本社不動産の売却により改善が成功した事例「看板工事会社」(後編)
渡邊 賢司
中小企業診断士
株式会社3Rマネジメント 代表取締役
株式会社IoTメイカーズ 代表取締役
約15年にわたり、事業再生支援等に従事。100社以上の中堅・中小企業に対し、事業再生スキーム構築、経営改善計画作成支援、伴走支援、金融機関交渉等を行ってきた。東京都中小企業再生支援協議会での事業デューデリジェンス業務にも多数従事。金融機関向けや税理士向け研修講師等も多数実施。
2016年に小中学生向けプログラミング教室等を運営する(株)IoTメイカーズを設立し、中小企業経営者としての顔も持つ。同社では、6年間で5つの新規事業を立ち上げた。
今回紹介する内容は、不動産の売却により改善が成功した看板工事会社の事例(後編)です。
構造不況業種から脱却するための新規事業
当社が主力事業としてきた、特殊看板工事は、Y社の100%下請けであったため、Y社の受注減少とともに売上も下がっていきました。
Y社は、地域ごとに専属契約を結んで発注を行なっていたため、他社に流したわけではなく、看板工事自体の需要が減少してきたのです。
つまり、構造不況業種に陥っていたのです。
先代も、長年利益の柱となっていた特殊看板工事が、年々減少していくことは、頭では分かっていましたが、認めたくない気持ちもありました。
構造不況業種とは言っても、いずれ、元請けが何とかしてくれると思っていたのです。
加えて、60代後半にもなり、高齢のため、新たな事業を展開する気持ちも考えもありませんでした。
しかし、社長は、入社当初から、新規事業を展開する必要があると考えていました。
そのため、看板工事の仕事に重点を置くよりも、新たな商材や技術を獲得することに時間を割きました。
先代や古参の従業員からも反対されたり、相手にされませんでしたが、今やっていることが将来必ず実を結ぶと信じて、邁進していきました。
そして、いくつかチャレンジする中で、特殊な工法を使ったビル清掃業務にたどり着き、これは将来の主力事業になると確信し、受注獲得のために、情報発信を続けていくことにしました。
元請けとの価格交渉
一方で、主力事業である特殊看板工事は、そもそも元請けの仕事が減少しているため、量を増やすことは困難です。
それが無理なら、単価を上げてもらうしか、売上増大につながる方法はありません。
また、長年、受注単価も変わっていないので、社長は、単価を上げてもらうよう交渉することにしたのです。
単価アップ交渉は、取引を打ち切られるリスクがあります。
また、当社の場合は、元請けと下請けということで、その立場の違いは大きく、単価アップ交渉は非常にリスクが大きいと、社長も考えていました。
しかし、発注元は、都道府県ごとにエリア制を敷き、専属で各社へ仕事を依頼していたうえに、特殊工事のため、他に発注先を探すのが困難です。
また、業界全体が斜陽産業のなかで、新規に依頼できる業者もあらわれそうにありません。
エリア制により、現在依頼している近隣他県の業者へ発注したとしても、対応できる人員がいない、あるいは対応範囲が広すぎて難しい、将来縮小していく予定なので対応したくない等の理由により、断られるのが目に見えていると社長は考えました。
まさに、孫子の兵法にもある「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」で、相手の懐事情を深く理解し、交渉に当たりました。
社長は、交渉の席で、当社の赤字の現状や、将来縮小傾向にある市場、元請けも他に発注できる業者がいないことなどを訴えました。
また、このまま赤字状態が続けば、当社も倒産の危機に陥り、元請けにも迷惑をかけてしまうことなどを話し、3ヶ月近くの月日をかけて、粘り強く交渉しました。
その結果、最終的に単価アップを勝ち取ることができたのです。
WEBマーケティングを活用した新規事業の展開
商材や新規事業を模索していく中で、特殊な工法を使ったビル清掃業務を今後展開していくことを決めました。
社長自ら、ビル管理会社、商業施設管理会社、不動産関連会社、公共の特定管理会社をメインに営業を仕掛けて行きました。
しかし、ビル清掃に関して、実績も何もない会社が、飛び込みでセールスをしたところで、なかなか受注にはつながりません。
新規事業に関しては時間がかかることも想定していた社長は、地道に営業活動を続けていくことにしました。
その中でも、最も力を入れたのは、WEBやSNSを使った認知拡大です。
