円満廃業のススメ
上田 智雄
税理士
税理士試験模試全国一位
「円満廃業.com」編集長 / YouTube番組「マネーリテラシー研究所」運営
「会計人コース」「税務弘報」「企業実務」(中央経済社)
「納税で得する一覧表」「取り戻せる税金」 「人生節目の書類書き方教えます」 (サプライズBOOK)オービック(奉行シリーズ)機関紙、
日本経済新聞、アントレ、宣伝会議、「税理士開業塾dvd」資格の学校TAC
はじめに
今回は、廃業をテーマにお話しします。
廃業は暗いイメージがあるかもしれませんが、廃業をポジティブに考え、綺麗に会社を畳み、新たな事業をスタートすることをテーマにお話しします。
全国で中小企業が385万社あるうち、年間5万社が廃業しています。廃業は暗いテーマですが、日本人は昔から去り際に美を求めるところがあり、自分のいた場所を綺麗にさっぱりと整理して、次の場所に旅立つことに美を見出しています。
5万社が廃業する中で、廃業する会社は、廃業前にいろんなことを考えます。それは、会社をM&Aで売却したり、後継者に事業承継したりすることです。
しかし、M&Aや事業承継は全体の2割と言われています。M&Aに関しては、M&A仲介事業者など相談に乗ってくれるパートナーがいます。そして、事業承継についても、事業承継をサポートする士業が相談に乗ってくれます。
しかし、廃業はどうかというと、なかなか相談できる相手がいないのが悩みどころです。
この会社をいつまで続けますか?
廃業を考える際に、この質問に対する答えが明確になっているでしょうか。
それは「この会社をいつまで続けますか?」ということです。この質問に対する回答としては、多くの経営者が「まだ先のことだから何もしてない…」と答えるのではないでしょうか。
実際、廃業という言葉は少しネガティブな言葉であり、考えたくないという思いもあると思います。それは、「自分の老いや死について考えたくない…」という、背後にある人間の性だと思います。
終わりを考えるのは非常にストレスであり、これは普通の考えです。
仮に、今、ビジネスの売上が少しずつ右肩下がりであったり、この先、頑張ってもなかなか売上が上がる見込みがなかったりしても、「頑張ればなんとかなる」と理由をつけている場合があります。
また、「社員のことを考えるとなかなか気が重い…」という不安もあります。会社に社員がいて、その社員にも家族がいることを考えると、ここで会社をなくすと社員が困るんじゃないかということで、気が重くなることもあります。
そして、「人としての価値がなくなるんじゃないか…」という不安もあります。経営者として、社長という肩書きで社会活動を行っていくと、社長として何かしら一目置かれたり、何か力を持っているのではないかといって、周りの人が協力をしてくれたりすることがあります。
しかし、社長という肩書きがなくなった時に、「もしかすると、自分の居場所が社会の中でなくなるのでは…」と考える経営者もいます。
また、家族の中では、これまで給料を稼いでくるポジションだった人(経営者)が、「廃業後に家でゴロゴロしている人となった場合、自分の居場所がなくなるんじゃないか…」という不安を考える人もいます。
そのようなことを考えると、廃業について考えたくないと思ってしまう経営者が多くなるのが現実だと思います。
きれいに会社をたたんで、次の前向きな人生を歩む
廃業について考えにくい状況の中で、「綺麗に会社を畳んで、次の前向きな人生を歩む」というイメージを作っていきたいと思います。
その結論は、「先延ばしはNG」「やるべきことを今決める」ということです。人間の性質的に、「今じゃない…」「いつかやれる…」と思うのが我々の考えです。それを、「今この瞬間に何ができるか」「何を行動するか」を考える必要があります。
それを考えて行動することによって、他人、そして自分との約束を果たすことで、自分自身の人生における幸福感や生きることのテーマとなります。
廃業と倒産の違い
ではまず、廃業と倒産との違いを解説します。
廃業と倒産は、言葉が似ているようなイメージを持っている方もいると思いますが、ここのところを明確に区別する必要があります。
まず、廃業は負債を完済できます。一方、倒産もしくは破産は、負債が完済できない状態です。結果として、倒産は会社を閉じた場合、借金や買掛金、給料が支払えない状況があり、事業を止めざるを得ないことになります。しかし、廃業はまだ負債を完済でき、手元に余力資金がある状態であるため、自主的に事業を止めることができます。
そして、資産や負債の処分は、廃業であればいろんな面で余力があるため、ご自身の判断で売却することができます。売りたい先に売れ、売りたい価格で売れることになり、自分の任意の対応が可能です。
