フランスと日本の物販の違い ~あまり知られていないEコマースの裏側~
梅澤 アンナ
装飾デザイナー /
小売物販コンサルタント
株式会社Mari`eeFleurir代表
日本大学芸術学部卒業後、株式会社ユニクロへ入社。
ファッション業界に精通するため量販小売店でBY、DBを経験し、アウトドアメーカーでMDと商品管理を経験。
その後、独立し装飾品店を開業。年間500件以上のオーダーを受注し、西武百貨店や高島屋などにも出展。現在は日本の着物を後世に繋ぐファッションプロジェクトを推進。2021年からはクリエイト塾を開講し、個別コンサルも行う。2023年にはパリコレに出展。
はじめに
本日は、「あまり知られていないeコマースの裏側」について、実例を交えながら、フランスと日本の物販の違いについてお話ししたいと思います。
私が先日、2023年3月にフランスのパリコレクションに参加した経験をもとに、フランスと日本の物販の違いについてお話ししようと思います。この機会に、フランスの現状を知っていただければ幸いです。
特に、コロナ禍での海外物流の難しさを経験された方も多いかと思いますが、現在のフランスの状況と日本との比較についてお伝えしたいと思います。
フランスでの滞在期間は約1週間でしたが、限られた時間の中で感じたことをお話しします。
日本とフランスの物販市場の違いについての私自身の視点をお伝えしますが、皆様の視点とは異なるかもしれませんので、あくまで私の経験に基づいた意見としてお受け取りください。
2023年3月、私はフランスに渡航し、オーダーメイドスーツを提供する『Re.muse』という会社と共にパリコレクションに出展する機会を得ました。ファッションウィークに日本の憧れの舞台で作品を発表し、私自身もその場に立ち会いました。
日本の3月はまだマスク着用が必要な時期でしたが、フランスではほとんどの人がマスクをしていない状況でした。空港に到着した際、私が黒いマスクをしていたために、まるで不審者のように感じられたことに驚きました。この違いが、私にとって大きな発見でした。
今回のテーマは、フランスと日本の物販の違いを理解していただくことですが、その先にあるテーマとして、自らの足で海外に出向き、実際の状況を把握し、他国との違いを理解することで、日本での自身の役割について考えるきっかけにしていただければと思っています。
物販に限らず、さまざまなトピックについてもお話しする予定ですので、どうぞ最後までお付き合いください。
EC市場規模、日本とフランスどっちが進んでいる?
まずは、EC市場の規模について、日本とフランスのどちらが進んでいるかという話をします。
2019年から2024年までの未来予測も含めて、世界のEC市場は右肩上がりで成長しています。今後は、成長が緩やかになると予想されていますが、その理由の一つとして、物流の不安定さが挙げられます。
ECの拡大に伴い、物流の重要性が増していますが、人手不足などの問題があり、改善が求められています。このため、急激な成長よりも、緩やかで安定した成長が見込まれています。
ここでクエスチョンですが、日本とフランスのどちらがEC市場で盛り上がっているか、皆様はどちらだと思いますか?
答えは、日本です。日本のEC市場はフランスの約2倍の規模を持っています。
実際、私自身もフランスに滞在して感じたことですが、日本のEC市場は確かに進んでいると実感しました。
以前、学生時代にフランスを訪れた際には、日本のEC市場は現在ほど進んでいなかったため、当時は似たような状況だったと感じましたが、今回の訪問で日本の進展ぶりに驚きました。
フランスでは、ECでの買い物がまだ一般的ではなく、家庭用品や日用品の買いだめなどもあまり行われていないようです。
私が滞在していたパリ市内では、そのような買いだめをする人は少ないようです。ただし、パリから離れた地域では状況が異なるかもしれません。
日本では、食品や衣服、電化製品などのネット購入が当たり前となっていますが、フランスでは独自の文化を保護するために、EC市場の発展が遅れています。
例えば、フランスでは書店を守るために、Amazonで書籍を販売できない規制があるほどです。このような背景から、フランスはEC市場に対して積極的ではないと言えます。
私がフランス滞在中に出会った日本の畳や置き物などを扱う店舗のオーナーも、フランスではAmazonでの購入が一般的ではないと話していました。
このように、フランスでは日本のようにECで簡単に購入する感覚がまだ浸透していないようです。
以上のように、フランスのEC市場は日本に比べて盛り上がりに欠けていることが分かります。
フランスではお店を開業するハードルが高い
次に、フランスと日本の物販の違いについてお話ししたいと思います。
