人事だけでは「いい組織」は作れない。管理職が押さえるべき“組織戦略”の全体像
人事だけ頑張っても、組織が回らない理由
「採用を強化したのに辞める」「評価制度を変えたのに不満が減らない」「研修を増やしたのに現場が変わらない」。こうした声が出る会社には共通点があります。人事が扱う“人事戦略”の範囲だけで、組織課題を解こうとしていることです。
人事の仕事は、採用・配置・評価・育成、労務や福利厚生、制度設計、キャリア支援、管理職支援、社員情報の管理などが中心です。これはもちろん重要です。けれど、会社が「いい組織」へ変わるために必要な仕事は、それだけでは足りません。特に中堅・中小企業では、組織を丸ごと設計し直す“組織戦略”が欠かせない、という前提に立つ必要があります。
そして厄介なのは、組織が悪くなるのは誰かの能力不足だけではなく、「何もしなければ自然と悪くなる」構造を持っている点です。人数が増えるだけで組織は崩れ、儲かるだけでも組織は崩れる。これらは自然現象であり、放置すれば必ず起きる、と整理できます。
だからこそ管理職に求められるのは、「目の前の対処」に終始するのではなく、組織が崩れる自然現象を見越して、仕組みで先回りする視点です。
「組織戦略」とは、現場が自然に動く“仕組み”を作ること
組織を説明する切り口として、組織は「事業戦略を実現する部隊」であり、「人を自然と動かす仕組み」であり、「永続性を高める仕組み」と整理できます。ここで重要なのは、組織を“人の問題”に矮小化しないことです。
現場のマネジメントでよく起きる失敗は、うまくいかない理由を個人の資質に寄せてしまうことです。「優秀じゃないから育たない」「管理職がダメだから回らない」と結論づけた瞬間、改善の選択肢が一気に減ります。実際には、同じ人でも“組織が変われば”成果が変わる。だから、管理職が設計すべきは「人を変える魔法」ではなく、「人が力を発揮できる環境」です。
“通常の人事部では行わないが重要な仕事”の全体像
人事施策の外側に、組織を強くするための重要な仕事が並びます。ここを管理職が理解しているかどうかで、組織の伸びが変わります。
基本戦略・ビジネスモデル・ミッションの「伝わる表現」を作る
戦略は経営が考えている。けれど「表現が下手で伝わらない」という問題が起きます。社員には様々なタイプがいて、特にビジネス経験が浅い層ほど、戦略の文章を読んでも意味が取れません。社員がついてくるのは、“勝てる”と腹落ちしたときです。「この戦略なら勝てる」「この会社は儲かる」と理解できたときに初めて動きます。だから管理職は、戦略を現場の言葉に翻訳し、納得のストーリーにして届ける必要があります。
ここでポイントは、人事任せにしないことです。社員を一番よく見ているのは現場の管理職であり、現場の温度を理解しているのも管理職です。どんな表現なら刺さるか、何が不安を生むか、何が誤解を生むか。管理職が“伝わる表現”を設計しないと、組織は回りません。
コアコンピタンスと「エース人材」を定義し、育成の軸を作る
組織は、どこを強くするかで成果が変わります。自社の儲かる源泉となる能力(コアコンピタンス)が何かを言語化し、そこに直結する人材像を定義する。さらに“エース人材”を偶然に頼らず、育成の道筋に落とす。これができないと、施策は散らかり、評価も育成もブレます。
管理職がやるべきは、「誰が優秀か」を感覚で語ることではなく、「何ができれば事業が伸びるか」から逆算して、役割と成長課題を設計することです。
業務設計・IT化・KPI/PDCAで、生産性の土台を作る
組織課題は、実は“仕事の設計”の問題で起きます。業務が曖昧で、IT化も型化も進まず、目標やKPIの意味がわからない状態で「頑張れ」と言われても、現場の熱は上がりません。管理職がKPIやPDCAを運用できていないと、組織は個人任せになり、品質も倫理も揺らぎます。
ここで大事なのは、KPIを“管理のため”に置くのではなく、“成果が出る動き方”を学ぶために置くことです。数字が増えるほど、現場は楽になります。逆に、設計されていない現場ほど、精神論が増え、現場は疲弊します。
情報収集・気運づくり・文化醸成で「変わる空気」を作る
変革は、正論だけでは進みません。組織は“空気”で動きます。現場の情報を拾い上げ、変化の兆しを作り、前向きなムードを広げる。文化醸成は抽象論に見えますが、管理職の具体的な行動で作れます。
