パワハラ予防対策セミナー | Part4 クイズで学ぶ!!パワハラ防止指針
藤堂 武久
弁護士/中小企業診断士
登録弁護士として活動を開始したが、多くの人々が手遅れになってしまっており、役に立てないケースを多く経験した。トラブルを予防し未然に防ぐ活動をすべく、中小企業診断士として、情報発信活動、講演・研修、経営相談業務、人財の採用・定着・育成に携わる。
・延べ講演・研修回数635回超
・延べ受講者数14,251名超
・延べ経営相談回数572回超 (2023年4月末時点)
本シリーズは五部制で、上記の動画は「Part4」です。
はじめに
「パワハラ予防対策セミナー|パート4」では、前回のパート3お伝えしたパワハラ防止に関する指針について、物語形式でクイズをお伝えします。インターネット上で指針をご覧いただけると幸いですが、その内容は非常に長いため、特に重要と思われる点を物語の中で取り上げて、事例クイズとしてお伝えします。その後、クイズの解説も行いますので、ぜひお楽しみください。
パワハラ防止指針クイズ
舞台はとあるファミリーレストラン。
主人公のAさんは、とても真面目で素直な頑張り屋ですが、少し不器用な面もある人物です。Aさんは同期が次々と出世していく中で、自分だけが取り残されているように感じ、焦りを募らせていました。そんな中、ようやくAさんも店長に昇進し、とあるファミレスの店舗責任者としての道を歩み始めます。
やった、やっと店長になれた!
これからはますます頑張って、お店の業績を上げていこう。そして少しでも早くライバルの同期に追いついて、いずれは追い越してやるんだ。
店長として、どんなお店にしていこうかな?そうだ、学生時代の部活動のように、何でも話し合えて、情報を共有しながらみんなで頑張れるようなお店にしたい。それなら、毎日のコミュニケーションが大事だな。
よし、頑張るぞ!
一方、その頃、アルバイトのB君が出勤してきました。
おはようございます、A店長。
今日もよろしくお願いします。
おはよう、B君。
今日もよろしくね。
A店長は、B君の挨拶がいつもより元気がないことに気づきました。
あれ、B君、いつもはもっとハキハキして、大きな声で『ありがとうございました!』って言ってくれるのに、今日は少し違うな…
そう感じたA店長は、B君に声をかけました。
B君、今日もお疲れ様。
頑張ってくれてありがとうね。
はい、お疲れ様です。
こちらこそ、ありがとうございます。
A店長は、元々体育会系の性格で、後輩思いの面倒見が良く、後輩のいいところを見つけて積極的に声をかけてあげることができる上司でした。
B君、なんだか少し疲れているように見えるけど、大丈夫かい?
何かあったのなら話してみてくれないか?
え、店長、わかりますか?店長ってすごいですね。
実は、長いこと付き合っていた彼女に振られちゃったんです
ああ、そうだったのか。それは辛いね。
誰にだって落ち込むときはあるよ。無理しなくていいからね。
そうだ、B君、焼肉好きだよね?こんなときは美味しいものを食べて、気分を切り替えるのもいいかもしれない。もしよかったら、俺がジャジャ苑の豪華特上カルビとロースの3時間食べ放題コースを奢ってあげるから、いつでも言ってよ。
えっ、店長、マジですか?めっちゃ嬉しいです!
ひとりでずっと落ち込んでたんですけど、こんなふうに気を遣ってもらえて、ほんとに嬉しいです。
こうして、A店長とB君は高級焼肉店ジャジャ苑の豪華特上カルビとロースの3時間食べ放題コースを楽しみました。A店長はその場でB君の話に耳を傾け、寄り添いながら励ましの言葉をかけていました。
そして翌日、B君は元気な様子で出勤してきました。
店長、昨日はごちそうさまでした!焼肉、最高に美味しかったです。
すっかり元気が出ました。今日は仕事、頑張りまくります!