しかし、破産は法的措置となるため、裁判所の決定に基づいて強制的に資産を売らざるを得ません。売る先も値段も、自分の意思とは異なる形で処分することになります。
そして、周囲の影響としては、廃業は影響があります。会社は、基本的に継続する前提で周りの方々との関係性を築いています。
また、倒産は強制的に事業を止める形になり、負債は完済できません。そのため、債権者には多少の損失を飲んでいただく必要があり、多大なる迷惑をかけることになります。倒産によって支払えなかった買掛金(仕入先にとっての売掛金)が入らないことで連鎖倒産が起こるなど、その先にも迷惑をかけることが考えられます。
廃業を決める
倒産に行きつく前に、廃業を決めるところを解説します。
資金余力があるうちに事業を止められれば、影響を最小限に留めることができます。弁護士に倒産の話を聞くと、支払いができなくなり取れる選択肢がなくなって、藁をもすがる思いで相談に来るケースがかなり多いそうです。
しかし、弁護士としては「もう少し早いタイミングで相談してくれれば、まだ選択肢があったのに…」ということです。負債を完済できる資金余力があるうちに廃業を決断すれば、周囲への影響は最小限に抑えることができます。
廃業を決断する際のポイントは、前述した廃業に関する心構えと生活の不安をしっかりと区別することです。
例えば、「会社への愛着、その後の生活の不安」があり、廃業決定に至らないケースが多いと思います。普通のサラリーマンであれば、働かないような時間帯に働いて会社を伸ばし、多くの苦しみを乗り越えて会社を育ててきたため、その会社から離れる寂しさや会社を失う悔しさで廃業を決断できないかもしれません。
しかし、廃業とその先の生活の不安という心構えは、しっかりと区別する必要があります。
廃業した場合、その事業からの収入がなくなることを考えると、これから先の生活が不安になり決断できないこともあります。しかし、生活の不安は誰しもが持っており、仮にお金がある人生でも生活の不安は必ずあります。廃業という手続きを決断することと生活の不安をしっかり区別して、冷静に決断することが必要です。
また、「終わりは始まり」ということです。
日本中で断捨離という言葉が流行りましたが、元々、断捨離は禅の考え方であり、今ある余計なものを綺麗さっぱり捨てると新しいものが入ってくるという考え方です。
廃業をすると、今の仕事がなくなった時に、また新しい人生の選択肢が見つかります。そこには、再就職という選択肢や、地域のボランティアに参加する選択肢があるかもしれません。また、新しい趣味に走ることができるかもしれません。
そのように、自分の新しい人生が見えることで、新しい自分の人生を描きながら、廃業を決めることが良いと考えます。
判断材料:事業の見極め
実際に廃業を決めるにあたっては、いろいろな判断材料があります。
ポイントは「事業としての見極め」、そして「ご自身の人生としての見極め」、この2種類の判断材料を見ながら、廃業するのかまだ事業を継続するのかを見極めます。
まず、事業の見極めです。
収益力を見極める
事業の見極めの1つ目は、収益力を見極めるということです。
会社の収益力があるかどうかというのを見るポイントは、当期純利益や最終利益ではなく、事業の儲けを示す営業利益を見て判断します。
補助金収入や資産を売った臨時収入、保険解約の返戻金は本業の事業の儲けではないため、それらを除外した利益が営業利益となります。そして、営業利益がプラスになってるかどうかが、事業継続のポイントになります。
仮に、営業利益がマイナスであれば、事業モデルが崩壊しているか、世間に合ってないことが考えられます。
将来性を見る
2つ目は、将来性を見るということです。
全てのビジネスは、導入期・成長期・成熟期・衰退期の4つのフェーズがあります。どんなに卓越したビジネスも、導入期・成長期・成熟期という変遷を辿り、そして必ず衰退期を迎えます。
その理由は、市場の論理としては、売れているもの儲かっているものがあれば注目され、それらを多くの人が真似することで競合他社が現れ、さらに新しいものを開発するという力が働くためです。
ご自身の事業がどのフェーズにあるのかを考え、成熟期が来たら次の新しいフェーズを考えなければなりませんし、衰退期が来た場合には、ビジネスの終わりを判断する必要があるかもしれません。衰退期が来た時に、また新しく自分の商品・サービスを作り出し、新事業で導入期を迎える気概があるかどうかが事業継続のポイントになります。
また、4つのステップは、時代と共にサイクルが短くなっています。
昭和の高度成長期、もっと過去の時代においては、自分の人生で導入期・成長期・衰退期の1つのフェーズが終わったかもしれません。しかし、この1つのフェーズが30年あったものが、20年、5年、3年と短くなっているため、フェーズがどこにあるのか、どのくらいのサイクルになってるのか、その辺も見極める必要があります。
