数々のヒット商品を開発した経営者に聞く︕︕新商品開発のポイント「貼ってはがせる五線テープ」「ファイルのまま書き込める譜面BOOK」編

登壇者
一般社団法人日本音楽レ・クリエーション指導協会 理事長 堀口直子のプロフィール写真

堀口 直子
経営者

株式会社アリア 代表取締役 / 社団法人認知症高齢者研究所研究員
一般社団法人日本音楽レ・クリエーション指導協会 理事長

武蔵野音楽大学ピアノ科卒業。第36,37,38回長崎県高校生音楽コンクール3年連続金賞受賞。第22回東京国際芸術協会新人演奏会オーディションに合格、同披露演奏会に出演。
事業内容:出張生演奏(音楽家派遣) / 講演 、セミナー、イベントの企画、制作 / 音楽に関する研究、調査 / 音楽小物、文房具の開発、販売

本シリーズは二部制で、上記の動画は「Part.1」です。

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目次

堀口社長 自己紹介

渡邊社長

今日は、株式会社アリアの代表取締役、堀口社長をお招きしまして、商品開発のポイントをお話ししていただきたいと思います。

堀口社長は音楽関係のビジネスをされていて、10年ぐらい前から数々のヒット商品を生み出し、自社開発して販売をしています。最近は家の中でカラオケができる装置も開発して、なんとクラウドファンディングで1400万円も応援購入いただいたそうですね。

堀口社長

ありがとうございます。ただ、希望の調達金額は、本当は2000万だったのですが、残念ながら少し届きませんでした。

渡邊社長

でも、1400万円も応援購入頂いたことも非常にすごいことですね。ということで、まず堀口社長の自己紹介をお願いしたいと思います。

堀口社長

はい。よろしくお願いします。堀口直子と申します。長崎県の佐世保市で生まれ、4歳からピアノを始めました。私がピアノを習っていた師匠の方が、武蔵野音大出身だったということがあり、8歳で武蔵野音大に行くと決めました。そこからは、音楽に強い高校に行って、武蔵野音大のピアノ科に入り、将来はピアニストを目指しておりました。しかし、23歳の時に挫折をして、ピアノを弾くのはやめることにしました。その後は、自分が弾くよりも音楽家のプロデュースや、音楽家のために演奏の場所を作る方が楽しいと思い始め、起業を志しました。24歳の時に、あるきっかけで経営塾に入り、1年ほど勉強をして、25歳で株式会社アリアを起業しました。

渡邊社長

現在の事業内容を教えていただけますか?

堀口社長

事業の柱はいくつかあります。一つは、「出張生演奏」です。音楽をたくさんの人に聴いてほしい、たくさん広げたい、音楽で人を笑顔にしたい、元気にしたいという思いから始めました。
二つ目は、今では、音楽が持つ力を活かして、認知症予防やメンタルヘルスに役立てようと重い、そのような研究や講演も行なっています。
三つ目は、音楽関連商品の開発·販売事業を行なっています。

開発商品1:「五楽線(ごらくせん)」について

渡邊社長

堀口社長は音楽関係の事業を17年続けている中で、数々のヒット商品を生み出してきています。過去に、5つの商品開発を行って、実際にヒットをさせたということですが、今日は、まず、その商品をご紹介いただいてよろしいですか?

堀口社長

一番最初に作ったものは、「五楽線(ごらくせん)」という貼って剥がせる五線のテープです。音楽をする方はすぐお分かりになると思うのですが、このような五線紙が付箋になった状態でテープになっています。好きな長さで切れますので、楽譜に貼って、書いて、消しゴムで消して修正もできる。さらに、すぐ剥がせてまた別のところにも貼れます。

渡邊社長

ポストイットや付箋紙みたいな感じですね?
楽譜を書き直したり追加したりできるということですか?

