健全な人がメンタル不調を自分で予防する為の心理学

登壇者
株式会社成長支援教育総合研究所
 代表取締役 中小企業診断士
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石倉 充
中小企業診断士

株式会社成長支援教育総合研究所
 代表取締役
組織の病を治す幸福経営アドバイザー 

富士銀行(合併後みずほ銀行)にて、企業向け融資・M&A・事業承継対策・株式公開支援・ベンチャー投資・支店長業務などを通じ、中小企業から中堅・大企業まで1,000社以上、資金面・戦略面からの成長を支援。
現在は、アドラー心理学の学びや原田教育研究所が開発した理想の職場をデザインするICMメソッドを使って組織風土改善やリーダー人材の育成に従事。

目次

はじめに

健全な人がメンタル不調を自分で予防するための心理学と題してポジティブ心理学とレジリエンスの実践的活用法を紹介します。組織の病を治す幸福経営アドバイザーの石倉充です。

今回は経営者あるいは社員が健全な状態においてもいつメンタル不調になるかもしれない、そのメンタル不調を自分で予防するための心理学についてお伝えします。

そのために非常に参考になるのがポジティブ心理学であり、以下のテーマに沿って紹介します。

①ポジティブ心理学とはどんなものか

②ポジティブ心理学が明らかにした幸福の条件

③挫折した時、挫けずに立ち直る回復力であるレジリエンス、レジリエンスを高めるために何をすればいいか、日常生活でのトレーニング

④あらかじめ自分の拠り所を作っておいてレジリエンスを高める方法

ポジティブ心理学とはどんなものか

最初にポジティブ心理学の概要ですが、「普通の人をもっと幸せにするための心理学」です。

心理学は歴史的に見るとうつ病とか、あるいは精神病とかネガティブな状態にある人を対象に発達してきた学問です。

アメリカの心理学会の会長であるマーティン・セリグマン教授は健全な状態にある人であっても問題になることがあるということで、学習性無力感というものを提唱しました。

これは自分が置かれた状況に対してたとえ健全な人であってもネガティブな経験を受けて、そこから学んだことで積極性を失ったり自発的な働きかけを起こさなくなる、あるいは成功体験を学習することが困難になり、無力感、苛立ちなどの情緒的対立が起こることを明らかにしました。

つまり、うつ的症状やうつ病はもともとネガティブな人だけでなく、ポジティブな人でも、例えばいじめにあったり、失敗や挫折などの体験で無力感を感じると期待感や意欲を失ってうつ的症状やうつ病になってしまうことを示しました。

このような考え方に基づいて発展してきた心理学なのでうつ病予備軍のうつ病予防、普通の人を今よりも幸せにするための学問としてポジティブ心理学ははじまりました。

ポジティブ心理学が明らかにした幸福の条件

ポジティブ心理学の創始者マーティン・セリグマン教授が明らかにした幸せのための5条件がとても参考になります。

これは「自分は幸せな心の状態であるか」を自ら確認するためのチェックポイントとして使えます。

これに照らして体内ところに気付いたらそれを改善するようにすればより幸せな気分になれます。

ですので、ぜひ幸せのための5条件を基礎知識として持っておくとよいでしょう。

5条件を順番に説明します。

1つ目はポジティブエモーションです。
ポジティブな感情でいるかどうか、要はうれしい、楽しい、わくわく、あるいはありがたいなどポジティブな言葉で表現される感情をあなたは感じていますか、こういうポジティブな状況の時に人間は幸せだと感じます。

2つ目はエンゲージメントです。
これは今の活動に没入していますか、集中力を発揮して熱中できていますか、そういう状況の時に人間は幸せを感じます。

3つ目はリレーションシップスです。
周りの人と関係性は良好で孤独な状況になっていませんか、人間関係を持っていたとしてもギスギスしていたりすると不幸ですので、良好な人間関係を持っているかどうかがチェック項目になります。

4つ目はミーニングです。
これは自分の人生の意味、働く意義を明確に持っているかどうかです。要するに人生の意味とか意義を明確にして、それに基づいて行動していれば自尊心や自己肯定感も高まり非常に幸せな状態になります。