資産と負債の状況を確認する
3つ目は、資産と負債の状況を確認するということです。
決算書の貸借対照表を基に、買掛金・未払金・借入金といった外部に対して支払う負債と、保有している資産との差額がどうなっているかがポイントです。要するに、負債と廃業にかかる費用を、今持ってる資産で払い切れるかがポイントになります。
この差額がどれぐらいあるかによって、廃業や倒産、また資金余力があるならどれくらい猶予期間があるのかを判断する必要があります。
見極める際のポイントは、左側の資産額はあくまでも会計の中で積み上げてきた数字であり、これを時価換算することです。多くの場合、現預金はそのままの現預金の金額になりますが、例えば、売掛金の中で回収できないものがあれば評価金額を下げて計算しますし、商品棚卸も流行から外れて売れなくなっている場合は評価金額を下げる必要があります。
また、土地建物は、昭和初期に購入したものであれば、値段が大きく上がってるかもしれませんし、かつてバブルの頃に購入したものであれば、逆に値段が大きく下がってるかもしれません。そういった価格を引き直して、どのぐらい資産があるかを見たうえで、負債と廃業費用を差し引いた金額がどのぐらいプラスになってるのか、または、どのぐらいマイナスになってるのかを確認します。
それによって、その後の決断の方向が変わるため、実態に即した損益計算書を確認しながら、廃業についての決断判断する必要があります。
判断材料:自分自身の見極め
次に、自分自身の見極めです。こちらは2つのポイントで解説します。
自分の状況
1つ目は、自身の状態で、体力・病気・気力があるかを見極める必要があります。
まず、体力に関しては、これまで徹夜しても大丈夫だったが、今は週3日4日しか働けないという状態になっていないかの見極めが重要です。
また、癌などの病気や体調不良、腰が痛いなどの状態で、どれだけ仕事に打ち込めるかといったところも見極めのポイントになります。
そして、気力の見極めも重要です。ビジネスやってると心が折れることもあります。一生懸命お客さんに頭を下げて取ってきた仕事がサッと断れてしまったり、信頼する従業員に裏切られてしまったり、いろんなことがある中で、それでも乗り越えてやっていける自分自身の気力があるかどうかもポイントです。
次に、プライベートについて考えることも重要です。
今後、家族と楽しい時間を過ごすためには、家族との良い関係性が築けているかどうかを見極めることが必要です。
また、ゴルフやランニングなどビジネスに代替する趣味を持っていれば、そこにシフトすることができるかもしれません。
そして、地域コミュニティとの関係です。会社の仕事を辞めると、ご自身の社会との繋がりが小さくなるケースがあります。自分が仕事を辞めたとしても、地域でボランティア活動をすることで社会との繋がりを持て、自分自身の幸福度は深まるかもしれません。
逆に、これらが全くない場合、仕事を辞めた先の不安が残ることがあります。
将来のプラン
2つ目は、将来のプランです。
個人的に、お金をどれだけ貯めているかも廃業のポイントになります。人によって必要な生活費は多かったり少なかったり違うため、ご自身が必要な生活費を基準にして、将来の収支プランを考えていく必要があります。
例えば、80歳まで生きるとして30歳で仕事を辞めた場合、80歳に到達するまで50年あります。生活費として年間200万円だった場合、50年だと1億円の生活費がかかります。そして、その他支出として60歳まで年間200万を別途使った場合、7,000万円という費用が必要となり、生活費とその他支出を合わせると1億7,000万円の老後資金が必要になる計算となります。
これに対して、ご自身の収入はどうでしょうか?完全に仕事辞めた場合、不動産収入や投資収入があればそれで賄えますし、65歳以上であれば年金収入を差し引いたうえで、手元の財産があるかどうかを確認することもポイントになります。
仕事を辞める年齢が60歳を超えると、その他支出の年間200万円は減ってくるかもしれません。例えば、子供がいなかったり、趣味の支出も減ったりした場合には、その他支出は年間50万円で済むかもしれません。その場合、80歳までの20年間で、その他支出は1,000万円になり、年間200万円の生活費と合わせた老後資金としては5,000万円が必要だという収支プランになります。
この5,000万に対して、ご自身の貯蓄はあるだろうか、年金は幾らあるだろうかを考えることで、ご自身のお金について不安を解消できれば、思い切った廃業が決断できるのではないでしょうか。
