紙芝居で学ぶ!中小企業の人財応募率・定着率アップアイデア集 | Part2

登壇者
弁護士 中小企業診断士 藤堂 武久のプロフィール写真

藤堂 武久
弁護士/中小企業診断士

登録弁護士として活動を開始したが、多くの人々が手遅れになってしまっており、役に立てないケースを多く経験した。トラブルを予防し未然に防ぐ活動をすべく、中小企業診断士として、情報発信活動、講演・研修、経営相談業務、人財の採用・定着・育成に携わる。
・延べ講演・研修回数635回超
・延べ受講者数14,251名超
・延べ経営相談回数572回超 (2023年4月末時点)


本シリーズは五部制で、上記の動画は「Part.2」です。

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目次

はじめに

「紙芝居で学ぶ中小企業のための人材応募率・定着率アップアイデア集パート2」をお伝えいたします。本日のテーマについてよくいただくご相談は、「数多くの取り組みや情報がある中で、どこから始めればよいのか?」という点です。

このようなご質問をよく受けるのですが、確かにその答えを一概に示すことは難しいです。実際に試してみて探ることも一つの方法ですが、私が最もお勧めするのは、まず戦略全体の構想を考えることです。全体像を把握した上で、その後に細かな実施項目を検討する方法を推奨しています。したがって、何から始めるべきかというご質問については、まず全体を見渡すことが重要であるとお伝えしております。

人材の採用・定着のケーススタディ

今回は人材の採用および定着に関する相談例をご紹介いたします。

ここに登場するのは、とある建設会社で部長職を務めるA部長です。

A部長は日々忙しい業務の中で、会社を少しでも良くしようと、毎日一生懸命に努力しています。しかし、最近、A部長は困惑した表情を浮かべています。実はA部長には、いくつかの悩みがあるのです。

A部長

うーん…最近入社してくれた人が割と早いタイミングで退職してしまうことが増えているんだよな…。昔みたいに、全員一眼となって頑張っていくっていう雰囲気ないんだよな…。
昔だったら求人募集すればすごい応募があったのに、今じゃ全然応募がない。応募があってもドタキャン。
それにうちの会社平均年齢がかなり高くなってきてるから、今後の世代交代を考えて若い世代にも入社してもらいたいんだが、一体どうしたらいいんだろうか…。

A部長

そうだ、先日所属している建設組合の勉強会を担当してくれた、研修講師の先生に相談してみよう。

そこで、A部長は先日参加した建設組合の勉強会でお世話になった、研修講師のBさんに相談することにしました。

B先生

こんにちは、A部長。先日は勉強会お疲れ様でした。楽しい勉強会を企画してくださり、ありがとうございました。

A部長

いやいや、こちらこそありがとうございました。実は今日は一つご相談したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?

B先生

はい、もちろんです。どういったご相談でしょうか?

このとき、A部長は先ほど述べた退職者の増加や求人応募の減少について、研修講師のBさんに相談しました。

B先生

なるほど、それは現在非常に多くの企業が直面している問題の一つです。ただし、当然ながら個別の会社の状況によって異なりますので、完全な解決策というものは一律には存在しないと思います。
しかし、もしよろしければ、今日は簡単に実践できる考え方のヒントをお伝えすることは可能です。

A部長

はい、ぜひともお願いします。

B先生

現在、多くの企業で退職者の増加や求人応募の減少といった悩みがよく聞かれます。この問題については、さまざまな理由が考えられます。
例えば、価値観の変化や転職の容易さ、さらには人口減少などが挙げられます。いずれにしても、かつてのように募集を出せば人が集まる時代ではなくなってきました。そのため、今後は人材の採用や定着にどれだけ注力するかが重要なポイントになると考えられています。

B先生

企業が営業活動を通じて売上を上げることと同様に、あるいはそれ以上に、仲間を集めることが重要な課題となってきています。
人材の採用と定着についても、さまざまな手法を駆使して成果を出していく必要があります。

