企業の人間的側面に着目した経営改善の進め方 | Part2 経営者が組織の心理的安全性を考える時に何に注意すべきか?

登壇者
株式会社成長支援教育総合研究所
 代表取締役 中小企業診断士
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石倉 充
中小企業診断士

株式会社成長支援教育総合研究所
 代表取締役
組織の病を治す幸福経営アドバイザー 

富士銀行(合併後みずほ銀行)にて、企業向け融資・M&A・事業承継対策・株式公開支援・ベンチャー投資・支店長業務などを通じ、中小企業から中堅・大企業まで1,000社以上、資金面・戦略面からの成長を支援。
現在は、アドラー心理学の学びや原田教育研究所が開発した理想の職場をデザインするICMメソッドを使って組織風土改善やリーダー人材の育成に従事。


本シリーズは三部制で、上記の動画は「Part.2」です。

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皆さんこんにちは。組織の病を治す 幸福経営アドバイザー 石倉充でございます。どうぞよろしくお願いいたします 。

今回は「貴社の組織はどのタイプですか?企業の人間的側面に着目した経営改善の進め方」の第二部として「経営者が組織の心理的安全性を考える時に何に注意すべきか」というテーマでお話をいたします。

今日は、次の4つをお話しいたします。

①「組織の心理的安全性を考える際に、経営者が見過ごしがちなポイント」について。次に②「最も大切なのは“リーダーの在り方”なのだ」というお話。そして③「あなたの会社の組織風土はどういうタイプですか?アセスメントをしましょう」というお話。最後に④「③のアセスメントの結果に基づいた、実践的な組織風土改善の進め方」について、お話をいたします。

目次

【経営者が組織の心理的安全性を考える際の(見過ごしがちな)ポイント】

最初に経営者が組織の心理的安全性を考える際のポイントについて3つお話をします。

1つ目は、前回の講座でお話をしたように、心理的安全性を脅かす現場での一つ一つの出来事、例えば「無知・無能・邪魔・否定」などの、職場上司や同僚の行動がありますが、実はそれらは、いわゆる経営インパクトの観点から見ると小さいということです。

つまり、これらの事象は社長の耳に入りにくいのが実情なのです。もちろん、大きな部屋で全メンバーが一緒に仕事をしている中で、○○課長が○○君をやっつけてるというような場面を見れば目に入るわけですが、外出先や社長の見えないところでそういったことが起こると、社長の認識に入ってこないことが多いのです。しかしながら注意すべきなのは、そういう一つ一つの出来事が蓄積して、組織風土の悪化を招くということです。

そして、その結果は極めて甚大です。指示待ち社員になってしまったり、社員が離職してしまったり、経営改善がなかなか上がってこない、新規事業を誰もやろうとしないなど。また、こういうことを社長が変えようと思ってもなかなか難しい。こんな組織風土になってしまうのです。

2つ目は、なんとなく社長は、社員の心理状態を感じることはできますが、社員の本当の心理的安全性の状況というのは、経営レベルからは見えにくいということです。実は社員は現場で、無知・無能・邪魔・否定、そういったことの不安を抱えたりするのですが、その程度がどの程度なのかというのは、経営者には見えにくいのです。しかしながら方法はあります。組織や個人の心理的状況は、アンケートによるアセスメントで可視化できるのです。そして、可視化されたデータに基づいて具体的な改善に取り組むことによって、社員の心に寄り添えるような人材を育成できるのです。言い換えると、人間の健康診断と一緒です。人間が健康な体を維持しようとすれば、健康診断を受けます。まずは、組織の心理的安全性のアセスメントをお勧めします。

3つ目は、組織風土の改善のためには、心理的側面に着目した改善行動が必要なのだということです。改善行動は、2つの面から対策を打つ必要があります。

1つは「制度面」、2つ目は「ソフト面」です。制度面からのアプローチというのはどういうことかというと、「会社の経営理念」や「ビジョン」・「経営計画」などを明確化することです。また、「人事制度」をきちんと設計し構築することや、定期的に点検して変更・メンテナンスを行うことが大切です。さらに、心理的状況を把握するアセスメントを定期的に実施することも大切なことです。

