【中小企業向け】資金繰りの相談は誰にすべきか

執筆者
中小企業診断士 吉川和明

吉川 和明
中小企業診断士

大手製造機器メーカーにて、流通小売業向けPOSシステム、および決済システムの開発に従事。本業と中小企業診断士の二刀流で、商工会議所の経営相談員や補助金申請支援などの活動を実施中。

目次

資金繰り相談・財務相談が重要か

原材料費の高騰、人件費の上昇、消費の停滞、コロナ禍の影響など、近年の経済環境の変化により、以下のような悩みを抱える中小企業が増えています。

  • 月末の資金繰りが不安で、常に銀行に依存している
  • 融資返済が重く、利益を残す余裕がない

「黒字倒産」とも言われるように、利益が出ていても資金が尽きれば倒産に至ります。

資金繰りや財務の問題を放置すると、支払遅延による取引先からの信頼喪失や税金・社会保険料の滞納による信用低下などを招いてしまい、経営を続けることが困難となる危険性があります。

資金繰り相談・財務相談を早期に行うべき理由

売上減少や取引先の倒産リスク

景気の変動や取引先の都合などにより、突如売上が減少することはよくあります。また、主要取引先の倒産や支払い遅延が発生すると自社の資金繰りに大きな影響を与えます。このような事態を避けるためにも、早期に専門家へ相談して資金の流れや財務状況をしっかりと把握しておく必要があります。

金融機関からの融資審査

融資にあたり、金融機関は財務状況の安定性や資金管理の能力を重視します。近年は事業性評価を重視する傾向にあるため、試算表・資金繰り表だけでなく事業計画書まで準備する必要があります。事業計画書作成には経営や財務に関する専門知識が必要で時間もかかるため、早期に専門家へ相談をしておくことが大切です。

経営改善のスピード

資金繰りや財務状況の問題発見が遅れると時間的猶予がなくなり、リストラやリスケといった苦しい選択肢しか残らなくなります。経営上の課題抽出と改善に向けた取組みをスピーディに行うためにも、早期に専門家へ相談しておくことが大切です。

早期に相談すべき企業の特徴

借入返済や経費の支払いがギリギリ

毎月の返済や経費支払いがギリギリの状態である場合は経営リスクが非常に高く、売上減少や入金遅延など、少しの問題が発生しただけでも資金ショートに陥る可能性が高くなります。このような企業は資金繰り表の整備や返済スケジュールの見直し、資金調達の選択肢検討など、早期に専門家へ相談する必要があります。

キャッシュフロー計算書を作成していない

現金の流れ(キャッシュフロー)を正確に把握していない企業は、資金の余力を見誤ることが多く、利益は出ているが現金が足りない「黒字倒産」のリスクがあります。このような状態の企業は専門家に相談して、資金繰り表やキャッシュフロー分析を行う必要があります。

経営計画が曖昧で将来像が描けていない

事業の方向性や将来像が描けていなければ、資金計画や投資判断もあいまいになります。こうした企業は早期の相談によって、数字に基づいた実行可能な計画策定を行う必要があります。

資金繰り・財務相談の流れ

現状分析と課題の洗い出し

まずは、現状を正確に把握することが重要です。どこに資金不足の原因があるのか、どこに課題が潜んでいるのかを明確にします。

  1. 財務データの確認:売上・利益・借入状況・経費構造など
  2. 資金繰りの実態の把握:入出金のタイミング、資金残高の推移など
  3. 業務プロセスとの確認:取引先の回収・支払条件、在庫・仕入れの状況など

改善策の提案

次に、短期的な資金対策と中長期的な経営改善の両面から、実行可能な改善案を提示します。

主な改善策の例は以下の通りです。

  1. 資金繰り関連:資金繰り表作成、支払・回収条件・借入の見直しなど
  2. 経費関連:固定費削減、業務効率化によるコスト削減など
  3. 資金調達関連:制度融資、補助金・助成金の活用など

実行サポート・フォローアップ

さらに、改善策提案だけに終わらず、経営成果につながるように実行までサポートすることが重要です。具体的には、金融機関との面談に同席、融資申請書類の作成支援、月次・四半期ごとの定期モニタリングやアドバイスなどが挙げられます。

