自らの体験を実話で語る!これから事業承継していく経営者に伝えたいこと!
瀬口 力也
中小企業診断士 /
事業継承士
恵藤計器株式会社 代表取締役
2002年から12年間、NTTドコモにて販売企画やSV業務に従事し、代理店制度・政策の構築や販売チャネルの顧客満足度向上に努める。
義両親の説得のもと、2014年からは約70年続く中小企業の後継者として社員の平均年齢50歳の組織に中途入社。中小企業診断士とMBAを取得したが、理論だけではなく、実践の中で人と組織の難しさを実感。代表取締役としての経営の中でようやく軌道に乗る。この経験から事業承継における様々な課題や悩みに対して伴走型のサポートを行う。
本動画は二部制となり、本動画は後編です。前編は下記からご視聴ください。
前回に引き続き、千葉県千葉市で恵藤計器株式会社を経営されている瀬口力也社長に、「自らの体験を実話で語る!これから事業承継していく経営者に伝えたいこと!」と題してお話を伺いました。
経営者として成長や売上・利益アップも考えていかないといけない、しかし従業員に変化への抵抗意識があったと聞きました。どうやって変革してきたのですか?
自動化された計量器、ハカリは、従来弊社が取り扱っていたものよりも付加価値が高いのですが、これらの製品群は高度な技術・知識が必要で、新しいことを学ばないと取り扱いできないし、メンテナンスもできないといったことが目に見えていました。技術習得して取り扱うことができれば、もっとたくさんビジネスチャンスがあるということを、私自身が早期に気づいて従業員に呼びかけていました。
ところが、長年ハカリの販売検査だけをやってきた会社だけあって、伝統や信頼、誠実さはあるものの、超強烈な現状維持バイアスが働いていて、チャレンジすることへの抵抗感がものすごく強かったのです。やりたくない理由を並べて、なかなか動いてもらえない状態が続いたのですが、前回お話した通り、粘り強く従業員との対話を続けてきた結果、「この人、本気なんだな。やる気あるんだな」と理解してくれる人が出始めました。
自動化計量器の知識や技術を持ったメーカーに修行に行ったり、現場に同行して勉強させてもらったり、粘り強くやってきたおかげで、自社でも付加価値の高い製品を扱えるようになりました。
また、各部門から代表者を募って、社内全体を良くするような営みを行うプロジェクトチームを立ち上げているのですが、これも当初は相当違和感がありました。
従業員からは、「なんですか、それ?」というような態度をとられてしまい、特にリーダーである中堅社員からは、「忙しいので、仕事以外のこんなことをやらされたくない」という態度をとられてしまったのです。
こちらも面談などで私の想いを言い続けて、くり返し活動した結果、最近では私が口を出さなくても、従業員自ら社内に発信して自走できるようになってきました。
会社経営として権限委譲を進めているそうですが、そのためにどんなことを行っていますか?
私がすべてを決めるのではなく、「どんどん従業員の皆さんで決めて、勝手にやってください」という従業員への権限委譲を進めて、最終的に「全員経営」という形に近づけばいいかなと思っています。
社長一人が現場で起こることすべてを把握して、適切な判断を下すなど不可能です。できるだけ従業員一人一人が、「恵藤計器としては一体何が大事で、この局面において恵藤計器だったらこうするべきだ。社長だったらきっとこう言うだろう」といったことを予測した上で、自律的に動いてもらうのが一番よいわけです。
意思決定から身を引いて従業員に任せていくことを、ここ3年ぐらいやっています。
任せていく上で必要なことは、「恵藤計器として何が良いことなのだろう」という根本的な価値観のところです。『「はかる」を通じて、豊かな暮らしづくりのお手伝いをします』というのが我々の経営理念であり、この恵藤計器の存在理由だと思っています。
例えばお客様からの問い合わせやクレームをいただいた時に、経営理念を各従業員が念頭に置いた上で、「自分は恵藤計器の従業員としてどのように立ち振舞って対応するべきなのだろうか」ということを考えることが重要だと思っています。そのための理念やビジョンをしっかりと浸透させていくこと、理念やビジョンに即して任せるということですね。
失敗しても怒らない、やったことの責任は最終的に会社が取る、従業員が好きなようにやって、各部門で上司、部長を中心になって日々判断していく。これが私の考える「全員経営」です。
社内の知識やノウハウ共有、従業員の育成について、どのようなことを行っていますか?
