理解しておくべき最低限のリスケジュールの知識 | Part2

登壇者
弁護士 / 中小企業診断士 清水 健介のプロフィール写真

清水 健介
弁護士 / 中小企業診断士

2002年 早稲田大学法学部卒業/裁判所事務官任官
2004年 水戸地方裁判所裁判所書記官任官
2010年 奧野総合法律事務所入所
2011年 昭和シェル石油(株)(現出光興産(株))法務統括部出向
2013年 公益財団法人金融情報システムセンター調査部出向
2020年 中小企業診断士登録・(株)再興経営研究所設立
2021年 東京都中小企業再生支援協議会統括責任者補佐


目次

はじめに

全3回に渡って解説しているリスケジュール。

今回はPart2として、「リスケジュールの手続論」というお話をします。

Part1:リスケジュールとは

Part2:リスケジュールの手続論 ◀ 当記事

Part3:リスケジュールにおける士業専門家の仕事

設問です。

“あなたは社長からリスケの依頼を受けて、リスケが適切な事案と判断しました。では、実際にどのように金融機関に対してリスケを求めて実現させますか?具体的な手続きを1つ決めて、その概要を説明してみてください。”

答えは記事の後半に解説しますので、考えながら読み進めてください。

尚、士業以外の読者の方も、ご自身の会社の資金繰りが難しくなった場合に、どのような手段を取るべきかを考えてみてください。

純粋私的整理(平場の手続き)

最初に、「平場の手続き」を説明します。

「平場」というのは、裁判所や準則的な手続き行う場所以外の、真っさらな場所を指します。

その平場で行う私的整理を「純粋私的整理」と言います。

平場の手続き(純粋私的整理)の場合、中小企業診断士や税理士、公認会計士、弁護士といった士業専門家が集まり、バンクミーティングを開催して再生の方向性を探ります。

企業と金融機関との関係性が非常に良く、借入先の金融機関の行数が少ない場合には、メイン銀行に相対でリスケジュールを依頼して実現させる場合もあります。

一定のルールや決められたルールに基づかず、平場で行う私的整理が平場の手続き(純粋私的整理)となります。

準則型私的整理手続

次に、「準則型私的整理手続」を3つ説明します。

準則型私的整理手続とは、有識者のもとで作られた「私的整理に関するガイドライン」に基づいて、具体的に各種ガイドラインや組織が作られています。

中小企業の事業再生等に関するガイドライン

最新の私的整理ガイドラインとしては、2023年5月にできた「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が挙げられます。

こちらは行司役に弁護士や公認会計士を決めて、その行司役のもとで私的整理ガイドラインを敷衍した形で作られた一定のルールによって、私的整理を進めていく手続きです。

事業再生ADR

事業再生ADRとは、少し大きな企業を対象とする私的整理手続です。

申請をすると、事業再生ADRの手続きの中で、リスケジュールや債権カットを含む私的整理手続を進めていくことになります。

これは、比較的大きい会社を対象にした準則型私的整理手続です。

中小企業活性化協議会による支援

最後は、中小企業活性化協議会による支援業務です。

これは、47都道府県に設置されている中小企業活性化協議会が主催するガイドラインの手続きであり、47都道府県の大半は商工会議所の中にこの協議会が作られています。

この協議会が様々な金融調整を行い、準則的(一定の)ルールに従って私的整理やリスケジュールを進めていく手続きです。

中小企業活性化協議会は、各都道府県に設置されている公的支援機関であり、公認会計士や中小企業診断士、弁護士や金融機関からの出向者、そういった方々によって運営されている機関です。

再生計画や経営改善計画の策定支援、金融調整をメインに行っている団体です。

中小企業活性化協議会では一定の場合に補助金も出してもらえるため、リスケジュール案件を持ち込んで活性化協議会の金融調整のもとでリスケジュールをしたり、もっと重い場合には債権カットの手続きを進めたりする方法があります。

こちらは企業の怪我の程度によってサービスラインが分かれており、デューデリジェンスを行わず収益力を改善する「収益力改善支援」という手続きや、デューデリジェンスを行ってより精緻な計画を立っていく「再生支援」という手続きがあります。

