経営に役立つコーチング | Part2

執筆者
埼玉県上尾市中小企業サポートセンター専門家 中小企業診断士 堀口 英太郎

堀口 英太郎
中小企業診断士

埼玉県上尾市中小企業サポートセンター専門家
中小企業119専門家

製造業にて販売と生産管理、企画部門へ従事後、中小企業診断士の資格を取得。
「困ったときは堀口さんに相談すれば、助けてくれる」
ゼネラリストとしての社会人経験と幅広い人脈、豊富なコンサルティング経験から生み出された新規事業壁打ち・立ち上げ、各種補助金、助成金申請、実行支援等を行う。


本シリーズは二部制で、上記の動画は「Part.2」です。

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目次

はじめに

今回は「経営に役立つコーチング」の第2回です。

第1回では、「事業環境の変化に応じた自己変革の必要性」、「コーチングの役割として目標達成を促すこと」、「目標達成に向けて負荷をかけること」の3点についてお話ししました。今回は、コーチングの定義から詳しく解説していきます。

コーチングの定義

まず、コーチングの定義に触れる前に、アメリカに本部を置く世界最大のコーチング組織である国際コーチング連盟(ICF)についてご紹介します。このICFは非営利団体であり、コーチングをどのように定義しています。

「コーチングとは、思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くことである。」

ここでの重要なポイントは2つあります。「創造的なプロセス」と「コーチとクライアントのパートナー関係」です。なお、この「クライアント」は経営者と置き換えていただいても構いません。「コーチ」はその経営者を支援する存在です。この2つのポイントについて、さらに詳しく説明していきます。

創造的とは

まず、「創造的なプロセス」についてですが、これは前向きな気持ちやワクワク感、そして刺激を受けることで生まれるものです。こうしたポジティブな感情があると、新しいアイデアが浮かびやすく、すぐに行動に移したくなるといった効果があります。

例えば、ずっとオフィスで一人仕事をしているよりも、外に出てさまざまな刺激を受けた方が新しいアイデアが湧き出ることがあります。コーチングは、このような創造的な雰囲気を作ることが大切な要素となります。

セッションの流れ

実際にどのようなセッションが行われるのかについてご説明いたします。創造的思考を促進するための対話がどのように進行するのか、具体的に見ていきましょう。

コーチは経営者に対して多角的に質問を行います。その質問に対して経営者は、じっくりと考えを巡らせます。この間、コーチは静かに待機し、経営者が思考している様子を見守ります。コーチは一切干渉せず、沈黙が続くこともありますが、この沈黙が経営者の深い思考を示しており、非常に重要な時間となります。

経営者は頭の中に浮かんだ言葉を口に出していきます。必ずしも論理的な文章で考えをまとめる必要はなく、思いついた言葉をそのままつぶやく方もいらっしゃいますが、それでも全く問題ありません。話しながら思考が整理されていくため、その過程自体が重要です。コーチは経営者の発言を遮ることなく、最後まで話を聞き、発言内容をしっかりと受け止めます。

通常、1回のセッションは30分から60分の間で行いますが、私の場合はおおよそ60分をかけて進めます。セッションの流れとしては、質問→考える→話す→聞く、というプロセスを繰り返します。1回のセッションで全てが終わるわけではなく、これを約3ヶ月続ける形で実施します。

この継続的なセッションを通じて、経営者は自発的な行動を取るようになります。次回のセッションまでにその行動を実行し、実行後の気づきや学びを次回のセッションで共有します。その気づきを基に、次にどのように行動していくかについて議論します。

3ヶ月程度の実施を通じて、思考のPDCAサイクルが自然と回るようになり、習慣化されます。3ヶ月後には、自らでコーチングを行う「セルフコーチング」の習慣が身につき、自発的な行動が定着します。このようにして、3ヶ月前と3ヶ月後では、自身の成長を実感できるようになります。

オートクライン効果

オートクライン効果についてご説明いたします。

この用語はやや学術的ですが、重要なのはその意味です。オートクライン効果とは、頭の中に浮かんだ言葉を口に出して自分の耳で聞くことによって、より深い気づきを得られるという効果です。言葉を発することで気づきが増え、思考が整理される結果、自発的な行動に繋がり、最終的には目標達成に至るというものです。

この効果を引き出すためには、コーチが多角的な質問を行い、経営者が考えている間じっくりと待ち、その発言内容をしっかりと受け止めることが重要です。これにより、経営者は自身の思考を深め、気づきを得ることができるのです。

コーチングセッションの会話例

実際のコーチングセッションにおける会話例についても触れてみたいと思います。ここで紹介する会話例は非常に簡略化されたものであり、すべての会話がこのように行われるわけではありませんが、一例としてご参考にしていただければと思います。

コーチ:「今日はどんなことを話してみたいですか?」
経営者:「3年後の自社の方向性を明確にしたい」
コーチ:「3年後、御社はどのような姿になっていたいですか?」
経営者:「新しいサービスを始めて、事業を拡大している」
コーチ:「素晴らしいですね。新しいサービスは具体的にどのような内容ですか?」
経営者:「そうですね~既存事業の強みを活かして…」

実際のコーチング現場では、さらに詳細に掘り下げていきます。

例えば、経営者が「3年後の自社の方向性を明確にしたい」と述べた場合、その具体的な方向性についてさらに質問します。売上や企業理念など、具体的にどういった方向性を考えているのかを探ります。もし経営者が「売上について話したい」と言った場合、そのきっかけについても深掘りしていきます。例えば、「売上がどのようになっていたら嬉しいですか?」という質問を通じて、その背景や動機を明らかにします。

