はじめてのBCP体制構築 | 介護業界編

登壇者
株式会社ERM総合研究所 代表取締役 柴山 鉄也のプロフィール写真

柴山 鉄也
中小企業診断士

株式会社ERM総合研究所 代表取締役 柴山 鉄也
中小企業診断士 / 個人情報保護士

東京理科大学理工学部物理学科卒業
システム開発 / 事業計画策定支援 / 情報セキュリティ研修 / 業務改革(BPR)/業務改善支援
リスク管理支援:情報セキュリティアセスメント支援 / 情報セキュリティーポリシー策定支援 / 個人情報保護法改正対応支援 / 全社的リスクマネジメント体制構築支援 / BCP体制構築支援

目次

はじめに

今回は、「初めてのBCP体制構築|介護業界編」をご説明します。

2021年4月施行の「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」という中で、2024年度から介護業界でBCPの策定が義務つけられています。

概要としては、以下の通りです。

感染症や災害が発生した場合、必要な介護サービスが継続的に提供できる体制を構築する観点から、すべての介護サービス事業者を対象に、業務継続に向けた計画の策定、研修の実施、訓練の実施を義務付ける。その際、3年間の経過措置を設けることとする。

2021年から3年間の経過措置があり、2024年度からBCPの策定が介護業界で義務付けられています。

実際、2024年度から義務化と言われても、「BCPって何なんだろうか?」とか「義務化の意味がよくわからない…」「どのように取り組めば良いのだろうか?」など、分からないことだらけの介護事業者の方も多いのではないでしょうか。

今回の話は、そのような介護事業者の方に向けて、「BCPってそもそも何なのか」「何のために作るのか」そして、策定する際のポイントを簡単に説明します。読み終わった段階で、BCPが何なのか、何のために作るのか、実際にBCPを作るポイントは何かが分かるようになります。

BCPとは

BCPとは「Business Continuity Plan」の略で、業務継続計画と訳されています。

BCPとは何かというと、例えば大地震が発生した場合でも、
①重要な業務を中断させない
②または、中断しても可能な限り短い時間で復旧させる
これら① ②を実行させるための方針、体制などを手順化した計画のことを、BCPと呼んでいます。

BCPを策定する理由

事業を行っていくうえで、操業度が100%で動いてるとします。そこに地震が発生すると、建物が潰れたり、設備が潰れたり、パソコンが破壊されたりといったことが起こり、操業度が0%まで落ちてしまいます。そこから復旧作業を行い、時間をかけて操業度を回復させていきますが、これにはかなりの時間がかかります。

そこでBCPを策定することによって、100%の操業度が一定のところまで落ちても、必要不可欠な業務だけは継続することができるところで止める、これが事前対策となります。

その事前対策をしておくことによって、100%の操業度が、20%~30%は落ちない形にして、短時間で立ち上げ直し、業務を復旧させるそのための事前計画、事前の整理検証を行うことをBCPと言います。

では、なぜ介護業界が2024年からBCP策定が求められるようになったのかというと、介護サービスは要介護者や家族等の生活を支えるうえで欠かせないものです。介護サービスを止めることはできないため、継続的に介護サービスが提供できる体制を整備することが重要です。

また、仮に介護サービスが止まったとしても、早期に復旧させることができる体制作りが求められることから、BCP策定が必須となるため義務化されました。

BCPに盛り込む必要がある項目

BCPを策定する場合、BCPに盛り込む必要がある項目が、厚生労働省から「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」として出ています。

流れとしては、1番目に「総論」、2番目に「平常時の対応」、3番目に「緊急時の対応」、4番目に「他施設との連携」、5番目に「地域との連携」といった順番で作っていくこととなります。今回は、この中でも非常に重要なキーとなる、2番目の「平常時の対応」と3番目の「緊急時の対応」についてご説明します。

感染症に関しても同じようなガイドライン(介護施設・事業所における感染症発生時の業務継続ガイドライン)が出ており、感染症発生時のBCPはそちらに沿って作成してください。

なお、今回は「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」を基に、ポイントを説明します。

平常時の対応ポイント

まず、平常時の対応ポイントです。

なぜ、平常時の対応を策定しなければならないかというと、介護サービスを中断させないためには、介護サービスを提供するにあたり必要な建物、設備、ライフラインを守ることが重要になります。しかし、平常時に準備できないことを緊急時にやろうとしても対応できないため、平常時に事前準備をしておくことが重要になります。

対策ポイントは3つあり、1番目は「自施設の安全対策」、2番目は「ライフライン等の事前対策」、3番目は「災害時に必要となる備蓄品の確保」が重要になります。

次に、さらに具体的な対策を掘り下げます。

安全対策としての平常時の対応ポイントは、今できていることと今できていないことを明確にして、今できていないことに対して、いつまでに、どのような対策を取るかを記載することです。