堀口社長

そうです。付箋のようになっており、楽譜の追加や修正ができます。意外と楽譜ってミスプリントが多いので、役立ちます。私が学生の頃は、まだ修正テープではなく修正ペンが主流でした。ペンの場合は、ボコッと山が出て、書着直すときに山が邪魔になり、音符が書きにくくなります。従って、ペンではなくて、こういうシール型が欲しいと思っていたので、これを開発しました。

渡邊社長

それが「五楽線(ごらくせん)」ですね。

堀口社長

はい、それが「五楽線(ごらくせん)」で、サイズも12mm、15mm、18mmと3種類展開をしています。一番小さい(細い)12mmタイプは、ピアノの人とかバイオリンとか楽器の人たちがよく使うサイズになります。暗いところとか、ちょっと目が高齢化してきた方は太い方が嬉しいので、これくらい大と小の差があります。こちらは子供用でも使えるし、高齢者も使えます。ただし、一番売れるのは、真ん中の15mmです。五楽線(ごらくせん)は、その場で、手で切って、好きな長さに貼れるというメリットがあります。しかし、決まった長さを使いたいという人もいるので、サイズは同じですが、事前に一定の長さに切ってあるものも販売しています。さらに、外国人向けもあります。外国人が日本に来て、日本の小物を買って帰るという時に日本語だとわからないので英字にしました。中身は一緒です。

渡邊社長

累計でどのぐらい売れたのでしょうか?

堀口社長

累計で、14万個売れています。音楽業界の文具の中ではかなりのヒット商品だと思います。

渡邊社長

どういうルートで販売をされているんですか?

堀口社長

47都道府県の楽器店で売っています。YAMAHAとか島村楽器とか楽器店にはほぼあります。楽器店への卸会社が10社程度あり、弊社はそちらへ販売しています。

渡邊社長

続いての商品を教えてください?

堀口社長

続いての商品も自社開発商品で、「楽譜面ブック(らくふめんぶっく)」というものです。

音楽家は、演奏している最中は、楽譜に直接書き込みたいんですね。従って、一般のクリアフファイル等に楽譜を入れてしまうと、上から開けて書き込まなければいけないのが、とても不便なんです。そこで、書き込みができるファイルを開発したいと思い、こちらの商品ができました。これは、A3専用の書き込みができるタイプで、端に、ストッパーのようなものがついているので、ぴったりと収まり、かつ書き込みができます。

渡邊社長

これがA4もあるのですか?

堀口社長

はい、ございます。ただ、A4バージョンは、OEM商品になります。

渡邊社長

どちらのOEM商品ですか?

堀口社長

YAMAHAさんです。

渡邊社長

以前から、このような商品はありそうな気もするのですが、無かったのでしょうか?

堀口社長

無かったんです。「五楽線」も「楽譜面ブック」もありそうでなかったものです。ありそうでないけど、絶対にあったら便利ということに気づいて開発しました。

渡邊社長

それは、堀口社長が音楽家であり、自分自身が顧客ターゲットだったからこそ、気づくことができたのでしょうか?

堀口社長

はい。自分が困っていたということに加え、周りの音楽家たちが困っているのを目の当たりにしてきたからです。書き込みができないとか、楽譜のコピーを重ねすぎたためにダラダラと面材から落ちてしまうということがよくあったのです。それを綺麗に収納し、かつ書き込みができないかと思い、この商品が生まれました。

渡邊社長

この「楽譜面ブック(らくふめんぶっく)」はどのくらい売れたのですか?

堀口社長

累計2万冊以上売れています。

渡邊社長

なかなか2万冊って売れないですよね?

堀口社長

そうだと思います。弊社の商品は横で止めるようになっていますが、上と下で止めるライバル商品もあります。しかし、当社の商品を選んで頂く方が、多くいらっしゃいます。

渡邊社長

確かに上と下で止めるものだと、上と下の方が距離が長いから、横で止める方が使いやすそうですね。これ何か特許か何か取ってますか?

堀口社長

実用信用案か、特許か、それぞれの商品で一番最適なものを出しています。

開発商品2:「ヴォイシーズ」について

渡邊社長

続いての開発商品を教えてください。

堀口社長

続いては「ヴォイシーズ」です。先ほどご紹介いただきました「Makuake(マクアケ=クラウドファンディング)」でも800名以上、累計で1400万円近くの応援購入を頂きました。使い方は、こちらの口当て部分を当てて、押さえて歌うものなので、音が聞こえにくいというものです。少し声が小さくなったかなと思うんですが、片手で持てる防音室というキャッチコピーで売っています。

渡邊社長

この左手のところにマイクが入ってるんですね?

