【節税対策】中小企業の社長が最低限抑えておくべき消費税の仕組とインボイス制度の知識 | Part1

登壇者
園田会計事務所 税理士 園田 洋司のプロフィール写真

園田 洋司
税理士

園田会計事務所

都内の税理士法人等で、中小企業から、上場企業、医療法人、公益法人等の税務支援などに従事。2008年に開業し、中小企業の税務支援ほか、オーナー企業の経営者に対する事業承継支援、相続対策などを行う。
キャッシュフローコーチ®、銀座コーチングスクール認定のコーチとしても活動し、経営者と対話を通じて、経営者の自発的な行動支援など行う。


本シリーズは二部制で、上記の動画は「Part.1」です。

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目次

はじめに

消費税は日常生活にも浸透している税金であり、事業者のみならず、一般消費者にも馴染みのある税金の一つです。平成元年に導入され、当初3%だった税率が、現在では10%と3倍以上になりました。この消費税について、大きなルール変更が加わることになりました。それが令和5年10月1日に始まるインボイス制度です。

今回は、消費税の基本的な仕組みと新しいインボイス制度について、中小企業の社長がおさえておくべきポイントを解説したいと思います。

消費税の概要

1)消費税の納税額(原則課税)

自社が「売り手」として提供した商品やサービスの対価を取引先に請求しますが、その対価には消費税が含まれます。

一方で、自社が「買い手」として仕入先から購入した商品や、外注先から提供をうけたサービスの支払にも消費税が含まれます。

 このように、消費税を預かる「売り手」の立場と、支払う「買い手」の立場の両面を持っている事業者は、「売り手」として預かった消費税から、「買い手」として支払った消費税を控除した残りを消費税として国に納めます。

消費税の原則的な計算方法
図1)消費税の原則的な計算方法

2)簡易課税制度

消費税の税額計算について、簡易課税制度と呼ばれる計算方法があります。原則として2年前の売上高が5,000万円未満の中小企業に認められる制度ですが、仕入れや経費にかかる消費税の集計が必要ないため、消費税の計算が簡単です。

簡易課税制度を適用した場合の消費税の計算方法は、売上の消費税に「みなし割合」を乗じて納付税額を計算します。

消費税の簡便的な計算方法(イメージ)
図2)消費税の簡便的な計算方法(イメージ)

簡易課税制度の適用を受ける場合には、受けようとする事業年度が始まる日の前日までに、届出書を税務署へ提出する必要があります。

簡易課税制度は、税額計算が簡単であることに加えて、事業者によっては原則課税で消費税を計算するよりも税額が少なくなることも多いため、中小企業の多くが選択している制度でもあります。

3)簡易課税制度の注意点

①税額が逆に増えてしまう

大型の設備投資などを行う場合は、売上の消費税よりも設備投資にかかった消費税の方が多くなることがあります。この場合(売上消費税<設備投資や経費の消費税)、原則課税では消費税の還付を受けられますが、(売上消費税だけで税額計算が完結する)簡易課税制度では還付を受けらないため注意が必要です。

消費税の簡便的な計算方法(注意点1)
図3)消費税の簡便的な計算方法(注意点1)

②2年しばり

大型の設備投資を行う予定がある場合、消費税の還付を受けられるように簡易課税制度の適用をやめて原則課税に戻るという手段があります。ただし、簡易課税制度は一度その制度を選択すると、連続して2年適用した後でなければ、原則課税に戻ることができない「2年しばり」のルールがあるため注意が必要です。

消費税の簡便的な計算方法(注意点2)
図4)消費税の簡便的な計算方法(注意点2)

4)免税事業者

売上高が1,000万円に満たない事業者は、消費税の計算など事務手続きが煩雑であろうという国の配慮のもと、消費税を計算し納める義務が免除されています。このような事業者を「免税事業者」といいます。

なお、「免税事業者」となるかどうかは、2年前の売上高で判断します。下図にて、具体例をしめしました。

·開業年=2年前の売上高がないため免税事業者

·2年目=2年前の売上高がないため免税事業者

·3年目=2年前の売上高が1100万円であるため課税事業者

·4年目=2年前の売上高が700万円であるため免税事業者

免税事業者とは?
図5)免税事業者とは?