更に、事業性が失われている会社に対しては、「再チャレンジ支援」という廃業支援も設けられています。

社長から事業再生の相談を受けた場合、怪我の程度に応じては平場で再生支援をすることもありますし、会社の規模によっては事業再生ADRという方法もあるかもしれません。

しかし中小企業の場合は、一度、中小企業活性化協議会のスキームが使えないかどうかを確認することが有用です。

リスケジュールの手続き

次に、リスケジュールの手続きを説明します。

下図は中小企業活性化協議会の手続きをもとにしていますが、平場で税理士、公認会計士、中小企業診断士、弁護士が、企業の社長と一緒に準則型私的整理手続を進める場合も、基本的にはこの手続きで進んでいきます。

リスケジュールの手続き。準則型指摘整理の流れ

企業実態の総合調査

企業実態の総合調査は、中小企業活性化協議会の手続きの場合、協議会と協議会が委嘱した外部専門家が、事業の側面、財務の側面を調査分析(デューデリジェンス:DD)します。

一方、企業が提携関係にある顧問の士業に実施してもらった調査分析内容を、協議会と協議会が委嘱した外部専門家が検証するという検証型の調査分析もあります。

いずれの手続きにおいても、事業面と財務面の両方を分析するところから始まります。

再生支援計画策定支援

再生支援計画策定支援は、中小企業活性化協議会と外部専門家が計画の検証、再生手法の検討を行い、企業による経営改善計画策定を支援する段階です。

調査の段階から計画策定の段階に移ることとなります。

開始からの流れとしては、事業DD、財務DD、経営改善計画策定、専門家の検証という順番になり、ここまでで約3ヶ月程度を必要とします。

債権者間調整~合意

次に、企業が専門家の支援を受けて策定した経営改善計画を、金融機関に提示するフェーズに入ります。

金融機関に経営改善計画を提示して説明をし、その内容を金融機関で協議することになります。

ここで様々な協議・やり取りを経て合意が成立すれば、そこで初めて経営改善計画に基づいた実行支援がスタートしてくことになります。

大体の場合、経営改善計画を提示すると金融機関から「ここおかしいんじゃないんですか?」や「ここは直した方がいいんじゃないんですか?」などの指摘が入るため、バンクミーティング開催から合意を得るまで、1~2ヶ月という期間かかります。

モニタリング

大切なのは、経営改善計画が成立した後のモニタリングのフェーズです。

モニタリングが始まると、1ヶ月おきに試算表を提出したり、3ヶ月で経営改善計画に基づいた施策の実施状況を報告したり、決算後にはバンクミーティングを開催して「今年はどういう状況でした」「来年来期はどうします」といった形で、きちんと金融機関に説明をする必要があります。

まとめ(設問の解説)

では、冒頭の設問の解説を踏まえてまとめます。

比較的小規模な企業で、メイン銀行とのやり取りが普段から円滑にできているような場合で、且つそのメイン銀行に加えてサブ銀行が1つ2つしかないような場合では、メイン銀行に相談に行き、平場でざっくばらんに話をするのが良いでしょう。

メイン銀行の支援のもとで各金融機関へ調整・納得してもらい、条件変更してしまえば終わりです。

一方、傷が深い場合には、中小企業活性化協議会等に相談していただく必要があります。

デューデリジェンスや計画策定支援という、少々面倒で長い手続に入っていく場合もあります。

以上でPart2を終わります。

Part3は、「リスケジュールにおける具体的な計画策定方法」についてお話をします。

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執筆者

清水健介
弁護士・中小企業診断士

1979年長野県上田市生まれ
2002年早稲田大学法学部卒業/裁判所事務官任官
2004年水戸地方裁判所裁判所書記官任官
2008年早稲田大学法科大学院卒業/司法試験合格
2009年司法研修所修了・弁護士登録
2010年奧野総合法律事務所入所
2011年昭和シェル石油(株)(現出光興産(株))法務統括部出向
2013年公益財団法人金融情報システムセンター調査部出向
2020年中小企業診断士登録・(株)再興経営研究所設立
2021年東京都中小企業再生支援協議会統括責任者補佐

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