このようにして作り上げた制度に則って組織運営をするわけですが、ソフト面も重要になってきます。具体的には「リーダーの在り方」です。リーダーがどういうことを成すかも大事なのですが、リーダーの心の状態が大切なのです。どういう心の状態で部下に接しているか、これが非常に重要になります。したがって、心理的な側面に配慮できるリーダーを育成していくこと、あるいは人事制度の運用においても、心理的側面に配慮して運用することが大切になります。また、立派な経営理念を作って終わりではなく、それをしっかりと現場に浸透させ、上からのアプローチだけではなく下からの意見(現場の皆さんの意見)を吸い上げて、「社員全員が会社の経営に参加しているのだ。我々は会社の一員なのだ。」こういった参画意識を醸成していくことが大事になります。

【最も大切なのは“リーダーの在り方”】

それでは先ほど申し上げた「最も大切なのは“リーダーの在り方”なのだ」というお話を深掘りいたします。リーダーの在り方は「being」という言われ方をします。リーダーが何を成すかは「doing」です。この「doing」と「being」は両方大切なのですが、「doing」というのは、皆さんいろいろな本を読んで勉強するわけです。

だからこそ、すでにアシスタントからリーダーの地位に上り詰めているわけなのですが、この『在り方(being)』というものを学ぶという機会はなかなかありません。しかしながら、組織風土に与える影響はこのリーダーの在り方(being)というのが極めて大きいのです。

なぜなら、人間というのは、論理ではなくて感情で動くためです。感情というのは、目には見えにくいもので、特に自分自身の心の状態を客観視することはとても難しいです。しかしながら、そのリーダーがどういう心持ちで社員に接しているかがとても重要になります。

具体的な例を上げます。皆さんも経験があるかと思います。口では「〇〇君頑張ってるね!期待しているよ!」と言っていても、心の中では「またあいつ… 今期も業績未達で… 何度言っても改善しない…」というようなことを持った状態で、表面上だけ優しい言葉をかけてもなかなか通じません。

社員はすぐにそれを見抜いてしまい「上司は僕のことを評価してくれないな」と敏感に感じ取り、やる気を失ったりしてしまうのです。したがって、この目に見えない「リーダーの心の状態」というものをコントロールすることは非常に重要になります。

世の中にはたくさんのリーダー論があります。その中で、この心の状態を取り扱った内容もたくさん含まれていますが、その学びを生かすというのは本当に難しいと思います。私自身もずいぶん痛い経験をしました。

そういう経験を通じて、私自身は「禅」や「マインドフルネス(瞑想)」などに取り組みました。私の経験からすると、この瞑想というのが一番効果的でした。しかしながら、それで十分かというと、それだけでは足りないです。リーダーが制度面・ソフト面に配慮した、具体的な取り組みも実行しないと、組織はなかなか変わらないのです。

「リーダーの心の状態を整えるのは必要条件」、「具体的な取り組みを行うのが十分条件」このような整理になるかと思います。

まとめると、制度面・ソフト面の取り組みとリンクした形で、リーダーが「在り方」を整えることが効果的なアプローチだと言えます。このようなことを考えると、心理的安全性を高めたり、組織風土を変えるというのは、いわゆる「人事マター」の仕事ではなく、最上位の「経営マター」の仕事だということをご理解いただけるのではないかと思います。

【組織風土のアセスメントについて】

それでは次に「心理的安全性をどのように把握するか」、あるいは「自社の組織風土はどういう状況なのか」ということを把握する方法についてお話をしていきます。

先ほどもお話したように、アンケートによるアセスメントという方法があります。

〈代表的な組織風土〉

・人間関係最重視のほんわかムード型

・人間関係より成果重視のきっちり型

・仕事もきっちり人間関係も暖かい理想型

・仕事も人間関係もよくない崩壊寸前型

・好調社員と不調社員が混在する二極分化型

アセスメントをすると、その職場は「人間関係重視のほんわかムード型」だったり、人間関係よりも業績・成果重視だというような「きっちり型」という組織もあります。それから、仕事もきっちりやるし人間関係も温かい、「理想型」だったり、それとは逆に、業績も上がらないし人間関係も良くない「崩壊寸前型」というものあります。あるいは、非常に心理的に良い状況にある社員と、悪い状況にある社員が二極分化している組織もあります。

