変動費と固定費の分解——利益を守り、伸ばすための「費用の見取り図」
「売上が前月比10%減っただけで、営業利益が50%も減った。なぜこんなに利益が減ってしまうのか」
「売上は前年比150%に伸びたのに、社長の給料は変わらない。なぜ??むしろ資金繰りが苦しい」
こうした悩みの背景には、費用の構造が”見えていない”ことがよくあります。
特に重要なのが、費用を変動費と固定費に分けて捉える視点です。
分解できるようになると、利益が出る条件が明確になり、価格設定・採算判断・コスト削減の優先順位・投資判断まで、意思決定の精度が一段上がります。
この記事では、基本から実務での分解方法、経営判断への落とし込みまでを整理します。
1. 変動費と固定費とは何か
変動費:売上や生産量に応じて増減する費用
売上が増えれば増え、売上が減れば減る性質の費用です。代表例は次のようなものです。
- 仕入(商品原価)
- 材料費
- 外注費(案件・数量に比例するタイプ)
- 販売手数料(売上に対する◯%)
- 配送費(出荷量に比例する場合)
変動費は、「売る・作る」に直接ひもづきやすい費用です。
ポイントは”金額が売上に連動するか”であり、勘定科目名そのものではありません。
固定費:売上や生産量に関係なく一定で発生しやすい費用
売上が増えても急に増えず、売上が減ってもすぐには減らない費用です。
- 人件費(固定給部分)
- 家賃
- リース料(固定額)
- 通信費の基本料金
- サブスク利用料
- 減価償却費
- 保険料
固定費は「会社を維持し、事業を回すための土台の費用」です。
固定費が大きいほど、売上が少し落ちただけで利益が吹き飛びやすくなります。
2. なぜ分解が重要なのか——利益の”出る条件”が見えるから
変動費と固定費を分ける最大のメリットは、「どの売上水準なら利益が出るか」が見えることです。
- 変動費率(売上に対する変動費の割合)が高い → 粗利が薄い → 固定費をまかなえない
- 変動費率が低い → 売上増の利益レバレッジが大きい(伸びやすい)
ただし固定費が大きい → 売上減少局面に弱い(落ちやすい)
つまり、変動費と固定費は利益の伸び方・落ち方を決める設計図です。
分解できると、次の問いが「感覚」ではなく「数字」で扱えるようになります。
- 売上がどこまで落ちたら赤字になるか(損益分岐点)
- 値引きしたら利益はどれだけ減るか
- 1件あたり最低いくら粗利が必要か
- 人を増やしても大丈夫な売上水準はどこか
- 広告費を追加投下してよい上限はいくらか
3. 実務でよくある誤解:固定費・変動費は”絶対”ではない
ここは精度を左右する重要点です。
固定費・変動費は「科目で決まる」のではなく、”動き方(費用の性質)”で決まります。
同じ費用でも、状況で性質が変わります。
| 費用項目 | 固定費寄り | 変動費寄り |
|---|---|---|
| 人件費 | 固定給 | 残業代・歩合 |
| 外注費 | 月額固定契約 | 案件ごと |
| 広告費 | 月額固定出稿 | 成果報酬・従量課金 |
| 水道光熱費 | 基本料金 | 使用量 |
さらに現場では、”準固定費(段階的に増える固定費)”も頻出します。
- 例: 人員を1名増やすと固定費が階段状に増える
- 例: 拠点追加で家賃が跳ね上がる
この前提があるからこそ、分解のコツは単純です。
「この費用は何に連動して動くのか?」を一つずつ確認する——これが分解の本質です。
4. 分解手順——まずは”粗く”で十分(完璧は不要)
分解は、最初から完璧を目指す必要はありません。
意思決定に使えるレベルなら、まずは粗くで十分です。
Step1:費用を大きく3つに分ける
- 売上原価(仕入・材料・外注など)
- 販管費(人件費・家賃・広告など)
- その他(利息など)
この時点で、売上原価の多くは変動費に近いケースが多いです(業種により例外あり)。
Step2:販管費を「固定っぽい/変動っぽい」に分ける
販管費の中に”売上に比例する費用”が混ざっていることがよくあります。
| 分類 | 費用例 |
|---|---|
| 固定費寄り | 家賃、固定給、減価償却、リース、サブスク、保険料 |
| 変動費寄り | 販売手数料、成果報酬型広告、出荷比例の配送費、案件比例の外注 |