堀口社長

そうなんです。ここにマイクを挿す形になります。

渡邊社長

これが1400万円もクラウドファンティングで売れたのですね。

堀口社長

声や音が、全くなくなるわけではないんですが、防音されているので、隣の部屋にはほとんど聞こえないというレベルまで小音、防音ができるものです。

渡邊社長

3つの商品をご紹介いただきましたが、まず、「五楽線」と「楽譜面ブック」の開発経緯と、どのようにに売ってきたかをお聞きしたいと思います。なぜ思いついたんですか?

堀口社長

まず「五楽線」について説明します。私が音大時代にオペラ歌手とか声楽家の伴奏をしていたのですが、その時に伴奏に行った先のレッスンの先生が「ここの音符はこういう風に変えて欲しい」というように言われるんです。それで、楽譜を自分で書き直すのですが、次にレッスンへ行くと、「やはり、この間のはやめて、こちらに修正して」と、また書き直しを要求されるのです。楽譜は、なかなか書き込みができるようなスペースがないので、かといって隣のページに書くわけでもいかないので、修正ペンや修正テープを使うことになります。しかし、何回も修正していると使えなくなってきます。そこに一小節だけ貼れるものがあったら良いなと思って探してたのですが、全然販売されていませんでした。世の中にあると思って探したらなかったし、知り合いに海外のサイトで調べてもらってもなかったので、そうであれば自分で作ろうと思ったわけです。

渡邊社長

すごいですね。

堀口社長

売れると思ったんですよね。私が困っていたのもあって、友人にも色々とたくさん質問しました。こういうのがあったらどう思う?と聞いたら、やはり全員があったらいいよね!、なんでないんだろうね!って言ってました。ないんだったら仕方ないよねという考えではなくて、作ればいいのではないかと思ったのが経緯です。

渡邊社長

自分の体験と含めてお客さんのニーズを聞いて回ったということですね?

堀口社長

その通りです。こちらの「楽譜面ブック」も全く同じです。書き込みができないというのが本当にネックでした。音大生は、この楽譜を紙だけで持ち歩くというのが習性です。これを何枚も何枚も持ち歩いてレッスンに行きます。雨に濡れても大変なので、なんとかしたいなというのがきっかけでした。

渡邊社長

堀口社長自身が、ターゲット顧客だったということですね。実際にどのような進め方で開発していったのですか?

堀口社長

冒頭に申し上げましたが、24歳から経営塾に行ってました。その経営塾の仲間にトッパンフォームズ社の方がいて、その方と飲んで話していた時に、「こういう商品作りたいんですよね!」と話をしました。そこで、その友人から、会社で試作品を作ってあげようかと言って頂き、商品化できました。ただ、最初から、現在の商品の形ではなかったのです。実は、たまたま寄ったお店で、子供のおしり拭きのティッシュやウェットティッシュを見た時にヒントを得ました。子供のお尻拭きは、上がシールになっていて、何百回も開閉してもくっつくという宣伝文句でした。五線譜も、このように何回も貼って剥がせれば良いなと思い、閃いたのが今の形です。テープのようで、かつ貼って剥がせて、書き込みができる。セロテープとは違って、紙のテープがないかなと思っていて閃きました。

渡邊社長

違う業界の全く違う商品から閃きを得たということですか?

堀口社長

そうですね。たまたま経営塾に入ったところに、そのような業界の仲間がいたので、話が進みました。

渡邊社長

なるほどですね。それでその後は具体的にどのように商品化していったんですか?

堀口社長

そうですね。まずは、試作品を何度も作りました。最初はうまくいかず、剥がす時に下の楽譜も剥がれてしまうぐらい糊が強かったり、逆に貼ったらすぐ剥がれて浮いてきたりで糊が弱かったりしたこともありました。何回もやり直しをして、最終的には構想通りのものができました。

渡邊社長

その後、商品が完成して販売していくわけですが、その時の販売ルートの開拓はどのように行ったのですか?

