売上を増やしたい!新規事業開発や事業再構築の最大のポイントは?

登壇者
株式会社3Rマネジメント代表取締役社長 渡邊 賢司のプロフィール写真

渡邊 賢司
中小企業診断士

株式会社3Rマネジメント 代表取締役
株式会社IoTメイカーズ 代表取締役

約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。

目次

ゆでガエルになる前に新規事業開発や事業ドメイン見直しをせよ

 アフターコロナにおいて、なかなかコロナ前の売上や利益に戻らない企業の方々も多いのではないでしょうか。業界が衰退産業だったり、競合との競争が激しい場合、既存顧客や見込み客に対し再度アプローチしても、なかなか売上増大につながらないにケースも多々あります。下請け企業の場合は、元請け企業自体が斜陽産業の場合は、どうしようもないのではないでしょうか。

中小企業の場合、市場規模が毎年縮小傾向にある、あるいは顧客ニーズが大きく変化していることに気づかず、従来と同じ商品・サービスを提供しているということはよくあります。新規事業も展開することなく、従来のビジネスモデルや過去の成功体験に固執していると、毎年少しずつ業績が悪化していくのは当然です。売上が減少傾向にあるのを一時的なものと思い、そのうち回復するはずだと従来通りのやり方に固執しているうちにどうしようもなくなったという経営者の話を何度も聞いてきました。

これを世間では、ゆでガエル状態と言ったりします。「カエルは、いきなり熱湯に入れると驚いて逃げるが、水に入れて徐々に温度を上げていくと逃げ出すタイミングを失い、最後には死んでしまう」という例えで、ゆっくりと進む環境変化に対して鈍感であるということです。

私のところにコロナ禍で新たに相談に来た中にも、そのようなケースの中小企業はありました。5年ぐらい前から、毎年売上が年間10%以上減少しているのに、役員は高額な報酬を取り続けていました。結果、過去の利益蓄積を取り崩し、打開策が打てないまま、ピーク時の三分の一の売上になってしまったのです。当然、毎年赤字を計上していました。

このような場合は、新規事業を行なったりして、事業ドメイン自体を変えていく必要があります。事業ドメインとは、誰に(顧客ターゲット)、何を(提供する商品・サービス)、どのように(強みや差別化を訴求して)、提供していくかということです。

「何を」提供するかも、「どのように訴求して」提供するかも、顧客ニーズを徹底的に考えることが重要です。つまり、顧客が買いたくなるような機能や価値、提供方法、訴求方法をあらためて検討し直すのです。従って、最初にやらなければならないことは顧客ニーズを徹底的に理解することです。

顧客ニーズを徹底的に理解せよ!

顧客ニーズを理解するにはどうしたら良いでしょうか。さまざまな方法論がありますが、最も単純なのは、顧客に聞く、顧客を観察すること、つまり顧客に教えてもらうことです。

意外と、これを行なっている中小企業は多くはありません。顧客アンケートや、ヒアリングを形式的に行なっている企業はありますが、顧客の本当の問題点や課題を深く捉えようとしている企業は少ないのです。

顧客は、本当のことをなかなか言いません。日本人は特にそうだと思います。不満や不安があっても、言わずに我慢することも多く、また、満足していなくても直接的に伝えるのは申し訳ないと思い、満足したと応えるケースもあります。我々も研修講師として仕事をした後に、必ずアンケートを取りますが、良い結果の場合は本当にそうなのか常に疑うようにしています。企業研修で大人数向けの研修などは、講師にではなく窓口になっている人事部等の顔色を伺ってアンケートを高評価にしていることもあるからです。

さらに、顧客が、自分自身が本当は何を望んでいるのかを理解できていないケースも多々あります。今は、モノやサービスがある程度満たされている時代です。本当に必要なものを顧客自身が意識できていないため、顧客のことを深く理解することから始めなくてはいけません。

そのためには、時系列やストーリー立てて、顧客のことを理解したり、顧客が抱えている問題点や課題について仮説を持ってヒアリング・観察することが大事です。とにかく、顧客の立場に立って、深く共感することが必要です。

時系列やストーリーで顧客ニーズを理解する!

 顧客ニーズを理解するには、顧客の行動を時系列に並べたり、ストーリー立てて考えながら、ヒアリング・観察を行うと良いでしょう。

時系列とは、購入前の探索・検索段階における課題や必要性から始まり、購入時の感情や満足感、購入後の使用感・課題解決につながった度合いなどを追いかけていくことです。

ストーリー立ててというのは、顧客の日常に深く共感し、生活の中でどのように位置づけられているかを理解することです。

例えば、子供の習い事の例を挙げてみます。子供に何か習い事をさせようと思ったら、親はまず、子供の将来のことを考えます。良い大学に入るため、プロスポーツ選手になるため、起業家にさせたい等、さまざまな将来像をイメージするでしょう。