インボイス制度

1)制度の概要

インボイス制度とは、消費税の請求書の発行とその取り扱いに関するルール変更のことをいいます。

消費税計算の仕組み自体は大きく変わりませんが、インボイス制度では、仕入先が適格請求書発行事業者(インボイス登録事業者)でない場合、自社の消費税計算において仕入税額控除を受けることができなくなります。仕入先が適格請求書発行事業者の場合は、従来通り仕入税額控除を受けることができます。

今までの消費税制度(取引先が免税事業者)
図6)今までの消費税制度(取引先が免税事業者)
図7)インボイス制度(取引先が免税事業者)
インボイス制度(取引先がインボイス登録事業者)

図8)インボイス制度(取引先がインボイス登録事業者)

必要な手続き

1)登録申請

適格請求書を発行するためには、税務署に申請書を提出し国の登録を受けて、適格請求書発行事業者となる必要があります。

2)事業区分別の対応について

① 課税事業者

自社が課税事業者の場合は、取引先の消費税を減額させる効果があり、取引先にメリットが生じ、自社にとってデメリットがないことから、適格請求書発行事業者になることをおすすめします。

② 免税事業者

自社が免税事業者の場合は、事業内容によって考え方が変わります。

・自社の事業モデルがBtoCの場合:取引相手が一般消費者のため、適格請求書発行事業者になる必要性はないと思われます。

・BtoBの場合は、取引相手との関係性によって考え方が変わります。例えば、取引先とある程度対等の関係であり、現在と同条件で取引を継続することが可能であれば、適格請求書発行事業者になる必要性はないと思われます。

逆に、取引先の方が立場上優位である場合、自社が適格請求書発行事業者にならないことによる値下げ要求や、取引停止などのリスクが予想されます。独占禁止法でこれらの行為は禁止されていますが、やはり取引停止等のリスクも勘案して適格請求書発行事業者となるか否かを決めることになります。

 ちなみに、免税事業者がインボイス登録を契機に課税事業者になった場合には、消費税の負担が売上消費税の2割だけの納税で済む経過措置が設けられる見込みです。

インボイス制度導入に向けた事前準備

1)自社が「売り手」の場合

自社が「売り手」の場合は、登録申請を行って自社のインボイス番号を発行してもらい、インボイス形式に従った請求書フォーマットに刷新します。

現在、紙の請求書を発行している事業者は、請求書の在庫がなくなった段階で、インボイス形式の請求書に順次切り替えていくことをおすすめします。登録を受けているのであれば、インボイス番号を記載しても差し支えありません。

また、パソコンソフトやクラウドサービスを利用して請求書を発行している事業者は、これら提供会社の指示に従うことで対応が可能です。

 簡易課税制度の適用事業者、原則課税事業者のいずれの場合でも、事前準備は上記の内容となります。

2)自社が「買い手」の場合

① 簡易課税制度の適用事業者

自社が簡易課税制度の適用事業者の場合、売上の消費税から仕入の消費税を簡便的に計算するため、請求書を保存する必要はなく、帳簿への記載も義務づけられていません。

ただし、法人税法など他の法律の要請で、帳簿の備え付けや請求書等の保存が義務づけられています。原則課税と同じように帳簿や請求書の保存が必要であることに変わりありませんので注意してください。

② 原則課税事業者

自社が原則課税事業者の場合、インボイス制度導入前と同様に仕入税額控除を受けるためには、請求書の保存とともに、取引日付、取引相手の名称、取引内容、取引金額を記載した帳簿の保存が必要です。また、請求書については、原則として申告期限から7年間の保存義務がありますので注意してください。

次に、取引先が適格請求書発行事業者となっているか確認が必要です。取引先が法人であれば、法人番号の先頭に「T」をつけたインボイス番号を使って国税庁公表サイトで検索することにより、適格請求書発行事業者か否かを確認することができます。

 なお、取引先が免税事業者の場合は注意が必要です。適格請求書発行事業者とならないケースも考えられ、その場合は仕入税額控除ができなくなり自社の消費税の税負担が増えることになります。また、税負担が増えることを理由に取引条件を見直す場合も、独占禁止法や下請法に配慮する必要があり、自社から免税事業者たる取引先に一方的に税額分の減額等の要請を行うことはできません。

この件については緩和措置として、令和5年10月から6年間、免税事業者を取引先に持つ企業に対して特例を設けています。当初3年間(令和8年9月末まで)は、適格請求書を発行しない免税事業者に対する支払額のうち、消費税相当額の80%を控除、その後の3年間(令和11年9月末まで)は消費税相当額の50%を控除することができます。

免税事業者と取引条件を見直す際は、この経過措置を踏まえて、しっかり取引先と話し合うことをおすすめします。


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執筆者

【講師】
園田会計事務所 園田 洋司
税理士

都内の税理士法人等で、中小企業から、上場企業、医療法人、公益法人等の税務支援などに従事。
2008年に開業し、中小企業の税務支援ほか、オーナー企業の経営者に対する事業承継支援、相続対策などを行う。

キャッシュフローコーチ®、銀座コーチングスクール認定のコーチとしても活動し、経営者と対話を通じて、経営者の自発的な行動支援など行う。

2015年より歯科医院の「子」の立場で主体的な継承を支援する「歯科後継者塾」の運営にかかわり、次世代を担う若い歯科医師の支援も行っている。

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