融資対策のポイント 金融機関が貸したくなる企業、貸せない企業

登壇者
株式会社ファースト・イニシアチブ 代表取締役 中小企業診断士 藤本 隆幸のプロフィール写真

藤本 隆幸
中小企業診断士

株式会社ファースト・イニシアチブ 代表取締役

茨城県商工会連合会、笠間市商工会にて21年間中小企業支援に従事。
企業相談及び専門家派遣事業の担当として企業の長所、短所の見極めと逸品づくり、経営革新計画へ結び付く提案と実際の作成やOJTなどフレキシブルに対応。

平成22年10月:先進的(優秀)支援事例として「中小企業庁長官賞」を受賞。
平成25年5月:関東経済産業局より優秀支援アドバイザーとして感謝状授与。

目次

はじめに

今回は、「融資対策のポイント 金融機関が貸したくなる企業、貸せない企業」というテーマで、「事業者の資金とは一体何でしょうか?」それから「融資って一体何でしょうか?」という概要をお話します。

セミナーの狙いは、以下の3本立てです。

・世の中の変化を知る
・事業資金の内容を知る
・有効な対策を知る

事業者を取り巻く環境変化

世の中を取り巻く環境は、たくさん変わっています。

少子高齢化、後継者不足、ネット社会、感染症対策、キャッシュレス、SDGsという言葉もあります。それから、非対面の販売や打ち合わせ、足元では原材料や輸送コストの上昇に困っている方も多いかと思います。また、コロナ禍のゼロゼロ融資が返済できないという声も聞いており、今、本当に世の中が変わっています。

そんな中で大事にすべきは、変革認識です。この変わっていく世の中で問題意識を持って、経営者自身が「やるぞ!」「やらなくては!」という意識を持つことです。また、経営者だけでなく従業員へも認識共有をし、取引先も含めて変革を進めることが大事になります。

事業者にとって必要なこと

変化に対応するために、事業者にとって必要なことをまとめました。

1つ目は、お客様の思考やライフスタイルは常に変化しています。今、Z世代と呼ばれる若者は、環境問題に興味がある企業に就職したい、また環境に配慮した商品を買いたいという人が多くいます。

2つ目は、新たな戦略や購買方法も考えなければなりません。

3つ目は、お客様の情報源や購買判断の変化を確認する必要もあります。

事例:タブレット端末レジで売上データの有効活用を実現

変化に対応した事例を紹介します。

私は都内で中小企業支援をしていますが、創業時から支援している企業のお話をします。

この企業は、中小企業庁のIT支援事例でも紹介された企業ですが、タブレット端末レジの「エアレジ」を導入して、データの有効活用をしています。また、商品ごとの売上を把握したり、キャッシュレスに対応したりと、女性経営者ですが非常に前向きに取り組まれている方です。

チョコレートを作っている企業で、経営者は非常に前向きに新しいことを捉える方であり、インタビューのときにすごく良いことを仰いました。「デジタル化していろいろなことを取り入れることは、お客様の満足度に直結し、新しいものを取り入れることは、お店の品質にも繋がります。」と仰いました。

では、この企業がなぜ順調な経営をしているのかというと、この経営者は創業するときに手書きの計画書を一生懸命作り、進捗管理もしています。経営革新計画という中長期計画も作っており、3年後、5年後になりたい姿を作っています。よって、金融機関側もしっかり評価してくれて、設備投資の追加融資もいただいています。

計画的な経営こそ、資金繰りの近道となっています。

事業における資金とは

事業における資金とは、いわば血液のようなものです。体を巡る血液なので、これが枯渇してしまうと事業をストップせざるを得ません。したがって、売上がたくさん上がっているだけではなく、売上金を回収しないと企業は成り立ちません。