以上のように、事業の見極めには3つのポイントがあり、①収益を見極める、②将来性を見る、③資産と負債との状況を確認することで、事業を進めるかどうかを判断します。
そして、ご自身の見極めには2つのポイントがあり、①自身の状態(体力・気力・健康・趣味)、②将来のプラン(収支プラン)を確認することで、仕事を辞めた後の不安のない生活ができるかを判断します。
これらを明確にできてるかどうが、廃業における判断のポイントです。
実行
具体的に廃業を進めるうえで、どんなことが実務として起こるのかを4つのステップで解説します。
取引先との関係の清算
1つ目は、取引先との関係の清算です。
取引先やお客さん、仕入先や外注先との関係の清算が必要となります。例えば、お客さんから見た場合、これまで下請けとして発注していた先がなくなってしまうため困ります。その場合、廃業によって関係性がいずれなくなることを明確に伝えて、代替となる取引先を紹介する等の必要があるかもしれません。
また、外注先も廃業されると困ることがあるかもしれないため、早めに伝えることで新しい仕事を探すことを伝える必要があります。
従業員の雇用の確保
2つ目は、従業員の雇用の確保です。
廃業すれば、従業員は職を失うことになります。従業員の方に対して退職金を支払うのか、もしくは新しい就職先を斡旋するのかも重要なポイントです。再就職先を斡旋するのであれば、同業の繋がりに声をかけることで、再就職先が見つかるかもしれません。
事業資産の売却
3つ目は、事業資産の売却です。
買掛金、未払金、借入金、そして清算費用を計算しますが、その前に今ある資産がどれだけ換金できるかがポイントです。売掛金であれば、客さんに早めに回収できるように促していくこともありますし、会社の中で資産価値があるものがあれば、それをいかに高く売れるかを不動産会社等と相談しながら高く売れる方法を模索します。
そして、飲食店等の店舗であれば、居抜きでそのままの内装を買い取ってくれる場合もあるため、それがどれだけ高く売れるかを交渉することも必要です。工場であれば、工場機械は中古市場があるため、中古販売業者を集めて入札させることによって高値で売れることもあると思います。
債務の清算
4つ目は、債務の清算です。
清算した1年後に、取引先から「まだ、払ってないものあるんだよって!」と請求されても困ります。その場合、自分の生活費から支払う必要があるかもしれないため、債務残額が0(ゼロ)になるまでしっかり払い切ることが必要になります。
これら4つの手続きのポイントは、コミュニケーションです。急に会社を廃業すると、関係する皆さんは困ります。しかし、事前にコミュニケーションを取りながら廃業の方法や時期を明確にすれば、相手はそれに基づいて行動することができ、人間関係を維持しながら廃業することができます。
廃業は、ビジネスというテーマ性よりも、人生というテーマ性が重要になります。人間の幸福は、社会との繋がりや人間関係が上手くいっているかどうかによって決まります。したがって、ビジネスと割り切って迷惑を掛けるのではなく、ビジネスの関係も良好に終えることで人生としての幸福度も高めることがポイントになります。
コミュニケーションを大切にしながら、廃業を実行していただければと思います。
まとめ
最後に結論です。
まず「先伸ばしはNG」「やるべきことを今決める」ということです。
先延ばしするほど、仮に事業が上手くいってない場合や少しずつ売上が目減りしてる場合には、廃業という選択肢がなくなり、倒産という選択肢になっていきます。その時、いろんな方に迷惑をかけることとなり、幸福感にも影響します。人生のテーマでいえば、人との繋がりは幸福に繋がるため、その幸福感を確保していくためには「今、何をするか」を早めに決断して、早めに行動することが重要になってきます。
そして、それを実行するには「他人、自分との約束を果たす」ということです。
日本古来、去り際に美を求める精神がありますが、他人との関係を美しく終わらせるためには、他人に迷惑をかけず、他人との信頼関係を気付くということです。また、ご自身との約束を果たし、自分自身が最高の人生を生き抜くことで、結果として自分自身と他人の幸せを守ることに繋がります。
廃業というビジネスのテーマは、幸せな人生を生き抜くといういうことで、廃業を今決断して、今行動していただきたいと思います。
最後に、円満廃業についてのニュースメディアサイト「円満廃業ドットコム」を作成しました。そちらには、円満廃業に関するテーマで、あらゆる事例やインタビュー記事を掲載しています。さらに詳しいことをお知りになりたい方は、そちらのサイトご覧ください。
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