パワハラ予防対策セミナー | Part1パワハラ防止措置義務の相談例

登壇者
弁護士 中小企業診断士 藤堂 武久のプロフィール写真

藤堂 武久
弁護士/中小企業診断士

登録弁護士として活動を開始したが、多くの人々が手遅れになってしまっており、役に立てないケースを多く経験した。トラブルを予防し未然に防ぐ活動をすべく、中小企業診断士として、情報発信活動、講演・研修、経営相談業務、人財の採用・定着・育成に携わる。
・延べ講演・研修回数635回超
・延べ受講者数14,251名超
・延べ経営相談回数572回超 (2023年4月末時点)

本シリーズは五部制で、上記の動画は「Part1」です。

目次

はじめに

今回は「紙芝居で学ぶ|パワハラ予防対策セミナー」についてご紹介いたします。

今回テーマは、現在非常に注目されているパワハラに関するものです。まず、最初のテーマとして「パワハラ防止措置義務の相談例」についてお話しさせていただきます。難解な法律をできるだけ分かりやすくお伝えするために、物語形式、いわば紙芝居型でご紹介いたします。本日もこの紙芝居型の形式で物語をお伝えし、その後に解説を加える形で進めさせていただきます。

パワハラ防止措置義務の相談例

こちらはA部長です。A部長はある中小企業で部長として毎日一生懸命に働いていました。

A部長

最近、パワハラに関する法律が新しくなったという話をよく聞くが、一体どういうことなのだろうか。以前からパワハラが問題視されていたことは知っているが、何か新しい変化があったようだ。
よし、専門家の先生に相談してみよう。

B先生

A部長、お世話になっております。
今日はどうされましたか?

A部長

どうも先生、いつもお世話になっております。
今日は一つ教えていただきたいことがあります。最近、パワハラに関する法律が変更されたと聞きましたが、具体的に何が変わったのか知りたいと思いまして。

B先生

なるほど、わかりました。
おそらく、いわゆる『パワハラ防止法』に関するお話だと思いますので、その点についてお伝えさせていただきます。

A部長

よろしくお願いします。

B先生

まず、2022年4月1日から施行された労働施策総合推進法により、全ての事業主にはパワハラ防止義務が法律上課せられることになりました。
具体的には、この法律の第30条の2第1項において、『事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他雇用管理上必要な措置を講じなければならない。』と定められています。

B先生

まずはその内容を理解するために分けて考えてみましょう。
前半部分は、いわゆる職場におけるパワーハラスメントの定義を示している部分です。ポイントは以下の3つです。
第1に『職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって』、第2に『業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより』、第3に『雇用する労働者の就業環境が害される』ものであることです。
この3つのポイントを把握しておくことが重要です。

B先生

次に、条文の後半部分について説明します。
後半部分では、パワハラ防止措置義務が新たに定められたことが示されています。これにより、中小企業を含む全ての企業に以下の3つの義務が課せられることになりました。
第1に『当該労働者からの相談に応じ』、第2に『適切に対応するために必要な体制の整備』、第3に『その他の雇用管理上必要な措置』を講じることです。
このように3つのポイントに分けて考えると理解しやすいでしょう。

B先生

このパワハラ防止措置義務は、全ての事業主に課せられた義務です。すべての企業がこの義務を遵守しなければならなくなりました。
この義務を怠ると、義務違反となる可能性があり、さらにパワハラが発生した場合には、事業主の責任が重くなる可能性もあります。したがって、企業はこの新たな義務をしっかりと守る必要があります。

A部長

なるほど、パワハラ防止措置義務が新たに法律上の義務となったのですね。これは確かに対応しなければなりませんね。

B先生

はい、その通りです。ちなみに、もう一点ご紹介させていただきます。
この法律の第30条の3第2項を見ていただくと、『事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない』と定められています。
この条文は努力義務とされていますが、研修の実施やその他の配慮が求められることが新たに定められたのです。

B先生

ここで言われている『優越的言動問題』というのは、前述の定義に該当するものです。つまり、全ての事業主は、努力義務として研修を実施し、必要な配慮を行うことが求められるようになっています。
この点をまずは把握しておくことが重要です。

A部長

おお、そうだったのですね。色々と対応しなければならないのですね。しかし、具体的に何から始めれば良いか悩みますよね。

B先生

そうですね。確かに、法律の条文だけでは具体的なイメージを掴みづらいですよね。そのため、この法律に基づく指針やガイドラインも役立ちます。厚生労働省からは『パワーハラスメント防止のための指針』が公表されており、これらを参考にすることで、具体的な対応策が見えてくると思います。

B先生

この指針によると、パワハラ防止措置にはいくつかの重要な内容が含まれています。まず、第1に『事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発』が挙げられます。
具体的には、就業規則やポスター、社内報、会社のホームページなどに方針を反映し、社員に周知することが推奨されています。このような取り組みを実施することで、パワハラ防止の意識を高めることができるでしょう。

A部長

なるほど、確かにそれは重要ですね。早速取り組んでみようと思います。

B先生

他にも、『相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備』が求められています。
具体的には、相談担当者の選任や相談制度、相談窓口、相談マニュアルの整備が含まれます。相談制度については、匿名での相談や対面でなくメールでの相談など、多様な方法を検討することが考えられます。
また、社内での相談が難しい場合には、外部の委託先を設けることも一つの方法です。

