原価を下げるvs売上を上げる|利益を伸ばすための「順番」と「設計」
利益を増やしたいとき、多くの会社が最初に考えるのは「売上を上げること」かもしれません。一方で現場では、「売上はあるのに利益が薄い」「頑張っているのに手元に残らない」という状態もよく起きます。
そうしたときに必ず議論になるのが、原価を下げるべきか、売上を上げるべきかという問いです。
結論から言えば、どちらが正解という話ではありません。大切なのは、会社の状況に応じて“先にやるべきかを見極め、両方を利益の設計として組み合わせることです。
この記事では、原価を下げる/売上を上げる、それぞれのメリット・リスクと、実務での判断基準、進め方を整理します。
1. 利益は「売上 − 変動費 − 固定費」で決まる
利益の構造を、まずシンプルに押さえます。
- 売上 − 変動費 = 限界利益
- 限界利益 − 固定費 = 営業利益(に近い利益)
会計のPLでは「粗利(売上総利益)=売上−売上原価」という表示になりますが、意思決定では、販管費の中にも売上連動の費用(配送費、販売手数料、成果報酬広告など)が混ざることが多いので、“変動費まで含めた限界利益”で見ると判断ミスが減ります。
この構造から分かるのは、利益を増やす方法は大きく3つしかないことです。
- 売上を上げる
- 変動費を下げて、限界利益(=残り)を厚くする
- 固定費を下げる(または固定度を下げる)
今回のテーマは 1) と 2) ——つまり「残り(限界利益)をどう増やすか」です。
2. 原価(提供コスト)を下げるメリット:売上が同じでも利益が増える
原価を下げる最大の強みは、売上を変えずに利益が増えることです。
特に、すでに受注量が多い会社、現場が忙しい会社ほど効果が大きくなります。なぜなら、同じ売上でも「1回売るたびに残る利益」が増えるからです。
原価改善で起きる良い変化は次の通りです。
- 限界利益率が上がり、利益が残りやすくなる
- 損益分岐点が下がり、黒字になりやすくなる
- 値下げ競争に巻き込まれても耐性ができる
- 価格を据え置いたまま改善でき、顧客対応が不要なケースも多い
また、原価改善は標準化や品質改善とセットになりやすい点もメリットです。ムダや手戻りを減らすと、結果として原価だけでなく納期や品質も安定し、顧客満足にもつながります。
3. 原価を下げるリスク:削り方を間違えると品質と信頼が落ちる
原価を下げるには注意点もあります。やり方を誤ると、短期的な数字改善の代償として、長期的に売上が落ちます。
よくある失敗は次のパターンです。
- 材料・仕入れを安いものに変えて品質が落ちる
- 外注単価を下げて納期遅延やミスが増える
- 人件費を削りすぎて現場が回らず、手戻りが増える
- 「安くすること」が目的化し、顧客価値が毀損する
原価を下げる際に重要なのは、単純なコストカットではなく、顧客価値を落とさずに“ムダ”を減らす発想です。原価の中には「削ってはいけない原価」と「削るべきムダ」が混在しています。ここを見分けるのがポイントです。
4. 売上を上げるメリット:成長の勢いをつくれる
売上を上げるアプローチは、会社の成長を加速させます。
固定費(人件費・家賃・設備など)が先に発生しているビジネスでは、限界利益率が一定であれば、売上が増えた分だけ限界利益が増え、その超過分が利益になります。
売上拡大で起きる良い変化は次の通りです。
- 市場シェアが広がり、ブランドが強くなる
- 規模の経済が働き、仕入条件が良くなることがある
- 採用や組織拡大の土台ができる
- 新規事業や投資への余力が生まれる
売上拡大は、将来の選択肢を増やす意味で重要です。
5. 売上を上げるリスク:「残りが薄いまま」売上を追うと苦しくなる
売上を上げる施策の落とし穴は、限界利益率(残りの割合)が薄いまま売上を追うことです。
