補助金に申請時に必要なローカルベンチマーク(ロカベン)とは?

伊藤 勝人
中小企業診断士
社オリジナル雑貨・軽家電製品の企画・開発・販売に携わり、主要顧客である小売店や通販事業者への営業活動を通じて、製品の市場導入から販路拡大までを一貫して担当。
複数の業界において、ホームページ運営やEC事業の立ち上げ・運営を手がけ、オンライン販売のノウハウを蓄積。企業のデジタルシフトを支援し、収益性の改善や効果的なマーケティング施策の立案に強みを持っている。
中小企業診断士として、企業の課題解決に向けたコンサルティング業務を行っており、実務経験に裏打ちされた現場感覚と、理論に基づく分析力を融合させた支援を提供している。
ローカルベンチマーク(ロカベン)とは?
ロカベンの概要と目的
ローカルベンチマーク(通称:ロカベン)とは、企業の経営力を見直し、改善に向けた話し合いを進めるために使われる「経営の健康診断ツール」です。非財務情報と財務情報の2つの視点から企業の現状を整理し、経営者と金融機関・支援機関が同じ立場で対話するきっかけを作ることが目的です。
ロカベンを使うことで、経営者自身が「会社が悪くなる前」に気づきを得て改善に取り組めるほか、すでに課題がある企業でも状況を立て直すための手助けになります。生産性の向上や雇用の創出にもつながる重要な意味のあるツールです。
財務と非財務の両面から企業の経営状態を見える化するツール
ロカベンを使うと、企業の外部・内部環境や業務フロー、商流などの非財務情報(定性)と売上や利益などの財務情報(定量)の両方を記載することで、企業の強みや課題を包括的に見える化できます。これにより、経営者自身だけでなく、金融機関や支援機関とも共通の認識を持って対話できるようになります。
中小企業庁が推奨している理由
中小企業庁がロカベンを推奨しているのは、企業の現状を正しく把握し、課題に向き合い、持続可能な経営を実現するためです。また、近年では補助金申請の際に、ロカベンの活用が評価対象となることが増えており、公的支援との親和性も高いツールとなっています。
なぜ補助金申請にロカベンが必要なのか?
「経営状態の可視化」が補助金審査で重視される背景
補助金申請において「ローカルベンチマーク(ロカベン)」が求められる背景には、企業の経営状態を客観的に示すことができる点にあります。補助金の審査では、将来性のある事業かどうかだけでなく、「経営の健全性」や「課題への取り組み姿勢」も重要視されます。ロカベンを使えば、財務と非財務の両面から企業の現状を見える化できるため、審査側も判断しやすくなります。こうした理由から「補助金 × ローカルベンチマーク」は強い関係性があり、申請におけるローカルベンチマークの必要性が高まっているのです。
ロカベンの提出を求められる主な補助金一覧
以下のような補助金制度で、ロカベンの提出が加点要素や必須要件となることがあります。
補助金名 | ローカルベンチマークの必要性 |
中小企業成長加速化補助金 | ・財務分析シートに必要事項を記入。・スコアリングにより、補助事業を適切に遂行できる財務状況が十分に確保されているかを審査されます。 |
大規模成長投資補助金 | ・財務分析のシートの黄色セルに必要事項を記⼊した上で Excel形式(拡張⼦を.xlsm)にて提出。 |
※補助金の要件は年度や回によって変更されることがありますので、申請前に最新の公募要領を確認することをお勧めします。
ロカベン提出が「加点」になるケースも
ロカベンを提出することで、審査上の加点対象となる補助金もあります。これは、「自社の課題を正しく認識している=計画の実現可能性が高い」と評価され信頼性が高まるためです。単に形式的に提出するだけではなく、内容の整合性や説得力が重視される点には注意が必要です。
ローカルベンチマークの構成と記載項目
財務情報(6指標:売上高・営業利益・総資産など)
ロカベンの財務情報では、以下の6つの指標により分析します。
① 売上高増加率
(ア) 直近3年間の売上高の伸び率
(イ) 分析内容:企業の成長性、事業の拡大状況
② 営業利益率
(ア) 売上高に対する営業利益の割合
(イ) 分析内容:本業での収益力、コスト管理の効率性
③ 労働生産性
(ア) 従業員一人当たりの付加価値額
(イ) 分析内容:人的資源の活用効率、収益を生み出す組織力
④ EBITDA有利子負債倍率
(ア) (借入金-現金・預金)/(営業利益+減価償却費)
(イ) 分析内容:借入金の返済能力、財務健全性
⑤ 営業運転資本回転期間
(ア) (売上債権+棚卸資産-買入債務)÷売上高×12
(イ) 分析内容:資金繰りの効率性、運転資金の必要性
⑥ 自己資本比率
(ア) (純資産/負債・純資産合計) ×100
(イ) 分析内容:財務安全性、経営の安定度
非財務情報(事業内容・強み・外部環境など)
非財務情報は4つの視点から構成されています:
① 経営者への着目
(ア) 経営理念・ビジョン
(イ) 経営者の経歴・人柄・考え方
