採択事例から紐解く、ものづくり補助金の活用ポイント

執筆者
中小企業診断士 吉川和明

吉川 和明
中小企業診断士

大手製造機器メーカーにて、流通小売業向けPOSシステム、および決済システムの開発に従事。本業と中小企業診断士の二刀流で、商工会議所の経営相談員や補助金申請支援などの活動を実施中。

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中小企業が事業拡大や生産性向上の取り組みを行う上で設備投資は必要不可欠であり、その資金調達の有効な手段として補助金の活用が挙げられます。

今回ご紹介する事例は、製造業・サービス業・小売業での採択事例から独自に紐解いた補助金活用のイメージとなります。ものづくり補助金を活用される際の参考になれば幸いです。

目次

ものづくり補助金活用方法(製造業の場合)

補助事業の内容

株式会社ABCテック(仮称)は、航空宇宙産業向けの精密部品を製造する中小企業である。近年、航空機メーカーの技術進化に伴い、より高精度で複雑な形状の部品が求められており、従来の3軸マシニングセンタでは多工程での加工が必要なために生産性の低下を招いていた。

この課題を解決するために「ものづくり補助金」を活用し、5軸マシニングセンタの導入を決定。複雑形状の部品加工を一工程で完了できることから、加工精度の向上、リードタイムの短縮、生産コストの削減を図ることを目的とした。

事業課題

  1. 加工精度と複雑形状への対応
    • 従来の3軸マシニングセンタでは±10μmの精度が限界であり、高精度部品の要求を満たせない案件が増えていた。
    • 角度を変えながらの多工程加工が必要で、治具のセッティングや工程管理が複雑化し、人的ミスが発生しやすかった。
  2. 生産効率の低下
    • 多工程加工による段取り替えが頻発し生産ロスが増加。1つの部品の完成に時間がかかり、納期遅延リスクもあった。
    • 設備の稼働効率が低く、作業者の負担増加や設備のメンテナンスコストがかさんでいた。
  3. 競争力の低下と市場の変化
    • 国内外の競合企業が最新の5軸加工技術を導入し、航空機部品市場で優位に立ちつつあった。
    • 当社は高精度加工が可能な設備を持たないため、新規受注機会を逃すケースが増えていた。

補助金による設備投資

最新の5軸マシニングセンタを導入複雑形状部品を1工程で高精度に加工できる設備を新規導入。XYZ軸制御精度±5μmの高精度加工が可能となり、航空機部品の品質向上を実現。
CAD/CAMシステムの最新化新しい設備に対応した高精度シミュレーション機能を持つCAD/CAMソフトウェアを導入し、プログラム作成の効率化と精度向上を図る。
オペレーターの技術研修5軸加工の最適な活用方法を習得するため、メーカーによる研修を実施。新人技術者にも教育を行い、技能の属人化を防ぐとともに、社内の技術力向上を目指した。

補助事業の成果

1. 生産面の成果

    加工精度の向上±10μm → ±5μmの高精度加工が可能になり、航空機メーカーの要求品質を満たす部品製造が実現。
    生産効率の向上一括加工により工程削減率30%達成。リードタイムが短縮され、納期遅延が大幅に減少。治具や作業員の負担も軽減され、人的ミスが減少。
    コスト削減加工精度の向上により不良品発生率が低下し、材料ロスが20%削減。

    2. 経営面の成果

      新規受注の獲得5軸加工の導入により、航空機メーカーからの新規案件受注に成功。年間売上15%増加し、投資回収の見通しが立った。
      市場競争力の向上5軸加工技術を活かし、新たな高付加価値部品の製造が可能となり、競争優位性が確立された。

      ものづくり補助金活用のポイント

      本事例では高精度加工設備の導入を実現し、新規市場への参入に成功しました。製造業においては、ものづくり補助金活用による設備投資が、加工精度向上や生産効率の改善、新規市場開拓など事業の成長につながる可能性がありますので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

      【参考】ものづくり補助金総合サイト

      ものづくり補助金活用方法(サービス業の場合)

      補助事業の内容

      株式会社DEFラボ(仮称)は、パーソナルジムを運営し、個別指導型のトレーニングと食事管理サービスを提供している。近年の健康志向の高まりにより、フィットネス市場は拡大しているものの、大手ジムチェーンとの競争が激化し差別化が求められていた。

      また、コロナ禍以降、非接触型のトレーニングやオンライン指導の需要が増加しており、新しいビジネスモデルの構築が必要となった。そこで「ものづくり補助金」を活用し、AI・IoTを活用した健康管理システムを導入することを決定。次世代型パーソナルトレーニングサービスを開発して、最新技術を取り入れた新しいサービスモデルを構築することを目的とした。

      事業課題

      1. 大手フィットネスジムとの差別化
        • 既存のパーソナル指導だけでは競争優位性が弱く、独自の強みを構築する必要があった。
        • AI・IoT活用による、科学的なデータ分析に基づくパーソナルトレーニングの開発が求められた。
      2. オンライン・非接触型サービスの不足
        • コロナ禍以降、リモートでも効果的なトレーニング指導ができる仕組みが必要となった。
      3. データ活用の課題
        • これまでの指導は、トレーナーの経験や感覚に依存する部分が多く、個々の利用者データを活かしきれていなかった。
        • 科学的な分析に基づく健康管理ができれば、より高い顧客満足度につながると考えた。