財務・資金繰り相談の主な相談先

相談先メリットデメリット
税理士・財務データに精通しており、試算表・決算書などの実数値をもとにした相談が可能。
・顧問契約をしている場合は、日常的に企業の状況を把握しており、スピーディに対応できる。
・税務リスクや納税資金の確保など、資金繰りと密接に関係する課題にも対応可能。
・経営全体の視点よりも、会計
・税務に特化したアドバイスが中心になりがち。
・経営改善や資金調達戦略などの「攻めの財務」には対応できない場合もある。
中小企業診断士/
経営コンサルタント
・経営戦略・事業計画と財務を連動させたアドバイスが可能。
・業界や企業規模に応じた実行可能な資金繰り改善策を提案できる。
・補助金・金融機関・他の専門家との連携力が高いため、総合的な支援がしやすい。
・税務や会計処理などの実務には関与できない(税理士ではないため)。
・資格の有無や経験値に差があるため、専門性や対応力にバラつきがある。
専門コンサル会社・財務リストラクチャリング・再生計画など、高度で専門的な支援が可能。
・社外CFOのような形で継続的な財務支援を行える体制を持つところもある。
・金融機関との交渉や再建型の支援など、実行力と交渉力に強みを持つ。
・費用が高額になりやすく、小規模企業にはハードルが高い場合もある。
・画一的な提案や外注頼みになることもあり、柔軟性に欠けるケースもある。
金融機関・融資の実行元であり、資金繰り支援の最前線にいる。
・取引状況に応じて、リスケジュールや追加融資の提案などが可能。
・信用保証協会や制度融資など、公的制度との連携にも強い。
・財務アドバイスはあくまで融資判断の補助的なものであり、中立的な経営助言とは限らない。
・根本的な経営改善のアドバイスや実行支援には踏み込めない場合が多い。

成功事例:実際に相談して改善した企業のケース

飲食店の事例

個人経営の居酒屋(東京都内、従業員5名)

相談前の課題 ・コロナ禍の影響で売上が約半分に減少
・家賃や人件費の固定費負担が重く、毎月の資金繰りがギリギリ・借入返済が重なり、税金・社会保険料の滞納リスクも発生 
相談による支援内容 ・資金繰り表や経営計画作成、現状のキャッシュフローの可視化・固定費の見直しと人員シフトの最適化を実施・地域限定の支援金
・補助金制度の活用を提案
・日本政策金融公庫への資金繰り支援融資の申請 
改善効果 ・月次での資金繰り表管理により資金残高に余裕が生まれ、支払い遅延が解消
・売上も回復基調となり黒字転換に成功 

製造業の事例

金属部品加工業(地方都市・従業員30名)

相談前の課題・主力取引先の減少により売上が2年連続で減少・複数の設備投資に伴う借入返済が資金を圧迫
・資金繰りや事業計画の管理が不十分で金融機関からの資金調達が停滞
相談による支援内容・コスト構造と利益率を徹底的に見直し・粗利益率の低い案件の整理と利益率の高い製品への注力
・経営改善計画書作成と金融機関への交渉を支援
・信用保証協会の制度融資を活用・経営力向上計画の策定と補助金の申請支援
改善効果・月次利益が黒字化し、返済負担の軽減に成功
・金融機関との関係が改善し、運転資金の融通が容易に
・設備の自動化と補助金活用で生産性が向上

まとめ:早期相談で経営を安定させよう

資金繰りや財務の問題は目に見えないところで静かに進行し、気づいたときには深刻な経営危機に陥るというリスクをはらんでいます。早い段階で専門家に相談することで、現状課題の把握と具体的な改善策を講じることができ、資金ショートや信用失墜といった経営リスクを未然に防ぐことができます。ひとりで抱え込まず、早めに専門家へ相談することをお勧めします。

資金繰りや財務の不安を抱えたままにせず、まずは専門家にご相談ください。

「ビジネス処方箋」では、実務経験豊富な専門家が、貴社の状況に応じた具体的な解決策をご提案します。
ご相談は無料です。経営の安定化に向けて、第一歩を踏み出しましょう。

👉 ビジネス処方箋へのご相談はこちら

執筆者

2021年中小企業診断士登録。
大手製造機器メーカーにて、流通小売業向けPOSシステム、および決済システムの開発に従事。本業と中小企業診断士の二刀流で、商工会議所の経営相談員や補助金申請支援などの活動を実施中。

目次