よくあるのは、売上は絶好調だが黒字倒産するというケースです。よって、事業の好不調と資金は別問題と捉えてください。

また、常にキャッシュを確認しなければなりません。月末だけでなく日々の通帳見て、持っている現金が大丈夫であることを確認するのは、経営者として必要なことです。

よくある質問として、「お金を返すのが大変なので、私は借りたくない。」という経営者がいらっしゃいます。しかし、事業はお金があって回っていくものであり、急にお金が必要になった場合に備えて借りておくことは重要です。

かつて、5%、6%という金利の時代もありましたが、今では1%、2%という低金利であるため、私は借りておいたほうが良いとお答えすることが多いです。

中小企業向け融資とは

中小企業向けの融資についてご説明をします。

いろいろな機関からお金を借りることは可能です。お金を借りる機関としては民間金融機関(民間銀行)が挙げられますし、公的機関としては日本政策金融公庫があります。

日本政策金融公庫にはいろいろなメニューがあり、普通貸付、創業融資、マル経融資などがあります。受付は、商工会議所や商工会などの商工団体です。

民間金融機関には、都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合などがあります。都市銀行は比較的大きな企業に対応しますが、地方銀行でも大きな銀行があります。一方、小回りが利いて、よく面倒を見てくれる民間金融機関は、信用金庫や信用組合です。

また、融資には都道府県の融資制度、市町村の融資制度など、いろいろな制度があります。

融資を受ける際、以前は連帯保証人を付ける必要がありましたが、現在は信用保証協会に保証料を支払うことによって、信用保証協会が連帯保証人の代わりになってくれる融資制度もあります。信用保証協会を使わない場合の融資をプロパー融資と呼び、金利が上乗せされることもあります。

このように、民間金融機関と信用保証協会が融資の主導権を持っていることが多いです。

どうしたら借りられるか

では、どうしたら融資を借りられるかを、4つのポイントで解説します。

申し込み先はどこなのか確認する

1つ目は、申込先がどこかを確認してください。

都道府県、市区町村など、様々な申込先があります。あるいは、直接金融機関に行く場合もありますし、商工団体(商工会・商工会議所)に行く場合もあります。まずは、商工団体に相談して、どこで借りるのが良いかを聞いてみるのも良いでしょう。

普段より借入ができる先を確保する

2つ目は、普段から借入れできる先を作っておくことです。

既に、どこかの機関から融資を借りている方もいらっしゃると思いますが、何も1箇所でなくても大丈夫です。限度額はありますが、公的な日本政策金融公庫と民間の信用金庫の両方作ったり、あるいは民間の金融機関何社かから借りれる体制を作ったりしておくことも重要です。

最初に融資を受けるには、申し込みから融資まで、概ね1ヶ月ぐらいの審査期間がかかると言われています。2回目以降の融資を受ける場合、早ければ2週間ぐらいの審査で必要なときに借りることも可能であり、小口融資などのときに少し借りることもできます。

関係機関との関係ができているか

3つ目は、関係機関との関係ができていることも大切です。

商工団体やよろず支援拠点などの支援機関との関係ができていると、お金を借りる金融機関以外の意見を聞くことも可能になります。

必要な条件と提出書類の確認

4つ目は、必要な条件と提出書類を確認することです。

例えば、その地域で創業していることや、1年以上経営していることが条件など、様々な条件があります。また、提出書類は登記簿や納税証明書が必要という場合もあるため、提出書類の確認も必要となります。

金融機関の考え方

次に、お金を貸す側の金融機関の考え方を4つのポイントで解説します。

融資をして収益を上げたい

1つ目は、金融機関側は融資をして収益を上げたいと思っている点です。

金融機関はボランティアでお金を貸している訳ではありません。金融機関も一企業ですから、融資をして金利を回収することで収益を上げたいと考えています。

ちゃんとしたところに融資したい

2つ目は、ちゃんとした企業に融資したいと思っている点です。

金融機関は融資をして収益を上げたいと思っていますが、貸し出す先の企業はどこでもいい訳ではなく、ちゃんとした企業に貸したいと思っています。

皆さんも、誰かから「お金貸して」と言われた場合、「何に使うんですか?」と聞きますよね。それがちゃんと口で言えるか、また口で言う以上に書類になっているか、またデジタルデータになっているかを確認して、そういうことをちゃんとしている企業に融資をしたいというのが金融機関側の大前提です。

