組織の永続性とは何か?事業を続けるために今こそ考えたい視点

登壇者
株式会社3Rマネジメント代表取締役社長 渡邊 賢司のプロフィール写真

渡邊 賢司
中小企業診断士

株式会社3Rマネジメント 代表取締役
株式会社IoTメイカーズ 代表取締役

約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。

企業にとって「永続性」とは、単に会社を潰さないことではありません。社会や業界の変化に適応し、安定して利益を上げ続け、組織を未来へ引き継ぐ体制を築けるかどうか。これは経営者だけでなく、すべての管理職やリーダーが真剣に考えるべき課題です。

目次

高齢化する組織が抱えるリアル

ある看板工事会社では、2011年の震災をきっかけに主力だった工事案件が激減し、赤字の年が何年か続きました。その結果、採用活動を10年ほど止めざるを得なくなりました。当時採用できなかったおかげで、社員のほとんどが50代以上となり、最年少でも40代。20代〜30代の若手はゼロという状態に陥っています。

この状態が続けば、10年後には全員が定年世代になります。当然ながら、新しい管理職も育たず、ノウハウも継承されないまま、組織は弱体化していきます。

このような「従業員世代の空洞化」は他業種でも見られます。たとえば信用金庫では、1990年代後半以降、採用を絞った就職氷河期世代が40代~50代となり、その層の人材が極端に少ない状態になっています。中間層が薄いため、若手を育てる環境が整わず、マネジメントが上手く機能していません。

組織戦略は事業戦略と切り離せない

多くの経営者が見落としがちなのは、組織づくりと事業戦略の連動です。そもそも、事業が儲からなければ組織に投資はできません。そして、組織が持続できなければ、いかに利益を上げても再現性はありません。

新しい事業を育て、常に収益の柱を生み出していくこと。そして、それを支える組織を設計していくこと。永続性とは、この「利益構造」と「組織構造」の両輪を動かし続ける営みなのです。

零細企業に蔓延する「現状維持」の空気

特に零細企業では、「生活のために仕事をしている」という感覚が強く、将来の成長や永続性についての視点を持ちにくい傾向があります。

「いま儲かっていれば良い」「成長はもう必要ない」と考える経営者も少なくありません。しかし、その瞬間から、組織の衰退は始まっていると言っても過言ではありません。

社員の将来を逆算できるか?

自分自身のキャリアについても同じことが言えます。60歳になったとき、自分はどういう役割を担っているのか?その時点で何を成し遂げていたいのか?

会社も同じです。20年後、30年後、どんなビジネスを展開しているのか?それを逆算して考えなければ、社員の育成計画も組織の体制も、計画的に整えることはできません。

若手がいない組織に未来はあるか?

組織の永続性を脅かす要因として、以下の6つが特に重要です。

  1. 給料が上がらない未来に、若手は希望を持てない
  2. 社員が高齢化していく中で、生産性が低下する
  3. 成長しない会社に、若手社員は魅力を感じない
  4. 社員の成長が止まれば、組織の成長も止まる
  5. モチベーションが維持できず、離職率が高まる
  6. 高齢者ばかりの会社には、新人が入社しづらい

組織の活力を維持するには、適切な年齢構成と組織の階層、さらには成長や利益が必要不可欠です。かっこよく働く年上の先輩の姿は、若手にとって大きなモチベーションになります。逆に、高齢者しかいない組織には、人は集まりません。

組織の未来を担うのは、社長だけではない

ありがちな誤解に、「社長が変わらなければ会社は変わらない」というものがあります。しかし、実際には「社長が変わらずとも、組織は変えられる」のです。

組織改革を担うのは、管理職や中間層です。社長が将来の経営戦略や売上拡大、営業活動、ビジネスモデルの構築に専念しながら、現場ではリーダーたちが組織を動かす仕組みが理想です。そんな分業が機能する体制を作ることが、永続性への第一歩になります。