堀口社長

一番初めに、営業に行ったのは母校の武蔵野音大の楽器売り場です。そこに「卒業生なんです。これを置いてもらえませんか?」とお話しに行きました。たまたま武蔵野音大の楽器店は、YAMAHA銀座店の支店のような形だったので、YAMAHAの銀座店に置いて良いかどうか聞いてくださいって言われました。そこで、YAMAHA銀座店に行ってプレゼンをしました。「10個置かせてください。売れてからの支払いで結構です。」と言って、置かせていただきました。そして、その日に、ライバルである山野楽器に行きまして、「YAMAHAさんはこれを置いてくれるようになりましたがいかがですか?」と、山野楽器に同じ条件で10個置いてもらうことになりました。その後、3日くらいで両店とも在庫がなくなったので、売れるかなと思ったのですが、思うよに売れなかったので、ちょっとしたコツを使って全国に広めました。

渡邊社長

そのコツっていうのは何でしょう?

堀口社長

全国47都道府県の主要な楽器店に、お客さんのフリをして「貼って剥がせる五線のテープってなんかあるみたいなんですけどありますか?」って電話しました。そうすると、「ありません。」と大体断られます。そこで、「この間、東京に行った時に見たんですけど、なんかアリア(弊社名)って、商品に書いてあったような気がします。」と話をすると、店員さんがインターネットで調べてくれて、「ああ、ありますね。これ、取り寄せられるかもしれないので、少々お待ちください。」と言って取り寄せてくれることになりました。それを繰り返して、しばらくすると、何百という楽器店に小物を卸している卸会社から電話があり、取引につながりました。当時は、楽器店業界での卸会社の存在など全く知らなかったので、取引条件等の答えを用意していなかったんですけど、思い切って100個単位の取引を提案したら、先方が検討してくれることになりました。卸会社に流せば、たくさんの楽器店に商品が届くというのも、その時初めて知りました。

渡邊社長

その時知ったのですか?

堀口社長

その時に知りました。後は、掛け率はいくらですか?と言われてその返答にも困りました。音大出て2年間ピアニストをやって起業したので、当時は29歳くらいです。掛け率なんて知らないですね。知らなかったので、「掛け率…。少々お待ちください。ちょっと検討しておりますので…。」って言って、一旦電話を切りました。唯一相談できる相手が「五楽線」を作ってくださったトッパンフォームズの方だったので、「すいません、掛け率何?って言われたんだけど何のこと?」って聞いたら、教えてくれました。それで初めて掛け率という物を知りました。

従って、値決めをした時には、何掛けで卸すって考えなかったので、安すぎる価格設定でした。反省点はありますが、それを知った後、現在でも値上げはしていません。

渡邊社長

堀口社長のお話を聞いていると、アイデアもすごいのですが、とにかく行動力がありますね。また、人に聞くっていうのを大事にされているように思うのですがいかがですか?

堀口社長

そうですね。私自身がビジネスの経験がなかったので、自分が一番信用できないと思っていました。従って、知らないことは人に聞き、いろいろな人に同じことを聞いて、本当の正解を探すようにしています。

渡邊社長

なるほどですね。やはり、とにかく前向いて行動するというのが大事なんでしょうね。今日は堀口社長に「五楽線」と「楽譜面ブック」の開発秘話を教えていただきましたが、次回は「ヴォイシーズ」についてお話をお伺いしたいと思います。本日は、ありがとうございました。

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この記事を書いた人

株式会社アリア 代表取締役 堀口 直子
社団法人認知症高齢者研究所研究員
一般社団法人日本音楽レ・クリエーション指導協会 理事長

武蔵野音楽大学ピアノ科卒業
4歳でピアノを始める。8歳の時に武蔵野音大に入るという夢を持ち18歳で上京。ポーランド国立クラクフ室内管弦楽団とピアノコンチェルト共演。
第36,37,38回長崎県高校生音楽コンクールにおいて3年連続金賞受賞。
第22回東京国際芸術協会新人演奏会オーディションに合格、同披露演奏会に出演。
大学卒業後、ソロやオペラ歌手のピアノ伴奏者となる。
また、絶対音感を持つピアニストとして幅広いレパートリーを持つ。

<事業内容>
・出張生演奏(音楽家派遣)、講演
・セミナー、イベントの企画、制作
・音楽に関する研究、調査
・音楽小物、文房具の開発、販売

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