フランスで店舗を開業することは、日本と比べて非常に高いハードルがあるとのことです。私はこの話を聞いて非常に驚きました。
日本では、法人設立が比較的簡単に行えるのに対し、フランスではそのプロセスが大変複雑です。特に飲食店を開業する際には多くの申請が必要で、書類の数は約3~4倍に及ぶと言われています。書類作成も非常に手間がかかるとのことです。
飲食店以外の店舗も同様に、多くの手続きが求められます。
フランスでは古い建物が多く、また防火対策も厳しいため、火災のリスクを避けるために特別な対策が必要です。
フランスでは、古い建物を壊して新しいものを建てるのではなく、古いものを修繕して使用するという方法が取られています。火災が発生すると、その影響が大きいため、飲食店を開業する際には特に高いハードルがあるのです。
フランスのインテリア事情(小話)
ここで少し話題を変えたいと思います。
オーナーさんから聞いた話によれば、現在フランスでは日本の畳が非常に人気だそうです。
皆様のお宅には畳がありますか?私の家には畳はありませんが、着物関連の仕事をしていると、畳のあるシーンが多いです。
しかし、現代のマンションや家屋では畳を見かけることは少なくなっています。昔ながらの民家では畳が重視されることもありますが、一般的には畳が減少しています。
しかしフランスでは、日本の畳が非常に好まれており、インテリアデザインを専門とするオーナーのところには、畳を使った部屋を作りたいという依頼が多く寄せられているそうです。
ただし、畳の原料である”い草”には輸入制限があるため、畳の供給が追いついていないという現状もあります。このため、畳を希望する人が多いにもかかわらず、供給が不足している状況です。
フランスでは日々の買い物は必要なだけ
続いて、フランスと日本の物販の違いについてお話しします。
フランスでは、日々の買い物は必要な分だけを購入し、大量に購入することはありません。
例えば、私が朝食の調達に通っていたパン屋さんでの話ですが、フランス人は毎日必要な量だけを購入します。
スーパーでも、大量に買い込むことはなく、毎日新鮮なものを手に入れるために、仕事の合間や仕事中にちょっとした買い出しを行うことが多いのです。
パリには、パン屋さんが至る所にあります。パン屋というよりも、パティスリーと呼ばれるお店が多く、焼きたてのパンやお菓子を提供しています。
これらのお店は、非常に早い時間から営業しており、フランス人はこうした店で少量の朝食を購入して食べるのが一般的です。冷凍して大量に保存することはあまり行われていません。
また、以前「フランス人は10着しか服を持たない」という本が話題になりましたが、フランス人は大量に服を購入することはありません。私が学生時代にフランスに訪れた際も同様でした。
フランス人は、洋服を購入する際にはできる限り試着し、自分の肌に心地よく、良質でシンプルなものを選ぶ傾向があります。
そのため、フランス人はシックなスタイルを持つと評価されることが多いです。
一方で、鞄や靴、コートなどの外に見えるアイテムについては、お気に入りのデザイン性の高いブランドを愛用することが多いです。
日本では大量に購入し大量に消費する文化が見られるかもしれませんが、フランスではそのような傾向はありません。
フランスのスイーツ事業(小話)
小話としてフランスのスイーツ事情についても触れたいと思います。
フランスの日本人パティシエ(ナナさん)と出会った際に驚いたのですが、フランスではショートケーキが珍しいとのことです。
日本ではケーキと言えばショートケーキのイメージがありますが、フランスでは焼き菓子が主流で、スポンジケーキに生クリームをトッピングするスタイルはあまり見られません。
そのため、ナナさんのもとにはショートケーキのオーダーが多いとのことです。
フランスでショートケーキを作る人が少ないため、日本では当たり前のショートケーキの需要が高いというのは興味深い事実です。
私自身はショートケーキを食べる機会が少ないのですが、フランスのお菓子に魅力を感じていました。しかし、フランスでは逆に日本のショートケーキに対する関心が深いことが分かりました。
フランスでは着物が大人気
次に、日本とフランスの物販の違いについてお話しします。
フランスでは着物が非常に人気である一方、日本では不要品とされることが多いという現象があります。
今回、私がパリに行った理由は、日本の特にアンティークの着物、すなわち戦前までに全て手作業で作られた着物を再活用し、何か新しい形で活かせないかという取り組みにあります。
日本の古き良き時代の文化を再活用する方法をフランスで学びたく、そのためにフランスへ向かいました。
例えば、中央のモデルは着物にベルトを巻き、下からスカートを出して履いています。
