事例で学ぶ決算書分析 製本業の決算書に表れた「経営判断のクセ」

「決算書から経営者の性格が透けて見える」

―そんな話を聞いたことはありませんか?

決算書は、数字の集合体ではありません。そこには、経営者が積み重ねてきた意思決定の“痕跡”が残ります。

今回は、ある製本業の決算書をもとに、財務コンサルティングの視点から「経営判断の傾向」と「構造的な課題と本質」を読み解いていきます。

士業・コンサルタント・保険募集人の方にとって、「決算書をどう読むと信頼される助言につながるのか」を考えるケーススタディです。

目次

バランスシートに表れる「意思決定の積み重ね」

社長個人への貸付金が示すもの

貸借対照表の「短期貸付金」に社長個人向けの金額が計上されている場合、それ自体が直ちに問題というわけではありません。
しかし、金融機関や第三者から見たとき、「会社資金と個人資金の境界が曖昧ではないか」という疑念を持たれやすい構造であることは事実です。融資審査の際にはマイナス評価につながるおそれがあります。

重要なのは金額の大小ではなく、

  • なぜ発生しているのか
  • いつ、どのように回収されるのか
  • 経営として説明できるか

この「説明可能性」が、信用力を大きく左右します。

■在庫・売掛金が語る資金循環の癖

在庫や売掛金が膨らんでいる場合、利益が出ていても資金繰りが苦しくなる構造を抱えている可能性があります。
特に製本業のような受注型・加工型ビジネスでは、「売上は立つが現金化が遅い」状態が常態化しやすい傾向です。

ここで見るべきポイントは、

  • 在庫が「戦略的在庫」か「滞留在庫」か
  • 売掛金の回収条件が業界慣行に比べてどうか

単なる多寡ではなく、資金がどう循環しているかです。

設備投資の停滞が示す経営判断

機械装置の簿価が年々下がり、新規投資が見られない場合、それは必ずしも「怠慢」ではありません。
ただし、競争環境が厳しい中でこの状態が続くと、「修繕で延命し、新規投資を先送りする経営判断」が固定化している可能性があります。

これは短期的にはキャッシュ流出を抑えますが、中長期では競争力(生産性・品質・人材確保等)の低下に影響を及ぼします。

投資有価証券と資本配分の歪み

本業の設備投資が抑制される一方で、投資有価証券を一定額保有している場合、金融機関は「資本配分の優先順位」を見ています。

問題は運用そのものではなく、「本業への再投資と、資産運用のバランスが取れているか」です。

借入金の多さと返済能力のミスマッチ

決算書上では、長短合わせて多額の借入金が計上されているにもかかわらず、それを支える営業キャッシュフローが極めて乏しいケースが見受けられます。
これは「借入で運転・投資を維持しているが、返済原資が伴っていない」ことを意味します。
金融機関から見れば、資金調達と返済能力のギャップが大きく、「追加融資が困難な体質」と判断されるリスクが高くなります。

さらに、借入金の増加に対して減価償却費が低水準で推移している場合は、「借り入れをしても資産形成に結びついていない」可能性も示唆され、経営戦略上の再検討が求められます。

損益計算書が語る「数字のトリック」

営業利益と特別利益の関係

営業利益が低水準である一方、特別利益によって最終利益が確保されている場合、これは「利益が出ていない」のではなく、「利益の源泉が本業以外に依存している」状態です。

例えば、土地や建物等などの資産や有価証券の売却益や補助金収入が特別利益に計上されている場合です。これはあくまで一時的な利益であり、持続性に疑問が残ります。

金融機関や投資家が重視するのは、
一度きりの利益ではなく、再現性のある収益構造です。

減価償却費と修繕費のバランス

減価償却費が低く、修繕費が増加している場合、「投資を抑え、現有設備で回し続ける経営判断」が読み取れます。

これは一概に否定されるものではありませんが、どこかの時点で“限界”が来る構造であることを理解しておく必要があります。

その他収入に頼る利益構造

補助金、配当、賃貸収入などが利益を下支えしている場合、PL上は安定して見えても、事業としての持続性評価は厳しくなるのが実情です。決算書を見る金融機関や外部専門家は、ここを厳しく評価します。

販管費に表れる「判断基準」

決算書には「数字」だけでなく、「性格」も見ることができます。特に販管費は社長の性格が表れる項目と言えるでしょう。

役員報酬・交際費が示すもの

役員報酬が他の役員に比べて突出して高い場合、「利益が出たらまず自分に還元」という意思の表れとも取れます。

また、交際費についてはある程度の費用が必要な場合もありますが、数字が突出している場合は、見栄や浪費と捉えられる可能性もあります。

役員報酬や交際費は、「多い・少ない」よりも、会社の成長戦略と整合しているかが問われます。

  • 成長投資より先に報酬が増えていないか
  • 人材や設備への投資余力を圧迫していないか

ここに、経営判断の優先順位が表れます。

数字の裏側を読む力こそ、信頼される財務コンサルタントの源泉

決算書は「結果」です。
そしてその結果は、経営者が積み重ねてきた判断の集合体です。

表面的な黒字・赤字ではなく、

  • どこで稼ぎ
  • どこで資金が滞り
  • どこにリスクが潜んでいるのか

「背景を読み取り、課題を言語化できる力を備えた財務コンサルタント」が企業から真に頼られる存在となり得るのです。

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執筆者

中小企業診断士
(株)3Rマネジメント 代表取締役 https://3r-management.jp/
(株)IoTメイカーズ 代表取締役 https://www.iot-makers.co.jp/

約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。

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