たとえば、値引きで受注を増やす、広告費を増やして無理に集客する、採算ギリギリの案件を積み上げる。こうしたやり方は売上だけが伸び、残りが増えない(または固定費増で消える)ため、結果として現場負荷が増え、品質が落ち、クレーム対応が増え、さらにコストが増える悪循環に入りやすくなります。
売上を上げるなら前提条件があります。
それは「売るほど残りが増える構造」になっていることです。具体的には、
- 限界利益率(粗利率含む)が一定以上ある
- 変動費率が管理できている
- 固定費の増やし方が計画的である
この3つが揃っているほど、売上拡大の効果が出やすくなります。
6. どっちが先か——判断軸は「残りの厚さ」と「稼働余力」
順番を決めるときに使える判断軸は主に2つです。
判断軸①:残り(粗利率・限界利益率)が十分か
残りが薄い(または下がっている)場合は、売上を追うより先に、原価や価格設計を見直して残りを厚くする方が効果的です。薄いまま売上を上げると、利益が伸びにくく疲弊しやすいからです。
逆に、残りが安定しており「売るほど利益が増える」構造なら、売上拡大の効果が出やすくなります。
判断軸②:現場に稼働余力があるか
現場がパンパンで納期や品質がギリギリの場合、売上を増やす施策は危険です。まずはムダや手戻りを減らし、標準化して生産性を上げることが先です。結果として原価が下がり、同じ人数でも対応できる量が増えます。
稼働に余力があり、提供体制が整っているなら、売上拡大の施策を乗せやすくなります。
7. 実務でおすすめの進め方:多くは「原価改善 → 売上拡大」が堅い
多くの中小企業では、いきなり売上拡大に走るより、次の順で進めた方が安定しやすい傾向があります。
- 原価(提供コスト)の中身を見える化する(ムダ・手戻り・外注構造・仕入条件)
- 残りを安定させる(値決め・原価・商品構成の設計)
- 生産性を上げ、受注増に耐えられる体制をつくる
- その上で、売上拡大(集客・営業・提案強化)を行う
この順番だと「売上が増えたのに苦しい」になりにくく、売上増がそのまま利益増につながりやすくなります。
※例外として、残りが十分厚く、稼働余力が大きく、固定費が吸収できる状態なら、売上先行でも成立します。重要なのは“条件付き”で判断することです。
8. 原価改善の具体例:削るべきは“ムダ”であり“価値”ではない
長期的に効くのは、仕入を叩くことではなく「構造の改善」です。
- 手戻り削減(ミス、再作業、やり直し)
- 標準化(個別対応を減らす、テンプレ化する)
- 工程の見直し(動線、段取り、チェックポイント)
- 購買条件の見直し(まとめ買い、仕入先分散、仕様統一)
- 外注の使い方の最適化(固定契約→案件契約、内製化の検討)
これらは単なるカットではなく、利益体質をつくる改善です。
9. 売上拡大の具体例:残りを守りながら伸ばす
売上を上げるときも、「売上だけを上げる」施策より、残りを守る施策が強いです。
- 値上げ(提供価値の再定義、オプション設計)
- 単価アップ(アップセル、クロスセル、セット化)
- 利益率の高い顧客層に寄せる(ターゲット再設計)
- 再購入・継続率を上げる(LTV改善)
- 提案の型化で受注率を上げる(営業の仕組み化)
「売上を伸ばすほど利益が伸びる状態」をつくることがポイントです。
まとめ:二択ではなく、「利益が増える構造」を先につくる
「原価を下げる vs 売上を上げる」は二択ではありません。利益は構造で決まります。
残りが薄いなら、原価や価格設計を整えて“売るほど残る”状態をつくる。
現場が逼迫しているなら、ムダを減らし生産性を上げる。
その上で売上を伸ばす。
こうした順番で進めると、売上増が苦しさではなく、利益増として会社に残りやすくなります。
売上は大切ですが、利益は会社を強くします。だからこそ、売上を追う前に、利益が増える設計を整えることが近道です。
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