中小企業のM&Aのススメ | Part1 スモールM&Aとは?

【執筆者】
弁護士 / 中小企業診断士 上野 真裕

1995年 日本大学法学部卒業
1997年 日本大学大学院法学研究科博士前期課程修了
2003年 弁護士登録(登録番号30871、東京弁護士会)
2007年 中野通り法律事務所開設
2019年 (株)日本マンパワー(NMP)登録養成課程(13期)
2020年 中小企業診断士登録(登録番号420050)
  フォースプレイスコンサルティング有限責任事業組合設立

◆ 弁護士業務
・一般民事事件(各種損害賠償、労働、家事、不動産等)
・債務整理(破産、個人再生、任意整理)、など

◆ 中小企業診断士業務
・事業再構築補助金など各種補助金申請の支援
・事業承継・引継ぎ補助金を活用したスモールM&Aの支援、など


本シリーズは二部制で、上記の動画は「Part.1」です。

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目次

はじめに

「中小企業のM&Aのススメ」と題して、「スモールM&A」の特徴や必要性について、事例を交えながら説明したいと思います。

スモールM&Aの概要

最近「スモールM&A」という言葉をよく聞きますが、「スモールM&A」とは何か、また、大企業を対象とするM&Aとどこが異なるのか、という点について説明します。

「スモールM&A」は、これまで比較的M&Aに馴染みの薄かった中小企業が、事業承継の選択肢として、あるいは企業規模拡大や事業多角化の手段としてM&Aの手法を用いることを言います。

「スモールM&A」は、当事者の経験・知見、属人的な要素、コスト面などにおいて大企業を対象とするM&Aとは異なる点があり、その実行にあたっては、これらの点について考慮する必要があります。

スモールM&Aの意義

まず、「スモールM&A」の意義について説明します。

1)沿革

中小企業の事業承継の手段として注目されてきたことから、「スモールM&A」という言葉をよく聞くようになりました。

一般的に事業承継には、後継者候補を経営者の親族内から選定する「親族内承継」と、親族内に不在であれば自社の役員や従業員の中から選定する「従業員承継」があります。

しかし、親族内にも社内にも後継者候補がいない、いわゆる後継者不在の中小企業の場合には、社外の第三者に後継者候補を求めるケースが考えられます。このような場合にM&Aの手法を用いるようになり、これを「スモールM&A」または「中小M&A」といいます。

2)近時の傾向

「スモールM&A」の近時の傾向ですが、中小企業が企業規模を拡大する場合や、事業を多角化する場合の手段として注目されています。

事例として、筆者が相談を受けたオートバイ販売代理店のケースを紹介します。

まず、売り手である販売代理店では、経営者であるオーナー社長と従業員1名で事業を行っています。経営者は高齢のため、そろそろ事業をやめたいと思っていたのですが、いきなりやめるのではなく、あと数年ぐらいは働きたいという考えを持っておられました。

オートバイの販売代理店におけるビジネスについて補足しますと、大手のオートバイメーカーから販売ライセンスを得ないと、そのメーカーのオートバイは販売できないという仕組みになっています。

買い手の企業では、この大手メーカーのライセンスを持っていないため、販路拡大のためにもライセンスを承継したいという気持ちを強く持っておられました。

このように、売り手と買い手、お互いのニーズが合致したことから、株式譲渡による「スモールM&A」を行うことになりました。

3)規模感

中小企業庁が提示している中小PMIガイドラインには、「スモールM&A」の規模感についての記載があります。

中小PMIガイドラインでは、小規模案件の規模感として、買い手側は売上高3億円程度まで、売り手側は売上高1億円程度までで従業員数は5名程度までと想定されています。中小企業庁では、この規模感の案件でもM&Aを実施する意味があると考えていることが伺えます。

一方、中規模・大規模案件の規模感としては、買い手側は売上高10億円から30億円程度、売り手側は売上高3億円から10億円程度で従業員数は15名から100名程度と想定されています。

4.スモールM&Aの動向

次に、「スモールM&A」の動向について説明します。

1)我が国のM&Aの動向

我が国においてM&Aは活発化しており、それに伴い「スモールM&A」も増加していることが推測されます。

大企業を含む、我が国の企業のM&A件数ですが、近年増加傾向で推移しており、公表されているだけでも、2019年には4,000件を超えて過去最高になっています。

2020年は新型コロナの影響もあり前年に比べて減少しましたが、それでも3,730件という高水準となっており、非常に活発に行われているということが伺えます。

M&A件数の推移。2020年は新型コロナの影響もあり前年に比べて減少しましたが、それでも3,730件という高水準となっており、非常に活発に行われている出典出典:2021年版中小企業白書。
(出典:2021年版中小企業白書)

2)中小企業の「スモールM&A」の動向

中小企業の「スモールM&A」の動向については、事業承継引継ぎ支援センターの相談件数から推測することができます。

事業承継引継ぎ支援センターは、第三者に事業を引継ぐ意向がある中小企業者と、他社から事業を譲り受けて事業の拡大を目指す中小企業者からの相談を受け付けて、マッチングの支援を行う専門機関です。全都道府県に設置されています。

法的なM&Aをサポートする機関ともいえますが、そこでの相談社数や成約件数を見ると、2019年の相談件数は1万件を超え、成約件数も1,000件を突破しています。2020年はコロナの影響により相談件数自体は減っていますが、成約件数は1,200件を突破していることから、中小企業においても「スモールM&A」が増加傾向にあることが伺えます。

(出典:2021年版中小企業白書)

