理解しておくべき最低限のリスケジュールの知識 | Part1
清水 健介
弁護士 / 中小企業診断士
2002年 早稲田大学法学部卒業/裁判所事務官任官
2004年 水戸地方裁判所裁判所書記官任官
2010年 奧野総合法律事務所入所
2011年 昭和シェル石油(株)(現出光興産(株))法務統括部出向
2013年 公益財団法人金融情報システムセンター調査部出向
2020年 中小企業診断士登録・(株)再興経営研究所設立
2021年 東京都中小企業再生支援協議会統括責任者補佐
はじめに
3回に渡って「リスケジュール」について解説します。
Part1:リスケジュールとは ◀ 当記事
今回はPart1として、「リスケジュールとは」というお話をします。
最初に設問です。
“顧問先の代表者から、「現在の経営状況が不芳であり、資金的に先行きが難しい…」という相談を受けました。まず、何をヒアリングしますか?重要と思われる事項を何個か挙げてみてください。”
答えは記事の後半に解説しますので、考えながら読み進めてください。
尚、士業以外の読者の方も、ご自身の会社の資金繰りが難しくなった場合に、何を確認するべきかを考えてみてください。
リスケジュールのデメリットとは
まず、リスケジュールを考える上では、マイナス面(デメリット)について触れざるを得ません。
コロナ禍以前は財務的に健全であった企業も、コロナ禍の影響により過剰債務状態に陥り、債務超過に転落してる状況があります。
従って、リスケジュールを必要とする企業が増えていることは間違いありません。
金融機関の反応
一方、リスケジュールを申し込まれる金融機関の反応も、重要視すべきポイントがあります。
1.回収の極大化に逆行
金融機関は貸出しをして金利を稼ぎ、そこからシステム費用や人件費を差し引いて利益を出しています。
従って、リスケジュールを受けるということは、回収の極大化に逆行することになります。
2.債務者区分の悪化
リスケジュールをした企業は債務者区分が下方修正されるため、金融機関としては引当金を積まなければなりません。
また、完全に回収不能となれば100%コストになるため、取得している担保などの合理的な範囲でしかリスケジュールに応じてくれません。
3.管理の強化の招来
金融機関にとってリスケジュールは必ずしも良いことではないため、債務者の管理も強化されることになります。
4.ニューマネーの調達なくしての成長は困難
企業にとって一番のマイナスポイントは、一度リスケジュールをしてしまうとニューマネーの調達ができないことです。
金融機関は、リスケジュールを行う企業に対して新たな融資を控える傾向にあるため、成長企業にとって資金調達ができなくなることは非常に問題があります。
「良薬は口に苦し」という言葉もありますが、リスケジュールにはデメリットがあることを押さえた上で、アドバイスをしなければなりません。
リスケジュールの概念
次に、リスケジュールの概念について解説します。
貸出金の返済猶予
リスケジュールとは、融資してくれた金融機関に対する返済が厳しくなってしまい、その返済計画を見直すことを言います。
条件変更契約までがリスケ
リスケジュールの手続きとしては、返済計画の見直しに付随して計画を立てたり、金融機関との間で条件変更の契約を締結したりするところまでを実施します。
よって、条件変更契約の締結までを行わない場合、「リスケジュールは完了した」とは言えません。
債務には「期限の利益」と言われる返済猶予期間がありますが、それを失ってしまうと一括で支払わなければなりません。
この期限の利益は、条件変更契約が締結して初めて確定することになるため、条件変更契約が締結されていない場合は「期流れ状態」ということになり、延滞利息の請求や他の与信を受けられないこともあります。
金融円滑化法(2009年12月)に伴うリスケ
2009年に施行された金融円滑化法が、一番初めにリスケジュールが流行った出来事だと言われています。(モラトリアム法と呼ばれることもあります)
この時代、日本においては貸し渋りや貸し剝がしが横行しており、そういった金融機関のやり方が槍玉に上げられていました。
この金融円滑化法は、当時の民主党政権において立法されたものであり、金融機関に対してリスケジュールに応じることを求めるために2009年12月に施行され、2013年3月末まで延長された経緯があります。
しかも、金融機関は金融庁に対してリスケジュールを実施した状況報告をしなければならず、これは2019年3月まで続きました。
また、金融機関はリスケジュールの件数や謝絶率を金融庁に報告しなければならず、リスケジュールを促進する効果があったといわれています。
コロナ禍に伴うリスケ
2019年、ようやく終わったと思われた金融機関から金融庁への状況報告ですが、コロナが猛威を振る中で報告義務が復活しました。
