多く存在しますが、B to B向けの販売管理システムでは難しい場合もあります。ただ、売上データをExcelに展開できる機能を持つシステムは多いと思いますので、まずは販売データをExcelに出力してください。その後、Excelのピボットテーブル機能を使用して、得意先別や伝票ナンバー別に集計することで、各得意先の購入頻度を分析することが可能です。1つの伝票を1回の購入と見なせるため、この方法で得意先ごとの購入頻度を把握できます。
重要なのは、この分析で終わらないことです。購入頻度が高い顧客については、なぜ頻度が高いのか、その理由を担当者や直接お客様に確認し、原因を突き止めることが大切です。その理由がその顧客に特有のものである可能性もありますが、業種全体に共通する要因や、特定の地域に関連する要因かもしれません。これらを「なぜ?」と何度も問いかけながら分析を進めていくことで、他の顧客にも応用できる重要な要因にたどり着ける可能性が高まります。
分析の結果、良好な成果が得られた場合でも、単に「良かった」で終わらせるのではなく、「なぜ良かったのか?」を掘り下げ、その成果を他の顧客にも横展開できるようにしてください。これにより、さらなる売上向上が期待できるため、原因の特定とその展開を重視した分析を継続的に行うことが重要です。
客単価について
続いて、客単価についてお話ししたいと思います。
客単価も一部のシステムでは簡単に算出できる機能がありますが、もしそのような機能がない場合でも、売上データをCSVなどでExcelに展開することで対応できます。そのデータを伝票ナンバーごとに集計し、さらに売上金額の高い順に並べ替えることで、客単価の高い案件を抽出することが可能です。
しかし、単に客単価の高い案件を見つけただけでは十分ではありません。なぜその案件の客単価が高かったのか、その原因を分析することが重要です。「高い商品を購入したから客単価が高かった」という表面的な理解で終わるのではなく、なぜその高い商品が選ばれたのか、安価な商品ではなくなぜその選択をしたのか、といった背景に目を向ける必要があります。
その理由の裏には、特定のニーズや顧客の状況が関わっている可能性があります。例えば、業界全体に通じるニーズなのか、それともその顧客特有の事情があるのか。また、顧客の企業の状況が影響しているのかもしれません。このように、「なぜ?」を繰り返し問い続けることで、より深い洞察を得ることができます。
1商品単価について
続いて、1商品単価が高い商品に関する分析についてお話しします。
先ほどは伝票ナンバーで並べましたが、今回は商品コードや商品名で並べてみましょう。これにより、高単価の商品が売れた案件が特定できます。こうした案件に関しても、担当者に「なぜ高い商品が選ばれたのか」を繰り返し尋ねることで、背後にあるニーズや要因を探ることができます。
1回あたり購入数量について
同様に、1回あたりの購入数量についても分析が可能です。
こちらも伝票ナンバーごとにデータを整理し、これまで金額を基にしていた集計を、明細数や数量合計に置き換えることで、1回の購入でどれだけの数量を買ってくれているのかが明確になります。そして、その中でも特に数量が多い案件についても、「なぜそのように多く購入されたのか」を掘り下げていくことで、効果的な戦略のヒントが見えてくることがあります。
利益の改善
次に、お金に直結する「利益の改善」について考えていきたいと思います。
部門責任者への情報公開
利益改善のためには、まず予算を立て、それに対する実績をチェックすることが基本です。しかし、この結果の公開タイミングが非常に重要です。多くの企業では、月末が終わってから「あなたの部門の業績はこうでした」という形で予算と実績の結果が伝えられますが、これだと過去の結果に対して「ああ、そうだったのか」と受け止めるしかなく、修正の余地がありません。
そこで、月が終わるのを待たず、月の途中で予算と実績の状況を確認できる仕組みを構築することが効果的です。さらに、その情報をこちらから一方的に提供するのではなく、部門や担当者が自分たちでリアルタイムに確認できるようなシステムや情報共有の方法を検討することが重要です。