それは良かった。元気なB君の姿を見られて、私も嬉しいよ。
今日も一緒に頑張ろうね。
その時、A店長は心の中でこう思っていました。
(やっぱりコミュニケーションをたくさん取ることは大事なんだな。
B君にそんな事情があったなんて知らなかったけど、気づいてあげられて本当に良かった。人を応援するって、自分の方が嬉しい気持ちになるなんて不思議だな。これからも困っている後輩がいたら、どんどん助けてあげたいな。)
それからまた別の日のことです。
A店長の会社の取引先であるCさんは、今後の仕事に関する打ち合わせと親睦を深めることを兼ねて、A店長とB君を懇親会に誘いました。こうして、A店長、B君、Cさんの3人で懇親会が開かれることになりました。お酒の勢いも手伝って、仕事の打ち合わせが盛り上がり、意見交換も活発になってきました。
いやあ、このお店の料理とお酒、すごく美味しいですね。
今日はつい飲み過ぎちゃいますね!
B君、君はもっとお客様の気持ちを先回りして、積極的に動かなきゃだめだよ。ほら、Cさんを見てごらん。
Cさんはね、私が新入社員だった頃からずっと私を支えてくれたんだ。いつも声をかけてくれて、落ち込んでいる時には話を聞いてくれて、すごく助けてくれたんだよ。
いやいや、何をおっしゃいますか。
Aさんこそ、私に気遣ってサポートしていただいているじゃないですか。
B君、聞いてるかい?
君もCさんのような先輩にならなきゃだめだよ。
はい、頑張ります!
まあまあ、Aさん、今日はもうだいぶ飲んでますよね。
Aさんはいつも後輩思いのいい上司ですが、説教っぽくなっちゃうと、せっかくの楽しい飲み会が台無しになりますよ。
それに最近は、何でもパワハラって言われてしまい怖いので、お酒は楽しく飲みましょうよ。
いやいや、CさんのすごさをもっとB君に教えたいんです。
Cさんには本当にお世話になったんですから。B君もすごく頑張り屋だからこそ、伝えておきたいんです。
それにここは会社じゃないので、パワハラとか関係ないんですよ。
まあまあAさん、穏やかに、穏やかに!
私もCさんのお話、ぜひ聞きたいです。
本音で指導してくれる上司って、このご時世なかなかいないですから、本当にありがたいです。
Cさん、B君って若いのにしっかりしてるでしょ。
私の若い頃と比べても、はるかにしっかりしているんですよ。
いや、確かにそうですね。
今日お話ししただけでも、Bさんが凄い方だと分かりました。
このように、A店長、B君、Cさんの懇親会は益々盛り上がりました。
それからまた別の日のことです。新たに店舗に応援で派遣されたD子さんがやってきました。
どうも初めまして、私D子と申します。
よろしくお願いします。
あ、どうも店長のAです。
この度は応援で入っていただいてありがとうございます。
よろしくお願いします。
ところが、D子さんには接客業の経験がなく、お皿を何度も割ってしまったり、注文を忘れてお客様を長時間待たせてしまい、クレームに繋がったりすることも度々ありました。また、遅刻や無断欠席も繰り返し、これが店舗の運営に支障をきたすトラブルメーカーとなってしまいました。
その結果、D子さんへの対応に時間と労力がかかり、お店の業績は次第に下がっていくことになりました。
最初は粘り強く対応していたA店長でしたが、ついに堪忍袋の緒が切れてしまいます。A店長は、D子さんに対してかなりの大声で叱りつけることも増え、D子さんが話しかけても無視をするような態度を取るようになりました。
この様子を見かねたB君は、A店長に心配そうに声をかけました。
A店長、D子さんへの対応、大丈夫ですか?
お店の業績が下がってるのは確かにまずいですけど、最近はどんなことでも被害者がパワハラだって言ったら、それがパワハラになっちゃう時代じゃないですか。
いやいや、それは違うよ。
先日、本部で受けた研修でも言ってたけど、被害者がパワハラだって言ったからって何でもパワハラになるわけじゃないんだよ。
ええ、本当ですか?
いや、自分はA店長が何か本部から怒られたり処分されたりするのが心配で…
大丈夫だよ。
それにね、D子さんは派遣社員だから、派遣会社の社員さんであって、うちの会社の社員じゃないんだからパワハラにはならないと思うよ。
ええ、本当ですか?