B先生

そこで、よく用いられる考え方の枠組み、いわゆる「フレームワーク」と呼ばれるものの中から、今回は「ステップ」というフレームワークをご紹介いたします。
この「ステップ」というフレームワークを、例えば採用と定着のケースに当てはめた具体的なステップを作成しましたので、こちらをご覧いただければと思います。

A部長

おお、ぜひとも見せて欲しいです。

ステップフレームワーク
ステップフレームワーク
B先生

こちらが「ステップ」フレームワークの図です。ご覧の通り、階段状になっているのが特徴です。
この「ステップ」フレームワークを用いて、採用と定着の例を作成しましたので、これに基づいて解説を進めさせていただきます。

B先生

最初にご覧いただきたいのは、左下の「ステップ1」です。
ここには求人情報やハローワークなどが示されています。応募者はこの段階からスタートすると考えられます。最近では、多くの方がスマートフォンを持っており、求人情報から「ステップ2」の会社ホームページや採用ページを確認するケースが多いです。

B先生

次に、「ステップ3」として、見学、勉強会、職場体験、ランチ交流会、インターンシップなどの機会が設けられます。ここで応募者は実際の職場環境や雰囲気を体験することができます。
その後、「ステップ4」で面接を受け、さらに「ステップ5」で採用が決まります。そして、「ステップ6」で実際に定着し、最終的には「ステップ7」で幹部候補として成長することが期待されます。

B先生

このように7段階のステップで進行していくプロセスを示しています。
このフレームワークを基に、皆様にとっても有用なアプローチを見出していただければと思います。A部長、これをご覧いただいて、どのような印象をお持ちでしょうか。また、ご感想をお聞かせいただけますか?

A部長

はい、これは非常に分かりやすいですね。
これを見て気づいたのは、私は求人募集をすればすぐに採用できると思い込み、ステップを飛ばしていたことに気づきました。あるいは、ステップが数段しかない簡易なプロセスを考えていたことに気づきました。しかし、この図のように複数のステップを設けた方が、入社してもらいやすいのではないかと感じました。

B先生

私も同様に考えています。細かなステップを設定することで、ステップごとの分析がしやすくなります。そして、分析がしやすいと改善が行いやすく、その結果、より効果的な成果を得ることが可能になると思います。
他には何かお感じになったこととかございますか?

A部長

はい、それとこのステップを見て感じたのは、採用から定着までがしっかりと繋がっているという点です。採用して終わりではなく、その先を考えておくことが非常に重要であることに気づきました。

B先生

なるほど、それはとても良い気づきですね。部長、なぜそのようにお考えになったのでしょうか?

A部長

はい、というのも、せっかく採用してもまた退職されると、延々と採用と退職を繰り返すことになり、結果としてお金や時間、労力が無駄になってしまうと感じたからです。

B先生

おっしゃる通りです。採用と退職の繰り返しは確かに辛いものです。
もちろん、人が退職しない職場というのはほとんどないと思いますし、合う合わないもありますので、退職が全て悪いとは言えません。
しかし、せっかく入社していただいた方には、できるだけ長く明るく楽しく一緒に働いてもらいたいというのが本音ですよね。

A部長

はい、その通りです。ですので、採用活動を行う一方で、人材が定着する確率を高めるための努力も必要だと気づきました。

B先生

その通りですね。
退職の原因として、最も多いのは社内の人間関係であるとよく言われています。そのため、社内の人間関係を良好に保つことは重要です。チームワークやコミュニケーションを強化するための仕組みや制度、研修を継続的に実施することが定番となっています。これについてもぜひ考慮してみてください。

B先生

ちなみに、仕組みや制度にユニークな名前を付けて求人票やホームページでアピールすることには、実は二重の利点があります。

A部長

え、仕組みや制度にユニークな名前を付けるのですか?それはどうしてですか?