人間は、情報が提供されると自然と考え始めます。逆に、「考えなければならない」と求められても、そのための情報が不足していれば、実際には何も考えられないという状況になりがちです。そのため、まずは必要な情報をしっかり提供し、そのうえでどのように成果を出すか、またそのプロセスでどのように考えているのかを管理・支援することが、利益改善の鍵となります。
情報をタイムリーに提供することで、担当者がより積極的に改善策を見つけたり、新たな戦略を考えたりする動機付けになるでしょう。このアプローチは、組織全体のパフォーマンス向上に大きく寄与するはずです。
まずは、各部門の責任者が自分の部門の予算と実績をタイムリーに確認できるように、会計システムのアクセスを整備することが重要です。特に経費に関しては予算を超えないよう、しっかりとコントロールを行う必要があります。また、売上目標に対しての進捗も随時確認できるような仕組みを整えることが求められます。
その際、全社的なデータの公開に対する懸念もあるかと思いますが、多くの会計システムにはセキュリティ機能が備わっており、自分の部門の情報のみを閲覧可能にしたり、特定の情報(例えば給料関連)を非表示にしたりすることが可能です。こうした機能を活用し、「できない理由」ではなく、「やるためにどうすれば良いのか」を考え、積極的に社内の情報公開を進めていただきたいと思います。
粗利益の計算
全体の数字を早期に把握するための仕組みを会計システムで構築することが重要ですが、次に粗利益の計算についても触れていきたいと思います。
ほとんどの販売管理システムには、売上の登録と同時に原価を入力する機能が備わっています。この原価情報を入れることで、粗利益が自動的に計算される仕組みです。原価の入力は、都度見積もりを取得して入力する方法もあれば、あらかじめ商品のマスターに原価を登録し、自動反映する方法もあります。
ただし、原価情報が最新ではないケースも少なくありません。為替の変動や原材料価格の変動など、経済環境の変化に対応するため、原価情報を定期的に更新し、正確な粗利益を把握できるようにすることが求められます。常に正確な原価を反映することで、リアルタイムで利益状況を把握でき、利益目標への意識も高まるでしょう。利益に対する達成状況を確認しやすくすることで、より効果的な経営判断が可能となります。
売上集計表(粗利集計)
売上集計においても、単純な売上金額だけでなく、粗利益に注目することが非常に重要です。粗利益が計画通りに達成できていない場合は、どの得意先やどの案件がその原因となっているかを見極める必要があります。売上が計画通りに進んでいるのに粗利益が出ていない場合、値引きが多い得意先や、頻繁に値引きを行っている担当者が原因であることがよくあります。
返品、値引き、訂正などは粗利益を直接減少させる要因ですので、これらの項目に注目して集計表を確認することで、粗利益の改善に繋がることが多いです。この情報を正確に把握するためには、売上伝票の入力時に、値引きした後の金額だけでなく、元々の売上金額と値引き額の両方を入力することが重要です。少し手間はかかりますが、この2つの情報をセットで入力することにより、集計時に値引きや返品の額が明確に見えるようになります。これにより、担当者や管理者も値引きがどれだけ粗利益に影響を与えているのかを具体的に理解することができます。
値引き額が常に見える状態にすることで、「この値引きをなくせば、粗利益がこれだけ上がるんだ」と具体的な金額で理解できるようになります。そのため、値引きをしなくても売れる方法を考えることが求められます。例えば、価格勝負に陥っている場合は、提案力を高めるなど、別のアプローチを検討する必要があります。このように、担当者、部門、マネージャーが協力して、値引きを減らすための取り組みを行い、PDCAサイクルを回して改善を進めていくことが望ましいです。
資金繰りの改善
続いて、資金繰りの改善についてですが、最終的にはお金を増やすことが目標です。そのためには、販売活動において最も重要な「お金をもらう」部分、つまり売上の回収をしっかり管理することが欠かせません。
入金消込
日々の業務においては、入金の消し込み、すなわち請求金額が確実に回収できているかどうかの管理が十分に行われていないケースが少なくありません。この入金消し込み業務をしっかりと行うことが、資金繰りを改善するためには非常に重要です。
