上手なコミュニケーションって、どうすれば良いの?中小企業診断士が解説!
池谷 卓
中小企業診断士
約30年以上にわたり、素材メーカーに勤務し、国内外の生産設備・ライン
設計・保全や生産拠点運営、新事業開拓、経営企画、DX推進等を経験。2023年に中小企業診断士として登録。
組織の中には立場を超えて、自分の考え方を周囲に理解してもらい、周囲の協力を得ながら考えを実現することができる人がいます。
そして、そのような人を見ていると思わず、コミュニケーションがうまい人だなと感心し、ポイントを知りたいなと思ったことはありませんか?
今回はそのような方へ、広告のコピーを扱った書籍である「なんだ、けっきょく最後は言葉じゃないか。」著者:伊藤 公一(株式会社宣伝会議)の中から、コミュニケーションに必要なポイントをご紹介いたします。
インフォメーションとコミュニケーションは違う
多くのみなさんは、インフォメーションとコミュニケーションが違うことを、何となくは理解していると思います。
では、その違いはと問われると、多くの方が詳細に答えることができないのではないでしょうか?
著者は、両者の目的に違いがあると言っています。
インフォメーションは、情報を伝える側から相手に情報を正確に伝えられることが、目的になっています。
一方、コミュニケーションは、情報を伝える側から相手に情報を伝えたうえで、相手が心を動かして、考えさせるとか、調べさせるとか、質問させるとか、さらには行動させるということが目的になっています。
そのため、情報を伝える準備、伝えるプロセスにおいても大きな違いがあります。
コミュニケーションの場合は、自ら伝えたいことを自らの言葉で相手に伝えて、相手の気持ちを動かすことが必要になります。
そこで、まず相手の存在を意識する必要があるとしたうえで、自分と相手の交わる部分(補集合)を考えて、そこを埋める文脈を考えて、精度の高い言葉を探し出すことが重要であると述べています。
そして、その作業は、創造ではなく想像することそのものであり、コミュニケーションにおいては想像力が重要な役割を果すとも述べています。
みなさんの中には、生成AIでそのような言葉をつくればよいじゃないか?とおっしゃる方がいると思いますが、その場合でも、やはり豊かな”想像力“が重要であることには、変わりはないと思います。
物事に対する自分なりの解釈や再定義を行う
私もそうですが、多くのみなさんも、コミュニケーションを上手にとるためには、誰の目線で伝えるのかとか、読み手の琴線に触れる文章をどのように書くのかなどの方法論的に注意して、コミュニケーションをとろうとしていると思います。
しかし、著者は、コミュニケーションで重要なのは、どれだけ自分の言葉をもって、それを使って表現することができるかどうかであると言うことだと言い切っています。
そのために、日ごろから、自分の言葉を持つためのトレーニングをすることが必要で、それは世の中に普遍的に存在する事象に対して、自分なりの解釈をもって、再定義をすることであるとしています。
普遍的に存在する事象と難しい表現をしていますが、例えば、飲食業の方であれば、「接客って何なのだろうか?」とか、「おいしいものを食べると幸せに感じるのはどうしてだろうか?」など、日常の業務における多くのテーマに関して、自分なりの解釈で再定義する作業です。
確かに、街には多くの店舗があふれて、おいしさを表現しているコピー、楽しさを表現しているコピーに接する機会がありますが、時々、普段使っている言葉なのに、“頭から離れないフレーズ”や“確かに、そうだなと妙に納得する”コピー達に出会うことがあります。
本書を読んでから、もう一度そのようなコピー達のことを考えみますと、前者は、確かに選び抜かれた、自らの短い飾り気のない言葉が、宝石のように輝いて私たちの心に響きわたり、私たちを振り向かせる力を持っていることに気がつきます。
それはもう、単にコピーというよりも、お店からお客さんへのラブレターと言えるものかもしれません。
「優しく」て、そして「自由」に
ここまで、コミュニケーションの定義や、コミュニケーションをとるためには自分の言葉が大切であることなどを述べてきましたが、みなさんは、どうしてコミュニケーションをとるのでしょうか?
