キントーンによる改善の見える化 製造業の組織戦略 | 後編
植田 進
中小企業診断士
株式会社ものづくりビジネスパートナズ 代表取締役社長
富士電機株式会社で自動化生産設備の営業技術部長として、レーザー加工機や画像処理装置による省人化や半自動機導入を提案及び技術取り纏め業務に従事。アマダウェルドテックでは精密溶接機事業に携わり、欧州・北米・南米現地法人社長や戦略企画部長を務める。現在はものづくりビジネスパートナーズで製造業生産性向上コンサルティングを行い、40社以上の中小製造業を支援。得意分野は製造業の事業診断からDXまでほとんど全てを網羅。
本シリーズは二部制で、上記の動画は「後編」です。
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はじめに
今回は「製造業の組織戦略」の後編を説明します。
前編の説明では、製造業で工場の改善活動が進まない場合、改善活動そのもののやり方をチェックするだけでなく、改善活動を行っている従業員の組織戦略をチェックする必要性をお話しました。
その組織の土台は3階建て構造になっており、その最上階の3階が一番大事で、これは計画と進捗の見える化が大事であるという説明をしました。
後編では、この辺りを詳しく説明します。
製造業の組織戦略は難易度が少し高い
前編でもお話しましたが、製造業の組織戦略は難易度が少し高いです。
なぜなら、一般の小売業、あるいは飲食店等と違って、製造業は市場ニーズや顧客要望が、直接的に工場の従業員に伝わりにくい点があります。
従って、製造業の工場は自ら解決し、改善していく現場力が必要となります。
改善活動で困っていること
皆様の工場では、さまざまな改善活動を行っていると思います。
しかし、「改善活動を行っているし、改善活動の意識は高いんだが、なかなか改善が進まない…」といった問題はないでしょうか?
例えば、「日常生活で忙しくて改善活動の時間が取れない…結果的にやる気が出ない…」こういったことになっていないでしょうか?
そして、専門家を呼んで一連のやり方を教わり、やり方が間違ってないことは分かったが、専門家が来た時だけは活動するが、みんな忙しいので専門家が帰るとまた日常作業に戻ってしまう。結局、改善がどこまで進んだのか分からなくなってしまう。いつの間にか改善活動が自然消滅してしまう。こういったことはないでしょうか?
この場合、組織の土台の3階部分(見える化されたマネジメントプロセス)を見直す必要があります。
製造業の経営システムはこのような三角図になっています。
1番下が組織の土台、その3階部分が「見える化されたマネジメントプロセス」となっており、これによって土台がしっかりします。そして、改善の舞台を強力に支えます。
その結果、売上・原価・利益がよく見えるようになり、改善のPDCAが回るようになります。
見える化を徹底してみる
「見える化」と言っていますが、見える化というのはそもそも何なんでしょうか?
そもそも見える化とはトヨタから出てきた言葉であり、見える化を私の理解で説明すると以下の通りです。
①仕事の問題点を、本人の意思に関係なく自然と目に入るようにすることで、
②問題が発生してもすぐに解決できる環境と、他人の状況や仕事の全体像をつめるような環境を作るための取り組み。
例えば、何かをパワーポイント等にまとめ、皆さんに配っただけでは見える化にはなりません。なぜなら、パワーポイントはすぐに鞄や机の中にしまわれてしまうからです。
そこで、世の中にある見える化の事例を1つずつ紹介いたします。
1つ目は、あんどん(表示灯)です。トヨタでもよく使われていますが、稼働状況を見える化するためにあんどん(表示灯)を使っています。これは予防管理を目的としています。あんどん(表示灯)のポイントは、嫌でも目に入ってくることです。
2つ目に、運搬や生産指示をするために、かんばん(紙切れ・札)を使っています。これはムダ排除を目的としています。かんばん(紙切れ・札)は、物を取り出すと必ず目に入るような仕組みになっています。
3つ目に、一般の企業でも経営方針を見える化してることがあります。これは、例えば小さなカードに経営方針を書いて従業員に配ったり、あるいは会社固有の手帳を印刷して、その手帳に経営方針を書いたりすることで、従業員が経営方針を目にする機会を増やす目的があります。こうした組織作りを目的とした見える化もあります。
4つ目は、社員の声を見える化してるケースです。これはチャットやグループウエアを使って知恵の共有をしていることがあります。これも見える化の一種です。
