なぜ今M&Aを学ぶべきか|2026年制度化が示す中小企業支援の変化

渡邊 賢司
中小企業診断士
株式会社3Rマネジメント 代表取締役
株式会社IoTメイカーズ 代表取締役
約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。
皆さんこんにちは。中小企業診断士の渡邊です。
今日は、「中小企業M&Aの“個人資格制度”が始まる流れと、財務コンサルタントが今すぐM&A知識を身につけるべき理由」についてお話しします。
いよいよ政府が、中小企業M&Aに関する個人資格制度を整備しようとしています。2025年度から検討が進み、早ければ2026年度に制度化する可能性があります。4月から本格化していく、という見立てです。
M&Aのアドバイザーとして活動する財務コンサルタントは、今後この領域の知識を持っているかどうかで、支援の幅も信頼も大きく変わります。今日はその背景と、制度のポイントを整理していきます。
1. 制度創設の背景:事業承継ニーズの急増と、市場の健全化
制度創設の背景には、後継者不在の中小企業が増え、事業承継の需要が急速に高まっていることがあります。
事業承継の手段として、第三者への譲渡、つまりM&Aを選択するケースが増加しています。市場が拡大する一方で、仲介事業者の重要性も増しています。
ただし、その拡大に伴い、悪質な仲介や不適切なマッチングが問題となり、トラブルが顕在化してきました。財務・法務などの知識不足が原因で、利益相反取引なども含め、さまざまなトラブルが起きています。
2. 実際に起きたトラブル例:売り手に保証だけが残るケース
ここでは、実際に問題となった手口の例を整理します。
例えば、買い手に十分な資金力がないにもかかわらず、仲介業者が手数料目的で仲介を進めてしまう。
その結果、買収後に買い手が、売り手企業の現預金や資産を別会社へ不正に移転し、計画倒産させる――というケースです。
このとき、売り手側では経営者保証(社長の連帯保証)だけが解除されないまま残り、倒産後に前経営者へ多額の個人負債が残ってしまう、という深刻な事態が起きました。
こうした事例が相次いだことを受けて、政府は対応を強化しています。
3. 政府の対応:登録取消・注意喚起と、個人資格制度の検討
具体的には、政府は
- 一部の仲介事業者について登録を取り消す(例:2025年1月の対応)
- 悪質な買い手の手口について摘発・指摘を進める
- 仲介業者15社に対し、注意喚起と再発防止の指示を行う
といった形で、市場健全化に向けた動きを進めています。
そして、その流れの延長線上にあるのが、今回の「個人資格制度」です。
イメージとしては、不動産業界の宅建士に近く、M&Aアドバイザー個人に対して一定の知識・実務能力を求める制度を作り、仲介品質の底上げを狙っています。
4. 資格制度で想定される内容:知識・倫理・可視化
制度設計として想定されているポイントは大きく3つです。
(1)知識・実務能力を試験で担保
財務・法務・税務などの知識や実務能力を試験で確認し、一定水準以上のアドバイザーのみを認定する流れです。
(2)倫理規定の厳格化とペナルティ
利益相反の開示、善管注意義務など、倫理規定の遵守を義務化し、違反があれば資格取消や氏名公表など、抑止力を強化していく方向です。
(3)信頼性の可視化(データベース化)
有資格者をデータベース化し、売り手企業が安心して相談できる専門家を選べる環境を整備する、という流れです。
5. すでに公表されている前提資料:「倫理行動規範」と「知識・スキルマップ」
ここで重要なのは、制度の前段として、中小企業庁からすでに公表されている資料がある点です。
- 中小M&A専門人材向け 「倫理行動規範」
- 中小M&A専門人材向け 「知識・スキルマップ」
つまり、「M&Aのアドバイザーは、最低限これだけの知識・スキル・倫理観を持ってください」という“設計図”は、すでに公開されています。
この資料は分厚いのですが、一度目を通すだけでも、今後求められる水準感が掴めます。
6. 試験制度のイメージ:民間ベースから開始、範囲は実務+財務・法務・税務
現時点では、まず民間ベースでの取り組みとして検討が進んでいます。登録者はデータベースに氏名が公表され、倫理規定違反が認められる場合には、取消・氏名公表といった運用も検討されています。
試験範囲のイメージは、以下のような内容です。
- M&A実務(プロセス、業界、相場観など)
- 財務・会計・税務
- バリュエーション(価格の付け方)
- デューデリジェンス(ビジネス/財務/法務)
- PMI(M&A後の統合作業)
形式は、選択式のCBT(Computer Based Testing)を想定し、50問程度を作る方向で議論されています。
7. 知識・スキルマップの要点:プロセス全体を“ハブ”として回す力が求められる
知識・スキルマップは、M&Aのプロセスに沿って、
- 事前相談
- バリュエーション・マッチング
- 基本合意
- デューデリジェンス
- 最終契約
- クロージング
- PMI(統合)
という流れの中で、各段階で必要な知識・スキルが整理されています。
特に重要なのが、アドバイザーは「財務・税務・法務の知識」だけでなく、関係者(売り手・買い手・会計士・弁護士など)を巻き込み、案件を前に進めるコミュニケーション能力・取りまとめ能力が求められる、という点です。
仲介・アドバイザーは、まさにハブの役割を担う存在になるため、プロジェクトマネジメント力やリーダーシップも含めて求められていきます。
8. まとめ:資格制度は「最初が一番取りやすい」可能性が高い
最後にまとめです。
中小M&Aアドバイザーを今後目指す方、すでに携わっている方も含め、早めに学習を開始しておくことをおすすめします。
多くの資格制度は、立ち上げ初期が比較的取りやすい傾向があります。将来的に、資格がないとアドバイザー業務ができない、あるいは「会社として一定数の有資格者が必要」といった要件が入る可能性もあります。
その意味でも、今の段階から、
- 公表済みの「知識・スキルマップ」を読む
- 必要知識の棚卸しをする
- 不足分の学習を始める
という動きをしておくと、確実にアドバンテージになります。
なお、弊社の財務コンサルタント養成講座でも、M&Aアドバイザーとして求められる知識・スキル・能力を講座内でお伝えしています。無料セミナーもご用意していますので、財務コンサルタント養成講座の無料セミナー申込ページからご参加ください。
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