経営者が「売上が3倍になっている姿を目標にしたい」と述べた場合、その背景には「中期計画を策定したい」という理由があるかもしれません。売上が3倍になった時に会社がどのような姿になっているか、さらに、経営者がその時どのように成長しているかを問いかけ、そのありたい姿をとことん膨らませていきます。

その後、現状と理想とのギャップを具体的にどう埋めていくかを話し合うセッションに進むかもしれませんし、ありたい姿を膨らませるところでセッションが終了することもあります。最終的には、経営者がどのような方向性で話を進めたいかを確認しながら進めていく流れになります。

コーチングでやってはいけないこと

コーチングにおいて絶対に避けるべきことについてご説明いたします。

先ほど、オートクライン効果を引き出すためにコーチが「聞く」ことが重要だと述べましたが、コーチングでやってはいけないことが3つあります。それは「批判する」「アドバイスする」「提案する」の3つです。これらの頭文字を取って「ひあて」と呼んでいますが、これらは絶対に行ってはいけません。

なぜこれらが問題となるかと言いますと、これを行うと経営者が創造的にならなくなります。自分の考えやアイデアが批判されると、良い気持ちにはならず、考えることをやめたくなることがあります。私自身も、自分のアイデアが批判された時に諦めたくなる経験をしたことがあります。これは人間として自然な反応です。

また、アドバイスを受ける場合も、自分の考えや価値観と合わないアドバイスを受けると、納得できず、行動に移せないことがあります。コンサルティングやティーチングの受け身の領域では、他者からのアドバイスや指示が行動に繋がりにくいという点があります。したがって、コーチングにおいては「ひあて」は絶対に行ってはいけません。

ただし、経営者が自らアドバイスや提案を求める場合は別です。コーチングの過程で、経営者から「アドバイスして欲しい」「提案して欲しい」と言われることがあります。この場合、コーチは経営者の価値観に沿った情報や、必要な政策、補助金情報などを提供することがありますが、あくまでも情報提供であり、押し付けはしません。経営者がその情報をどう活用するかは、経営者自身の判断に委ねます。

批判を求める経営者はほとんどいません。私自身もそのようなケースに直面したことはありませんが、もしかしたらそのような経営者も存在するかもしれません。

こんなやり取りをされたことありませんか?

以下のようなやり取りが行われることはないでしょうか。例えば、新しい事業のアイデアについての会話があるとしましょう。

コーチ:「新しい事業のアイデアはどうなった?」
経営者:「実はまだ…」
コーチ:「いつになったらできるの?」
経営者:「いくつか考えてはいるんですけど…」
コーチ:「提出できないなら、考えていることにはならないよね」

 経営者:「ああ、すいません…」

このような会話は、創造的プロセスに基づくコミュニケーションとは言えません。経営者はすでに意識的に新しいアイデアを出そうという気持ちを失っているかもしれません。

コーチングのアプローチでは、会話を次のように進めることが効果的です。

コーチ:「新しい事業のアイデアはどうなった?」
 経営者:「実はまだ…」
コーチ:「それは歯切れが悪いけれど、何か引っかかっていることがあるのかな?もしくは、どこまでできている?」
経営者:「いくつか考えてはいるんですけど、お客様のニーズにちょっと悩んでいるんです」
コーチ:「おお、じゃあできている部分だけでも見せてみて。お客様のニーズのどこで引っかかっているのかな?」

このように話すことで、経営者は「すいません」で終わることなく、さらに深い部分で悩んでいることや引っかかっていることを共有することができます。たとえアイデアが全体の1割しか進んでいなくても、その1割の部分を掘り下げることで、新たな気づきが得られ、創造的なプロセスが促進されます。

コーチのスタンス

コーチのスタンスとしては、答えは常に経営者の頭の中にあると信じることが重要です。

例えば、馬車やタクシーの運転手が乗客の行き先を知らないように、コーチも経営者の具体的なゴールを初めから知るわけではありません。経営者が「新宿に行きたい」と言えば、運転手はその目的地に向かうだけです。同様に、コーチは経営者の考えや目標を尊重し、可能性を信じてそれを支援する役割を果たします。

コーチは常に経営者の味方であり、「新宿に行きたい」というその思いを尊重して、新宿に連れていくサポートをします。このスタンスを持ち、決して「ひあて」を行わないことがコーチの基本姿勢です。

まとめ

ここまでで、コーチングについて以下の3点をご説明しました。

  1. コーチングとは思考を刺激し続ける創造的なプロセスであること。
  2. 「ひあて」は絶対に行ってはいけないこと。
  3. 答えは常に経営者の頭の中にあるという信念を持つこと。

次回からはさらにコーチングについて深掘りしていきたいと思います。

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執筆者

中小企業診断士 堀口 英太郎
埼玉県上尾市中小企業サポートセンター専門家
中小企業119専門家

1999年 新卒で製造業に就職 販売、生産管理従事
2009年 本社の企画部門へ異動
2012年 中小企業診断士合格
2013年 中小企業診断士登録
2021年 認定プロコーチ

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ゼネラリストとしての社会人経験と幅広い人脈、豊富なコンサルティング経験から生み出された新規事業壁打ち・立ち上げ、各種補助金、助成金申請、実行支援等に従事。

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