      補助金による設備投資

      AI搭載型トレーニングマシンの導入各種センサーを搭載したフィットネスマシンを導入し、利用者の筋力・可動域・姿勢データをリアルタイムで取得。AIが個人の体力レベルやトレーニング履歴を分析し、最適な負荷・回数を自動的に提案。
      IoT健康管理システムの開発スマートウェアやウェアラブルデバイス(スマートウォッチなど)と連携し、心拍数やカロリー消費をリアルタイムで管理。AIが個人の運動データを分析し、トレーニングプログラムをカスタマイズ。
      オンラインフィットネスプラットフォームの開発ジムに通えない利用者向けに、オンラインで個別トレーニング指導ができるプラットフォームを開発。遠隔地でもパーソナルトレーナーの指導が受けられる仕組みを構築し、ジムの顧客層を拡大。

      補助事業の成果

      1. サービス面の成果
      個別最適化されたトレーニングの実現AIの活用により、データ分析に基づいたオーダーメイドのプログラム提供が可能となった。顧客満足度が向上し、リピート率が30%向上した。
      オンライン会員数の増加オンラインプラットフォームの導入により、遠方のユーザーや忙しいビジネスパーソンの利用が増加。新規会員のうち40%がオンライン経由の申し込みとなった。
      科学的なデータを活用した健康管理の実現利用者ごとの運動データをAIが管理し、トレーニングだけでなく、食事・睡眠・ストレス管理まで包括的にアドバイスできるようになった。
      1. 経営面の成果
      新たな収益モデルの確立サブスクリプション型のオンラインサービスを導入し、月額課金モデルを確立。新たな収益源となり、売上が前年比で25%増加。
      競争力の向上他のフィットネスジムとの差別化が明確になり、企業との法人契約が増加。企業向け福利厚生プログラムとして導入されるケースが増え、新たな市場を開拓。

      ものづくり補助金活用のポイント

      本事例では設備投資により、AIと生体データを組み合わせたパーソナライズトレーニングという、次世代型フィットネスサービスの提供に成功しました。サービス業においては、ものづくり補助金活用により、顧客満足度の向上や競争力の向上、新規市場の開拓につながる可能性がありますので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

      【参考】ものづくり補助金総合サイト(https://portal.monodukuri-hojo.jp/jireisearch.aspx

      ものづくり補助金活用方法(小売業の場合)

      補助事業の内容

      株式会社GHIマルシェ(仮称)は、オーガニック食品や環境配慮型の商品を販売する専門店を運営。健康志向の高まりとともにオーガニック食品の需要が増加しているものの、大手スーパーやECサイトとの競争が激化し、差別化が課題となっていた。

      また、近年の消費者の購買行動の変化により、オンライン販売の強化とデジタル技術を活用した顧客体験の向上が求められていた。そこで、「ものづくり補助金」を活用したDX推進を決定。ECサイトと実店舗を連携したオムニチャネル戦略を強化することを目的とした。

      事業課題

      1. 大手との価格競争に巻き込まれるリスク
        • 大手スーパーやECモールでは、オーガニック商品が安価に提供されており、価格競争では不利。
        • 自社の強みである「品質」と「専門性」を生かし、付加価値の高い販売モデルが必要だった。
      2. オンライン販売の不十分さ
        • これまでのECサイトは単なる商品カタログとしての機能が中心で、実店舗との統合が不十分だった。
        • 在庫連携やパーソナライズ提案ができる仕組みを構築する必要があった。
      3. 顧客エンゲージメントの向上
        • 実店舗ではファンが多いものの、オンラインではリピーターが少なく、顧客との接点を増やす必要があった。

      補助金による設備投資

      次世代型ECサイトの開発AIによるレコメンド機能を搭載し、顧客の購買履歴や嗜好に応じた商品提案を実施。定期購入(サブスクリプション)機能を強化し、リピーターの獲得を促進。
      POSレジとECサイトの統合在庫情報をリアルタイムで連携し、オンラインと実店舗の在庫管理を一元化。「店舗で購入→自宅配送」や「オンラインで注文→店舗受取」など、シームレスな購買体験を実現。
      デジタル会員プログラムの導入アプリを開発し、ポイント管理・購入履歴・健康アドバイス機能を搭載。購入履歴に基づいたクーポン配布やオーガニックライフスタイルの情報配信を実施。
      セルフレジ・スマート決済の導入キャッシュレス決済やスマホでのQRコード決済を強化し、スムーズな購買体験を提供。

      補助事業の成果

      売上・顧客満足度の向上EC売上が前年比180%増加し、オンライン販売の強化に成功。サブスクリプションサービスの導入により、リピーター率が30%向上。
      業務効率化の実現POSレジとECの統合により、在庫管理の精度が向上し、欠品による販売機会損失が20%減少。スタッフの負担を軽減し、レジ業務時間を40%削減。
      新たな顧客層の獲得オンラインと実店舗の連携強化により、新規顧客の約50%がオンライン経由で獲得。デジタル会員プログラムを通じて、ファンコミュニティが形成され、顧客単価が向上。

      ものづくり補助金活用のポイント

      本事例では設備投資により、リアル店舗とECの融合による売上拡大、業務効率化、新サービスの展開に成功しました。小売業においては、ものづくり補助金活用により、デジタル化による競争力向上とともに売上、顧客満足度の向上につながる可能性がありますので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

      【参考】ものづくり補助金総合サイト(https://portal.monodukuri-hojo.jp/jireisearch.aspx

      まとめ

      製造業・サービス業・小売業のおける「ものづくり補助金の活用ポイント」について、いかがだったでしょうか。補助金を活用することで、競争力の向上や販路拡大、顧客満足度向上などを実現することができます。ものづくり補助金の目的である「稼ぐ力」を強化するためにも、この制度を上手に活用しましょう。

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      \認定支援機関!補助金のプロの中小企業診断士がサポート/

      執筆者

      2021年中小企業診断士登録。
      大手製造機器メーカーにて、流通小売業向けPOSシステム、および決済システムの開発に従事。本業と中小企業診断士の二刀流で、商工会議所の経営相談員や補助金申請支援などの活動を実施中。

      目次