自分、難しいことはよくわかんないですけど…。
それからまたしばらくしてからのことです。EさんがA店長の店舗に本部から派遣されてきました。
Eさんは本部の管理者の一人であり、A店長の上司にあたる人物です。A店長とD子さんのトラブルが本部に伝わり、その対応としてA店長の店舗にEさんを派遣することになりました。
A店長、初めまして。本部から来たEです。
A店長のサポートのためにこちらに来ましたので、よろしくお願いします。
はい、よろしくお願いします。
A店長は一見丁寧に応じましたが、内心ではこう考えていました。
(ああ、このEさんはきっと私の悪いところを見つけて、処分するために本部から来たんだろうな…やりづらくなったなぁ。早くいなくなってくれないかな…。)
しかし、実は本部はA店長の店舗のスタッフからの聞き取り調査をA店長に内緒で済ませており、その結果、スタッフ全員がA店長を高く評価していたのです。そのため、本部はむしろA店長の人柄を評価しており、将来的にA店長を管理者マネージャーに昇格させる意向でした。
Eさんの派遣は、その準備の一環として、A店長の現状確認と人材育成をサポートするためだったのです。Eさんが店舗に入ることで、A店長が管理者マネージャーに昇格し、その間、Eさんが店舗運営を担当するという計画が進行していました。
そんな中、ある日のことです。
B君、お疲れ様です。
最近、Eさんが本部から来てるけど、Eさんの仕事ぶりってどう?
Eさんですか?
そうですね、まぁ優しくていい人なんですけど、どうも現場には慣れてないみたいですね。料理がかなり遅いですし、それに結構お皿も割っちゃってるんです。
え、そうなんだね?
料理が遅いと、お客さんが入れなくなって売上が下がっちゃうよね。お皿もいいもの使ってるし、割られるとコストがかかるし、ちょっと困るよね…。
そうだB君、Eさんが料理遅かったり、お皿を割ったり、他に何かあったりしたら、それを他のスタッフにもいっぱい情報共有しておいて欲しいんだよ。場合によっては、あることないこと大げさに言っちゃってもいいからさ。
こういうのって、言ったもん勝ちみたいなところあるじゃん?だからどんどん言っちゃって。
え、それはちょっと…まずいですよ。
そんなの、パワハラっぽくないですか?
何言ってんだよ。俺たちはEさんの部下だぜ?
上司に対してパワハラなんてあり得ないんだから、心配いらないよ。
【Q】さて、ここでクイズです。
この物語において、特にAさんの言動にはどのような問題があったのでしょうか。
回答
それでは、Aさんの言動に関する問題点を具体的に見ていきましょう。
まず、物語の中でAさんは「ここは会社じゃないからパワーハラスメントとは関係ない」と発言しました。しかし、これは問題があります。職場におけるパワーハラスメントの「職場」とは、業務を遂行する場所全般を広く解釈するものです。そのため、会社のフロアを出たからといってパワハラが適用されないということではありません。業務を遂行する場所、例えば先ほどの懇親会のような場も、お仕事の打ち合わせやコミュニケーションを目的とするものであれば、職場と見なされます。したがって、Aさんの発言は明らかに問題があります。
次に、Aさんの2つ目の問題発言として「派遣社員は派遣会社の社員であって、うちの会社の社員じゃないからパワハラには当たらない。」というものがありました。これも誤った認識です。パワハラに関する新しい法律では、派遣社員も職場におけるパワーハラスメントの対象となる労働者に含まれます。派遣社員に対してもパワハラを行ってはいけないと明確に示されており、Aさんの発言は問題です。
さらに、3つ目の問題発言として、「部下から上司へのパワーハラスメントなんてありえない」とありました。ここで参考になるのが、指針における「優越的な関係を背景とした言動」に関する説明です。優越的な関係を背景にした言動には、部下から上司に対するものも含まれ得ます。具体的には、部下が業務上必要な知識や豊富な経験を有し、その協力が業務の進行に不可欠である場合、これも「優越的な関係を背景とした言動」に該当します。したがって、パワハラは必ずしも上司から部下へのものだけではなく、部下から上司への言動も該当する場合があるのです。
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