実際の災害発生時に、実行できない計画を作っても意味がありません。したがって、まず、今の介護サービスでできていること、できていないことを明確にして、できていないことに対しては、「いつまでに、どういう対応をするのか?」を明記することで、緊急時に使える計画にしておくことが重要となります。

建物・設備の安全対策

建物に関しては、1981年以前の建築物か否かがポイントになります。1981年に新耐震基準が制定され、それ以降に建築された建物は、新耐震基準に沿っているため安全です。

一方、1981年以前に建築された建物は、何かしら補強が必要になってきます。

ただし、1981年以降に建築された建物であっても、実際には30年以上経過して老朽化している可能性もあります。新耐震基準の建物であっても、老朽化が見られる場合は補強を検討する必要があります。

天井に関しては、天井の落下防止という工事をすることも考えられます。最近では「かるてん」と言われる軽く設計された天井を採用することで、地震発生時でも天井が落ちにくい構造にすることがあります。

また、災害発生で窓ガラスが割れた場合、入居者が足を怪我する可能性があります。足を怪我すると逃げ遅れに繋がるため、窓ガラスに飛散防止フィルムを貼り、窓ガラスが割れたとしても破片が飛び散らないように対策することが重要です。

設備の耐震措置

設備・什器の破損防止対策を検討する必要があります。

地震によって背の高い棚などが倒れてくると、介護者が下敷きになる可能性があります。そういった可能性がある棚などは、突っ張り棒で転倒防止の対策を取ります。

電子レンジも、L字フックで固定することによって、落ちてくることを防止します。

また、大型テレビが転倒することを防止するために、取り付けバンドを使ってテレビ台と固定することも必要です。例え、テレビが壊れたとしても、テレビ台から落ちてこなければ、下敷きになって怪我をすることも少ないと思います。

緊急時の対応ポイント

平常時の対応したうえで、次に、それをどのように役立てていくのかという、緊急時の対応ポイントをご説明します。

災害発生時には、職員が不足してライフラインが停止することを踏まえ、重要業務をいかに優先して取り組むかがポイントになります。

対応ポイントは4つあり、1番目は「初動対応の事前対策」、2番目は「人命の安全確保対応の徹底」、3番目は「重要業務の継続」、4番目は「復旧対応」が重要となります。

風水害の緊急時の対応ポイントとしては、気象庁が出している警報レベルを参考にしながら、警報レベルに対して「どの時点で、誰が、どう判断するのか?」を明確にしていくことが必要になります。

特に、介護施設という特性上、早め早めの判断を意識することが必要になります。通常であれば、警報発令レベルで逃げれば良いところでも、介護施設では多くの高齢者を抱えているため、前の低いレベルで逃げる判断をすることも必要になります。

次に、行動基準の策定も重要となります。実際に緊急事態が起きた場合、何をしたらよいのか戸惑ってしまうため、スムーズな行動が起こせるように行動基準を作っておくことが必要になります。

行動基準には、安否確認方法、参集基準、各種連絡先等の必要な事項を「携帯カード」に整理して職員に携帯させて、首からぶら下げるようにすることで、いつでも使えるようになります。

緊急時の対応ポイントの中に、「職員の参集基準」というものがあります。

当然ですが、地震は昼に起きるだけではなく、夜寝ている時に起きることもあります。したがって、災害時の職員の参集基準を決めておく必要があります。

「どのような場合には集まらなくても良いのか」「どういった人が集まらなければならないのか」「どういう時間帯だったら集まらなくても良いのか」が明確に決まっていると、職員も動きやすくなります。

また、地図を利用することで、被災地でも徒歩で参集できる職員の数を確認しておくと良いでしょう。徒歩圏内の参集基準を策定しておくことで、災害時でも職員が集まりやすく、連絡が取れなくても自発的に動くことができるようになります。

まとめ

今回ご説明した内容は、厚生労働省のホームページにガイドラインサンプル(介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン)が用意されています。

そのガイドラインとこの動画を見ながら作業を進めることで、自社内でBCP計画を策定することができます。

講師に無料相談をする

ビジネス処方箋に登壇している講師に無料相談を行うことができます。
お問い合わせいただきましたら、ご相談内容に適した士業・経営者の講師をご紹介いたします。

このフォームに入力するには、ブラウザーで JavaScript を有効にしてください。
講師の多忙により、ご希望いただいた講師が対応できない場合がございます。予めご了承ください。

執筆者

株式会社ERM総合研究所 代表取締役 柴山 鉄也
中小企業診断士
個人情報保護士

東京理科大学理工学部物理学科卒業

・システム開発
・リスク管理支援
 - 情報セキュリティアセスメント支援
 - 情報セキュリティーポリシー策定支援
 - 個人情報保護法改正対応支援
 - 全社的リスクマネジメント体制構築支援
 - BCP体制構築支援
・事業計画策定支援
・情報セキュリティ研修
・業務改革(BPR)/業務改善支援など

目次