(ウ) 後継者の有無と育成状況
(エ) 分析内容:リーダーシップの強さ、経営の方向性、事業継続性
② 関係者への着目
(ア) 顧客リピート率・主力取引先との関係
(イ) 従業員定着率・人材育成状況
(ウ) 仕入先・外注先との関係
(エ) 金融機関との関係
(オ) 分析内容:ステークホルダーとの関係資本、ビジネス基盤の強さ
③ 事業への着目
(ア) 企業の強み・弱み分析
(イ) 技術力・商品力・サービス力
(ウ) 市場規模・シェアの状況
(エ) 競合他社との差別化要因
(オ) 分析内容:事業の競争力、市場における立ち位置、持続可能性
④ 内部管理体制への着目
(ア) 組織体制・指揮命令系統
(イ) 経営計画・目標設定の状況
(ウ) 社内会議の実施状況
(エ) 管理会計の導入状況
(オ) リスク管理体制
(カ) 分析内容:組織の機能性、ガバナンスの状況、経営の効率性
「ロカベンシート」ダウンロード先やExcelの記入手順
① ロカベンシートは、経済産業省の公式サイトから無料、Excel形式でダウンロードできます。記入欄に従って、財務データと非財務情報を入力していくだけで、自社の経営状態を整理できます。
【参考】経済産業省 ローカルベンチマーク(ロカベン)シート
② ミラサポplus(中小企業庁が運営する中小企業・小規模事業者向けの補助金・給付金等の申請や事業のサポートを目的とした、国のWebサイト)でローカルベンチマークが作成できます。こちらでは主に企業経営者がご利用になれます。
【参考】ミラサポplus ローカルベンチマーク
ロカベンの作成方法(具体的な手順と記入例)
作成に必要な資料・準備物(決算書など)
財務情報を作成するには、以下の資料が必要です。
- 直近3期分の決算書(貸借対照表・損益計算書)
- 法人税申告書の別表(税引前利益や減価償却費などが確認できる場合があります)
- 従業員数・人件費データ(労働生産性を計算する際に必要です)
非財務情報を作成するには、以下の資料が必要です。
- 会社概要資料(設立年、事業内容、主要製品・サービス、拠点など)
- 経営理念・ビジョン(会社として目指している方向性や価値観)
- 強み・弱みの整理メモ(自社の技術力、ブランド力、課題、競争環境など)
- 市場・業界の動向資料(自社を取り巻く外部環境を整理する際に便利です)
その他あると便利なもの
- 既存の経営計画書や補助金申請書(参考に使える場合あり)
作成例(製造業/飲食業など業種別)
例えば製造業では、「設備投資による生産効率の向上」「大手企業からの受注減少」などの情報が非財務面で重視されます。
飲食業の場合、「立地や客層の変化」「デジタルシフト(デリバリー導入など)」といった要素が重要です。
業種に応じた内容を盛り込むことで、説得力のあるロカベンになります。
経済産業省公式サイト内に、ローカルベンチマークの書き方が分からない、理解を深めたいなどの際に活用できる、ガイドブック(作成ガイド)があります。
よくある誤りと注意点
- 決算書とロカベンの数値が一致しない
- 強みが抽象的すぎて伝わらない
- 課題の記載が曖昧(「人手不足」などだけでは不十分)
こうした点に注意し、丁寧に作成することが大切です。
財務数値の記入ミス
自己流で数字を入れてしまい、売上や営業利益の単位間違いや、前年と逆の増減記載などが発生することがあります。
注意点:必ず決算書を参照し、単位(千円・百万円など)を揃えること。比較可能な3期分の数値を正確に入力しましょう。
非財務情報が抽象的
「強み」や「外部環境」の記載が「がんばっている」「他社より良い」など抽象的で、補助金審査で評価されにくいケースがあります。
ロカベンの書き方:補助金対策としては、具体的なエピソードや実績、数値を交えて記述することが重要です。たとえば「リピート率80%の自社ブランド製品」など。
記入漏れ・記載内容が支離滅裂
非財務情報において、各項目がバラバラな方向を向いていると、経営の一貫性が疑われます。
注意点:全体を通して「どんなビジョンに向かっているか」を明確にし、情報がつながるよう構成を整えましょう。
ロカベンを活用する補助金制度の一覧と特徴
2025年版:ロカベンが関連する主な補助金まとめ
- 中小企業成長加速化補助金
- ロカベンの財務情報を活用することで、経営計画の説得力が向上します。
- 大規模成長投資補助金
- 審査基準の「実現可能性」の評価において考慮されます。
加点対象・提出必須などのパターン解説
補助金の審査では、単に「お金を使いたい」という要望よりも、その企業がどれだけ課題を正確に把握し、改善に向けて具体的な戦略を持っているかが重視されます。ロカベンは、財務と非財務の両面から会社の現状を整理できるため、「経営の見える化」に役立ちます。これにより、審査員が「この企業には補助金を出す価値がある」と判断しやすくなるのです。
公募要項をよく確認し、ロカベン対象の提出有無を事前に把握しておきましょう。
自社で作成できる?専門家に依頼すべき?