経営の拠り所となる戦略(計画)ができているか

3つ目は、経営の寄りとなる戦略(計画)ができているかという点です。

戦略(計画)がなくても融資を受ける人もいますが、戦略や計画がA4用紙1枚でも3枚でもあれば、金融機関から評価されます。

中には、10枚、20枚と作る経営者もおり、金融機関内部の融資審査で評価されることがあります。

経営実態、収益性、将来性はあるか

4つ目は、経営実態、収益性、将来性があるかどうかという点です。

開業だけして何もせず、経営実態がない企業には融資ができません。また、決算書上で売上がない企業は、金融機関側として不安になります。さらに、事業が成長して将来性がある企業に貸したいのが金融機関の考え方になります。

貸したくなる企業

次に、貸したくなる企業について5つのポイントで解説します。

売上好調

1つ目は、売上が好調な企業です。

コロナ禍においては、売上不調でもコロナ融資で対応してくれていましたが、売上が良いことに越したことはありません。

計画的な経営ができている

2つ目は、計画的な経営ができている企業です。

経営計画を作っただけでなく、ちゃんと実践していることが重要です。

決算書に不審な点がない

3つ目は、決算書に不審な点がない企業です。

よくあるのは、急に在庫が増えたり減ったりする企業や、未集金や未払金などよく分からない項目が多い企業ですが、不透明な決算書は良くありません。

約束事や時間を守り誠実さが見える

4つ目は、約束事や時間を守り、誠実さが見える企業です。

金融機関は、経営者を評価しています。約束事をちゃんと守ったり時間を守ったりするなど、誠実な企業に貸したくなります。

納税や返済に遅れがない

5つ目は、納税や返済に遅れがない企業です。

大前提ですが、納税に遅れがあると融資を受けることは出来ません。市町村税、所得税、特に消費税は預かり金であるため、納税に遅れがあると融資が難しくなります。

貸せない企業

次に、貸せない企業について5つのポイントで解説します。

納税や返済が遅れている

1つ目は、納税や返済が遅れている企業です。

金融機関への返済が遅れているとよろしくありません。2度、3度と返済が遅れると「ちょっと大丈夫かな…」と思われてしまします。

これまでに一定の貸付がある

2つ目は、これまでに一定の貸付がある企業です。

借入限度額を超えている企業や、既に多額の融資を受けている企業は、「もう、これ以上は貸せませんよ…」と言われることが多いです。

計画的な経営ができているように見えない

3つ目は、計画的な経営ができているように見えない企業です。

計画的な経営ができていないだけでなく、金融機関が企業に訪問したときに、雑然としている事務所もよろしくありません。

約束事や時間を守れない

4つ目は、約束事や時間を守れない企業です。

約束ごとや時間を守るのは大前提です。

決算書に不審な点がある(法人事業と個人資産が分離できていない)

5つ目は、決算書に不審な点がある企業です。

前述の決算書に不審な点がある事例の補足として、法人企業において法人決算と個人資産が分離できておらず、ポケットが一緒になっている企業があります。そのような実態もよろしくないためご注意ください。

健全に融資を活用するための対策

次に、健全に融資を活用するための対策を、8つのポイントで解説します。

定期的な決算書の誠実な提出(口伝手渡)