私が知っている企業でも、担当者に入金管理を任せていた結果、入金がされていない顧客が存在し、経営者にその情報が届かず、最終的に約300万円が回収できない状況になってしまったという事例を聞いたことがあります。このような問題を避けるためにも、ぜひ入金管理を徹底していただきたいと思います。
多くの販売管理システムには、入金消し込み機能が備わっていますが、もしお使いの販売管理システムにそのような機能がない場合でも、専用の入金消し込みシステムがあります。例えば、「V-ONEクラウド」や「請求管理ロボ」といった最近のシステムは、この分野に特化しています。取引は、最終的にお金を回収して完了するものですので、その点をしっかりと管理していただきたいと思います。
資金繰実績推移表
また、資金繰りの管理も重要です。もちろん、多くの企業で行われているかと思いますが、会計事務所でもBS(貸借対照表)PL(損益計算書)の提示までで、資金繰り表の作成まで行っていない場合があるというのを、実感として感じています。資金繰り表についても、会計システムから出力できない場合は、会計事務所に依頼して作成していただき、損益計算書だけでなく、お金の出入りも含めてしっかり管理していただけると良いのではないかと思います。
ただし、資金繰りにおいて過去のデータのみを見ていても、うまくいかない場合があります。そのため、未来の資金繰りも意識していただきたいと考えています。
簡易資金繰り予測表
そこで、簡単な資金繰り予測表の作成方法をご案内いたします。ぜひExcelをご活用ください。
まず、会計システムから合計残高資産表を取得し、月初の原預金合計を入力します。その後、販売管理システムから入金予定を取得し、これを足し算します。また、仕入れ情報を入力し、支払い予定表を作成し、それをマイナスします。これにより、資金が枯渇する時期や支払い予定額を把握することができます。
さらに、固定費をマイナスし、臨時の入金や出金がある場合は、それらも加算または減算します。これにより、月末にどれくらいの資金が残るかを把握できるようになります。この予測を2ヶ月後や3ヶ月後まで作成することで、会社の資金状況を見通すことができます。
この作業は手間がかかりますが、意思決定においては70%から80%の精度でも十分であり、あまり大きな誤差は生じないでしょう。資金が不足しそうな場合には、早めに対策を講じることが可能です。予測情報を社内で整備し、早めに対策を講じる仕組みを構築することが重要です。資金の未来を予測し、計画的に対応する習慣をぜひ作っていただきたいと思います。
まとめ
本日のセミナーのまとめとして、まずご理解いただきたいのは、取引データ(例えば仕訳や売上、仕入れなど)を日々入力することで、多くのデータが蓄積されているという点です。しかし、これらのデータをソフトウェア内で見るだけでは、その機能を十分に活用しているとは言えません。まずは、ソフトウェアの機能を確認し、どのような情報が出るのかをしっかり把握してください。
もし、ソフトウェア内に必要な切り口がない場合は、自分でデータを加工し、必要な情報を取り出すようにしましょう。データを単に見るだけでは「良かった」「悪かった」という評価に留まりがちですが、そこから経営問題に繋がる糸口を探し出すことが重要です。具体的には、なぜそうなったのかを担当者に確認したり、得意先と一緒に詳細を聞き取ったりして問題解決の手がかりを見つけることが求められます。
また、問題解決の結果もソフトウェアに反映させ、それをモニタリングし、解決策が効果的であるかどうかを確認してください。効果が見られない場合には、別の解決策を検討し、データに基づいた経営を行うことが重要です。厳しい経営環境では、単なる努力だけでは限界がありますので、データの力を借りて課題を乗り越えていただきたいと思います。
手順を再確認します。まずは、「お金が減らない」計画を立てることから始めてください。具体的には、予算を作成し、1年間でいくらお金が減少するかを把握します。その上で、減少するお金以上に増加する数値目標を設定し、その目標達成に向けた分析を行います。分析の結果をもとに、戦略を策定し、問題の対策を立てていきましょう。
さらに、情報は会社内で公開し共有し、結果論でなく達成するための具体的なアクションについて話し合うことが重要です。日々の問題に対する対策をコントロールできるような組織作りを進めてください。
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