一方で、目先の学びや体力向上などの短期的な効果も期待します。例えば、学校の授業に遅れないように公文や学習塾に行く、体力を付けるために水泳教室やサッカースクールに行くなどです。さらに、友人や近所の子供たちがどんな習い事をしている、どこの習い事が良いかも気になると思います。

このぐらいは誰でも想像できると思いますが、もう少し詳細に日常をイメージすることにより、今までと違った視点で新たな商品・サービスが提供できます。具体的にいうと、保護者が日常の子育てでどんなことに困っているかを考えます。例えば、次のようなものが挙げられます。

  • 近所の友人と一緒の習い事に行かせたい、ママ友と情報交換する時間が欲しい
  • 平日の夕方に保護者自身の時間が欲しい、自分の趣味を楽しみたい
  • 子供の宿題を見る時間がない、誰か他人にチェックして欲しい
  • 夕飯準備の邪魔をされたくない、買い物も1人で行きたい
  • 夕方まで、テレワークで仕事しているので、邪魔されたくない

 保護者の1日をこのように具体的にイメージすることで、今まで見えてこなかった課題が発見できます。上記の例で言うと、保護者が子供を一定の時間預けたいというニーズがあることが分かります。

従って、レッスンとは別に、子供を預かったり、宿題の管理をするといったサービスを付加することで新たな売上につながる可能性があります。民間の学童保育などは、そういったサービスを提供しているところもありますが、その他の習い事教室ではあまりありません。

【図:顧客の日常をイメージする】

ペルソナを作って、顧客ニーズの仮説設定を行う!

ペルソナとは、ユーザー像となる架空の人物のことです。仕事や性格、家族構成、収入、趣味・ライフスタイルなどに至るまで、詳細なプロフィールを作ります。ターゲットとなりそうな人々に対し、インタビューを実施し、抱えている問題や悩み、ライフスタイルなどについて聴き取った上で、架空の人物像を描いていきます。

例えば、子供の習い事に関するペルソナの例として、次のようなものが挙げられます。

ペルソナの例

小学3年生の男の子を持つ、母。主人は大手企業勤務。自身も大手企業に勤務し、普段は家に帰るのが、18時ぐらい。
自分もあまり一生懸命に勉強したわけではないが、必要最低限の努力はしたと思っており、大学を卒業して今に至る。
子供にも、中学受験をさせてまで、勉強中心の生活にさせるつもりはないが、学校で学ぶ最低限の知識はつけてもらいたいたいし、大学は出て欲しい。
また、小学生の頃は、勉強だけではなく、スポーツやキャンプなどでさまざまなものに触れて感性を磨いて欲しいと思っている。そのため、土日は、なるべく家族全員一緒に過ごすようにしている。

 ペルソナを設定したら、抱えている問題点や課題について、イメージを膨らませ、仮説を設定していきます。例えば、前述のペルソナの問題点や課題は、以下のようなものを思いつくことができます。

ペルソナの問題点・課題(仮説)

平日は家に帰るのが遅いので、なかなか子供の宿題や勉強を見る時間もない。子供たちはいつも宿題が終わっていない。
加えて、漢字の書き取りの宿題は子どもが苦手意識を持っており、なかなか進んでいない日の方が多い。
そのため、帰って夕食の準備や片付けを終えた後に、宿題を見なければならず、自分も子どもも寝不足になりがちである。
また、漢字のテストは、いつも点数が低いのでこのまま苦手意識を持たれて勉強が嫌いになるのを心配している。また、漢字も書けないと他の保護者や学校の先生の手前、何も教えていない親と思われるのも嫌で恥ずかしい。
漢字だけではなく、勉強に対する集中力も持続しないタイプで、中学・高校に進む前に、どんなことでもいいから、集中力をつけられるようにしてあげたいと思っている。

 このような問題点や課題を持っている保護者は意外にも多いのではないでしょうか。解決策の一つとして、公文や学習塾に通わせるのが一番手っ取り早いかと思います。

しかし、習い事のようにお金をかけず、かつ子供が楽しみながら、この問題点・課題を解決できるものもあります。それは、2017年に大ブームとなった「うんこ漢字ドリル」(文響社)です。

同書は、1年生から6年生までの、漢字学習の例文すべてに「うんこ」という言葉を使用したものです。小学生は、普段からこの「うんこ」という言葉だけで盛り上がったり、楽しんだりしています。従って、飽きやすい漢字ドリルには最適という考えもあって、生まれたのではないかと思います。

大ヒットの裏にこのようなペルソナ分析があったかどうかは分かりませんが、ペルソナとその問題点・課題を考えることで、このように新たな商品やサービスを生み出すことが可能になるのです。

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この記事を書いた人

中小企業診断士
(株)3Rマネジメント 代表取締役 https://3r-management.jp/
(株)IoTメイカーズ 代表取締役 https://www.iot-makers.co.jp/

約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。

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