会社を経営していくにあたって非常に大事にしている価値観として、「人を育てる」というものがあります。「人を育てる」にあたって、これまで仕事を頑張ってくれた先輩社員、あるいはベテラン社員のスキル、知識、能力というものを、いかにして後の世代に引き継いでいくかがとても大事なわけです。
弊社はハカリのメンテナンスや修理を主な生業としていますが、この技術やノウハウは現場のサービスマンの部分暗黙知になっています。例えば、現場で計量に狂いが生じているアナログのハカリについて、どこをどれぐらい触れば直るのかは感覚に近いものとなっているのです。
ベテランから若手への技術移転には、大きく二つ問題があると思っています。
まず一つは、手で作業することが得意なベテランの職人は、自分の持っているノウハウや技術を論理的に人に伝えることが苦手です。なぜ自分にこれができているかというのをよく理解できてないので、口で人に説明することが苦手だという人が多いのです。
もう一つは、ベテラン社員から見て、「若手を自分と同じスキルにまで育てあげる」というインセンティブが働かないのではないかと思っています。その理由は、サービスマンあるいは職人のチームの中で、他の人と自分とではできることに差があるから、「俺が一番仕事ができるんだ、俺がエースなんだ」と組織の中で大きな顔ができるからです。
現在、施策としてやっているのが、スキルを持っているベテラン社員に育成したい若手社員を1日中同行させて、およそ3ヶ月間、朝から晩まで毎日同じ現場で一緒に作業をさせています。若手社員には、その日見たベテラン社員の動き方や考え方、言動についてメモを取らせ、「なぜそうしたのか」、「自分だったらどうする」といったことを書き溜めてもらうのです。
そうすると、論理的に説明することができない技術について、若手社員は毎日眺めて書式に書き溜めていくことになりますから、ある程度は形式知化されます。
また、毎日同じ現場に行って一緒に昼食や休憩をとることを繰り返していると、疑似的な師弟関係みたいなものができて、「俺が教えて、あいつは育ってくれた」という喜びもベテラン社員に湧いてきます。本来だったら教えなかった個人ノウハウも伝授するような効果もあると感じています。
職人芸的な暗黙値を形式知化しつつ、形式知化できないものは暗黙知のまま受け継ぐ、これが私の考える「人を育てる」ための効果的な施策です。弊社だけでなく、暗黙知が多い技術者の次世代の育成には共通的に使える気がしています。
これから事業承継をしていく後継者に対し、メッセージやアドバイスがあれば教えてください
基本的に事業承継すると決めたら、「待ち」の姿勢をとらない方がよいと思います。先代が何かをアクションを起こしてくれるのを待つのではなく、経営権や代表権、金融機関との交渉など、いつ自分に渡してもらえるのか自ら主体的に情報を取り、予定を決めていくことをした方がよいと思います。
事業承継の前後では、どの会社も組織が安定しなくなる時期を迎えると思っています。事業承継である以上、必ずその時点で存在している商売とそれを担っている組織があります。既存の組織の中には上下関係があって、その頂点に先代がいるという構造が出来上がっているわけです。
後継者というのは、出来上がっている構造の中に入って、既存の組織との軋轢、摩擦みたいなものを最小限にして、人間的な信頼を従業員から獲得する必要があります。また、先代がいる会社であれば、先代の意向も踏まえながら、うまくバランスをとって、組織を自分の意図通りに動かして会社を成長させていく必要があります。
私の会社の従業員は幸い、私にものすごく不満があっても、現場では誠実に仕事をしてくれていたので助かりました。中小企業によっては職場放棄や、一斉に辞めてしまうといったこともあり得ると思います。そうすると、事業承継を境に、せっかく順調に行っていたビジネスがガタガタになることも可能性としてはあり得ます。
この事業承継のフェーズを、いかに円滑にうまく乗り切ることができるかが、多くの中小企業の浮沈に関わるような大きな課題ではないかと思っています。
いかにして事業承継のフェーズをうまく乗り切って、後継者の意図通りに会社を動かすことができるようになるか、私の失敗談や経験、知恵などを使って支援いければと思っています。生々しい具体的なお話することもできますし、ある程度勉強もしてきていますので、アカデミックな理論の裏付けなどもお伝えできると思います。
シンプルに愚痴を言い合ったり、聞き合ったりする相手としても使っていただけると思いますので、機会があれば、世の中の中小企業の後継者をできるだけ支援していきたいと思っています。
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