まずは、ホームページを知り合いの業者に依頼して作成しました。
ホームページ自体も、作成して終わりではなく、自身で更新できるよう業者に依頼しました。
始めた当時は、建設業や工事会社のような現場仕事中心の中小企業は、ホームページを持っていないか、作成したままで更新していないものがほとんどでした。
当社の場合は、まずは、認知度を上げていくことを主眼にしていたので、頻繁にホームページやSNSを更新していきました。
ビル清掃の現場があるたびに、動画を撮影し、YouTubeやFacebook、Instagram、Twitterなどで拡散をしていきました。
また、ホームページにも、動画だけではなく、ビル清掃に関するポイントなどをブログ形式でまとめ、配信をしていきました。
動画、写真、文章を上手く使い、記事をアップしていくことで、ホームページのSEO対策にもつながり、検索結果が上位に表示されるようになりました。
その結果、問い合わせが増え、受注も徐々に増えていったのです。
また、直接の受注だけではなく、夕方のニュース番組や朝の情報番組などの取材も入り、一気に知名度はアップしました。
今では、既存の事業と同じぐらいの売上を稼ぐ事業となっています。
新たな組織体制づくり(アドバイザーの若返りで経営戦略・企画室が誕生)
事業承継後に、重要なこととして、後継者が自身の世代に適した組織体制を作ることが挙げられます。
親族内での事業承継の場合、多くは親から子へという形ですから、事業を引き継いだ直後は、先代の年齢と近い人たちが多いのが通常です。
企業も生き物と同様、社会の環境変化に適応していかなければ、いずれ、衰退します。当社の場合も、当初の事業に固執するあまり、ゆでガエル理論のようにどんどん売上が減少していきました。
企業も、高齢の方が多ければ多いほど、変化を嫌うようになります。
従って、後継者がやるべきことは、若返りを図り、自身の年代に合った組織にリニューアルしていくことです。
当社の社長も、できるところから若返りを図っていきました。
従業員については、いきなり解雇することは不可能なので、定年退職等による自然減と若い世代の人員補充を行うしかありません。
従って、まずは、当社へ関係している外部の人たちから若返りを図っていきました。
社長がまず行なったことは、税理士と社会保険労務士の変更です。
双方とも、先代と同じぐらいの世代であり、長く契約をしている方でした。
それを、若い世代に変更し、かつ税務や人事・労務以外のアドバイスを行ってくれる方に変更しました。
おかげで、社長の新規事業に関するアドバイスも得られるようになりました。
アドバイザー役が出来たことで、アイデア拡散や考えを深堀りできるようになり、ビル清掃業務の展開につながりました。
同年代の世代の専門家への変更により、当社の経営戦略・企画室ができたのです。
新規事業の展開による人員拡充で組織の若返りを図る!
元請けとの交渉による単価アップや、新規事業が軌道に乗ったこともあり、当社の業績はV字回復することができました。
リスジュール申し出後、経営改善計画を策定し、不動産の売却も実行しました。
不動産売却により、無借金となり、その2年後には、数千万円の黒字が確保できる状態まで回復しました。
そこで、社長は、組織全体の若返りを図っていくことにしました。
新規事業が少しずつ軌道に乗ってくれたおかげで、人員整理をすることなく、新たに若い世代を採用することができるようになったからです。
しかし、現場作業が中心の仕事のため、最近の若い世代がなかなか応募してきてくれません。また、採用ばかりに、あまり費用をかけるわけにもいきません。
そこで、次のような施策を打つことで採用を強化していきました。
- 採用専門のホームページを作り、経営理念、やりがい、仕事内容や先輩たちのメッセージなどを動画や写真で積極的にアピールした
- 高卒採用を行うため、県内の高校へ採用募集の告知を行った
- 国や都道府県等が主催する採用合同説明会へ参加した
- 経営者交流会のメンバーを集め、数社で採用募集をかけるなど、合同説明会を行なった
- 金融機関が紹介する人材エージェントを低コストで利用した
上記のように様々な施策を実行した結果、少しずつ募集も増え、採用につながっていきました。
社長は、今後も、新規事業を少しずつ広げていくことで、変化に適応できる永続的な企業にしていきたいと決意を新たにして日々努力を重ねています。
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