右側の男性は着物の下にトレーナーを着て、ざっくりと着物を羽織り、帯も巻かずに前を開けたままです。
左側の私は、着物をただ羽織っているだけの状態です。
日本でこのようなスタイルで歩くと、時には変わった目で見られることがありますが、フランスでは「なんて素敵な格好だろう」と称賛されます。
フランスでは着物が日本の文化として尊重されており、着物をファッショナブルに着こなすことがむしろおしゃれと見なされるのです。
フランスでは、着物を現代的なファッションにアップデートして楽しむことが歓迎されており、例えば着物の生地をリメイクしてカーディガンやローブとして利用するスタイルも好まれています。
フランス人は本当に着物が好きで、着物カーディガンや着物ローブといった形で着物を日常に取り入れています。着物をただ羽織るだけでもおしゃれだと感じられることが多いのです。
フランスには大量の着物があるわけではありませんが、熱心に探せば見つけることができます。日本では不要とされがちな着物も、フランスでは大変に愛されていることがわかります。
パリコレ後のレセプションパーティーで受注を獲得する
次に、ファッション業界におけるフランスと日本の違いについてお話しします。
ファッション関連の方々には馴染み深い話かもしれませんが、パリのコレクション後にはレセプションパーティーや展示会が行われます。多くのブランドは、この展示会でその年の受注を獲得しています。
日本では、洋服や小物を欲しいと思った際には百貨店やモール、オンラインショップで購入するのが一般的です。
また、デザイナーが個人で立ち上げたブランドが展示会を開催し、受注生産を行うこともありますが、その情報は一般の人にはあまり公開されていないことが多いです。そのため、多くの人が既存品を店舗で購入する傾向にあります。
一方、フランスでは、展示会での受注生産が依然として主流であり、パリ・ファッションウィーク(通称パリコレ)も非常に盛り上がります。
このことから、フランスのエシカルなファッション産業の特徴が見て取れます。
フランスでは大量生産・大量消費の文化は少なく、必要な分だけを生産する自給自足的なアプローチが採られています。これは日本との大きな違いの一つです。
本日のテーマを改めて振り返りたいと思います。
自ら足を運び、実際に体験することで他国との違いを知り、日本で何ができるかを考える機会にしたいと思います。
なぜこのテーマを取り上げたのかというと、まず一つは自ら体験することの重要性です。自分の目で見て、耳で聞き、肌で感じることでしか得られない情報があります。
現代では、インターネットで情報はすぐに調べられますが、実際の肌感覚や真実は、自分で見に行くことによってのみ体感できます。
著名なダ・ヴィンチの言葉にもあるように、知るだけでは不十分であり、実際に体験し、その情報を自分の感覚で確かめることが非常に重要です。
ファッションの最高峰パリコレで学ぶ量と質の違い
次に、本物に触れることの重要性についてお話ししたいと思います。
例えば、パリコレクションに参加することは、ファッション業界に身を置く者として学びの量と質が大きく異なります。
舞台裏は非常に壮絶で、表舞台の華やかさとは裏腹に、混沌とした状態であることがわかります。こうした実情は、実際に現場に行かないと知ることはできません。
私自身の体験として、パリのファッションウィーク中にパリコレに出展できたことで、五感を駆使して本物のファッションの世界を体感しました。
本物のファッションの世界は、単に華やかなものではなく、実力主義やヨーロッパ特有の階級社会が色濃く影響しています。
ファッションは時代の象徴であり、デザインや素材、色、形に現在の時代が映し出されています。また、デザイナーたちが考える未来のトレンドを先取りすることもあります。
これらの空気感や現実は、実際に本場でしか体験できません。
自己投資することの大切さ
次に、自己投資の重要性についても触れたいと思います。
本物に触れるためには、一定の金額を投資することが必要です。
私も自分の会社の資金や自己資金を投入し、大変な金額をかけましたが、その投資が非常に有意義だったと感じています。
世界には日本でまだ浸透していないアイデアやビジネスが多く存在します。ビジネスが行き詰まったとき、視点を変えて新たな角度から考えることが有効です。
そのためには、世界を見に行くことが有効です。
したがって、必要なところには惜しまずにお金をかけること、そして自己投資を行うことが非常に重要です。私自身、創業から5年を経てこの重要性を痛感しました。
自己投資を行い、自分の足で世界を見て知りたいことを体感することが大切であると感じています。
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