1つ目は、定期的に決算書を誠実に提出することです。

定期的に決算書や関係書類を、金融機関に対して誠実に提出してください。また、なるべくメールではなく、口頭で伝えて、書類を手渡しするコミュニケーションが必要です。

記帳や資金繰り表など日常の整備

2つ目は、記帳や資金繰り表など日常の整備です。

記帳や資金繰り表の作成は日常的に行い、お金の出入りを把握し、半年に一度帳簿を作るのではなく、毎月、毎日、記帳していることを見せるのも大事です。

複数の金融機関とのコミュニケーション

3つ目は、複数の金融機関とのコミュニケーションも必要です。

1行だけに頼っていても、急に世の中の情勢が変わって、「貸せません…」って言われたら大変なことになります。

金融機関の複数職員とのコミュニケーション

4つ目は、金融機関の複数職員とのコミュニケーションです。

金融機関の担当者とコミュニケーションを取ることも重要です。また、担当者は異動してしまうことがあるため、担当者の上役ともコミュニケーションを取っておくと良いでしょう。

承認、認定や補助金など申請書・認定証の共有

5つ目は、承認、認定や補助金など申請書・認定証の共有です。

認定や補助金の申請書・認定証など、公的な申請や認定を取得した場合は金融機関と共有して、自慢してください。金融機関側に頑張っている姿を見せることも大切です。

雑誌掲載や自社広報資料の共有

6つ目は、雑誌掲載や自社広報資料などの共有です。

雑誌の掲載や、広報誌やチラシを作成した場合、普段の現金入出金などちょっとしたタイミングで担当者を呼んで渡しておくことで、頑張っている姿を見せ、健全に事業活動を行っている印象を与えることもできます。

金融機関だけでなく支援機関との相談体制

7つ目は、金融機関だけでなく支援機関との相談体制の構築です。

金融機関以外の支援機関へも相談をすることで、資金繰りの順調さや、普段抱えている課題を話すことも大切です。

短期のアクションプランや中長期計画の作成・実行と共有

8つ目は、短期のアクションプランや中長期計画の作成・実行と共有です。

計画は、半年以内に取り組む短期施策と、来年に取り組むような中長期施策に分けることが重要です。それを金融機関に説明すると良いでしょう。

経営計画と課題

次に、経営計画について簡単に説明します。

経営計画とは、誰に売るかというターゲット、何を売るかという商品・サービス、どのように・どんな場所で売るかという販売方法を考えることが大前提です。

また、多くの場合、事業における課題は次の3つです。

まず、商品力です。人が欲しいものであるか、美味しいものであるか、魅力的なものであるかなどを見ます。

次に、発信力です。その商品が欲しい人に情報を届けているかを見ます。多くの場合、この商品力と発信力が課題になっています。

そして最後に、ブランド力(人間力)です。あなたから買いたい、社長から買いたいという理由が明確になっているかを見ます。

これらが見える化できれば計画になり、金融機関も納得して融資をしてくれるようになります。

問題や課題は沢山あり、仕入から販売まで社内のいろいろな場所で課題は発生します。その際は、支援機関に相談したり、金融機関に率直にお話したりしても良いでしょう。

まとめ

事業における資金とは、企業の総合的な評価に基づくものです。

単にお金が欲しいだけでなく、社長が考えている事業計画の総合的な評価に基づくものであり、計画的な経営の実行と誠実な活動が必要になります。

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執筆者

株式会社ファースト・イニシアチブ 代表取締役
中小企業診断士 藤本 隆幸

茨城県商工会連合会、笠間市商工会にて21年間中小企業支援に従事。
国の経営革新支援アドバイザー、地域力連携拠点及び中小企業応援センター等のコーディネーター、を歴任し、中小企業の経営革新計画作成と地域資源活用・農商工連携認定支援、事業再生支援等を担当。
企業相談及び専門家派遣事業の担当として企業の長所、短所の見極めと逸品づくり、経営革新計画へ結び付く提案と実際の作成やOJTなどフレキシブルに対応。

平成22年10月 先進的(優秀)支援事例として「中小企業庁長官賞」を受賞。
平成25年5月  関東経済産業局より優秀支援アドバイザーとして感謝状授与。
中小企業庁 経営支援に係る専門家の確保・育成検討会専門委員(H25年)

平成27年4月より笠間市商工会にて、経営指導員として経営革新承認32件、全国1,600以上の商工会の中で第1位に導く。翌年度は41件承認。

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