経営者保証に関するガイドラインとは|中小企業診断士がわかりやすく解説
渡邊 賢司
中小企業診断士
株式会社3Rマネジメント 代表取締役
株式会社IoTメイカーズ 代表取締役
約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。
経営者保証に関するガイドラインとは
ガイドラインの概要
経営者保証に関するガイドラインは、中小企業の経営者保証に関する契約時及び履行時等における中小企業・経営者、金融機関(債権者)の対応についての自主的なルールです。
策定の背景
中小企業が融資を受ける際には、経営者個人が連帯保証人となることが一般的でした。これには経営者への規律付けや信用補完としての役割がありましたが、同時に以下のような問題も生じていました。
- 経営者の思い切った事業展開の阻害
- 早期の事業再生の妨げ
- 円滑な事業承継の障害
これらの課題を解決するため、日本商工会議所と全国銀行協会が共同で設置した「経営者保証に関するガイドライン研究会」により策定され、2013年12月に経営者保証に関するガイドラインが公表されました。
経営者保証ガイドラインは、法的な拘束力はないものの、中小企業・経営者、金融機関(債権者)が自発的に尊重・遵守することが期待されています。
ガイドラインの主な内容
ガイドラインは中⼩企業・経営者に求められる経営状況と金融機関(債権者)に求められる対応について示しています。
中⼩企業・経営者に求められる経営状況
(1)法⼈と個⼈の⼀体性の解消
①法⼈の業務、経理、資産所有等に関し、法⼈と経営者の関係を明確に区分・分離する。
②法⼈と経営者の間の資⾦のやり取りが社会通念上適切な範囲を超えない。
③さらに、整備・運⽤の状況について、外部専⾨家による検証を実施し、債権者に適切に開示することが望ましい。
(2)財務基盤の強化
①財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能⼒の向上を図り、信⽤⼒を強化する。
(3)適時適切な情報開⽰による経営の透明性確保
①資産・負債の状況(個⼈資産含む)、事業計画や業績⾒通し等に関する債権者からの開⽰要請に対し、正確かつ丁寧に信頼性の⾼い情報を説明する。
②外部専⾨家による情報の検証を⾏い、その結果を合わせた開⽰が望ましい。
金融機関(債権者)に求められる対応
(1)融資⼿法のメニューの充実
①停⽌条件または、解除条件付き保証契約、ABL、⾦利の⼀定の上乗せ等の経営者保証の機能を代替する融資⼿法の充実を図る。
(2)要件の充⾜可能性の検討
①法⼈と経営者の資産・経理が明確に分離されている。
②法⼈と経営者の間の資⾦のやり取りが社会通念上適切な範囲を超えない。
③法⼈のみの資産・収益⼒で借⼊返済が可能と判断し得る。
④法⼈から適時適切に財務情報等が提供されている。
⑤経営者等から⼗分な物的担保の提供がある。(あくまでも③の補完として)
(3)保証契約を締結する場合、その必要性に関する丁寧かつ具体的な説明
①原則として、保証履⾏時の履⾏請求は、⼀律に保証⾦額全額に対して⾏うものではなく、保証⼈の資産状況等を勘案した上で、履⾏の範囲が求められること。
②保証の必要性が解消されれば、変更・解除等の⾒直しの可能性があること。
(4)適切な保証⾦額の設定
①融資額と保証⾦額を形式的に同額とせず、保証⼈の資産・収⼊状況、融資額、債務者の信⽤状況、物的担保等の設定状況、債務者・保証⼈の情報開⽰姿勢等を総合的に勘案して設定する。
②保証債務の履⾏請求額は、期限の利益喪失の⽇等の基準⽇における保証⼈の資産の範囲とする。基準⽇以降に発⽣する保証⼈の収⼊を含まない。
(5)既存の保証契約の⾒直し
①債務者の経営改善により、保証契約解除・変更の申し⼊れがあった場合は、債権者は、保証の必要性や適切な保証⾦額等について、真摯かつ柔軟に検討を⾏うとともに、その検討結果について丁寧かつ具体的に説明する。
経営者保証に依存しない融資を促進するための取組事例
融資⼿法のメニューの充実として、経営者保証の停⽌条件・解除条件付き保証契約があります。
①経営者保証の停止条件付き保証契約
中⼩企業が特約条項(コベナンツ)に抵触しない限り保証債務の効⼒が発⽣しない保証契約です。
②解除条件付き保証契約
中⼩企業が特約条項(コベナンツ)を充⾜する場合は保証債務が効⼒を失う保証契約です。
金融機関の取組事例を詳しく知りたい方は「経営者保証改革プログラム」を受けた経営者保証に依存しない融資を促進するための取組事例集をご確認ください。
経営者ガイドラインはどのような時に利用するか
経営者保証ガイドラインは主に以下のような場面で利用されます。
新規に融資を受けるとき
企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者が個人保証を求められることがあります。このガイドラインを利用することで、個人保証が不要となる条件を確認したり、保証を軽減する方法を探したりすることができます。
既存の融資条件を見直すとき
企業の経営が安定し、個人保証が不要になったとき、ガイドラインを基に金融機関と話し合い、保証の解除や見直しを行うために活用することができます。
経営が厳しくなったとき
事業がうまくいかなくなり、返済が難しい状況に陥った場合、ガイドラインを利用することで、経営者個人が過度に負担を背負わず、事業の再生や倒産の手続きをスムーズに進めるための対応が可能です。
事業承継を行うとき
経営者が交代するケースや第三者に経営を譲渡する際に、既存融資の経営者保証が障害となることがあります。ガイドラインを活用して経営者保証を解除することで、M&Aがスムーズに進む可能性が高まります。
使った方が良い経営者は
以下のような経営者は、経営者保証ガイドラインの利用をお勧めします。
- 今後の事業展開に積極的な経営者事業承継を行うとき
新たな事業展開や成長戦略を考えている経営者にとって、個人保証のリスクを減らすことで、思い切った投資や事業展開がしやすくなります。 - 事業再生を考えている経営者
個人保証があると、経営が悪化した際に、経営者自身が個人資産での負債を負うリスクが高まります。ガイドラインを使うことで、事業再生に向けた早期の対応がしやすくなり、経営者個人の責任を過度に負わない形で再建を進める道が開かれます。スムーズな事業再生が可能となり、再び企業が立ち直るためのチャンスを得やすくなります。 - 事業承継を考えている経営者
事業承継を検討している経営者にとっても、経営者保証ガイドラインは有効です。事業承継の際、後継者が個人保証を負う必要があると、承継に対する不安やリスクが大きくなります。ガイドラインを活用して個人保証を解除したり、緩和することで、後継者が安心して事業を引き継ぐことができます。これにより、事業承継を円滑にし、企業の継続や成長を支える基盤を整えることができます。
経営者ガイドラインのまとめ
経営者保証に関するガイドラインは、中小企業とその経営者が安心して事業を展開できるように設けられた自主的なルールです。このガイドラインは、法人と経営者の資産や経理を明確に分離すること、財務基盤を強化すること、経営の透明性を確保することなどが求められます。
また、金融機関(債権者)には、経営者保証に頼らない融資手法の提供や、個々の状況に応じた柔軟な対応が期待されています。
ガイドラインを活用することで、経営者が個人保証をする際の負担を軽減し、事業の成長や再生をスムーズに進めることができます。
次のステップ:財務知識を強化して経営をさらに安定させる
経営者保証に関するガイドラインを理解し、経営リスクを最小限に抑えることは、今後の事業展開において重要です。
さらに、財務面での知識を深めたい方や、経営戦略を強化したい方には、財務コンサルタント養成講座がおすすめです。
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