経営者連帯保証は不要!「スタートアップ創出促進保証制度」とは?

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深町 一隆
中小企業診断士 /
健康経営アドバイザー

地銀、信販会社、メガバンク、保証会社、にて法人、個人営業、融資業務に従事。
営業では融資業務を中心に中小企業約100社を支援、保証会社においては地銀、信金、信組約80行を担当し、金融機関向け営業支援を実施。

実家の小売業が廃業しその無念さから「廃業を減らしたい」と中小企業診断士の資格を取得。商売の苦労を理解し、困難に立ち向かう企業のサポートに情熱を注ぐ。「伴走型相談支援」を軸に経営者のパートナーとして取組む。

目次

スタートアップ創出促進保証制度の背景と概要

2023年3月15日に、経営者の個人保証(以下、経営者保証)が起業·創業の阻害要因とならないように、「経営者保証」を不要とする創業時の新しい信用保証制度として、「スタートアップ創出促進保証制度」が開始されました。

背景として、スタートアップを含む起業家·創業者の育成は、「失われた30年」と揶揄され低迷を続ける日本経済の現状を打破するための起爆剤として、ダイナミズムと成長を促し、社会的課題を解決するものと期待されています。しかし起業関心層の方のうち、およそ8割が「借金や個人保証を抱えること」を懸念しています。日本政策金融公庫によると日本で起業に関心のある層(起業関心層)の割合は約14.3%と非常に低い割合となっており、この僅かな起業関心層の拡大と育成が急務とされています。

そのため、こうした起業に関する懸念を取り除き、創業機運の醸成ひいては起業·創業の促進につながるように、「経営者保証」を不要とする創業時の新しい信用保証制度として「スタートアップ創出促進保証制度」が創設されました。

 また、それに伴い東京都においても独自に保証協会に係る信用保証料の3分の2を補助する「創業経営者保証不要型(略称:創業経保)」制度融資が開始されました。

出所:内閣官房スタートアップに関する基礎資料集

スタートアップ創出促進保証制度の概要
保証対象者・創業予定者 (これから法人を設立し、事業を開始する具体的な計画がある者)
・分社化予定者 (中小企業にあたる会社で事業を継続しつつ、新たに会社を設立する具体的な計画がある者)
・創業後5年未満の法人
・分社化後5年未満の法人
・創業後5年未満の法人成り企業
融資限度額3500万円
融資期間運転·設備ともに10年以内(据置1年以内又は3年以内)
金利金融機関所定
保証人経営者保証不要
信用保証料創業関連保証の信用保証料率(0.35~0.60%)に0.2%上乗せした保証料率
その他・創業計画書(スタートアップ創出促進保証制度用)の提出が必要。
・税務申告1期未終了の創業者にあっては、創業資金総額の1/10以上の自己資金を有していること。
・原則として会社を設立して3年目および5年目のタイミングで中小企業活性化協議会による「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」に基づいた確認および助言を受けること。

スタートアップ創出促進保証制度のメリットとは

スタートアップ創出促進保証制度のメリットは3点あります。それぞれのメリットを詳しく解説します。

経営者保証を求められない。

創業を予定している個人や、創業から5年未満の法人企業に対して、事業が失敗した場合に個人が返済義務を負う「経営者保証」を求めないことです。万が一のリスクを回避できることは、起業に対するハードルが下がることになり、「起業意欲を阻害する」といったマイナス面の解消につながります。

「経営者保証」とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となることです。企業が倒産して融資の返済ができなくなった場合は、経営者個人が企業に代わって返済することが求められ、個人の財産を失うリスクがあります。

「経営者保証」には、例えば金融機関との取引では、債務者(会社)と債権者(金融機関)の権利関係が生まれるため、自由に経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継を妨げる要因となっているという指摘もあります。また、債権者側は経営への規律付けや資金調達の円滑化に寄与する面があると評価する一方で、起業に関心を持つ層の「起業意欲を阻害する」といったマイナス面が指摘されてきました。

事業そのものの価値や成長性を審査して融資を行う手法もありますが、日本の民間金融機関·保証協会の新規融資のうち、経営者保証を求めない案件の比率は未だ約20%にとどまっているのが現状です。

経営者保証提供状況(2020年)

経営者保証提供状況(2020年)
出所:中小企業庁経営者保証に関するガイドライン活用実績

運転資金や事業に必要な設備資金の融資に対して信用保証協会が100%保証

融資限度額についても3500万円を上限に、運転資金や事業に必要な設備資金の融資に対して信用保証協会が100%保証します。一般的に創業時の資金調達に検討される日本政策金融公庫の「新創業融資制度(無担保・無保証)」は融資限度額3000万円(内運転資金1500万円)となっており、「スタートアップ創出促進保証制度」の融資限度額3500万円(運転資金3500万円でも可)は、設備資金·運転資金の制約もないため、非常に使い勝手の良いものとなっています。

一般的には実績のないスタートアップへの融資は、リスクが高いと判断されるケースが多く、創業時に信用保証付き融資を含め民間金融機関から借り入れを行う際に、47.1%の経営者が個人保証を求められているのが現状です。

融資が受けやすくなる

また、スタートアップ創出促進保証制度は、中小企業が民間金融機関から事業資金を調達する際に、公的機関である信用保証協会が保証人となることで融資が受けやすくなるメリットもあります。

創業時の民間金融機関からの借入金の特徴
出所:内閣官房スタートアップに関する基礎資料集

信用保証料率は、各信用保証協会所定の保証料率に0.2%上乗せされた料率となります。なお信用保証料とは、金融機関から融資を受ける際、信用保証協会が債務保証をする信用保証制度の利用料のことです。

ガバナンス(企業統治)体制のチェックを受ける必要がある

「スタートアップ創出促進保証制度」では、融資を受けた企業は原則として、創業から3年目と5年目のタイミングで専門家によるガバナンス(企業統治)体制の整備に関するチェックを受けることが必要になります。

ガバナンス(企業統治)とは?