スモールM&Aの特徴

中小企業における「スモールM&A」ですが、大企業を対象とするM&Aと異なる特徴が3つあります。

1つ目は、当事者の経験・知見です。中小企業におけるM&Aに関する経験値の低さをどのように解決するかがポイントとなります。

2つ目は、属人的な要素です。中小企業のオーナーが代表取締役社長に就任しているケースが多く、この属人的な要素をどのように解決するかがポイントとなります。

3つ目は、中小企業は大企業に比べると資本力・資金力が劣るため、M&Aに関するコスト面をどのように解決するかがポイントとなります。

1)当事者の経験・知見

中小企業における「スモールM&A」では、特に譲り渡し側(売り手)はM&Aが未経験であることが多く、M&Aに関する経験、知見が乏しい傾向にあります。

そのような経営者が自らM&Aを行うことには無理がありますので、M&Aの専門家を積極的に活用することが望まれます。

このM&Aの専門家については、中小企業庁で「M&A支援機関登録制度」を設けています。この制度を活用して、M&Aの相談を受けてもらう専門家を見つけることも有効な手段だと思います。

2)属人的な要素

中小企業における「スモールM&A」では、対象となる事業が経営者個人の信用、人柄、その他属人的要素に大きく影響される傾向にあります。

中小企業にとっての主な事業価値、つまり当該企業にとっての資産は、従業員や取引先、顧客です。経営者の信頼のもとで働いている、あるいは取引している、顧客になっているという割合が大きいと思います。

したがって、これら属人的な要素をうまく引き継げるかという点が「スモールM&A」を成功させる秘訣でもあります。

3)コスト面

中小企業における「スモールM&A」においては、M&Aそのものに多額のコスト(特にM&A専門業者や士業などの専門家への手数料や報酬)をかけられない傾向にあります。

そこで、中小企業庁では、事業承継引継ぎ補助金という制度を実施しています。その中で、「専門家活用事業」という補助金があり、専門家への手数料についても補助金が出ますので活用してみてはいかがでしょうか。

スモールM&Aの必要性(小規模事業者)

従業員が数名程度の小さな会社であっても、売り手、買い手、いずれの立場からもM&Aの必要性やニーズが高まっています。

売り手側の具体的なニーズでは、従業員の雇用の維持が最も大きく、買い手側の具体的なニーズでは、売上・市場シェアの拡大、新事業展開・異業種への参入、さらには人材の獲得、技術・ノウハウの獲得など、主に事業展開に関するものが大部分を占めています。

スモールM&Aの必要性(売り手)

1)M&Aを検討したきっかけ・目的

2021年版の中小企業白書によれば、売り手としてM&Aを検討したきっかけや目的についてのアンケート調査を行っています。

従業員の雇用の維持が53.0%、後継者不在が47.9%と、それぞれ高い割合を占めています。この2つから、事業承継に関連したニーズが高いことがわかります。

また、事業の成長・発展についても48.3%と高く、売り手側であっても事業成長を発展させるために検討していることがわかります。

大企業であれば、事業再生やノンコア事業の売却という目的が大きいと思いますが、中小企業の「スモールM&A」では、従業員の雇用の維持、後継者不在、自社事業の成長・発展というところが特徴的であると思います。

出典:2021年版中小企業白書

2)M&Aを実施する際に重視する確認事項

売り手としてM&Aを実施する際に重視する確認事項についても、2021年版の中小企業白書でアンケート調査を行っています。

重視する確認事項としては、従業員の雇用維持が82.7%と突出しており、「スモールM&A」においては、ほとんどの経営者が売却譲渡後の従業員の雇用維持を重視していることがわかります。

もう一つ、会社や事業の更なる発展も47.6%と高く、重視する傾向にあるといえます。

事例として、筆者が相談を受けたシステム開発会社のケースを紹介します。

従業員数名のシステム開発会社で、システム開発において非常に高い実績を積み重ねていましたが、資金面が乏しく、また代表者自らもSEや営業として活動しているために管理業務も疎かになっていました。そのため、会社事業のさらなる発展を期待して、売上1,000億円程度の大きな会社とM&Aの交渉を進めることになりました。

出典:2021年版中小企業白書

スモールM&Aの必要性(買い手)

1)M&Aを検討したきっかけ・目的

2021年版の中小企業白書によれば、買い手としてのM&Aを検討したきっかけや目的についてもアンケート調査を行っています。

売上・市場シェアの拡大が73 . 7 %と最も高い割合を占めています。次いで、新事業展開・異業種への参入が49 . 1 %を占めており、M&Aによる他社の経営資源を活用した企業規模の拡大や、事業の多角化を目指している様子が伺えます。

また、人材の獲得や技術・ノウハウの獲得についても、M&Aによって解決できるとの期待があることからアンケートの上位を占めています。

出典:2021年版中小企業白書

2)M&Aを実施する際に重視する確認事項

買い手としてM&Aを実施する際に重視する確認事項についても、2021年版の中小企業白書でアンケート調査を行っています。

重視する確認事項としては、事業の成長性や持続性が61.6%と最も高く、次いで、直近の売上・利益が57.6%、借入等の負債状況が56.0%を占めています。

どんなに良いビジネスであっても、M&Aで負債の多い会社を買収したことで、自分たちの事業を圧迫することになったら本末転倒です。


出典:2021年版中小企業白書

(出典:2021年版中小企業白書)

まとめ

企業規模の大小にかかわらず、売り手、買い手、いずれの立場からも「スモールM&A」の必要性は高まっていると思います。

むしろ、小さな会社こそ厳しい事業環境に翻弄されないように、生き延びていくための経営戦略の1つとして、M&Aを積極的に検討していくことが求められています。


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