また、社員についても同様にそれぞれタイプがあります。

〈代表的な社員のタイプ〉

・仕事に誇りと自信を持ち意欲的に働いている社員

・仕事はでき自分に自信を持っているが、職場の人間関係にストレスを抱えている社員

・パフォーマンスが高くない為に、自分に自信が持てず元気がない社員

・自分に自信が持てないし、職場の人間関係もつらくどうしてよいか悩んでいる社員

「仕事に誇りを持ち、自分に自信を持って、意欲的に働いている社員」もいれば「仕事はできるのですが、人間関係にストレスを感じている社員」もいます。逆に「皆から愛されてはいるが、パフォーマンスが高くなく元気がない社員」。それから「自分に自信も持ってないし、職場の人間関係も辛くて、どうしていいか悩んでいる」このような方もいます。こういったことを、従業員アンケートをまとめることによってグラフで示すことができます

従業員アンケートの可視化

図1.従業員アンケートの可視化

右側は「個人の心理状態」ですが、縦軸で存在感・自己肯定感を測り、横軸で人間関係のストレス・不安感を測ります。また、右上の「満足群」は仕事に誇りを持って意欲的に働いている社員です。次にその隣の「配慮群」は、業績は高くて仕事に誇りは持ってはいるが、人間関係でギスギスしている社員です。

「分かって欲しい」と思っているような社員が該当します。続いて右下の「承認群」は、人間関係は良好で皆から愛されているのですが、業績が上がってないので自分に自信がないという社員です。最後に左下の「成長群」は、業績も上がってないし、周囲との人間関係も良くなくて、本当にどうしていいのか分からない。「もう助けてほしい」・「話を聞いてほしい」。このように思っている社員です。

このような形で個人の心理状態を一つの点で表します。同様に B君、C君、D君の点がどこにあるかをプロットしていきます。このように一人一人の社員がどこにプロットされるのかを固めて、組織全員のプロットを集めるとクラスター(群)ができます。その形が、組織全体としての心理的状況を表すことになります。

その形を簡略的に示したのが、図1の左側の丸印です。大きく5つのタイプに分けてあります。大変良好なタイプ(黄色の円)。それから、どちらかというと、業績よりのパフォーマンスを重視するタイプ(青色の円)。それから、業績よりも人間関係を重視する、ほんわかあったかい組織(緑色の円)。

続いて、業績も良くないし、心理的なストレスも高い、崩壊寸前の組織のタイプ(黒色の円)。最後に、心理的面において非常に良好な方とフォローが必要な方が同居して二極分化している、ムーブメントタイプの組織(紫色の円)。このような形で、まずは心理的状況を可視化することが大切です。

【組織風土改善のアプローチ】

それでは、心理的状況のアセスメントを活用した、組織風土を実践的に改善していくアプローチをご説明いたします。

最初に前項でもお話した、職場のメンバー全員に対するアンケートを行い、心理的状況をアセスメントします。次に、アセスメントの結果、可視化されたデータから、各職場のリーダーが職場のタイプ・メンバーのタイプに合わせた、タイプ別アクションを、自ら立案します。

そして、職場リーダーが、社員の心理面に寄り添った、タイプ別アクションを実践します。そうすると、色々な反応が見られます。PDCAを回しながら、制度面・ソフト面の改善の取り組みを継続していきます。

このような形でリーダーを巻き込んで、リーダー自身に個々のメンバーへの関わり、あるいは組織のルール作り、これを経験させます。このような実践的アプローチで組織風土を変革していきます