5つ目はアチーブメントです。
達成経験を持っているか、あるいは達成しつつある充実感を持っているか、達成できる確信を持っているかどうかです。

この5条件のセルフチェックシートを作成しましたので参考にしてください。

セルフチェックをした結果どうしたらいいのか、良くするにはどうしたらいいのかという部分が見えてくると思います。

ただし、その5つの観点というのはセリグマン教授が自身の経験に基づいて提唱したものであり、科学的に検証したものではありません。なおかつアメリカ人の方なので日本人とだいぶ文化的背景が違います。

なので、日本人的には本当にこれだけなのかと感じる部分もあります。

例えば、日本人には「自分らしくありのままで、日常の平穏無事や自然の一体感を感じつつ、感謝の気持ちを持って生きられる感覚」というのも幸福感を感じる大きな要素だと思われるのでこれらも大切にしたい考え方になります。

一方で、慶応義塾大学の前野隆司先生の研究室が統計学的に明らかにした日本人の幸福の4因子があります。

1.「やってみよう!」因子
やってみようという気持ちになれているということが因子になっている「自己実現と成長の因子」

2.「ありがとう!」因子
周りの人間関係の中でつながりを感じて感謝の気持ちが湧き上がってくる「つながりと感謝の因子」

3.「何とかなる!」因子
何とかなるという非常に楽観的な心理状態である「前向きと楽観の因子」

4.「ありのままに!」因子
ありのままに何にも縛られず自立して自分らしくいる「独立とあなたらしさ」

この4因子は一人一人の生き方を考える、あるいは会社経営を考える上で非常に大事な考え方であり、組織リーダーのリーダーシップのあり方を考える上でメンバーがこの4因子を感じられる状態で仕事をしているのは大切な考え方だと思います。

レジリエンスを高めるトレーニング

日常生活の中で心が挫かれるような状況に誰しも直面しますが、問題はそこで挫けずに立ち上がって前進していくことであり、むしろ壁に突き当たった時に一回り大きい人間になることが重要になります。

そこでレジリエンス=挫けない心の強さを作る、これがすごく大事なことになります。

これについてヨーロッパのポジティブ心理学の第一人者であるイローナ・ポニウェルがスパーク・トレーニング・プログラムを提唱しました。

これは5つのステップの英語の頭文字を取ってSPARKと呼ばれていて、各ステップをひとつひとつ丁寧に認知していき、自分は各ステップでどのような状況であるかを見直して、自分の心の使い方の癖、習慣を認識してみる。これを繰り返していくプログラムです。

最初のステップはシチュエーション。
何が起きたのか事実に目を向けて状況を把握する。嫌なことが起きた時でも目を背けずに素直に事実に目を向ける。それができているかが第一のチェック項目です。

2番目のステップはパーセプション。
起こった出来事は良いとか悪いとかはなく事実なので、感情を入れずに受け止めて解釈できているか。人間はどうしても反射的に良い出来事・悪い出来事と分けがちですが、起こったことを素直に見ることが大事です。一見悪い出来事と感じても長期的に見るとあれがあったから自分は成長できたということもあるので、出来事に対し感情を入れずに素直に受け止めることができているかをチェックする。

3つ目はオートパイロットです。
人は目の前の出来事を解釈します。その解釈の中で自分の中にいろんな感情が渦巻きます。これを客観視することです。心の中で渦巻く怒りや悲しみ、後悔などそういう感情が生まれているのか静かに見つめてみましょう。

4つ目はリアクションです。
これは感情を生み出す捉え方のパターンがどのような行動に結びついているのかを見つめなおし、自分の感情から行動のパターンを理解することです。

5つ目はナレッジです。
これまでの観察を通して気づいたこと、自分の心の使い方の癖が見えてきたことがあると思います。これについて何を学んだか、今後どうしていくかを理解して蓄積していく、一連の流れを一つのプログラムとして日々起こる出来事で取り組んでいきましょう。

