経営に役立つコーチング | Part3
堀口 英太郎
中小企業診断士
埼玉県上尾市中小企業サポートセンター専門家
中小企業119専門家
製造業にて販売と生産管理、企画部門へ従事後、中小企業診断士の資格を取得。
「困ったときは堀口さんに相談すれば、助けてくれる」
ゼネラリストとしての社会人経験と幅広い人脈、豊富なコンサルティング経験から生み出された新規事業壁打ち・立ち上げ、各種補助金、助成金申請、実行支援等を行う。
本シリーズは二部制で、上記の動画は「Part.3」です。
▼ シリーズ動画一覧
はじめに
今回は「経営に役立つコーチング」の第3回目です。
第2回目では、コーチングが思考を刺激し続ける創造的なプロセスであること、「ひあて(批判、アドバイス、提案」はしないこと、答えは常に経営者の頭の中にあることをお話をしました。
今回は、コーチングの定義に関する2つのポイントのうちのもう1つ、「パートナー関係」の観点について見ていきます。
パートナー関係とは?
パートナー関係とは、コーチングにおいて、コーチがクライアントである経営者の伴走者であるという概念です。伴走とは、スポーツにおいても、マラソンのペースメーカーとして一緒に走ることを指します。このような形で、ビジネスにおいても、経営者と共に目標を目指す共同の関係であると私は説明しています。
伴走するために必要なものは、何よりも信頼関係です。信頼関係を築くためには、以下の3つの点が重要です。
1つ目は、第2回で説明した通り、「ひあて(批判、アドバイス、提案)」をしないことです。2つ目は、話をよく聴く(相手の話に耳を傾ける)、3つ目は、約束を守ることです。約束を守るのはビジネスマンとして基本的なことですが、約束した時間を守ることや、遅刻しないこと、業務をきちんと遂行することは、コーチやコーチングに関わらず重要です。
信頼関係を築くには時間がかかることもありますが、約束を破ることでその信頼関係が一瞬で崩れることがあります。そのため、ここでは信頼関係の構築における時間の重要性について詳細に説明することは避け、特に「聴く」という点に重点を置いてお話ししたいと思います。
聴くとは?
コーチングにおいて「聴く」という行為は、単に耳で聴くことにとどまらず、目と心を使ってクライアント、つまり経営者の話を理解することを指します。具体的には、「相手に関心を持ち、寄り添い、理解しようとする姿勢。それはスキルではなくマインドセット。言葉の背景を理解しようとすること。」です。
目の前にいる人の成り立ちまで含めて理解しようとする姿勢を「傾聴」と言います。コーチングにおいては、相手がなぜその言葉を発したのか、その裏にある思いは何か、そしてその経営者がこれまでにどのような苦労をしてきたのかを理解することが重要です。
例えば、スマートフォンを見ながら話を聞かれると、相手は自分の話が軽視されていると感じ、不安になるでしょう。
以上のように、傾聴するということはスキルではなく、その人自身のマインドに関わると私は経験から感じています。
傾聴のポイント
傾聴のポイントについて、ネットで調べると「傾聴とはこういうことだ」と説明されている様々な情報が見つかります。具体的には、態度や姿勢が重要であることが前述の通りです。
さらに、ミラーリングやオウム返しといったスキルに関する話もよく見受けられます。これらは、相手の話し方を真似ることや、ペースに合わせること、相手が言ったことを反復することなどが含まれます。もちろん、これらのスキルも大切ですが、最も重要なのは、前述の態度や姿勢です。この態度や姿勢があれば、自然とミラーリングやオウム返しが効果的に行えるようになります。
その中でも、要約やフィードバックが重要です。話をしっかりと聞いていると、例えば「売上を3倍にしたい」という話に対して「なるほど、売上を3倍にしたいのですね」と要約することで、「この人はちゃんと話を聞いてくれている」と感じてもらえるでしょう。
逆に、要約やフィードバックがないまま単にオウム返しをしているだけでは、相手は「本当に話を聞いてくれているのか」と不安になることがあります。そのため、要約やフィードバック、特に「私はこう感じました」という自分の感想を伝えることが重要です。これがあるかないかで、傾聴の深さや度合いは大きく変わります。
傾聴するためには、態度をしっかりと持ち、約束を守ることが重要です。信頼関係を築くことで、パートナー関係が生まれ、その結果、目標達成に違いが出てきます。
コーチ=伴走者がいない場合
コーチ、つまり伴走者がいない場合、時間軸を横軸、目標達成のレベルを縦軸として考えると、自分一人で何かをやろうとすれば、時間をかければ達成できないことはないかもしれませんが、徐々に右肩上がりで達成できるでしょう。
しかし、伴走者がいる場合、その角度は急激に高くなります。継続的なコーチングを受けることで、セッションを通じて行動が習慣化され、自分自身でPDCAサイクルを回しながら行動し、気づきを得て次の行動に繋げることができます。そして、伴走者がいることで、時間が短縮され、より高い目標に到達することが可能になります。
つい先日、業種は申し上げられませんが、ある方が以下のように話していました。「まさにおっしゃる通りです。私もやろうと思えばできるのですが、伴走者がいないと時間がかかってしまいます。時間を短縮し、より高い目標に到達したいと考えています。」このようにおっしゃった経営者がいました。
経営者向けコーチングの定義
経営者向けのコーチングの定義を自分なりに整理してみました。
