M&Aの買い手は注意!vol2.貸借対照表の建物や機械、土地について

渡邊 賢司
中小企業診断士
株式会社3Rマネジメント 代表取締役
株式会社IoTメイカーズ 代表取締役
約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。
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皆さんこんにちは。中小企業診断士の渡邊です。
今日も「M&Aの価格交渉はここに注意」ということで、貸借対照表(バランスシート)の固定資産、具体的には 建物・機械・土地 といった項目を、買い手はどう見ていくのかを解説します。
前回お話しした通り、企業価値の算定(バリュエーション)には、マーケットアプローチ/インカムアプローチ/コストアプローチがありますが、今日はこのうち コストアプローチに関わる、固定資産の見方にフォーカスします。
1. 固定資産は「時価修正」が前提になる
貸借対照表は、M&Aの現場ではそのまま鵜呑みにせず、実態に合わせて時価修正していきます。
整理すると、チェック視点は3つです。
- 資産:換金可能性(時価に直すといくらか)/実在性(本当にあるのか)
- 負債:網羅性(BSに載っていない負債がないか)
- 社長個人資産:会社のBSに載っていないが、事業で使っている資産がないか
特に中小企業では、社長個人が土地を持ち、その上に建物を建てて事業をしているなど、「会社のBSに出てこない資産」が売買対象になるケースがあります。ここは見落としやすいので注意が必要です。
2. 建物:減価償却の未計上・老朽化・修繕コストに注意
まず 建物(事務所・倉庫など)です。
中小企業では、過去に利益を大きく見せるために、本来計上すべき減価償却費を計上していない会社が一定数あります。
例えば「融資を受けたい」「建設業で公共工事を取りたい」などの事情で、利益が出ているように見せたいケースです。
しかし、減価償却は本来毎年計上すべきものなので、未計上があれば、買い手としては 適正に償却した前提で資産価値を減額して評価します。
また、建物が相当に古く、価値がほぼゼロに近い場合もありますし、逆に 大規模な修繕が必要なケースもあります。
修繕コストが見込まれるなら、その分を価格から差し引く形で、減額交渉していくことになります。
3. 機械・車両:古さ=買い替え費用として価格に反映する
次に 機械・車両です。
ここも、減価償却が適切にされていないケースがあります。さらに中小企業では、耐用年数を超えて かなり古い機械を使い続けていることも珍しくありません。
もし「買い替えた方が生産性が上がる」「早期に更新が必要」という状況であれば、買い手としては、その買い替え費用を見積もった上で、その分を価格から差し引いて交渉するのが基本になります。
4. 社長専用の高級車:会社の資産でも、扱いを分ける場合がある
売り手社長が、レクサスやベンツなどの 高級車を社用車として計上しているケースもあります。
この場合、M&A後も会社に残すのか、それとも社長個人が買い取るのか、といった整理が必要です。
会社の実態として「事業に必要な車」なのか、それとも「社長専用」なのかで、交渉の論点が変わってきます。
5. 土地:時価を算定して修正する
土地は、帳簿価額ではなく、基本的に 時価がいくらかを調べて評価します。
エリアや用途によって差が大きいので、路線価・公示地価・近隣の取引事例なども踏まえて時価を見ていくことになります。
6. 保険積立金:解約返戻金を確認。稀に「存在しない」ケースも
固定資産の中には 保険積立金が計上されていることがあります。
基本は、保険証券などで 解約返戻金(解約時に戻る金額)を確認し、そこをベースに時価修正します。
稀ですが、実際には保険が解約済みで返戻金が戻らないのに、帳簿上は保険積立金が残っている、というケースもあります。
そのため、必ず 保険証券で実在性をチェックすることが重要です。
7. 出資・関係会社株:相手先の決算を見ないと価値が分からない
出資や関係会社株を保有しているケースもあります。
上場株なら時価を確認できますが、非上場株の場合は、出資先の決算内容(業績・純資産・債務超過かどうか等)を見ないと価値判断ができません。
出資先が赤字続き、あるいは債務超過であれば、株式の価値は実質ゼロとみなされることもあり、その場合は 減額交渉の論点になります。
8. 敷金・保証金:契約書で「償却」「原状回復費」を必ず確認
ここは実務でかなり重要です。
店舗やオフィスを借りている場合、敷金・保証金がBSに計上されますが、これは契約書を見て、
- 償却の有無(退去時に一定額差し引かれる)
- 原状回復(スケルトン戻し等)の工事費用負担
- 退去条件
を確認しなければいけません。
特に店舗型ビジネスで「買収後に一部店舗は撤退する」などの戦略がある場合、原状回復費が大きいと、その分は実質的にコストになります。
したがって、敷金・保証金を資産として満額評価せず、将来の費用見込みを差し引いて減額交渉するのがポイントです。
9. 繰延資産:粉飾が多い・換金性がないので基本は厳しく見る
最後に 繰延資産(開業費・開発費など)です。
ここは粉飾で使われやすい項目で、費用を計上せずに繰延資産として載せて、利益を大きく見せることがあります。粉飾の場合は 基本的に全額減額です。
粉飾ではなく適切な処理であっても、
- 減価償却(償却)が適切にされているか
- そもそも換金性がない(お金に変わらない)
という性質があるため、買い手としては「資産価値」としては慎重に見て、減額前提で交渉することが多いです。
10. まとめ:固定資産は「実態=お金になるか」で修正し、価格に反映する
今日は、貸借対照表のうち 固定資産(建物・機械・土地・保険積立金・敷金保証金・繰延資産など)を、買い手がどう時価修正し、価格交渉に反映するかをお伝えしました。
ポイントはシンプルで、
「実態としてお金になるか」「将来コストがかからないか」 を基準に、資産価値を見直し、必要なら減額して交渉する、ということです。
次回は、貸借対照表の 負債のパートを見ていきます。負債は「網羅性」が重要で、税金や社会保険の未払いなど、バランスシートに載っていない“簿外債務”があるケースもあります。ここは非常に重要な論点なので、次回詳しく解説します。
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