5つ目は、業務進捗の見える化です。このためにクラウドを使ったり、あるいは現場モニター等の最新技術を使ったりします。これは、結果的に組織の土台を強化し、やる気や自律化につながっていきます。
組織の土台は3階建て構造になっており、1階部分、2階部分それぞれ目的があります。そして、3階部分の目的は、計画と進捗の見える化です、この計画と進捗を見える化するために、自前のクラウドデータベースを作ります。そして、そのデータベースを現場の大型モニターに表示します。これによって、計画と進捗の見える化が実現できます。
この見える化の仕組みがあると、組織の土台が強くなり、従業員のやる気が向上されます。
改善活動では、その活動を組織に照らして5W1Hを決め、その計画と進捗をクラウドのデータベースとモニターで見える化します。これによって、従業員は改善のPDCAを自律的に回せる効果が期待できます。
改善活動の見える化にキントーンを利用
改善活動の見える化に、クラウド型のデータベース「キントーン」の利用をおすすめする理由を解説します。
1つ目の特徴は、情報のリアルタイム共有が可能である点です。
キントーンでは、入力情報が瞬時に複数拠点で共有できます。複数拠点とは、事務所、工場はもちろんのこと、従業員、あるいは社長の自宅、海外工場など、あらゆる拠点において瞬時にリアルタイムに共有できます。
2つ目は、メールや紙での配布が不要となる点です。
例えば、会議の時に資料をメールで事前に配ったり、あるいはコピーして配布したりする必要はありません。
3つ目は、情報の一元化ができる点です。
例えば、キントーンを導入する前の情報管理では、一般的にExcelが使われています。しかし、Excelというのは個人で作成して個人の中に潜ってしまう癖があり、情報の共有化がし辛い点があります。
4つ目は、さまざまなデバイスからアクセスできる点です。
例えば、事務所ですとPCからアクセスしますが、工場の現場ではタッチパネルのタブレットの方が有効です。それとスマホの方が入力しやすい従業員の方もいます。どんなデバイスからでも、wi-fi環境が整っており、インターネットに接続できれば使用できます。
5つ目は、キントーンの独自性である、早く安くシステムの自作が可能である点です。
必要なシステムを自分たちで作成して、欲しいシステムが素早く手に入ります。システム構築を専門家やベンダーに発注すると、当然、時間もお金もかかります。外部に依存することなく、自分たちでシステムを作ることができるのが大きなポイントです。
Step1:データベースのフォームを作成
キントーンでは、非常に簡単にデータベースのフォームが作成できます。
上図の例は商談案件管理アプリで、お客様からの商談案件をデータベースに蓄積していくケースです。
ステップ1として、データベースのフォームを作成します。
フォームの作成は、IT知識がなくても可能です。左側に複数の機能が並んでおり、右側にドラッグ&ドロップすることによって、データベースの入力項目が構築できます。
例えば、会社名、部署名、先方の広告担当者、電話番号、FAXなどはキーボードを使って入力するため、通常の文字列の機能となります。
しかし、この文字を入力する作業は、現場では非常に厄介です。なるべくテキスト入力をせずに、ドロップダウンやチェックボックスというような機能を使って、入力者に選択させることで入力の手間を省く必要があります。
こような機能を選択することによって、導入した時に現場従業員が使いやすく、スムーズに立ち上がる特徴があります。
そして、1つ1つの入力項目のタイトルも変更できます。例えば、「うちの会社では、相手先企業を『得意先』にしたい」といった場合、入力項目のタイトルは変更が可能です。
そして、会社名、部署名、先方担当者など、入力項目の並び順もグラフィカルに変更ができます。
Step2:データベースに情報を入力
フォームが出来上がったたら、次は営業部員が実際のお客様からの案件を入力していきます。
例えば、案件入力時にはStep1で作成した入力フォームが表示され、各入力項目は設定したドロップダウンメニューが表示され、更に設定した選択項目が一覧で表示されます。そして、表示された選択項目を選択すると、自動的に情報がデータベースに入るようになっています。
この入力フォームを利用して、営業部員が何人でも同時に、あるいはいろんな場所から入力が可能となります。
Step3:グラフがリアルタイムで自動表示
入力フォームで入力されたデータは、リストにレコードとして並びます。また、レコードを分析するために、グラフが自動的に出てくるのがキントーンの特徴です。
グラフを表示するためには、「どういったグラフを出力したいか?」を登録しておく必要がありますが、1度設定すれば中身のデータが変わっても自動的に反映されるため、継続して表示・分析をすることができます。