B先生

はい、例えば求人票に仕組みや制度のユニークな名前や特記事項が記載されていると、それを見た方が興味を引かれ、『これって何だろう?面白いことが書いてあるな』と感じることがあります。そうなると、その方がホームページを見てみたいと思う可能性が高まります。スマートフォンなどでホームページをチェックしようと思う方が増えるからです。
ホームページでは文字だけでなく、写真や動画を使ってさらに詳細な情報を提供できるため、求人票だけのアピールよりも多くの情報を一度に伝えることができます。

A部長

なるほど、求人票だけでなく、その次にホームページでアピールするわけですね。

B先生

はい、その通りです。さらに、求人票だけで選んでもらうと、応募者はどうしても給与や休暇日数など、具体的な条件で判断しがちです。
これだけで競争するとなると、大手企業には勝ちづらい面もあります。
ですので、お金以外の会社の良さ、例えば『面白い会社だな』とか『成長できそうだな』、『やりがいがありそうだな』といった点も伝えたいと考えています。

B先生

求人票から直接面接に進んでもらうよりも、まずはホームページを見てもらうことをゴールに設定し、ホームページでは文字だけでなく写真や動画も活用して、会社の雰囲気や成長可能性などをアピールする方が良いということです。

B先生

求人票だけでの勝負ではなく、まずはホームページを見てもらうためのハードルを低く設定し、その後で詳細な情報や会社の魅力を伝える方が、より多くの応募者を引き付ける可能性があります。最初のゴールを小さく設定することで、より多くの人に関心を持ってもらえるかもしれません。

A部長

本当にそう思いますね。

B先生

部長、他に何かご感想はございますか?
先ほどご覧いただいた「ステップ」フレームワークについて、特に3段目のステップに含まれる会社見学、勉強会、職場体験、ランチ交流会、インターンシップなどについて、お考えをお聞かせいただけますでしょうか。

A部長

はい、そうですね。
この図のように、面接の前に見学や体験などのステップを設けることで、応募者の方が気楽に参加できるのではないかと思いました。これにより、応募者が自分に合うかどうかを判断しやすくなるかもしれません。

B先生

その通りです。
最近では、こうしたステップをあえて取り入れる企業が増えています。求人票からいきなり面接を求めるのではなく、まずは見学や体験だけでも構わないといったハードルを低くすることで、応募者が気軽に会社の雰囲気を確認できるようにしています。
これにより、応募者の不安を軽減し、会社側も応募者の個性や人柄を事前に把握できるため、ミスマッチを防ぐ可能性が高まります。

B先生

さらにマーケティング的な視点から見れば、今すぐ転職を考えていない方とも関係を築くことで、将来的に転職のタイミングが合ったときに再度接触する機会を持つことができます。

A部長

なるほど、その考え方は面白いですね。
今まで求人費用はその時に採用できなかった場合、すべて無駄になってしまうと思っていましたが、こうして将来的な転職人材とも出会う機会と考えることで、求人表を長期スパンで回収するという見方もできるわけですね。

B先生

その通りです。採用できなかった場合に全てが無駄になってしまうのはもったいないので、面接前の受け皿を作ることで、求人費用を長期的に回収していくというアイデアも有効です。

B先生

まだまだお伝えしたいことは多くありますが、さまざまな企業が日々工夫やアイデアを実践しており、それらを参考にすることで、自社に最も適した方法を見つけていくことが重要です。
本日はお伝えした「ステップ」フレームワークを元に、自社の状況に合わせて一つ一つ具体的なオリジナルのステップを一緒に作り上げていくことをお勧めします。

A部長

なるほど、よくわかりました。ありがとうございます。頑張ります。

今後の戦略の全体像を考える

ご質問で「何から始めたらいいのか?」とお聞きいただいた際には、私が毎回お伝えしているのは、様々な選択肢がある中で、まずは今後の戦略の全体像を考えることをお勧めしています。

ステップフレームワーク(詳細版)
ステップフレームワーク(詳細版)

このステップは、正しいかどうかというよりは一例としてご参考にしていただくものであり、自社に合わせたオリジナルの採用・定着ステップを作成することが最も重要です。

また、よくいただくご意見として、採用と定着を別々のものと考えていたが、「ステップを見ると採用と定着は一連の流れとして考えるべきだと」気づいたというお声をよくいただきます。