これにより、リスケジュールの実務や事業再生に造詣の深いバンカーの育成が図られたという側面はありますが、金融機関にとってはリスケジュールに応じなければいけない環境が醸成されてしまいました。
また、コロナ禍では中小企業再生支援協議会が実施していた「特例リスケジュール」という制度もあり、コロナ禍に入ってからも非常に多くのリスケジュール件数が増え、東京都だけでも数百件のリスケジュールが実施される状況になりました。
具体的なリスケの方法
具体的なリスケジュールの方法は、3パターンほど考えられます。
組み換えリスケ
組換えリスについては、実務ではあまり使われません。
返済額指定リスケ
返済額指定リスケは、一定期間支払い額を下げて、一定期間経過後に本来払うべきだった支払い額をアドオン(追加)して返済をスタートしていく方法で、返済期間は変えないというものです。
返済額指定リスケについては、広く採用されています。
期間延長リスケ
期間延長リスケは、返済額を低くした結果その返済期間が伸びるため、当初の支払い額を下げた分だけ期間が伸びることになります。
従って、これに応じて返済期間は増えてしまいますし、保証協会の保証料など支払いも増えてしまという側面もあります。
リスケジュールの相手方(金融機関)
リスケジュールを理解するために重要なポイントとしては、リスケジュールの相手方(金融機関)をよく知ることも必要です。
メガバンク
メガバンクは、債務者区分に関して厳しい目線で効率的な管理をしており、B/S(貸借対照表)をよく見ている特徴があります。
在庫や売掛金などの内容についてはかなり精査されることになり、回収の極大化の方向に重きを置かれることになるため、リスケジュールをするにあたっては、相当な準備が必要になります。
地域金融機関
地域金融機関は、債務者区分に対する上向きの傾向が非常に強く、B/S(貸借対照表)よりP/L(損益計算書)を重視するような傾向が見られます。
債務者の所在地が非常に重視されるため、例えば千葉県の銀行が東京で融資をする場合や、神奈川県の銀行が東京で融資する場合は、地元企業ではなかったり貸出先ではなかったりするため、若干スタンスが変わったり、扱いが難しいというような側面があります。
地方銀行、信用金庫、信用組合というカテゴリーに分かれますが、一般的には地方銀行より信用金庫、信用金庫より信用組合の方が地域密着度は高く、支援姿勢も厚いという印象があります。
東京で地方銀行というと、きらぼし銀行、東日本銀行、東京スター銀行という顔ぶれです。
信用金庫は23行と非常に数が多く、その中でも城南信用金庫は地方銀行並の業容を誇っており、同じカテゴリーに属していても必ずしも同じようなスタンスではありません。
信用組合も14~15行あり、大東京信用組合は大手信用金庫並みの業容があるため、自分が取引のある、もしくは顧問先が取引のある金融機関がどこなのかなという点も押さえた上で、リスケジュールに入っていくということが必要になります。
政府系金融機関
政府系金融機関には日本政策金融公庫と商工中金がありますが、中でも日本政策金融公庫は、中小企業事業と国民生活事業とが元々は別の金融機関だったこともあり、それぞれ特徴的な取扱いがあるため、相手がどちらかという点を踏まえてリスケジュールの相手方を見定めなければなりません。
リスケジュールで金融機関を困らせるポイント
リスケジュールを始める時、もしくは始めたばかりの時、金融機関を困らせないために気を付けなければならないことがあります。
返済額の格差(残高プロラタ)
金融機関ごとの返済額に格差がある場合は注意が必要です。
例えば、「A銀行には80%払うのにB銀行には70%払う」とか、「A銀行には全額払うけどB銀行だけリスケジュールする」というのは公平ではなく、金融機関にとって嫌がられる交渉の方法となります。
そこで、残高プロラタが使われます。
基本的には各金融機関の貸出し金の残高に合わせて、それに按分をした形で支払いをしていく方法が望ましいと言われています。
しかし、これもケースバイケースということになります。
利息の延滞
リスケジュールとは言え、「利息まで支払えません…」というのは通常応じてもらえないため、「元金だけは払えないので50%減らしてください」というような方法を取ります。
全行合意の不奏功
基本的には、「A銀行だけリスケする」や「B信金だけリスケする」、「日本政策金融公庫だけリスクする」というのは良くありません。
リスケジュールをするのであれば、全金融機関の合意を取って一斉に実施するというのが望ましい形です。
ただ、メイン銀行の支援姿勢が厚く、「ウチが責任を持って、ウチだけがリスケジュールを対応します」という申し出はあり得るかもしれません。
しかし、それはメイン銀行との日頃からのお付き合いの仕方が根強く出てくるため、実際にはこちらから申し込みをしても困らせてしまう場合があります。
リスケジュールで何をヒアリングしなければならないか?