例えば、上図の円グラフは、案件数の成約確度別比率をABCで表しています。入力フォームで入力して案件別の成約確度が何%ずつになるのかが一瞬で表示されます。また、1番下は製品別、あるいは営業マンの個人別売上見込みを、グラフで表すこともできます。
このようにグラフとして見える化することによって、売上予測を立てたり、営業戦略を立てたりする場合のヒントが生まれます。
情報の入力作業には時間をかけず、分析作業に時間を割くことが実現できます。
成功事例1:不良品発生数が激減
実際に、キントーンを使って見える化を行い、改善が進んだ事例を紹介します。
1つ目は、金属加工業で100人規模の中小企業のお客様です。
この会社は、不良品が非常に多く出ており、キントーンを導入するまでは、1ヶ月に38件程度の不具合が生じていました。
キントーンを導入して改善を進めましたが、従業員が自律的にPDCAを回して改善を進めるようになるには8ヶ月間かかりました。しかし8ヶ月後、1ヶ月の不良発生件数が最大5件と激減。しかも、効果が持続しています。
この改善活動で、不良発生件数の減少に最も貢献した情報は、「個人別の不良品発生件数」でした。「個人別にどんな不具合を発生させているのか?」「何件発生させているのか?」この辺りを見える化して、個人個人に詳細を伝え、そして、教育内容を個人個人で変えていったことが不良発生件数の激減に繋がりました。
成功事例2:自動機チョコ停回数が激減
2つ目の会社は、従業員が15人であり、規模はあまり大きくない会社です。
しかし、この会社は自動機を15台ぐらい持っており、人間が行う組み立て作業を自動機に任せています。ところが、その自動機のチョコ停が非常に多く、15台で1カ月に87件程度起こっていました。
ここにキントーンを導入して、「どんな不具合が、どの機械に発生してるのか?」をチョコ停発生の度に入力してデータベース化しました。改善活動のPDCA期間は6ヶ月ぐらいかかりましたが、現在ではチョコ停が半分以下に減っており、効果が持続化しています。
キントーンによる改善見える化の効果
キントーンによる改善見える化の効果として一番大きかったのは、改善活動のPDCAが継続して回るようになったことです。
キントーンの費用は月額課金制度となっており、大体月1万円程度で導入可能です(月額1,500円/1ユーザー:5アカウントから契約可能 ※2024年7月時点)。タブレットやPCなどのハードウェアは別であり、現場に必要なタブレットと大型モニターを設置して、合計費用が約20~30万円でした。
キントーンのアプリは自作できるため、導入時点で改善の議論が始まりました。そして、入力項目や項目名を自分たちで決められるため、現場作業者がすぐに協力して入力作業がスムーズに始まりました。また、グラフでデータが分かりやすく表示されるため、現場にも非常に好評でした。
PCが苦手な社長でも、タブレットで毎日データを見るようになったため改善活動が進み、成果が出ると従業員の士気が高まり、プロジェクト活動の議論が活発になって、アプリの改良と増築がどんどん進みました。
現場担当者を呼んで月1回の成果報告会が始まりましたが、会議室のモニター上でキントーンのデータが見られるため、資料の準備やコピー、配布は不要です。
副次的効果としては、外部の金融機関の担当者やISOの監査担当者に見せると驚かれ、今では「我が社の小さなDX」と称して活動を継続しています。
キントーンによる改善見える化のその他の用途
キントーンによる改善見える化の、その他の用途を説明します。
生産管理として、稼働率管理、出荷・受注、購買管理がキントーンで行えます。その他にも、原価管理、品質管理、人事管理、経営管理などが行えます。
経営管理の中の改善進捗は、改善そのものの進捗を見るのではなく、その改善の進み具合を見られるのがキントーンの特徴です。
このようないろんな用途があるキントーンですが、生産管理システムの代替として使うのは少々無理があります。キントーンはデータベースであるため、改善システとして利用していくのが良いと思います。
まとめ
「見える化」とは、仕事の問題点を本人の意思に関係なく、自然と目に入るようにすることです。
改善活動が続かない場合、活動の舞台を支える組織の土台の点検が必要です。改善活動の見える化がやる気を増進して、改善活動が継続するようになります。
改善の見える化のツールとしては、キントーンが挙げられます。この方法は組織力が弱い小規模企業でも一定の効果が期待できます。
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