ここを分けるだけで、損益分岐点の精度が上がります。
Step3:変動費率を出す
変動費率 = 変動費 ÷ 売上高
変動費率が分かると、売上が増えたとき利益がどの程度増えるか(利益の感度)が見えるようになります。
Step4:損益分岐点売上を”ざっくり”出す
損益分岐点売上 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
この式が示すのは、「利益がゼロになる売上水準」です。
具体例: 固定費500万円、変動費率60%の会社の場合
損益分岐点売上 = 500万円 ÷ (1 – 0.6) = 1,250万円
| 売上 | 変動費(60%) | 粗利(40%) | 固定費 | 営業利益 |
|---|---|---|---|---|
| 1,250万円 | 750万円 | 500万円 | 500万円 | 0円 |
| 1,200万円 | 720万円 | 480万円 | 500万円 | ▲20万円 |
| 1,300万円 | 780万円 | 520万円 | 500万円 | +20万円 |
→ 売上1,250万円で損益ゼロ。これを1円でも下回ると赤字になる
※減価償却費は固定費として扱われますが、キャッシュの支出とは別物です。資金繰り判断では、投資と返済も別に見る必要があります。
5. 分解すると見える”改善の優先順位”
分解の価値は、数字を出すこと自体ではなく、打ち手の順番が決まることです。
① 変動費が重いなら:粗利を厚くする施策が最優先
変動費率が高い構造は、売上を増やしても利益が伸びにくい。まず粗利を厚くする必要があります。
- 値上げ(価格改定)
- 仕入条件の見直し
- 外注単価の交渉・内製化
- 低粗利商品の比率を下げる
- セット化・オプション化で単価と粗利を上げる
売上を追う前に、「1回売ったときに残る利益」を増やすのが近道です。
② 固定費が重いなら:固定費の”固定度”を下げて、売上変動に強い体質をつくる
固定費が大きいほど、売上が少し落ちただけで赤字化しやすい。
ただし固定費は、削りすぎると成長も止まります。ポイントは「固定費の固定度を下げる」ことです。
- 外注を固定契約から案件契約へ(固定→変動)
- 人件費を固定給だけに寄せず、業務委託・歩合・短時間雇用などを組み合わせる
- 設備を”持つ”から”借りる”へ(投資の固定化を抑える)
- サブスクの棚卸し(使っていない固定費を削る)
固定費の”固定度”を下げると、売上変動への耐性が上がります。
6. 経営判断への落とし込み——現場で使える3つの使い方
使い方①:値引き判断が強くなる
値引きは売上を残しますが、粗利を削ります。固定費は変わらないため、営業利益は想像以上に落ちることがあります。
分解できていれば、値引きの影響を事前に試算でき、安易な値引きを防げます。
使い方②:広告投資の上限が決まる
広告費は「固定出稿」なら固定費寄り、「成果報酬」なら変動費寄り。
いずれにせよ、粗利から逆算して”1件あたり(または売上あたり)の許容広告費”を決められるようになります。
これができると、広告が”賭け”ではなく”設計”になります。
使い方③:採用・人員増の判断が明確になる
採用は固定費(人件費)を増やす意思決定です。固定費が増えると損益分岐点が上がります。
分解していれば、採用後に必要な売上水準が見え、無理のない成長計画が立てやすくなります。
まとめ:費用を分けると、利益は”管理できるもの”になる
変動費と固定費の分解は、経営を数字で捉えるための基本です。
分解できると、損益分岐点が見え、値引き・投資・採用の判断が精緻になります。さらに改善の優先順位が明確になり、利益体質へ向けた打ち手が具体化します。
売上を追いかける前に、まず費用の構造を理解する。これが、利益を守り、伸ばすための最短ルートです。
財務コンサルタントに興味がある方へ(無料セミナーのご案内)
もし「変動費・固定費の分解から損益分岐点を整理し、経営者が動ける改善提案につなげたい」「PL・BS・キャッシュのつながりまで踏み込んで、現場で使える助言がしたい」と感じた方は、財務コンサルタント養成講座の無料セミナーをご活用ください。
数字の読み方を”提案”に変えるための考え方や、実務での進め方の全体像をつかめます。