では、冒頭にお伝えした設問「資金繰りに行き詰った経営者に、何をヒアリングしなければならないか?」の解説をします。
事業内容の詳細
最初に、事業内容の詳細を聞く必要があります。
金融機関へリスケジュールを申し込めば、必ず業務内容や強み弱みを聞かれることになるため、事業内容についてはきちんと答えられるように詳細を把握しておかなければなりません。
資金繰り・現預金残高
次に、会社の資金繰りの状況です。
いくら自由になるキャッシュがあるのか、名目ではなく実際に使える金額を把握します。
いつ資金ショートしてしまうのかを把握するため、破産などであれば日繰りの資金繰り表を用意してもらうことも必要ですが、リスケジュールの場合でも一体どのくらいの時期に会社が厳しくなるのかを把握します。
リスケジュールなので、資金繰りについてはきちんとヒアリングをする必要があります。
窮境要因・経営者帰責性の有無
「なぜ経営が傾いているのか?」その原因を必ず聞かなければいけません。
その企業が傾いた原因が外的な要因よるものなのか、経営者の怠慢(経営者帰責性)によってリスケジュールが必要になったのかによって、金融機関もスタンスが変わってきます。
従って、会社が追い詰められている原因を、必ず深掘りしなければいけません。
金融機関借入の内容
対象となる金融機関借入についても、借入金の1つ1つを確認しなければいけません。
「金利はどの程度なのか?」や「毎月いくら返済しているのか?」、「どういった銘柄なのか?」という内容を個別に確認していくことになります。
例えば、手型割引の外為与信などはリスケをすることで対応が難しくなることもあるため、どういう取引をしているのかを押さえなければいけません。
金融機関の顔触れ・メイン銀行との関係性
金消契約(金銭消費貸借契約)の内容だけではなく、金融機関の顔触れやメイン銀行との関係性も非常に重要なため、こちらの情報も聞き出さなければいけません。
普段、「金融機関との窓口を経理部長がやっているのか、それとも社長がダイレクトにやっているのか?」、「相手は融資課長なのか、それとも支店長なのか担当者なのか?」、「どういった温度感で付き合いをして、どれぐらい支援をしてくれるのか?」。
窓口が誰かというところは非常に重要ですので、そこもきちんと聞かなければいけません。
返済状況
リスケジュールが一部始まっている状況が前提ではありますが、返済状況の確認も必要です。
「特定の金融機関だけにきちんと払っていて、他の金融機関には遅れて払っている」とか、「特定の金融機関だけに払って、他の金融機関には一切払っていない」など、偏った弁済(偏頗弁済)状況にある場合は金融機関の心象が悪くなります。
また、「資金使途と異なる使い方をしていないか?」、「実は『もう期限を過ぎて支払えていません…』と期流れの状態になっていないか?」といった、支払いの対応が金融機関を害する対応になっていないかもフォローする必要があります。
定期預金・定期積立
定期預金や信用金庫の定期積金も確認しておく必要があります。
本当に資金繰りが苦しいとか、利息の支払いも厳しいような状態であれば、「それを相殺してしまえるのか?」、それとも「両建てで置いておかなければならないのか?」、というところも気にしなければいけません。
担保設定の内容
リスケジュールにあたっては、金融機関がどの程度の回収可能性があるのか、引当金がどの程度必要なのかというコスト面からのアプローチも必要なため、担保の設定状況が非常に重要となります。
不動産評価の場合、例えば債券や動産担保(ABL)などが行われている場合には、そういった評価額がどれぐらいかも確認してく必要があります。
公租公課(税金・社保)滞納・猶予の状況
更に重要なのが、公租公課の滞納・猶予の状況です。
実は、税金や社会保険料を滞納している場合、誠実な納税者でないという評価を受けると、差し押さえを受けることがあります。
差し押さえを受けると、銀行との約定上は「期限の利益を当然に失う」ということが約款に書かれおり、これはかなり危険です。
もちろん、その期限の利益を喪失すれば、金融機関は「借入金を一括で払ってください」と言える立場になるためリスクは高まります。
一方、誠実な納税者という風に評価されるためには、公租公課もきちんと払った上で金融機関にも払うというようなバランスの取れた支払いが必要になってくるため、金融機関を優先した返済はできません。
「この会社はどれぐらい滞納しているのか?」、「税金・社会保険料との関係性はどうなってるのか?」ということは、リスケジュールをする段階では必ず確認しておかなければなりません。
雇用や事業をどうしたいのかという社長の希望
新規融資が得られないような段階でも、会社を延命させたいという希望があってリスケジュールをする訳ですが、では「最終的にリスケジュールをした後の出口をどうするか?」を確認する必要があります。
社長は従業員や事業をこの後どうしたいのか、場合によってはリスケジュールから債権カットや、もしくは法的整理などにも発展しかねないため、社長がどれぐらい熱いハートを持ってるのかというところもきちんと確認しておかなければいけません。
保証人の資産・個人ローン
会社の代表者や専務まで保証人になっているケースがあると思いますが、この保証人である社長等の資産内容や負債内容も、リスケジュールに入る段階できちんと押さえておく必要があります。
実際に資産分析をするにあたり、会社の責任者の資産を会社の資産とみなすような取り組み(中小企業特性)もありますが、そもそもリスケジュールをするにあたって保証人・経営者の経営責任の追求を受ける場合や、経営者責任の取り方でも非常に重要なポイントとなってきます。
また、社長から会社の借入れがあるような場合には、社長自身の個人ローンがつぎ込まれていることが多く、個人ローンばかり払っていると、金融機関から「我々(金融機関)には払ってくれないのに、なぜ個人ローンは払うんですか?」というような偏頗弁済と言われてしまうこともあります。
社長の資産内容や負債内容も、きちんとヒアリングをしておくことが重要になります。
ただ、関係性が構築できないと社長も資産内容を公表してくれないため、ここは人間力が問われるところとなります。
以上でPart1を終わります。
Part2は、一体どうやってリスを進めていくのか、という具体的な手続きについてお話をします。
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