社長に問いかけるべきこと

社長自身が何を目指しているのか。それを一緒に考え、対話を重ねることも、組織コンサルタントや管理職の大切な役割です。

「何のために会社を経営していますか?」
「20年後、どうなっていたいですか?」
「そのために、何を今から始めますか?」

この問いに対する答えが、組織の設計思想となり、現場の行動指針になっていきます。

綺麗事ではない、「稼ぎたい」も立派な動機

日本では「お金を稼ぎたい」「いい家に住みたい」という欲求を表に出すことを遠慮しがちです。しかし、それは成長を志向する重大なモチベーションになることも事実です。

「社長が年収1億円稼ぐ会社は、社員も年収1,000万円を目指せる」。そんなビジョンを本気で描けることが、会社にとっての成長エンジンとなります。

組織が回る仕組みをつくる

組織の永続性を語るとき、最も重要なのは「仕組み化」です。誰かがいなくなっても、事業が回る状態をつくる。そのためには、役割分担、階層化、年齢構成、教育体系など、あらゆる要素を整備しなければなりません。

そして、新しいサービスを生み出せる体質も重要です。現在儲かっている事業も、20年後には構造不況業種になっている可能性があります。変化に強い組織だけが、生き残るのです。

組織の改善に必要な5つの視点

定義と教育

    まず重要なのは、「定義と教育」の視点です。多くの中小企業では、日々の業務に追われる中で、「会社とは何のために存在するのか」「社員はどういう行動を求められているのか」といった基本的な価値観やルールが曖昧なままになっています。その結果、各社員が“自分の正義”に基づいてバラバラに行動し、組織内で軋轢が生まれてしまいます。これを防ぐためには、役割・目的・評価の基準などを明確に「定義」し、そのうえで社員一人ひとりに対して「教育」を通じて意識を醸成することが求められます。

    8つの定義の明文化

      組織が安定して機能するためには、経営層や管理職が社員に伝えるべき「8つの定義」が明文化されている必要があります。これには、企業理念やビジョン、目標と評価制度、業務方法、教育方針、組織図と役割、人材像や管理職像などが含まれます。これらを一貫した形で整備することで、社員は自分が何を期待されているのかを正確に理解し、行動指針として活用できます。

      正しい改善手順の理解

        多くの企業では、課題が明らかになるとすぐに制度導入に走ってしまう傾向があります。しかし、「事業戦略→組織戦略→制度設計→教育」という順序をしっかり踏むことが重要です。いきなり評価制度やツールを導入するのではなく、まずは経営の目的や方針を明確にし、それに基づいた組織構造や運営体制を設計したうえで制度や教育を導入することで、現場との整合性が取れた実効性ある改善が可能となります。

        教育の効果への信頼

          中小企業において「人は変わらない」「教育しても無駄だ」といった諦めが蔓延していることも少なくありません。しかし、従業員における主体性の欠如や責任回避傾向など、社会人として成熟していない行動特性は、適切な教育と現場での指導によって改善可能です。特に集合研修と現場OJTの組み合わせが効果的であり、全社員教育や管理職研修など、仕組みとしての育成施策が鍵を握ります。

          5. 第三者の介入の有効性

          最後に、組織改善を社内の人間だけで完結させることの難しさについても言及します。社内には遠慮や立場の違いから率直なコミュニケーションが難しいという現実があります。そこで、経営層と現場の“翻訳者”として機能する第三者(例:組織コンサルタント)の存在が極めて有効です。外部の専門家が客観的視点で組織の課題を整理し、改善に向けたアクションをファシリテートすることで、停滞していた組織に再び風を吹き込むことができます。

          まとめ:組織を未来へつなぐために、いま取り組むべきこと

          組織の永続性は、単なる生存ではなく「価値を生み続ける仕組み」をつくることにあります。
          そのためには、次の3つの観点が欠かせません。

          • 戦略の両輪を動かすこと:事業と組織の両面から未来を見据える
          • 仕組み化と教育を徹底すること:属人性から脱却し、誰がいなくなっても回る組織に
          • 対話と第三者の力を取り入れること:社長や管理職だけでなく、外部の視点を柔軟に活用する

          永続する組織とは、社員が成長し、若手が希望を持てる場所です。
          それは経営者や社長だけでなく、すべての管理職が担うべき課題でもあります。

          変化を恐れず、未来に向けた一歩を踏み出しましょう。
          組織の「これから」を本気で考える管理職の皆様を、私たちは全力でサポートします。

          管理職研修にご関心のある方へ

          組織づくり・人材育成・マネジメントスキルを高める研修をご用意しております。
          詳細・お問い合わせは下記フォームよりご確認ください。

          👉 管理職研修のお問い合わせはこちらから

          執筆者

          中小企業診断士
          (株)3Rマネジメント 代表取締役 https://3r-management.jp/
          (株)IoTメイカーズ 代表取締役 https://www.iot-makers.co.jp/

          約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
          2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。

          目次