ガバナンス(企業統治)とは「統治·支配·管理」を示す言葉です。企業におけるガバナンスは「健全な企業経営を目指す、企業自身による管理体制」を指します。日本では、2000年代ごろに大企業による不祥事が相次いだことから、注目されるようになりました。経営者の独善的な行動や不正、情報漏えいといった経営リスクを未然に防止するためには、ガバナンスの強化が必須とされています。

具体的には、「内部統制やリスクマネジメントを向上させる部門の設置」や「役割と指示系統を明確にする仕組みづくり」などが挙げられます。企業がステークホルダー(利害関係者)との信頼関係を築いていくためにも、ガバナンス体制を構築し、強化していくことは重要な取り組みだと言えます。

そういう背景もあり「スタートアップ創出促進保証制度」では、企業が創業期から次のステージに移行するにつれ、ガバナンス向上の取組みが期待される中、創業期の中間期である3年目·終期である5年目のタイミングにおいて、中小企業活性化協議会の統括責任者などによる助言や必要に応じて磨き上げ支援を受け、創業者の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に繋げる目的で、ガバナンス体制の整備に関するチェックが導入されています。

ガバナンス(企業統治)のチェック項目

チェック項目は具体的に「経営の透明性確保」、「法人·個人の資産分離」、「財務基盤の強化」について中小企業活性化協議会が確認や助言を行います。ガバナンス体制の整備状況をチェックすることで、事業と個人の生活の線引きが曖昧になっているとの指摘もあった中小企業のガバナンス体制の強化図り、将来的には経営者保証を提供せずに融資が受けられるようになるのが狙いです。

なお、ガバナンス体制の整備に関するチェックの方法ですが、中小企業活性化協議会へ連絡し、窓口相談(収益力改善への取組みの必要性確認およびガバナンスチェック)を行います。税務署が行う税務調査のような立入検査ではなく、窓口相談なので気分的にも楽に感じられるのではないでしょうか。その後、窓口相談を行った中小企業者の方は、チェック結果の写しを金融機関に提出して終了するという流れとなります。

東京都中小企業制度融資の「創業経営者保証不要型(略称:創業経保)」って何?

東京都は、国が創設した「スタートアップ創出促進保証制度」を受けて、「東京都中小企業制度融資」において新たなメニューである「創業経営者保証不要型(略称:創業経保)」を創設しました。

この制度は、創業時の経営者のリスク軽減し、創業機運の醸成を促すため、融資期間や据置期間を拡充するなど、従来よりも創業期の中小企業の資金繰り支援を強化した制度融資です。「創業経営者保証不要型(略称:創業経保)」を利用するメリットは主に2つあります。

1.「スタートアップ創出促進保証制度」に申請基準が準拠している

申請基準が準拠しているため、書式は、スタートアップ創出促進保証制度で作成するものをそのまま使えるため、新たに書式の作成は必要ありません。

2.信用保証料のうち3分の2が東京都から補助される

信用保証料3分の2補助は、保証料率が高くなりがちなスタートアップにとって特にメリットが大きいものです。

最後に

令和5年3月27日の東京都のプレスリリースでは、中小企業の皆様の円滑な資金調達を支援するため、令和5年度の東京都制度融資の融資目標額を2兆円に設定したとの発表がありました。令和4年度以前の東京都制度融資は、コロナ関連融資が大部分をしめ、「事業の存続」が目的となっていました。それに対し令和5年度の東京都制度融資は、スタートアップ支援など「前向きな支援策」が追加されています。

このような施策転換からも、中小企業庁や東京都は今後もスタートアップを増やす様々な支援策を通じて、中小企業に新たな事業展開や大胆な事業戦略の転換を促すことで、創造的破壊を通じた経済全体のイノベーションにつなげる考えです。こうした時代の潮流に乗り、ぜひスタートアップの皆様方も積極的に制度を活用し自社の成長に繋げて頂ければと存じます。

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執筆者

【保有資格】
・中小企業診断士
・健康経営アドバイザー
・リテールマーケティング(販売士)検定2級

【略歴】
地銀、信販会社、メガバンク、保証会社、にて法人、個人営業、融資業務に従事。
法人営業では融資業務を中心に中小企業約100社を支援。保証会社においては地銀、信金、信組約80行を担当し、金融機関向け営業支援を実施。
中小企業向け融資及び各金融機関別の融資方針等の内情を多く学ぶ。

実家が家族経営の小売店で、幼い頃から家業の手伝いをする等、「商売」が身近なものでした。幼い頃より両親の働く姿を目にし、「商売」の大変さを身に染みて感じ、両親の勧めもあり、会社員に落ち着きました。その後、実家は廃業しましたが、その時の無念さは今でも忘れられません。「廃業などを少しでも減らしたい」との思いから中小企業診断士を取得しました。
経営者様の大変さは十二分に認識しております。「伴走型相談支援」を軸に、経営者様の良きパートナーとして取り組んでいます。

練馬区在住 福岡県出身

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