消齢化って何?どんなことが起こっているの?

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池谷 卓
中小企業診断士

約30年以上にわたり、素材メーカーに勤務し、国内外の生産設備・ライン
設計・保全や生産拠点運営、新事業開拓、経営企画、DX推進等を経験。2023年に中小企業診断士として登録。

外出中に食事をしたいけど時間のないときに、私はよく立ち食いそば屋さんを利用することがあります。この10年ほどで、女性の方が一人で食事をしている姿を見ることが増えてきたなと感じていましたのでネットを検索してみたところ、意外にも若い女性向けの立ち食いそば屋さんを紹介するホームページが多くあって、やはりそうなのだなと納得してしまいました。

さらに、博報堂生活総合研究所の生活定点調査において、女性が「立ち食いそばを食べるのは恥ずかしいか?」と言う質問に「YES」と回答した割合が、1998年に約30%から2022年には約10%と1/3に変化しているデータからも、その傾向を確認してさらに納得することができました。

この生活定点調査は、博報堂生活総合研究所が長年にわたって消費者の定点観測調査をまとめたもので、消費者の価値観や行動の変化を知ることができます。本書は、博報堂生活総合研究所がこの生活定点調査に含まれる20年分のデータを分析して明らかにした「消齢化」に関してまとめたものです。今回はこの「消齢化」について、ご紹介させていただきたいと思います。

目次

消齢化って、どのようなことが起こっているの?

「好きな料理は?」との質問に対して「ハンバーグ」と回答した方の年齢別調査結果から、2002年には最大(この場合は60歳代)と最小(20歳代)の差は約40%も離れていた(60歳代の方が好きと答えた割合が少ない)ものが、昨年は約19%と急激に差が縮まっていることが判っています。確かに、高齢化の影響もあるのでしょうが、結構ガッツリ系のレストランでも高齢の方の姿を見ることが増えているような気がしますので、納得できる結果だと思います。

 また、家族に関することとして「夫婦はどんなことがあっても離婚しないほうがよいと思う」に関しては、2002年に約24%(60歳代の方が良いと思う割合が多い)であったものが、2022年には約8%とこちらも大きく差がなくなってきています。確かに、昔に比べたら職場や周囲でも離婚した方が増えているようなので、こちらも納得できる結果です。
 

逆に年齢による広がったものとして、「テレビをみながら食事をすることが多い」については2002年には最大と最小の差が約3%だったものが、2022年では約20%と広がっています。

このように年齢によって縮まったものと広がった項目の数を見ると、圧倒的に縮まった項目の方が多く、この結果から年齢による違いが小さくなっている、博報堂生活総合研究所は、この現象を「消齢化」と呼んでいるようです。また、その傾向は例えば「食」、「家族」や「恋愛・結婚」の分野に偏るわけでなく、広い分野で生じていると言うことです。

感の良い皆さんなので、「消齢化」っていつ生まれたのかによって環境が違ったり経験が違ったり、いくつものライフステージを経験して年齢を重ねた結果とか、その時代における技術、政治、社会文化の変化の影響を受けているのではないのって思いますよね。その影響を考慮すると、将来「消齢化」はどうなるのでしょうか?

 答えは、やはり将来も「消齢化」が進むようです。そのようになる理由には、技術革新面や体力・気力面で「できる」がふえること、常識・慣習面や価値観の変化による「すべき、あるべき」から解放されることがあるようです。

 確かに、自分事で考えると20年前に比べれば、スマホなどを利用することによって年や性を超えた情報へのアクセスがやり易くなりましたし、ユニクロなどの登場によって服装に関しては年齢による違いがなくなってきたと感じますので、この傾向は進むことはあっても、後退することはないように思えます。

 しかし、これはB2Cを中心に製品やサービスを提供していた方々にとっては、「今までの製品やサービスの開発や提供の仕方を変えるような大きな問題なのでは?」と言う疑問が生じます。そこで、次にその点について考えてみたいと思います。

 

消齢化に対して、どう対処すればよいの?

まず、「消齢化」についてもう少し考えておく必要がありそうです。「消齢化」は年齢によるし好、価値観や意識の違いが少なくなると言うことですが、これって多様性、個性化の世の中と言われていることと矛盾していますよね。個々人では多様化している個性化していることは、皆さんも実生活の中で感じていることだと思います。

そこで、その点を考慮してみると、「消齢化」とは個々人は多様化、個性化しているけど、年齢ごとのオーバーラップするところの割合は大きくなっているってことによって、年齢間のし好、価値観や意識の差は少なくなっていることを指すのだけけれども、それがある年齢層の100%の価値観や行動を表しているわけではないってことなのです。

ここまで理解できると、確かに今まで通りに「20歳代の顧客の行動はこうだから」とか「団塊世代はこんなし好だから」と杓子定規に年齢で顧客を決めつける従来の考え方や手法だけでは、不十分ってことがわかりますね。

本書のなかでは年齢で消費者を分類する「よこ串」ではなく、価値観やし好等で分類する「たて串」の発想が有効となっていますが、シンプルにクラスター(塊)で考えることに置き換えた方が判りやすいのではないかと思います。

具体的に言えば、「自然なおいしさ」、「素直な味わい」、「余計なものがないので安心できる」などを好む層とか、「清潔な身だしなみ」、「知性のある話し方、作法」、「自分を大切にする」スタイルや生活を好む層と言った具合に、年齢を排除し共感を得ることのできるものが考えられますし、その点からいえば社会的な観点や教養など共感の得やすい点を取り入れることなどは、重要なことだと思います。

そして、もう一つ重要なことは、すでに言い尽くされているように物質的な価値提供ではなく、自社の価値観、雰囲気や文化などに共感してもらうことなります。この点を考慮すると、選択すべきクラスターは、自社の価値観、雰囲気や文化に共感してもらえるクラスターと言うことになります。

やはり、ムリはムダやムラを生じさせますので、ムリせずに、まずは自社の価値観に共感してもらえるクラスターを選択して、実際に共感してもらって他のクラスターにも共感を伝えていくことが成功する秘訣ではないかと思います。

 

まとめ

今回、「消齢化」に関するお話をさせていただきましたが、著者の博報堂生活総合研究所ですらその本質を明らかにする新たな軸(ものさし)を決め切れていない、いまだ未完のコンセプトの様です。

若い方は信じられないかもしれませんが、今回、コンビニエンスストアが自宅の近くにできたばかりのころに、母親から「コンビニエンスストアって若者が買い物するところなの?」って質問を受けたことを思い出しました。今のコンビニエンスストアの棚を見てみると、おひとり様向けの商品等多くの高齢者向けの商品が並んでいますので、時代の流れというか価値観や意識が変化していることを、実感として感じます。

現代は、その時に比べて技術開発による「できる」が増える、または常識・慣習、価値観が変化して「すべき、あるべき」から解き放たれる速度は格段に速くなっています。

今は未完のコンセプトかもしれませんが、「消齢化」を大きなうねり、大きな流れとしての理解していただき、実際に肌で感じて対応することが、皆さんのビジネス上でも重要になっていくと思います。

最後に、今回ご紹介した生活定点調査についての全データを読んで、消費者の考え方や行動の変化を知りたいと言う方は、こちらで公開していますので是非ご参照いただければと思います。

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この記事を書いた人

中小企業診断士
技術士

約30年以上にわたり、素材メーカーに勤務し、国内外の生産設備・ライン
設計・保全や生産拠点運営、新事業開拓、経営企画、DX推進等を経験。2023年に、中小企業診断士として登録。

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