「研修して終わり」ではなく、実際にやらせてみて結果を反省してもらって、より良いやり方をまた試してもらう。こういうやり方で組織風土を実際に変革していけるのです。ここまでやるとリーダー教育にもなります。会社の制度面・ソフト面を改善できる人材が、各所に育っていくようになります。

そして結果として、明るい職場を実現でき、お客様との絆が深まり、業績が好転し、社員への待遇が改善できる。これにより、益々社員がやる気になる「好循環」が生まれるわけです。

今の話を、改めて全体感をつかみながら整理をします。

組織風土改善の全体像

図2.組織風土改善の全体像

組織風土を改善するためには、上下両方向から組織風土を改善していきます。(上から)リーダーを育成し、リーダーの上からのアプローチを改善する。(下から)メンバーの参画意識を高めて組織風土を改善する。これを合わせでやっていきます。

具体的には、経営陣やリーダーが、経営理念・ビジョン・中長期計画を明確化します。その中で会社の存在意義や、仕事の誇りなど、会社が目指す方向性を明示します。そして、社員を物心ともに豊かにするのだということを固く決意表明をする。

次に、リーダー育成・コーチングですが、リーダーが次の2つのことをできるようにします。1つは「組織作り」で、組織の制度面を整備します。2つ目は、社員一人一人との関わり方をレベルアップすることです。この2点を教育していきます。

これによって、社員を勇気づけ育成する仕組みが出来上がります。その結果、お客様に価値提供し、適正利潤を継続して得られる仕組みができていきます。

次に社員を巻き込んだ下からのアプローチですが、社員の「想い」や「願い」、「希望」や「夢」・「アイディア」などを社員の声として吸い上げ、現場からの自主的な改善が促されるよう働きかけます。

社員全員がメンバー同士の感情の交流を進めると「自分たちはこの組織に属しているのだ。参加しているのだ。」という意識が高まります。その結果、共感・相互リスペクト・相互支援・勇気づけをするといった組織風土が出来上がっていきます。そして、社員一人一人は「お客様の役に立つことが喜び」や「自ら学び・成長する喜び」、「人を育てる喜び」などの、お金以外の報酬を高めることができます。こんな形で組織風土を実践的に改善していくことができるのです。

今回は、経営者が心理的安全性に配慮した形で組織風土を改善する具体的なアプローチについてご説明いたしました。皆様の組織作りの参考にしていただければと思います。細かい内容については、説明しきれないこともございます。また私自身、組織のアセスメント経験を持っておりますので、もしご関心がある方は、個別にメール等でお問い合わせをいただければと思います。

次回の講座では「企業の永続的発展のために、心理的安全性の確保だけでいいのだろうか」というテーマについてお話をいたします。引き続き、よろしくお願い申し上げます。本日はご清聴、誠にありがとうございました。


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この記事を書いた人

株式会社成長支援教育総合研究所
 代表取締役 石倉 充
中小企業診断士

組織の病を治す幸福経営アドバイザー 

早稲田大学商学部・政経学部卒業、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了

大学時代、ダグラスマグレガーの「企業の人間的側面」という本に感銘を受け、19歳の時に「組織の病を治す医者になろう!」と決意。

富士銀行(合併後みずほ銀行)にて、企業向け融資・M&A・事業承継対策・株式公開支援・ベンチャー投資・支店長業務などを通じ、中小企業から中堅・大企業まで1000社以上、資金面・戦略面からの成長を支援。 これらの経験を活かして、中小企業診断士として独立。

東京工業大学のベンチャー育成や日本工業大学専門職大学院(MOT)にて中小企業ファイナンス論を担当。その後、老舗企業の経営改善に取り組んだ経験から、組織改革を推進するためには、社員の心理面に寄り添った取り組みが必須であり、極めて重要であることを痛感。
東洋の禅に学ぶ一方、西洋のアドラーやアンソニー・ロビンスの心理学を経営実践に活かすために学ぶ。現在は、アドラー心理学の学びや原田教育研究所が開発した理想の職場をデザインするICMメソッドを使って組織風土改善やリーダー人材の育成に従事。

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