国際コーチング連盟(ICF)の2つのポイントを踏まえ、「経営者が思考を整理し、自ら問題を解決できるように、コーチと伴走する関係を構築する。」ことが経営者向けコーチングの定義ではないかと考えています。
創造的プロセスとパートナー関係の構築を踏まえると、思考を整理し、問題を解決できるようになることで、目標達成までの時間が短縮され、より高い目標に到達できるようになることが、経営者向けコーチングの本質ではないかと思います。
コーチングが経営者にもたらす効果
パートナー関係を築くことで、コーチングが経営者にもたらす効果として、以下の3点が挙げられます。
経営目標と達成イメージが明確になる
コーチングの目的は、方向性を明確にし、行き先をはっきりと具体化することです。たとえば、「売上を3倍にしたい」という目標を、より具体的で視覚的にイメージできるようにすることです。
目標達成に向けてモチベーションが維持・継続される
自分で決めた目標に取り組む中で、目先の課題に追われることがありますが、コーチングセッションを通じてその状況を振り返り、次のアクションを決定することでモチベーションが維持されます。できなかったことを改善し、次に活かすことで、モチベーションが保たれるのです。
自主的な行動が促される。
自ら決めた経営目標に向けて、具体的な行動計画が毎回明確になることで、自主的な行動が促されます。自分が決めた目標に向かって具体的に行動するわけです。コンサルティングやティーチングとは異なり、受け身ではなく、自分がやると決めたことを実行するのです。なぜなら、経営目標と達成イメージが明確になっているからです。その結果、実現したい目標に向かって自発的に行動するようになります。これにより、行動が促されるのです。
この3つが経営者にもたらす効果です。
そして、コーチングによって経営目標の達成までの時間が短縮され、より高い目標に到達することが可能になります。
コーチングの具体例
ここからは実際のコーチングの具体例をご紹介します。ただし、コーチングには守秘義務があり、深い話を扱うため、その内容は外部に漏らすことはできません。守秘義務があるからこそ、経営者は安心して自分の悩みや問題を開示することができるのです。そのため、ここでご紹介する具体例も非常に抽象的な内容になりますので、その点についてご理解いただければと思います。
以下の2つの例をご紹介します。
不動産業のクライアント
不動産業のA社様、60代の社長の方からのご相談です。
コロナの影響で販売が不振で、補助金を活用した新規事業の立ち上げに関する助言を周囲から受けたが、気乗りがしないという悩みがありました。本当に新規事業を進めるべきかどうかというご相談でした。
セッション後の感想としては、「迷いが吹っ切れ、新規事業を行わず、既存事業の立て直しに注力する」という結論に達しました。
セッションでは、まず現行の事業に対する思いを掘り下げ、自分の事業をどの方向に進めたいのかを明確にしました。新規事業に対する思いと既存事業に対する思いを深掘りする中で、本当に大事にしている価値観を確認し、その上で既存事業を立て直すことが最優先であるという結論に至りました。
美容系のクライアント
もう1つの具体例として、美容業界のB社様、40代の社長からのご相談をご紹介します。ご相談内容は、なかなかお客様が集まらず、この事業を長期間続けることができるのか、自分自身の人生も含めてじっくりと話をしたいというものでした。
セッション後の感想としては、「しっかりと自分自身と向き合うことができ、新しい事業のやり方も理解できたので、迷うことなく実施できるようになった」とのことでした。
お話しできる範囲で申し上げますと、まず自分自身がどのような人生を過ごしたいのかを深掘りしました。美容業界のB社様の場合、事業の方向性だけでなく、人生そのものの生き方についてもじっくりと掘り下げました。その上で、現在の事業が人生の中でどのような位置づけにあるのかを明確にし、「何年も続けられるか分からない」との不安についても見ていきました。
この結果、事業を続けることが人生にどれほどの意味を持つのかを深く考えることになり、問題の根本は「お客様が集まらないこと」ではないことが明らかになりました。自分自身と向き合い、どうすれば人生を豊かに過ごせるのかに焦点を当てることになりました。もし今の事業だけでは人生が豊かにならないのであれば、新しい事業を始めるためにはどうしたら良いのかという点についても、経営者様からのリクエストに応じてご提案させていただきました。
このように、具体的な事業の改善案を提案し、新しい事業の方向性を説明するセッションを行いました。
最後に
国も支援者として、コーチング的なアプローチを求めています。明確に「コーチング」という言葉は使用されていないものの、この対話はまさしくコーチングそのものです。経営者と伴走者が対話することで、気づきや理解を促進し、経営者が自発的に行動を起こし、課題解決に繋げていくというアプローチが有効であると、国も示しているのです。
日本では99.7%が中小企業であり、中小企業が日本経済を支える重要な存在であると私は信じています。中小企業が元気になることが日本全体の元気にも繋がります。言い換えれば、中小企業の経営者の傾聴は日本の傾聴に直結します。この点において、コーチングのアプローチは非常に有効な選択肢です。
講師に無料相談をする
ビジネス処方箋に登壇している講師に無料相談を行うことができます。
お問い合わせいただきましたら、ご相談内容に適した士業・経営者の講師をご紹介いたします。