人間は言葉を使ってコミュニケーションをとりますし、虫や動物にしても言葉以外でコミュニケーションをとっていますが、人間のそれは虫や動物と違い、目的を直接的に指し示すだけでなく、抽象的、心的または内的な対象を取り扱うことができると著者は言っています。
そのため、人間のコミュニケーションの場合は、「伝わった!」ということだけでなく、それによる喜びを感じることができると、著者は言いたいのだと考えます。
つまり、私たちのコミュニケーションの目的は、「幸せになること」と言い換えてもよいのかもしれません。
この様に考えると、コミュニケーションに対する考え方が変化していきます。
本当のコミュニケーションを行うと、伝える側と相手の目の前に広がっていた荒涼とした大地は姿を消して、代わりに大きな可能性を育む草原が広がっていくのだと、私は考えます。
10年以上も前にインドネシアに派遣員として赴任していた際のことです。ある日、2人の出張者が私のいた生産拠点で現地のマネージャに対して説明会をする機会がありました。午前中に最初の一人が、午後にもう一人が説明を行いました。午前中に説明者の英語は、たどたどしくて途中で日本語もはさんだりしていましたが、午後の説明者はスムーズな英語で分かりやすい説明でした。
説明が終わって、現地の取締役に「今日も説明はどうだった?」と聞かれたので、「午後の方が良かったのでは?皆さん理解できたのではないですか?」と答えたところ、彼からは「それ英語だけで評価してない?、私たちに立場に立って少しでも伝えようと自分のやるべきことを努力してくれたのは、絶対的に午前中の人だよ、彼の説明はわかりやすかった」と目からうろこでした。
その時に思ったのは、ビジネスにおいては言葉や表現がうまい下手ではなく、相手の立場に立って最大限に努力して相手に有意義なこと伝える大切さでしたが、今回本書を読んでその点がより確かなものになりました。
著者は、伝える側には、相手のことを思う「優しさ」と、そのためには今までの型にはまることのない、「自由奔放」な精神だけが存在するべきと言っています。
そして、そのような人がふえることで伝える側だけでなく、周囲の人々も豊かな気持ちになることを期待すると述べています。
まとめ
最後に、コミュニケーションがうまくいかないと、どんな問題がおこるのかについてお話をさせていただきたいと思います。
コミュニケーションがうまくいかない場合、伝える側はこれを問題として、解決するために別の表現方法を使ったり、新しい言葉で置き換えたりして、コミュニケーションの修復を試みます。
多くの場合でその誤解は容易に解消しますが、両者の間の「もどかしさ」を消え去ることが難しく、無表情で一種の無視に近い状態と、著者は言っています。
私は、ビジネスにおけるこの「もどかしさ」はコミュニケーションの問題だけでなく、ビジネスプロセスに直接的·長期的に影響を与える重大なことだと思います。
「もどかしさ」が、顧客との信頼関係における小さなほころびであるとか、経営層への小さな不信感など潜在的なものでとどまっていてくれればあまり問題はないと思います。
しかし、継続的なコミュニケーションの失敗は、その小さなほころびや不信感を、ビジネス上の顕在的な問題に発展させて、取り除くことが困難な「しこり」にもなる可能性があると考えます。
コミュニケーションがとりにくいメールやSNSなどデジタル技術を利用しなくてはならない、現代のビジネスシーンにおいては、従来のリアルなコミュニケーションに比べ、よりていねいなコミュニケーションを意識することが、ビジネスパーソンにとって非常に重要であると思います。
そのために、ラブレターを書くような気持で、コミュニケーションをとるようにしてはいかがでしょうか?
きっと良いコミュニケーションが実現して、皆さんと相手の方との間に新たなビジネスを育む世界が広がると思います。
これからは、私もペンを持つ前に、伝える相手に思いを巡らせたいと思います。
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