さらに、SNSの位置付けについての質問もよくあります。SNSは、初期の接触段階、つまりステップの一番左下に位置付けられます。TikTokやYouTubeショートなどを利用して、会社の動画が面白いと感じた応募者が、さらにその会社の詳細を調べるためにホームページにアクセスするという流れが増えています。

これにより、従来のネット上の求人情報やハローワークからの接触だけでなく、SNSを活用して初期の接触を行い、そこからホームページや採用ページへと誘導する形が一般的になっています。ホームページには、見学会や勉強会の案内、社長とのランチ会など、さらにステップを進めるための情報が提供されると良いでしょう。

3段目のステップには、見学会や勉強会、社長とのランチ会などの申し込みフォームがあります。このような受け皿を設けることで、いきなり履歴書を書いて面接に来るよう求めるのではなく、ハードルを下げることが可能です。たとえば、現在他の仕事に就いていてすぐに転職できない方でも、見学や勉強会には参加しやすくなります。このように、面接だけが唯一の選択肢ではないとすることで、反応率を上げることができます。

次に、4段目の面接を経て採用が決まった後、入社した方が長く定着するための取り組みが重要です。最近では、採用後の定着に注力する企業が増えており、定着率の向上が求められています。定着メンバーが幹部人材として成長するための幹部教育も必要です。

特に定着のためには、コミュニケーションやチームワークの強化を目的とした研修や仕組みの構築が重要です。コミュニケーション研修やチーム研修は以前から効果が証明されていますが、現在も非常に有効です。また、定着率を高めるためのユニークな制度を導入し、その制度にユニークな名前を付けることで、求人情報に差別化を図ることができます。こうすることで、採用の応募率にも良い影響を与えるとともに、定着率の向上にも繋がります。

つまり、定着率を上げるための取り組みは、採用活動にも好影響を与えることが多いため、一石二鳥の戦略として効果的です。定着のための仕組みを整える際には、そのユニークさをアピールに活かし、求人情報での差別化を図ることをお勧めします。

心理学でよく言われる「ツァイガルニク効果」という言葉があります。これは、情報が不完全であるほど、人間はその続きが気になるという心理的な現象です。たとえば、「続きはWebで」や「続きはCMの後で」といったフレーズが使われるのも、この効果を狙っています。求人情報でも同様に、特記事項や特記自公欄にユニークな制度の名前だけを書いておくと、読者が「これは何だろう?」と興味を持ち、結果としてホームページに誘導できる可能性が高まります。

全てを詳細に説明するのではなく、あえて不完全な情報を提供することで、受け手の好奇心を刺激し、次のアクションを促すわけです。このアプローチを活用して、求人情報や採用ページに工夫を凝らすことができます。

まとめ

本日お伝えした中で最も重要なのは、やはり「ステップ」フレームワークの図です。

全体像を把握し、それに基づいて自社に合ったオリジナルのステップを作成することが、最も本質的なアプローチです。具体的な施策や戦略は場面によって異なりますが、この全体像を理解し、実践することが非常に重要です。

ぜひ、このステップの図を参考に、自社の状況に合わせたオリジナルのステップを少しずつ作り上げていってください。

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執筆者

弁護士 / 中小企業診断士 藤堂 武久

2008年 弁護士登録
2013年 独立開業
2013年 中小企業診断士

登録弁護士として活動を開始したが、多くの人々が手遅れになってしまっており、役に立てないケースを多く経験した。
トラブルを予防し未然に防ぐ活動をすべく、中小企業診断士として、情報発信活動、講演・研修、経営相談業務に携わる。
労働問題に携わっていたことから、関連して、人財の採用・定着・育成に携わるようになる。

延べ講演・研修回数635回超
延べ受講者数14,251名超
延べ経営相談回数572回超 (2023年4月末時点)

・取得資格
心理学検定1級
消防設備士(甲1)
第2種電気工事士
2級建築施工管理技士補
マンション管理士
管理業務主任者
宅地建物取引士
行政書士

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