参考資料として「日常生活の中で、挫けない心の強さを作るためのSPARKトレーニングプログラム」を作成しましたので5つのステップを見直してみてください。

リアクションに対する補足説明として、心の中で飼っている7種類のオウムを紹介します。

まず、事実は良くも悪くも重要です。

そこにあなたの解釈が乗っかってきます。

解釈が乗ってくると感情が発生します。

感情が発生すると行動・リアクションが発生します。そこにあなたのパターンがあります。

あなたの心の中にオウムを飼っていてしょっちゅう鳴いていませんか?オウムには7種類のパターンが存在します。

(1)批判オウム
他人を非難しがちで周囲に不満を持ちやすい。

(2)正義オウム
何が正しいのかを気にしがちで自分の意見を曲げない

(3)負けオウム
自分と他人を比較し、落ち込むことが多い
比べられること自体を恐れ、人前に出ること自体に憶病になる

(4)あきらめオウム
自分で状況を変えられると思ってなく、何をするにも「自分にはできない」と決めつける

(5)心配オウム
将来に対して常に悲観的で何か一つうまくいかないことがあると、全てがうまくいかないのではと心配になる

(6)謝りオウム
問題が起きると自己関連づけをしてしまいがちで自らを責めて自己評価や自尊心を下げる
いつも「相手はOK、自分はNO」の心理的立場をとる

(7)無関心オウム
何事にも「我関せず」の立場をとり面倒なことを避けようとするため、自分と周囲の意欲を喪失させる

日常起こる出来事に対して一連の流れを意識して、自分にどのような癖があるのかを理解してSPARKのサイクルを行っていく。

一定期間、このトレーニングを毎日繰り返していくとレジリエンス・マッスルを鍛えることができ、折れない心・素早く立ち直る強さを手に入れることができる。

私も3か月間毎日繰り返し行いましたが、効果は絶大でした。

自分自身の心を見つめて、自分自身の癖がわかり、非常に素直に物事に対処できるようになったと感じています。

あらかじめ自分の拠り所を作っておいてレジリエンスを高める方法

もし、悩んでネガティブな気分になった時でも、

「自分には困難を乗り越えた経験があるから今度も乗り越えられる」
「頼りになる友達がいる」
「大切なものや楽しかった思い出がある」
「他の人とは違う自分独特の強みがある」

といったことが潜在意識にしみこんで常に思い出せる状態であれば立ち直ることはたやすいと思います。

イローナ・ポニウェルが提唱した4つの観点である

I can 私は○○ができる
I have 私には友人がいる
I like 私は○○が好きだ
I am 私は○○である

を自分の言葉で言語化して口癖にします。

日頃からこれを口癖にしていればそれが潜在意識の中に深く入ると思いますので、何か困難にあった時も常によみがえってきて、元気が出ます。

ぜひ皆さんも真似してみてください。

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この記事を書いた人

株式会社成長支援教育総合研究所
 代表取締役 石倉 充
中小企業診断士

組織の病を治す幸福経営アドバイザー 

早稲田大学商学部・政経学部卒業、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了

大学時代、ダグラスマグレガーの「企業の人間的側面」という本に感銘を受け、19歳の時に「組織の病を治す医者になろう!」と決意。

富士銀行(合併後みずほ銀行)にて、企業向け融資・M&A・事業承継対策・株式公開支援・ベンチャー投資・支店長業務などを通じ、中小企業から中堅・大企業まで1000社以上、資金面・戦略面からの成長を支援。 これらの経験を活かして、中小企業診断士として独立。

東京工業大学のベンチャー育成や日本工業大学専門職大学院(MOT)にて中小企業ファイナンス論を担当。その後、老舗企業の経営改善に取り組んだ経験から、組織改革を推進するためには、社員の心理面に寄り添った取り組みが必須であり、極めて重要であることを痛感。
東洋の禅に学ぶ一方、西洋のアドラーやアンソニー・ロビンスの心理学を経営実践に活かすために学ぶ。現在は、アドラー心理学の学びや原田教育研究所が開発した理想の職場をデザインするICMメソッドを使って組織風土改善やリーダー人材の育成に従事。

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