変革の気運を作る一例として「噂」の使い方があります。トップが「やるぞ」と言うより、現場の会話の中で「変わるらしい」「今度こうするらしい」と広がる方が、実は浸透が早い。管理職が現場のコミュニケーションをデザインする発想が重要です。
管理職育成・経営の仕組みづくり
会社が大きくなるほど、組織のボトルネックは“管理職”に移ります。意思決定の遅さ、こだわりの強さ、変化への抵抗が、現場のスピードを止めます。これを管理職育成と仕組みで補う必要があります。会議体、権限、意思決定プロセス、評価の基準。ここを整備しないと、いくら現場を鍛えても上で詰まります。
組織が崩れる“自然現象”を、管理職が先回りする
組織が崩れる最大の罠は、「原因探し」に入ることです。人数が増える、儲かる。その時点で組織は崩れやすくなる。これを自然現象として扱うと、誰も傷つけずに対策に入れます。
企業の成長ステップとしても、20人を超えるあたりから、経営課題は“商売中心”から“組織中心”へ移ります。ここで組織づくりやマネジメント、人材育成の知識がないと、売れるのに伸びない状態に陥ります。
管理職がこの構造を理解していると、打ち手が変わります。目の前の退職を止めるだけではなく、退職が起きる仕組みを潰す。評価制度を変えるだけではなく、評価が納得される前提(役割定義・目標設計・育成)が揃っているかを見直す。研修を増やすだけではなく、学びが日々の業務に接続される運用(会議・1on1・KPI)があるかを整える。
プレイングマネージャー問題は「気合」では解決しない
組織上の問題が多い会社ほど、プレイングマネージャーが原因になっているケースが多い、という見立てがあります。しかも実態としては、プレイングと言いながらマネジメントがほとんどできていない。
一つの目安として、部下が5人を超えたらフルマネージャーが必要という考え方があります。フルマネージャーの能力が高まれば配下を10名まで増やせ、結果としてチーム全体の成果が高まる。だから「プレイング→フル」へ徐々に変える設計が必要になります。
フルマネージャーとは「自分の実務を持たず、マネジメントにフルで時間を使える状態」です。そして現実的には、実務を持たなくても売上・利益が上がる体制になって初めて移行すべき、と考えがちです。
やるべきは「プレイングをやめろ」と精神論で言うことではありません。
業務配分、権限、育成計画、評価の置き方、チームの戦い方をセットで変え、プレイングが“必要なくなる”状態へ持っていくことです。
特に管理職自身にとっても、ずっとプレイヤーを続けるのは構造的に苦しくなります。年齢とともに体力は落ちるのに、プレイヤーで成果を出し続ける前提でいると、自分も組織も守れない。早くマネージャーへ移ることは、本人のためでもあります。
管理職が明日から始める「組織戦略」の第一歩
ここまで読んで、「やることが多い」と感じたかもしれません。けれど、最初の一歩はシンプルです。
まずは、自分の部署で「戦略がどう伝わっているか」を点検してください。
現場メンバーが、会社の方針を自分の言葉で説明できますか。なぜ今それをやるのか、やると何が良くなるのか、どこが勝ち筋なのか。ここが曖昧なら、どんな制度も研修も効きません。社員は“勝てる”と腹落ちしたときに動くからです。
次に、業務設計と目標のつながりを見直してください。
KPIが「上から降りてきた数字」になっているなら、現場はマンネリ化します。役割に紐づく指標、改善のための指標、育成のための指標に作り替えるだけで、会話の質が変わります。
最後に、プレイングマネージャーの“移行計画”を作ってください。
いきなりフルマネージャーにするのではなく、マネジメント時間を定義し、育成と権限委譲を進め、段階的に実務を外す。これが組織の成長を止めない現実解です。
まとめ:人事施策を“効かせる”のは、管理職の組織戦略
人事施策は必要です。ただし、それ単体では組織は変わりません。
組織は「人数が増えるだけで崩れ、儲かるだけでも崩れる」自然現象を持っています。だから、組織戦略として、伝わる表現、強みの定義と育成、業務設計と生産性、気運と文化、経営の仕組みづくりを、管理職が理解し、設計し、運用する必要があります。
「人の問題」に見える課題の多くは、「組織の問題」に置き換えることで解決策が見えてきます。管理職が“組織を動かす仕組み”に目を向けた瞬間から、会社は変わり始めます。
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