A部長

なるほど、検討すべき点がたくさんありそうですね。

B先生

さらに、『職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応』が求められています。
具体的には、事実関係を迅速かつ正確に確認し、その後、適切な措置を速やかに講じることが必要です。これにより、問題の早期解決と効果的な対応が可能となります。

A部長

なるほど、それも確かに重要なことですね。

B先生

この指針については、インターネット上で確認できますので、ぜひご覧ください。他にも参考になる情報がたくさん記載されています。
例えば、パワハラの定義に関連する知識や、パワハラ6類型と呼ばれる部分に関する詳細な説明なども含まれています。また、コミュニケーション研修やマネジメント指導に関する研修の重要性についても述べられており、これらの情報を参考にすることで、より効果的な対策を講じることができるでしょう。
さらに、厚生労働省のホームページには具体的な例や書式が公表されており、とても分かりやすい資料が多数提供されています。

A部長

なるほど、分かりました。ありがとうございます。
それにしても、法律はしばしば改正されるため、守らなければならない法律が増えることが負担になることもありますよね。

B先生

確かに、本業に120%集中している中で、新たな法律対応が求められるのは大変なことだと思います。そこで、法律対応のモチベーションを上げるためのアプローチについてもお話しすることが有益かもしれません。

A部長

是非ともお聞きしたいです。

B先生

お伝えする際によくお話しする内容として、まず『パワハラが起きてしまうとどんな悪いことが起きるのか』を考えていただくことをお勧めしています。
そして、次に『パワハラがなくなったらどんな良いことがあるのか』を考えることも重要です。この二点をじっくりと考えることが、対策に対するモチベーションを高める一助となります。

A部長

なるほど。パワハラが発生すると、まず第1に被害を受けた人のモチベーションが大きく下がります。社員が充実した毎日を送ることは企業にとっても大切であり、パワハラによって悲しい思いをさせることは望ましくありません。また、仕事のパフォーマンスが低下することも避けるべきです。せっかくの給与が無駄になってしまうのは、経営的にもマイナスです。

A部長

さらに、メンタル面にダメージを受ける社員もおり、以前、メンタルの問題で1年半の休職の末に退職した社員のケースもあります。このような場合、会社はその社員の社会保険料を支払い続けなければならず、経営上の負担が増します。
また、パワハラが原因で会社の責任問題に発展するリスクもあります。せっかく入社してくれた社員が退職してしまうのは、誰にとっても損失です。

A部長

一方で、パワハラがなくなれば、職場の雰囲気が良くなり、仲良く仕事ができる環境が整います。これにより業績が向上し、成果を全員で還元し合うことができます。結果的に、全員が豊かになり、みんなが得をすることになります。このように、パワハラの防止がもたらすメリットを考えると、より積極的に取り組むべきだという気持ちになります。

A部長

確かにパワハラが起きることでどれだけ悪いことがあるか、またパワハラがなくなればどんな良いことがあるかを考えると、今すぐにでも対策を進めたいという気持ちになりました。

B先生

なるほど、それはとても良かったです。

A部長

わかりました。早速行動に移してみます。頑張ります。

まとめ

それでは、今回の物語に関連して、少し復習を行いたいと思います。

まず、労働施策総合推進法に基づき、2022年4月1日から全ての事業者に対してパワーハラスメント防止措置が法律上の義務として課せられることとなりました。この法律は全ての企業、特に中小企業にも適用されるもので、守らなければならない義務です。

また、先ほど触れた通り、特に重要な条文は「第30条の2第1項」であり、その前半と後半が重要です。前半ではパワーハラスメントの定義が示されており、後半では新たに法律上の義務が規定されています。前半の定義は職場におけるパワーハラスメントをどのように判断するかの3つのポイントを示しており、後半の義務はパワーハラスメント防止措置に関する具体的な義務について触れています。

さらに、法律だけでなく、ガイドラインも発表されており、こちらも確認していただくことをお勧めします。ガイドラインには、事業主の方針の明確化やその周知・啓発、相談に応じて適切に対応するための体制の整備、職場におけるパワーハラスメントに対する事後の迅速かつ適切な対応などが求められています。これらの点を実践することが重要です。

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執筆者

弁護士 / 中小企業診断士 藤堂 武久

2008年 弁護士登録
2013年 独立開業
2013年 中小企業診断士

登録弁護士として活動を開始したが、多くの人々が手遅れになってしまっており、役に立てないケースを多く経験した。
トラブルを予防し未然に防ぐ活動をすべく、中小企業診断士として、情報発信活動、講演・研修、経営相談業務に携わる。
労働問題に携わっていたことから、関連して、人財の採用・定着・育成に携わるようになる。

延べ講演・研修回数635回超
延べ受講者数14,251名超
延べ経営相談回数572回超 (2023年4月末時点)

・取得資格
心理学検定1級
消防設備士(甲1)
第2種電気工事士
2級建築施工管理技士補
マンション管理士
管理業務主任者
宅地建物取引士
行政書士

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