自力での作成の可否と所要時間
ロカベンの作成は、Excelが使えれば自力でも十分可能です。ただし、慣れていない場合は半日〜1日程度かかることもあります。
◼ 自社作成のメリット
- 無料で作成できる
- 自社の現状を深く理解できる
- 経営者自身の頭の整理につながる
◼ 自社作成に向いている人
- 決算書の内容が読める人(経理・財務に一定の理解がある)
- 経営課題を自分で振り返る習慣がある
- 時間に余裕がある人
専門家(中小企業診断士、税理士)に依頼するメリット
中小企業診断士や税理士に作成代行することで、
- 経営課題の深掘り
- 他の補助金資料との一貫性の確保
- 補助金用のアピールポイントを整理できる
- 客観的な視点で強み・弱みを分析してもらえる
- 説得力のある表現
- 誤記や漏れを防げる
など精度の高いロカベンを短時間で完成させることが可能です。特に補助金の採択を狙う場合は、専門家のプロの目でのブラッシュアップが有効です。
結論として、ロカベンは自社でも作成可能ですが、補助金申請、経営力向上計画、改善計画で使用する場合は、専門家に依頼するのが効果的です。
サポート費用の目安と注意点
補助金申請書の内容と整合性を持たせた構成で支援してくれるのが特徴です。
費用は内容にもよりますが内容が薄かったり、補助金の趣旨に合っていないロカベンを提出すると、加点どころか評価を落とすリスクもあることが注意点です。過去の実績や補助金制度への理解度を確認し、信頼できる専門家を選びましょう。
よくある質問(FAQ)
- ロカベンを提出すれば必ず加点されるのか?
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提出しただけでは加点されない場合もあります。内容が薄い・不明瞭だと逆効果になることもあるため、丁寧な作成が求められます。
補助金の種類によっては、ローカルベンチマークの提出が審査上の評価がプラスになるケースがあります。
しかし、提出しただけでは十分とはいえず、「内容の質」や「経営計画との一貫性」も重要視されます。提出されたロカベンが経営課題を的確に捉えておらず、計画と噛み合っていない場合、加点にはつながりにくくなります。
そのため、ロカベンは「書けばよい」というものではなく、「どう書くか」が評価に大きく影響するという点に注意が必要です。丁寧に記入し、補助金申請書との整合性を意識した活用が求められます。
- 赤字企業でも作れる?
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赤字の理由を明確に記載し、今後の改善策を示すことが重要です。ロカベンは「現状の棚卸しツール」として活用できます。
ローカルベンチマーク(ロカベン)は、企業の「現状を見える化」し、経営課題を整理・改善につなげるためのツールです。赤字か黒字かは関係なく、「今の状態をどう把握し、どう改善するか」が目的なので、赤字企業にとっても非常に有効です。
むしろ赤字の企業こそ、ロカベンを活用することで、財務や非財務の観点から自社の課題を明確にし、支援機関や金融機関と一緒に改善策を検討するきっかけになります。補助金申請の際にも、赤字だからといってロカベンの提出が不利になるわけではなく、課題を正直に記載し、前向きな改善計画とセットで提出することが評価されるポイントになります。
- 書き方に正解はあるの?
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明確な正解はありませんが、「第三者が読んで納得できるか」が一つの判断基準です。定性的情報の表現力が問われるため、できるだけ具体的に書くことが大切です。
ロカベンは、企業の現状や課題、将来の方向性を「見える化」するためのツールです。そのため、決まった答えを書くものではなく、各企業が自社の実情に沿って、事実と想いを整理し、分かりやすく表現することが大切です。
まとめと無料相談のご案内
ロカベンを活用して補助金採択率を上げよう
ローカルベンチマークは、単なる提出書類ではなく、自社の経営改善や補助金採択率向上に直結するツールです。しっかりと作成し、申請書類全体の整合性を高めましょう。
書き方に不安がある方は専門家への相談がおすすめ
ロカベンの作成に不安がある場合は、無理に一人で抱え込まず、専門家に相談するのが安心です。中小企業診断士や経営支援機関では書き方サポート、無料相談を受け付けている場合もあります。
「自社に合ったロカベンの書き方がわからない」「何から手を付ければよいか不安」そんな方は、ぜひ一度ご相談ください。経験豊富なコンサルタントが無料でアドバイスいたします。
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